Emahoy Teste-Mariam Gebru『Souvenirs』
2023年3月に他界したエチオピア出身の修道女にして、かつてエチオピアの楽曲を集めた『Etiopiques』シリーズにおいて大注目され、bonjour recordsでもカルトヒットしたピアニストの初となるヴォーカルアルバムでおそらく最後のリリース。 自宅にてカセットに録音されたためカセットデッキの操作音や演奏する彼女の周りの環境音も自然に拾っており、特徴的なペンタトニック・スケールに西洋音楽の要素を織り込み切々と素朴に奏でられる歌はいずれも彼女の生きざまを語っており、そこにいて語りかけるように聴く者の心に沁みわたっていく。
Ethnic Heritage Ensemble『Open Me, A Higher Consciousness Of Sound And Spirit』
シカゴの前衛ジャズミュージシャンからなる団体AACM出身のパーカッショニスト、カヒル・エル・ザバールによって1976年に結成され、数々の有名プレイヤーを加えながら現在も活動を続けているジャズバンドの50周年記念アルバム。 ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロといったクラシックの管楽器を取り入れたり革新的なアレンジに取り組むなど、伝統的なアフリカン・スピリチュアル・ジャズをさらなる深みへと導く。 スピリチュアル・ジャズ感満載のマイルス・デイヴィス「All Blues」、ヴァイオリンの即興感が鮮やかに響くマッコイ・タイナー「Passion Dance」など、往年の名曲のアレンジにも注目。
Jahari Massamba Unit『YHWH is LOVE』
HIP HPOアーティスト/プロデューサーのMadlibと、アーティストでありジャズドラマーのKarriem Rigginsを中心としたプロジェクトであるJahari Massamba Unitによる4年ぶりの2ndアルバム。 ジャズへの造詣が深く自らも楽器をひとりで幾つも演奏してしまう才能の持ち主であるMadlibと、名だたるヒップホップアーティストとビートメイカーとしてコラボしてきたKarriem Rigginsのふたつの才能が見事に融合し、綿密に紡ぎだされてゆく。 全体を通して派手さはなく流れるようにフュージョン、スピリチュアル・ジャズ、ニュー・ジャズ、ラテン・ジャズと型にはめられない展開を見せる。
Dina Ögon『Orion』
Tyler, The Creatorらがバックアップに参加して一躍有名になったスウェーデン発ソフト・サイケ・バンド、Dina Ögonの3rdアルバム。 匿名で活動しており今もって謎が多いバンドSven Wunderの録音に参加してきたギタリストDaniel Ogrenとさまざまなアーティストとのコラボでも活躍するシンガーAnna Ahnlundによる、ミドルテンポでドリーミーなソフト・サイケ、軽快でグルーヴィーなスカンジナビアン・ソウル、ノスタルジックなフォーク。 前作に続き様々なジャンルをクロスオーヴァーしながら型にはまらない独自のサウンドを聴かせてくれる。Khruangbinなどが好きな人にもおすすめ。
Erika de Casier『Still』
デンマークのアーティスト・コレクティヴ、Regelbauに所属していた経歴を持つErika de Casierの3rdアルバム。 今回も4ADからのリリース。 これまでも多くのアーティストの楽曲に参加したりトラックを提供してきた実力派の彼女だが、前作に比べポップ感が増した今作はShygirl、They Hate Change、Blood Orangeらが参加し、アンビエント~エレクトロニカをベースにしたスムースなR&Bから軽快なジャングルまで自由な音楽性が発揮されたトラックに、シルキーでありながら透明感のある今っぽさを感じさせるボーカルが見事にマッチしている。 これからが更に楽しみなアーティストの世界から大注目のアルバム。
Bolis Pupul『Letter To Yu』
ベルギーと香港にルーツを持つアーティスト、Bolis Pupulの初ソロアルバムがSoulwaxのレーベルDEE WEEよりリリース。 タイトルの”Yu”は彼の亡き母であり、彼はルーツである香港への旅を通して自らのアイデンティティを内省的に模索していく。 リードトラック「Completely Half」では、香港の地下鉄でのフィールド録音をバックに、自らのアイデンティティを象徴するようにヨーロッパ的なエレクトロニカに哀愁とエキゾチックさを効かせている。 クラフトワークのように音数を絞ったシンプルな心地よさの中にどこか奇妙さを覗かせる、独特のサウンドも健在。 Charlotte Adigéryとの前作では縦横無尽のテクノトラックを披露してくれたが、今回も期待通り。
Laryssa Kim『Contezza』
ブリュッセルを拠点にするイタリア系コンゴ人のアーティスト、Laryssa Kimのデビューアルバム。 大学で音響学を学びアカデミックな視点からも作曲をする彼女だが、作曲家、ダンサー、パフォーマンスアーティストといくつもの顔を持ち、イタリア語、英語、フランス語を自在に操り歌詞を言葉という音としても捉えている。 静謐な、少し不安をかきたてるようなアンビエントから幕を開け、フィールドレコーディングされた遠くから聞こえる雷鳴や鳥のさえずりを取り込んだりと、自由な発想で編み出されたエレクトロニック・トラックに不意に織り込まれる柔らかく伸びがありながら温度感を抑えたボーカルが心地よい。
Serpentwithfeet『GRIP』
ボルチモア出身のR&Bアーティスト、serpentwithfeetの3rdアルバムがSecretly Canadiansよりリリース。前作に比べ少しハードな印象を取り戻した今作は、昨年公開された舞台作品「Heart of Brick」を引き継ぐもので、ブラック・ゲイ・クラブを舞台としたクィアのナイトクラブでの恋愛事情を描く。Ty Dolla $ign、Yanga YaYaが参加し、Nosaj Thingがプロデュースに参加したリードシングル「Damn Gloves」のダークで妖艶なダンストラックで幕を開け、スローなR&B、アップテンポなトラックを交えながら他人と分かち合う時間や瞬間のときめきや切なさ、心地よさを軽快に描いている。
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