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デビュー20周年をまたいで完成した3年越しのアルバム『LIFE』は、タイトル通り山崎が自分の人生を俯瞰して描いたような作品だ。さらに今回はボーカルとギターはもちろん鍵盤、ドラム、ベースといったすべての楽器を自ら演奏し、そのレコーディングの大半を自宅のスタジオで行っている。作詞作曲をはじめアレンジやプロデュースを自ら担うシンガー・ソングライターは多くいるが、ここまでアルバム1枚をひとりで制作できるアーティストは数少ないだろう。どうして彼はひとりでアルバム制作を行うことになったのか。

「初めからそうしようと思ったわけではないけど、作り始めたときは、ひとりだったんで、じゃあこのままひとりでまとめてみようと思って。そのほうが手っ取り早いし、あとはひとりでどこまで出来るのか、このタイミングで自分のスキルを再確認しておこうと思ったところもあって」

レコーディングも自宅で行うとなれば、当然その作業に関わるスタッフの数は限られるわけで、作品は自ずと山崎のパーソナルに肉迫するものになるはず。にもかかわらず、本作には本人のエゴが屹立した印象がない。むしろ彼以外の他者の存在や社会との関わりを強く意識したアルバムになっているのが不思議だ。

「それは実質的にひとりでは作っていないからだと思う。例えば映画とかドラマで『こんな歌を書いて欲しい』っていうオーダーを受けたら、そのためにどんな音が必要なのか、どういう描写を求められているのか、そういうジャッジをしながら曲を書いていくのが当たり前で。だから今回、ひとりで作ってはいたけど、いつもの客観的な視点は持てていたと思うよ。もちろん昔だったらそうじゃなかったけど。“俺からはこういうものが出るんだ”っていうものでしかなかった」

つまり20年以上のキャリアの中で培った視点や判断力をもとに行われた単独作業、ということなのだろう。それでいて曲の中で歌われている内容はどれも具体的かつ表現もストレート。自分の内面や本音を見透かされることに戸惑いや恥じらいを感じていた昔の山崎とは明らかに異なる曲が並んでいる。

「今回はダイレクトにモノを言ってるからね。若い頃だったらそこまで言わないことも、全部言っている。青臭い歌はやたら青臭いし、妖艶なものはとことんウェットなものにしたし。昔みたいにカッコつけて“そこまで言わん”みたいなのが今はないんですよ」

さらに今作の音楽的な土台になっているのは、フォークミュージックだ。ブルースが山崎の音楽的ルーツにあるのはよく知られていることだが、今作において彼のルーツが主張している部分は少なく、彼が弾くギターの存在も歌やメロディを引き立てる役回りに徹している印象が強い。

「(今回のアルバムは)フォークソングですね。それはたぶん家庭を持ったからだと思う。歌う目線が個人では収まらなくなるんですよ、家庭を持つと。大衆というか民意というか、そういう視点も持たざるをえなくなる。だからフォークソング」

彼の話を補足すると、フォークソングとはもともと民謡のことを指す単語である。つまり、ポップスが商業的な音楽として成立する以前のポップス=大衆音楽を意味する。

「歌を書くきっかけはすごく身近で個人的なことから始まって。懐かしいことだったり憧れだったりワクワク感だったり、あるいは失意だったり悲哀だったり。でもそのどれもが他の人と一緒というか。自分が悲しいと思うことは、人も悲しいと思うだろうし、自分がどうにもできないことっていうのはやっぱり他の人もどうにもできないし。そういうことを家庭持ってから思うようになって。昔の自分は世間や他人と関わらずに歌を歌おうと思ったこともあったけど、やっぱり家族ができたり子供が増えたりしたら、その音楽にも大衆性というか民意性というか、そういう視点が自然と生まれてしまうんですよ」

ゆえに本作ではマクロとミクロ、それぞれの視点によって生まれた曲が並んでいる。例えば“〈ありがとう〉って君にちゃんと言えてるかな”という独り言のようなフレーズで始まる「贈り物」は、普段の生活の中で家族に対してふと思った疑問から生まれたごく個人的な曲のように思えるが、歌の内容は〈ありがとう〉という言葉の意味をひたすら深く掘り下げて行くことで、人間が人に感謝する根源的な理由に辿り着こうとするミクロな視点による曲。その一方で「パイオニア」という曲での彼は、時空を超えた冒険旅行に出かけていたりもする。つまり、自由奔放なのだ。

「これは脳下皮質の旅というか。1枚の写真を見た時にぶわーっと浮かんで来る時間の経過とか物語みたいなもので。歴史がババババって本のページみたいにめくれていく感じ。ここには馬とか船とかに乗って冒険してる主人公がいるんだけど、俺は馬にも船にも実際は乗ってなくて、実際は小さい世界で生きている。でも何かをきっかけにいくらでも過去の時代に行くことは出来るし、そこで“あぁ昔はここで戦争があって、俺たちはその人たちの屍の上を歩いてるんだな”とか思ったりする。つまり音楽で旅をしてるってことなんですよ」

そして先行シングルでありアルバム収録曲でもある「君の名前」は、昨年生まれた娘に向けて作った歌だ。彼女がいつか結婚する時に、その披露宴でこの歌を聴きながら号泣するシーンを想像しながら作ったという。かつては根無し草のように自分の音楽だけを頼りに生きてきた彼が、愛娘の未来に想像を巡らせた歌を唄うようになった、その変化がこの『LIFE』には刻まれている。

「やっぱり……想像してしまうんよ、娘とか生まれてしまうと。だってこの世界がこれからどうなるか、どうしたって想像してしまうでしょ? これから娘がどうなっていくかを。それはもう俺にしてみれば、途方も無い未来だし、旅だし、人生だし。それだけ今の人生って俺だけのものじゃないから。だからアルバムもひとりで作ったのに、いろんな人がおる感じになってるんだと思う」

音楽とともに自由自在に旅をする男、山崎まさよし。それこそが彼の理想とする生き方=『LIFE』なのだ。

取材・文/樋口靖幸



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