ジャズを聴くとき、気分で聴くときと、ミュージシャンで聴くときがあるように思います。『一生モノのジャズ名盤500』のシリーズで言えば、第1回目の「新・これがジャズだ!」でご紹介したマイルスの『フォア・アンド・モア』(Columbia)などは、朝起きぬけに聴けばいやでも眼が覚める元気の良い演奏で、前向きな気分にピッタリな勢いのある音楽です。もちろんマイルスも素晴らしいけれど、これなどは聴き手の「気分」がチョイスの動機になるのではないでしょうか。

一方、「このミュージシャンならではの味が聴きたい」という欲求がCD選択の原動力になることもありますね。今回の「新・ジャズに浸ろう」でご紹介するアルバムは、どちらかというとこちらの要素が大きい。

1曲目の《ポート・オブ・スペイン・シャッフル》は、マイルスの名盤『死刑台のエレベーター』でサイドマンを務めたバルネ・ウイラン、晩年の傑作で、収録アルバム『ルウェンゾリの狂犬』はマニアの間で話題となった名盤です。聴きどころは、日本人好みのマイナー旋律に隠されバルネならではの都会的退廃感覚で、やはりこうしたお洒落な味わいはフランス人特有のものなのかもしれません。

そして地味ながら「この人でなければ出せない味」の代表格がジョー・ヘンダーソンです。コルトレーンとロリンズが「2大テナー」と呼ばれた1960年代に、「新主流派」の一員として頭角を現した「ジョーヘン」の隠れ名盤が『インナー・アージ』(Blue Note)で、タイトル・ナンバーから《アイソトープ》へと続く流れは、じっくり聴けば深い味わいが楽しめます。

チャーリー・パーカー派のアルト奏者として一家を成したフィル・ウッズは、60年代後半に「ヨーロピアン・リズム・マシーン」を結成し、それまでのハードバッパーからの脱皮を図りました。このアルバムはその後ソプラノ・サックスに挑戦したウッズの新境地を示す演奏で、6人編成の心地よいバック・サウンドから浮かび上がる艶やかなウッズのソプラノが素晴らしい。

1970年代、「ロフト・ジャズ」というムーヴメントがありました。アメリカ独特の「ロフト」と呼ばれる空き倉庫などの広い空間を利用し、ミュージシャンが商業主義とは一線を画した演奏活動を行ったのです。その象徴的作品とされたのがチコ・フリーマンの『スピリット・センシティヴ』で、「インディア・ナヴィゲーション」というマイナー・レーベルから出されたことも、この作品の独自の性格を現しています。

よく知られたスタンダード・ナンバー《ニューヨークの秋》が、一味も二味も違った趣を見せています。

復帰後のマイルスバンドのサイドマンとして注目された、ケニー・ギャレットの最高傑作と言える名演が『トリオロジー』(Warner Bros.)です。完全に一皮剥けた思い切りの良い演奏は、90年代名盤の筆頭に挙げたいくらいです。ベースとドラムスを従えただけの難しい編成で聴き手を唸らせることが出来るのは、ほんとうに力のあるジャズマンにしか出来ないことなのです。そして最後を飾るのは、マイケル・ブレッカーがテナー奏者としての実力を発揮したチック・コリアの『スリー・カルテッツ』(Stretch)で、この演奏でブレッカーはジャズ・ミュージシャンとしての名声を確立させました。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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