ジャズ・トランペットの名手、フレディ・ハバードに対するイメージは世代によって異なっているかもしれません。そうですね、現在50歳前後、1970年代フュージョン・ブームの真っ只中にフレディと出会ったファンの方々は、彼をフュージョン・トランペットのスターと思っているかもしれません。そしてもう少し世代が上の私などは、彼のジャズマンとしてのスタート地点、ハードバッパーでありそして1960年代ブルーノート新主流派のメンバーでもある、思いのほか柔軟な彼の演奏を楽しんでいます。

今回は、フレディの魅力をゴリゴリ・ジャズ・プレイヤーとしての視点から捉えてみました。まず最初は、彼のデビュー作であるブルーノートでの初レコーディング『オープン・セサミ』です。驚くべきは、初リーダー作であるにもかかわらずテクニック、個性すべての点で完成しているところです。サイドマンであるテナー奏者ティナ・ブルックスとの相性も良く、ハードバップの名盤として多くのファンに愛聴されてきました。ティナ作のタイトル曲はブルージーな傑作。まさに名演にして名盤です。

『ゴーイン・アップ』はフレディのブルーノート第2作で、今度はサイドにハンク・モブレイを配した2管クインテット。これも想像通りの典型的ハードバップ。ちなみに、冒頭に収録された《エイジアティック・レイズ》、どこかで聴いたことがあると思えば、ケニー・ドーハムの名演《ロータス・ブロッサム》と同じ曲です。ジャズの世界ではけっこうこういうことがありますね。

そして時代は一気に30年進み、1991年ニューヨークのジャズクラブ『ファット・チューズディ』におけるライヴ・レコーディング。サイドマンは当時の新人、テナー・サックスのジャヴォン・ジャクソンにピアノのベニー・グリーン。50歳を超えたフレディですが、まったく衰えを見せず果敢にハイノートを連発し若手を煽ります。そして、それに応えるグリーンのピアノもジャクソンのテナーも燃えまくり、まさにライヴならではの熱演です。

フレディより少し下の世代のトランペッター、ウディ・ショウは実力がありながら若干過小評価の気味がありました。そんなショウとトランペットの共演を繰り広げたのが、1980年代新生ブルーノートの名盤『ジ・エターナル・トライアングル』です。サイドで参加しているアルト奏者、ケニー・ギャレットも快調で、あまり知られていないアルバムですが、これはいい。プロデューサーはすでにアルフレッド・ライオンではありませんが、ライオンを深く敬愛しているジャズ研究家、マイケル・カスクーナと、現場を知り尽くしたドン・シックラーのコンビが傑作を生み出したのでしょう。

フレディと言うと吹きまくりのイメージが強く、実際調子に乗ったときのフレディの勢いはまさに手の付けようがありませんが、彼はしっとりとした演奏だって出来るのです。静と動、一見水と油のようなビル・エヴァンスのサイドマンを務めた『インタープレイ』(Riverside)は、フレディの柔軟性を知る上で格好の名盤です。シンプルなフレーズをじっくりと歌い上げ、エヴァンスの描き出す世界にしっかりと収まっています。

そして最後はこれも知られざる名盤、1969年にドイツのレーベルMPSに吹き込んだ『ザ・ハブ・オブ・ハバード』。とにかく吹きまくり燃えまくるフレディの真骨頂を示した名演でしょう。時代はそろそろエレクトリック・ジャズの方向へ進みつつあるとき、ストレート・アヘッドなジャズの可能性をフレディは示したかったのかもしれませんね。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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