世界で初めてアルミニウム製アタッシェケースを開発
ゼロハリバートンは実業家のアール・P・ハリバートンにより1938年に創業された。石油事業で世界を飛び回っていた彼は、どんな環境下でも中身を保護するラゲージの必要性を感じて奔走。航空機設計エンジニアの協力を得て開発したのが、世界初のアルミニウム合金製のアタッシェケースだった。強度はもとより密閉性や耐久性を兼ね備えたアタッシェケースに商機を見た彼は、ハリバートンケース社を興して南カリフォルニアに工場を設立し、製造・販売を開始した。
近未来性を感じさせるシンプルなデザインのアルミケースはハリウッド映画にも小道具としてたびたび採用され、瞬く間に人気を獲得。46年には独自の加工技術で2本線をアルミにプレスした「ダブルリブ」の導入により、さらに堅牢性をアップさせた。以降、ダブルリブはハリバートンケースを象徴するデザインとなり、ファッション誌にも取り上げられるようになった。52年にはプロダクトの製造を依頼していたゼロコーポレーションの傘下に入り、アルミニウム製造部門として新たにスタート。59年にブランド名を現在の「ZERO HALLIBURTON(ゼロハリバートン)」に変更した。
ゼロハリバートンの名が一躍広まったのは69年のこと。NASAの依頼を受け、アポロ11号のためのケースを製造したのだ。「月面採取標本格納器」用に内装の仕様を変更したほかは、基本的なケースの素材や構造は市販品と同じだったが、見事、月の石を持ち帰ることを成功に導いた。その頑丈さと不変のデザイン性は世界の知るところとなり、火事に遭っても中身は無事だったなどのエピソードとともに、プレミアムラゲージブランドとして成長を遂げることとなった。
次なる転機は2007年に訪れた。ゼロコーポレーションからコンシューマー部門が独立し、ゼロハリバートン社が設立されたことで、商品カテゴリーが拡充されるとともに、新たなブランディングが進められてきた。近年は東京・丸の内の国際ビル、銀座のGINZA SIX(ギンザシックス)、東京ミッドタウン、大阪・梅田のヒルトンプラザと国内外から多くの来客がある立地に直営店を出店し、ブランドの価値を体感する場作りにも力を入れている。
ミニマルな空間で際立つブランドのアイデンティティー
グローバルに向けた新たな旗艦店として24年11月8日、東京・新宿エリアにオープンさせたのが、「ゼロハリバートン新宿サザンテラス店」だ。売り場面積はブランド史上最大規模の約290㎡。ブランドの代名詞であるラゲージやアタッシェケースはもとより、ゴルフコレクション、ブリーフケースやリュックなどのバッグ、アクセサリーなど、現在販売している全てのモデルをラインナップする。それだけの商品量を揃えながら、売り場はゆったりとしてクリーンな印象だ。ブランドカラーのホワイトを基調としたミニマルな空間を生み出し、クラシカルなアルミニウム製ラゲージの質感を際立たせた。24年6月からブランドアンバサダーを務めるサッカーの英国プレミアリーグで活躍する三苫薫選手のビジュアルの掲示や直筆サイン入りサッカーボールの展示により、スポーティーなイメージも発信している。
エントランス正面に展開するのは、白のダブルリブを意匠として取り入れたステージ。大きなアタッシェケースのようなステージには、ブランドを象徴する「Classic Aluminum3.0(クラシックアルミニウム3.0)」シリーズをディスプレイし、ゼロハリバートンのアイデンティティーを伝えている。背後の棚什器では、ゴールドやブラックなどのカラーバリエーションを紹介する。その横に配置したポリカーボネート製ラゲージ「Classic Lightweight4.0(クラシックライトウェイト4.0)」シリーズはカラー展開も豊富で、売り場においては差し色のように機能し、興味を誘う。横に長く伸びる特徴的な空間の中央部には、ビジネスなど様々なシーンに対応するリュックやトートバッグ、ブリーフケースなどが集積され、ラゲージに留まらないゼロハリバートンの魅力を体感できる。
- 大きなアタッシェケースのようなステージ
