――新曲「In Truth」は、台湾で撮影されたNetflixドラマ『次の被害者』シーズン2のエンディングテーマとなっています。この曲はドラマのために書き下ろされたのでしょうか?
「いえ、この曲はドラマのために作った曲ではなかったんです」
――そうだったんですね。
「はい。当時、ドラマの撮影で台湾に2か月間滞在していたんですが、その空き時間に、ホテルでラップトップ(パソコン)で曲を作っていたんです。撮影時、毎日ホテルにいると、生活に必要なものは揃っていても、どこか無機質で、見るものは鏡に映った自分くらいしかなくて。そのイメージで曲を作り始めて、その時点で歌詞とメロディ、今の構成くらいまでは仕上がっていました」
――その曲がどういった経緯でエンディングテーマになったのでしょうか。
「そこで作った曲を、プロデューサーや監督に“こういう曲があるんだけど、どうでしょう?”と聴いてもらった時に、“世界観がハマりますね”と気に入ってくださったんです。そこからしっかりとアレンジを仕上げ、レコーディングをして完成させました。日本にいると、ドラマを撮影していても、その他にいろんな仕事ができてしまいますが、台湾にいると、この1つの作品に集中できるので、より制作の欲求が高まっていったんです」
――以前お話を聞かせていただいたときに、“音楽を作るときは、しっかりと集中して作りたい”とおっしゃっていたのが印象的だったのですが、心境の変化があったのでしょうか?
「昨年の5月にリリースしたベストアルバム『Stars of the Lid』の曲順を考えていた時に、何度も聴きなおしながら、いろんなパターンで作っていたんです。実は、その作業は台北のホテルでしていたんですよ。過去に仕事をしていた台北の景色を見ながらやっていると、過去の自分はもちろん、現在の自分と向き合わざるを得なくて。そこで、“どうして音楽を作り続けてきたのか?”、さらに表現者として、シンガーソングライターとして、歌い手として、”今後どういった活動をすべきなのか?”を考えていたら、僕自身が何かしらの変化を求めていることに気づいたんです。さらに、滞在先のホテルでラップトップを使って、曲を書くこともあれば、何もない状態でスタジオに入り、セッションして曲作りをすることも経験し、その他にもいろんな方法で曲を作っていくうちに、何も迷うことなく曲を作れるようになりました。この「In Truth」を作って、こんなにも自由に曲を作れるのなら、今後は歌だけに集中する関わり方もあってもいいんじゃないかな?って思ったんです」
――すごく大きな心境の変化ですよね。
「大きいですね。これまでは、自分が制作に関わらない曲を歌うことは、まったくやっていなかったんです。“自分で作った曲を歌わないと、アーティストではない“とさえ思っていました。今思うと、歌い手として音楽との関わり方の可能性にあまり気づけていなかったんです。もちろん、こだわりが強くあったことは良い事だとは思うんですが、誰か別の人が作った楽曲を歌うことで、表現者としての可能性を追求していくアプローチもアリなんじゃないかな?と思える、きっかけとなった曲になりました」
――となると、これから先の音楽活動も、より楽しくなりそうですね。
「そうですね。ラップトップとスマホがあれば、旅をしながら曲を作ることができることを実感して、15年前に自分が音楽制作を始めたときの目標は達成できたとさえ思えたんです。とはいえ、自分の音楽を深めていくことはひとつのキャリアだと思いますし、もっと精度をあげるべきという自分との戦いはあると思いますが、それは当たり前にやりつつ、歌うだけで音楽の魅力を伝えられるような存在になる、ひとつの革命を起こすきっかけになるのかもしれないと思えた曲になりました」
――これから先、様々なアーティストさんとのコラボも期待してしまいます。
「今、そういったアプローチもしています。中華圏の方とfeaturingをしたり、決して無責任な意味ではなく、どんな形でも音楽をやり続けられるということがありがたいですし、幸運だという気持ちがあるんです。自分が作りたいというテーマと出会ったのなら、それは追求して作っていくべきだと思いますし、僕は自分が歌った曲を、観客のみなさんが一緒に歌ってくれるということを目指して曲を作っています。逆に考えたら、誰かが作った曲を自分が歌って、それをみんなで大合唱できるようなことができたら、すごくいいなって思えたんです」
――ディーンさんが楽曲提供する可能性もありますか?
「もちろんです。声をかけてくれたらいつでも制作に入りたいですね」
――楽しみにしていますね。
――そしてこの「In Truth」は、中国語と日本語、2バージョンでのリリースとなります。よく言語によって性格が変わるという話を聞くんですが、ディーンさんはどう感じますか?
