昔からマニアの間で「名演の陰にトミフラあり」と言われてきましたが、トミー・フラナガンは「ジャズアルバム・ガイドブック」に必ず登場する極め付き名盤に、驚くほどたくさん参加しています。思うに多くのパウエル派ピアニストの中でも、トミー・フラナガンのスタイルはあまりアクが強くなく、良い意味でサイドマンに適しているということが言えるのではないでしょうか。まさに名脇役です。

しかし、こうした“渋い”個性をちゃんと聴き分け評価してきた日本のファンは、“派手なアクション”に眼が行きがちなアメリカ人が見過ごしてきた控えめな表現を、その繊細な感受性によって見出してきたのです。

そういう意味では、夭折のトランペッターとして人気の高いブッカー・リトルの演奏も、独特の翳りを伴った表現が日本人好みと言えるかもしれません。かつては「幻の名盤」とされたこのタイム盤で、しっかりとリーダーを支えているのがトミー・フラナガンです。ソニー・ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』(Prestige)ほど名の知られたジャズ・アルバムもないと思いますが、まさにこの超有名盤に名を連ねているのが“トミフラ”なのです。

そして、ジャズファンなら一度は耳にしたはずの名曲《ファイヴ・スポット・アフター・ダーク》で人気の高いカーティス・フラーの代表作、『ブルース・エット』(Savoy)の風格を高めているのが、フラナガンの趣味の良いソロです。

ジャズ史的名盤として折り紙つきのジョン・コルトレーン『ジャイアント・ステップス』(Atlantic)は、ある意味で“パウエル派・フラナガン”の限界が見えてしまった作品とも言えるかもしれません。あまりにも複雑なコード進行に付いて行くのがやっとのフラナガンがそこに居ます。しかしそれは彼の欠点というより、時代の先に進みすぎたコルトレーンの凄さと解するべきでしょう。

興味深いのが、最先端テナー奏者コルトレーンとも、そしてジャズテナーの父とも言われた大御所、コールマン・ホーキンスと共演しても何の違和感も無い“トミフラ”の柔軟性です。『ホーキンス・アライヴ!』(Verve)は、スイング時代の巨匠が60年代に吹き込んだ傑作です。

渋く枯れたトランペット・サウンドが心地よいケニー・ドーハムの名盤、『クワイエット・ケニー』(New Jazz)におけるフラナガンの存在は、まさにもり蕎麦の風味を際立たすわさびのようです。そして一転、白人ながら吹きまくりテナーがマニアの心情を捉えて離さないJ.R.モンテローズの超幻の名盤、『メッセージ』(Jaro)にも、フラナガンが居るというところが凄いのです。

かつては異色のテナー奏者とされ、今ではそのジャズ史的正統性がまっとうに評価されるようになった盲目の黒人テナー奏者、ローランド・カークがサイドに控えるロイ・へインズの代表作『アウト・オブ・ジ・アフタヌーン』(Impulse)もまた、フラナガンの弾く端正なピアノがこの作品の評価に一役買っています。

最後の〆は、ジャズギターの王者、ウエス・モンゴメリーがそのギター技術の粋を披露したギターキッズ必聴の名盤『ジ・インクレディブル・ジャズ・ギター・オブ・ウエス・モンゴメリー』(Riverside)です。こうして並べてみると、まさにジャズ名盤カタログで、今更ながらサイドマンとしてのフラナガンの存在がいかに大きなものであったのかが実感されることでしょう。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

USEN音楽配信サービス ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)

関連リンク

一覧へ戻る