- ポリカーボネート製の「クラシックライトウェイト4.0」シリーズ
- ビジネス向けなどのバッグも充実
ゴルフアイテムをフルラインナップで展開しているのは、新宿サザンテラス店のみ。ゼロハリバートンは22年にゴルフコレクションをスタートさせ、キャディバッグやクラブのヘッドカバー、ゴルフバッグ、ウェアなど、「クラブとシューズ以外は全て揃えている」。コロナ禍のゴルフブームも重なり参入が激化した分野だが、「プレーしやすさ」を追求したプロ仕様の機能性とシックなデザインが好評で、発売して以来、リピートも多い。特に人気なのがキャディバッグ。ゼロハリバートンの直営店とオンラインストアのみの数量限定で新宿サザンテラス店が先行発売した、限定カラーの「ZHG-CB PRO(ゼットエイチジー シービー プロ)」はさっそく動いた。アルミニウムをイメージさせる質感をブルーで表現したモデルだ。取り外し可能なフロントポケットに名前を刺繍するオープニングキャンペーンも好評を集めた。キャディバッグは直営店で購入すると無料でネームプレートにレーザー刻印もできる(直営店以外で購入した場合は有料)。新宿サザンテラス店は刺繍機とレーザー刻印機を備え、両サービスとも対応する。現在はキャディバッグのフードへのイニシャルとナンバーの刺繍入れサービスを実施。今後は順次、ゴルフキャップ、シューズケースへのサービスも広げていく予定。刺繍糸は6色から選べるのも魅力。
時代を超えてラゲージの価値を発信する
店奥にラウンジスペースを設けているのも、新宿サザンテラス店の特徴だ。買い物途中にくつろげ、ゴルフのパターも楽しめる。出色なのは、ゼロハリバートンのアーカイブの常設展示。70年代に火災に遭っても焼け残ったアタッシェケースや、マッサージ器の収納用にカスタマイズしたテクニカルケース、特製のウッド柄やリザード柄のケースなど、ゼロハリバートンの倉庫に眠っていた一点物を閲覧できる。ブランドの歴史と最新をつなぎ、時代を超えてラゲージの価値を発信する場が新宿サザンテラス店なのだ。
オープン以降は、男性客を中心に界隈のビジネスパーソンや欧米からの訪日外国人客の来店が多く、ポリカーボネート製のカラフルなラゲージやゴルフアイテムを入り口に女性客も増えている。「例えば丸の内店は目的を持った顧客が多いが、新宿サザンテラス店はゼロハリバートンのファンはもとより、ゼロハリバートンを知らなかった方々もフリーで来店する」という。訪日外国人客は日本土産を詰めるために最も大きいサイズのラゲージを買い求め、日本人客は同じラゲージでも機内持ち込みサイズが以前も今も一番人気なのだとか。PC機器などを収納するケースやiPhoneケースなどポリカーボネート製のプロダクトもあり、ラゲージと比べ手頃な価格であることから若い世代にも好評だ。
主力のラゲージでは軽量化やカラー展開の充実などを図り、新たな客層を開拓してきた。その中で、ゼロハリバートンというブランドに歴史とロマンを感じ、良いものを長く使いたいという思いの強まりもあり、最近では改めてクラシカルなアルミニウム製の需要が増えているという。素材であるアルミニウムも原点回帰を進めている。現在、アルミ製のラゲージを作るメーカーは、薄く軽く仕上げるため合金番号5000番台のアルミを使用するのが一般的で、ゼロハリバートンも同様だが、創業時に使っていたより強固な6000番台を復活させる。以前より薄く軽く加工する技術を実現したことによる。この技術で創業時のハリバートンケースのシンプルなスタイルを表現し、「ヘリテージライン」として25年2月末に発売予定だ。
伝統と革新、歴史と今を昇華させ、未来へつなぐ。普遍的でありながら進化を続けるゼロハリバートン、その旗艦店から発信されるメッセージに今後も注目したい。
写真/野﨑慧司、エース提供
取材・文/久保雅裕
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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。