「言語によって、オペレーションシステムが変わるような感覚なので、その影響はあると思います。少し話がそれるのですが、僕自身が企画、プロデュースした映画『Pure Japanese』では、まさにそういったことを描いています。見せ方としては、アクション映画になっていますが、物語のテーマは人間が言語を道具として使うのではなく、言語のOSが人間を乗りこなしている、人間はただの乗り物でしかないという仮説を立ててこの物語を作ったんです。それに、「In Truth」を北京語と日本語で歌ってみて、北京語の持つフローは美しいなと改めて思いました。二重母音も多いですし、語尾の閉じ方は日本語よりもたくさんの種類があるので、メロディやフローと合致したときに、五感をより刺激される感覚があるんです。とくにバラードはすごくいいですよね」
――日本語が持つ優しい雰囲気もいいですよね。
「そうですね。それに、日本語は、母音がすごく印象的ですよね。結局どの言語だとしても、子音と母音の組み合わせで全部が成り立っているので、バランス、匙加減を調整しながら歌詞を書いています。英語のようにとにかく子音を繋いでいくような言語もありますしね。そういった言語の特性を理解しつつ、自分の歌い手として提示できる世界観を作っていく楽しみの可能性に気づきました」
――マルチリンガルだからこその歌詞も、ディーンさんの個性ですよね。
「ありがとうございます。以前リリースした「shelly」は、日本語、英語、中国語の3か国語で歌っていて、その時に、僕はソロアーティストではあるんですけど、ボーイズグループやガールズグループがボーカルを回していくように、変化をつけることができると気づいたんです。音楽を始めた当初は、自分が一つの言語で話すことができないからこそ、1曲を通して同じ言語で歌うことを目標としていました。でも、ポジティブに言語を自分の匙加減でコントロールできるようになってからは、1人でマイクを回してストーリーを展開させられるのもいいなって思えたんです」
――そんな中完成した「In Truth」がエンディングテーマとなる『次の被害者』の撮影は、かなり濃密な期間だったと思うのですが、いかがでしたか?
「オファーをしていただいた台湾のスタッフは、これまで仕事をしたことがない方ではあったんですが、僕が過去に出演した作品は観てくれていましたし、その方の会社が、僕が昔契約していた会社から歩いて数分という、同じ業界の同じ界隈の人たちだったので、すごく縁を感じましたね」
――昔の仲間ともお会いできましたか?
「会えました。台湾に帰ると、待ってくれている友人や仲間がいるので、一緒にご飯やトレーニングに行くこともできました。再会できた人たちは、仕事の仕方を教えてくれたような人達だったので、すごく嬉しかったです」
――作品としてはクライムサスペンスとなりますが、ディーンさんが思う今作の魅力を教えてください。
「今作は、人と人との繋がりが一番の魅力だと思います。さらに、脚本がとにかく素晴らしいですし、すごく緻密に描かれています。1人1人の過去と現在が複雑にもつれ合っているのですが…これ以上細かく言うとネタバレになってしまうのですが、“シーズン3がなかったらおかしいな”って思うくらいの進み方をするので、ぜひ楽しんでもらえたら嬉しいです。さらに、最終話だけ、この曲の日本語バージョンがかかるんです。それまでは中国語バージョンなので、そこにどういう意味があるのか、ぜひ体感してもらいたいですね」
――ディーンさんが演じるのはどのような役なのでしょうか。
僕が演じる張耿浩(チャン・ゲェンハウ)は、検察官なのに、やたら警察官の仕事に踏み込んでいくんです。さらに、このキャラクターの生い立ちに至るまでの伏線が隠されていたりもしたので、かなり緻密に計算された、演じ甲斐のあるキャラクターでした」
――今作はNetflixで多くの世界で配信されていますが、すごくいいプラットフォームですよね。
「そうですね。これから国同士の合作の可能性もどんどん広がっていくと思いますし、僕も現在、同時進行でいろんなことを進めているので、楽しみにしていてほしいですね」
――そんなディーンさんはワーカホリックな印象があるのですが、どうやって息抜きをされていますか?
「映画やドラマを見たりする時間はもちろん、料理などの“生活”を大事にしています。いま、エンターテイメントをお仕事として携わらせていただいていますが、基本は“好き”という気持ちから始まったんです。その初心をどうやってキープするかが大事だと思っています。そこさえ失わなければ、どんなことがあったとしても、大丈夫だと思えるんです。さらに子供たちと触れ合ったりする時間も、すごく大事にしています。これからも初心は大事に、挑戦し続けて行きたいですね」
(おわり)
取材・文/吉田可奈
写真/中村功
RELEASE INFROMATION
Various Artist『Netflix Series "The Victims' Game" Soundtrack』
2024年7月2日(火)配信
M5. DEAN FUJIOKA 「In Truth (Chinese version)」 収録
LIVE INFORMATION
2024年8⽉7⽇(⽔)8⽇(⽊) ⼤阪 ビルボードライブ⼤阪
1stステージ OPEN 17:00 / START 18:00 2ndステージ OPEN 20:00 / START 21:00
2024年8⽉11⽇(⽇)12⽇(⽉・祝) 東京 ビルボードライブ東京
1stステージ OPEN 15:00 / START 16:00 2ndステージ OPEN 18:00 / START 19:00
2024年8⽉26⽇(⽉)27⽇(⽕) 神奈川 ビルボードライブ横浜
1stステージ OPEN 16:30 / START 17:30 2ndステージ OPEN 19:30 / START 20:30