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2020.08.12

米津玄師『STRAY SHEEP』アルバムレビュー――何度聴いても新たな発見がある

疑うべくもなく、ここ数年のJ-POPシーンを席巻し続けるシンガーであり、そしてソングライター、プロデューサーとしても確固たるポジションを得た米津玄師が最新作『STRAY SHEEP』を完成させた。米津玄師のインタビューも多く手掛けており、J-POPシーンのパラダイムシフトを読み解いた『ヒットの崩壊』や、牧村憲一、藤井丈司との共著『渋谷音楽図鑑』などの著書もある音楽ジャーナリスト、柴 那典によるアルバムレビューをお届けする。

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とても誠実に、そして、とても精緻に作り上げられたアルバムだ。きらびやかで躍動感あるファンクナンバーや、胸を鷲掴みにするようなバラードや、不穏でダークな楽曲や、さまざまなタイプの楽曲が収録された全15曲。その全てに、研ぎ澄まされた美しさが宿っている。

米津玄師による5枚目のアルバム『STRAY SHEEP』。前作からの2年9ヵ月の間に、彼を巡る状況は大きく変貌した。NHK紅白歌合戦でも披露された代表曲「Lemon」を筆頭に、米津玄師は次々とヒット曲を世に送り出してきた。「馬と鹿」はラグビーワールドカップの熱狂を後押しし、Foorinが歌う「パプリカ」は全国の子供たちに浸透し、菅田将暉に書き下ろした「まちがいさがし」も一世を風靡した。

新作は、こうした米津玄師の約3年の足跡が刻み込まれた一枚だ。ひとつひとつの楽曲に彼自身のメロディセンスの記名性が色濃く宿り、その一方でさまざまな曲で先鋭的なサウンドメイキングがなされている。他の誰にも似ていないのに、聴いているうちにしっくりと馴染む。新しいのに普遍的。そういうポップソングのひとつの理想形としての姿がある。ポップミュージックの王道を担うシンガー・ソングライターとしての存在を背負うようになった米津玄師の才能が色鮮やかに輝いている。

その一方で、強く印象に残るのは、新作が決してヒットソング集のような佇まいになっていないこと。『STRAY SHEEP』は“タイアップ曲中心のまとまりのない一枚”では決してなく、むしろアルバムとしてのコンセプチュアルな作品性を強く感じられる作品。そして、それは2020年の時代性を色濃く反映したものになっている。アルバム収録の新曲は全て新型コロナウィルスのパンデミックによって世界の様相が大きく変わった後に作られたものだと言う。日常が根底から変わってしまい、混迷の中で誰もが新しい当たり前を模索している今の時代に共振する響きがある。

そういう意味で、まずフィーチャーするべきはアルバムの表題曲とも言える「迷える羊」だろう。大塚製薬「カロリーメイト」のCM曲として制作されたというこの曲は、ダークなインダストリアル・サウンド、中東や東欧の音楽も想起させる不穏なメロディを持った、かなり挑戦的な作りの一曲。一転して解放的な雰囲気となるサビではこんなフレーズが歌われる。

千年後の未来には 僕らは生きていない
友達よいつの日も 愛してるよ きっと
君の持つ寂しさが 遥かな時を超え
誰かを救うその日を 待っているよ ずっと

時空を超えた俯瞰の視点から今の時代を見通すような、ある種の予言のような言葉が歌われる。

アルバムのラストに収録された「カナリヤ」もとても印象的だ。ピアノの繊細なタッチが導く包容力に満ちたバラード。感動的なストリングスの響きに乗せて、こんな言葉が歌われる。

いいよ あなたとなら いいよ
もしも最後に何もなくても
いいよ

先行きの見えない不安に満ちた日々の中、それでも訪れる未来を肯定するようなトーンがそこには宿っている。

そして、アルバムでは“喪失”がもうひとつの重要なモチーフになっている。死別した大切な人に募る思いを歌った「Lemon」が8曲目という真ん中の位置に置かれていることもポイントのひとつだが、収録曲にもそうしたテーマを感じられるものが多い。

たとえば冒頭を飾る「カムパネルラ」。宮沢賢治の代表作『銀河鉄道の夜』の登場人物をタイトルに冠した一曲だ。高揚感あふれるエレクトロニックなビートに乗せて歌われるこの曲では、失われてしまった命、戻らない過去に対しての思いが綴られる。

終わる日まで寄り添うように
君を憶えていたい

こう歌う「カムパネルラ」や「迷える羊」に描かれた友愛の情は、アルバムに通奏するひとつの軸としてのエモーションにもなっている。たとえば「もしも同じ街で生まれたら 君のようになれたかな」と歌う「ひまわり」や、「星が降る夜にあなたにあえた あのときを忘れはしない」と歌う「海の幽霊」にも、やはり大切な存在だった“君”や“あなた”への喪失感と消えない情愛が描かれる。

“大切な人との関係性”をテーマにしているという意味では、米津玄師自身が敬愛するRADWIMPSの野田洋次郎を迎えた「PLACEBO+野田洋次郎」も印象的だ。このアルバムの中では際立ってキラキラとカラフルな印象のこの曲。ザ・ウィークエンドの新作にも通じる80’sエレポップのテイストでふたりがデュエットするのは、恋に落ちていく高揚感だ。

「優しい人」も鮮烈だ。美しいメロディとハーモニーで描かれるのは、虐められ、笑われ、取り残される“あの子”と、憐れみを心に隠しながらそれを傍観する“わたし”、そして慈愛に満ちた“あなた”の姿。人間の感情の深い部分、普段は蓋をしているような醜い部分をえぐり出すような言葉が歌われる。

まだまだ他にも語るべき曲は沢山ある。ファンキーなグルーヴの「Framingo」から高らかにホーンセクションが鳴り響く「感電」への流れ。アコーディオンやチェロを配しセクシャルな吐息のボイスサンプルも彩りを添える「Décolleté」の色気。正統派の日本のフォークロック直系のアレンジに仕上げられた原曲に対し、ストリングスやボイスシンセを用い海外のオルタナティブ/インディとリンクするような曲調でセルフカバーされた「まちがいさがし」。何度聴いても、そのたびに新たな発見がある。

米津玄師自身のキャリアとしても、日本のポップミュージックの歴史においても、まさしく金字塔と言える一枚だと思う。

(おわり)

文/柴 那典



yonezu

米津が作詞、作曲、プロデュースを手掛けたFoorinの「パプリカ」もロングヒットを記録

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菅田将暉の「まちがいさがし」でも作詞、作曲、プロデュースを手掛けた。菅田とは、米津の前作『BOOTLEG』収録の「灰色と青(+菅田将暉)」でもコラボ

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米津玄師



米津玄師『STRAY SHEEP』
2020年8月5日(水)発売
初回限定おまもり盤(CD)/SECL-2590/2591/4,500円(税別)
初回限定アートブック盤(CD+Blu-ray)/SECL-2592~2594/6,800円(税別)
初回限定アートブック盤(CD+DVD)/SECL-2595~2597/6,800円(税別)
通常盤(CD)/SECL-2598/1,000円(税別)
ソニー ミュージック






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