ジャズ喫茶ではジャッキー・マクリーンに次いで人気のハンク・モブレイですが、一般ファンの評価はいま一つのようです。それには理由があって、彼がマイルス・デイヴィスのサイドマンを務めていたとき、たまたま彼の前任者ジョン・コルトレーンとマイルスのアルバム『いつか王子様が』(Columbia)で共演する破目になり、「やはりコルトレーンの方がいいよ」という声がファンの間でもち上がったからです。

確かにその通りではあるのですが、いわゆるハードバップ・シーンでは、モブレイはなかなかいい味わいをだすプレイヤーでもあるのです。今回はそうした彼の少しばかり控えめな魅力にスポットを当ててみました。

『ロール・コール』(Blue Note)は初めてモブレイに触れるに最適のアルバムではないでしょうか。私もジャズ喫茶を始めたばかりの頃、このアルバムが大好きでした。しかし、本当のことを言うと、このアルバムの魅力はサイドマン、フレディ・ハバードの勢いのあるトランペットによるところが大きいのです。アートー・ブレイキーの快調なドラミングに乗って全員が疾走するハードバップならではの快感が満載の名演です。

ハンク・モブレイはサイドマンによって表情を変えます。同じ2管クインテットでも、トランペッターが地味目なアート・ファーマーに変った『ハンク・モブレイ・クインテット』(Blue Note)では、本領発揮でモブレイならではのコクのある演奏が味わえます。ホレス・シルヴァーの渋いピアノも悪くない。そして隠れ名盤『アナザー・ワークアウト』(Blue Note)は、ワンホーンならではのモブレイ独自の哀歓に満ちた表情が素晴らしい。

大物サイドマン、ジョン・コルトレーンを従えた『バグス&トレーン』(Atlantic)では、ミルトのヴァイヴが音楽の気分を決めています。どちらかというと吹きまくるコルトレーンが、ミルトと共演することによって見事にブルージーな世界を描き出しています。

『アニマル・ダンス』(Atlantic)は、ヨーロッパの新人トロンボーン奏者、アルバート・マンゲルスドルフの才能を見込んだルイスが彼をフィーチャーしたアルバム。アメリカのジャズマンとはひと味違うマンゲルスドルフの個性を活かしたこの作品成功の秘密は、ルイスの巧みなリーダー・シップに預かっていると思います。

楽器編成こそM.J.Q.と同じながら、リーダーがミルト・ジャクソンになると音楽の雰囲気がずいぶんと違ったものになる好例です。『ミルト・ジャクソン・カルテット』(Prestige)では、アーシーでブルージーな黒人音楽特有のディープな気分が横溢しています。

かつてオリジナル・アナログ盤に十数万円の価格がついた『ハンク・モブレイ』(Blue Note)は、紛らわしいタイトルゆえに、マニアの間で「モブレイの1568」と、オリジナル盤レコード番号で呼び合ったものです。聴き所はサイドマン、カーティス・ポーターのファナティックなアルト・サウンドでしょう。

『ペッキン・タイム』もサイドマンがポイントで、大物リー・モーガンです。同じくサイドのウィントン・ケリーともども、ハードバップ・ファンなら大満足の心地よい演奏が楽しめます。そしてギターのグラント・グリーンが参加した『ワークアウト』(Blue Note)では、モブレイの持ち味である黒いフィーリングが浮き彫りになる。この二人のテイストは相性がいいのです。

そして冒頭でも言及したジャッキー・マクリーンとの共演が楽しめるのが、プレスティッジに吹き込まれた『モブレイズ・メッセージ』。ところで、ここまで聴いてこられたファンのみなさまは、モブレイの隠れた特徴にお気づきになったのではないでしょうか。ふつう、同じミュージシャンのアルバムを続けて聴くと、どうしてもモノトーンになりがちなのですが、モブレイの場合、リーダーでありながら共演者たちの持ち味も引き出すという特異なキャラクターを持っているので、意外と聴き飽きしないのです。

そうしたモブレイの本当の資質はやはりワンホーンでこそ発揮され、彼の最高傑作『ソウル・ステーション』(Blue Note)では、じっくりとフレーズを積み重ねることによって生み出される、控えめながら味わいのあるモブレイ節が堪能できます。そしてサイドのピアノ、ウィントン・ケリーの存在が光るのも、このアルバムの聴き所です。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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