鞄とその中身」が生み出す世界観

キャットストリートが竹下通りと交わる辺り、白い壁のビルに黒塗りの木枠がクラシカルなウインドー前は、アンバイ ジェネラルグッズ ストアへのイントロダクション。ファサード下の小さな空間にグリーンが配置され、有孔ボードに掛けられたリュックやウェア、どかんと座ったコンテナ、ゴツさがレトロな改造バイクがある光景は、街と自然の境のような空気感が心地良い。
店内に入ると、テーブル什器いっぱいに集積されたアウトドアギアが出迎えてくれる。「ストアコンセプトである『鞄も人も中身が大事』に基づき、『鞄とその中身』を表現しています」とプレスの齋藤親子さん。中心にはTシャツにリュックを背負ったボディを据え、什器上には自社ブランドのアッソブのアイテムをはじめ、海外アウトドアブランドや国内ガレージブランドからのセレクトや別注品が並び、いわば旬のインデックスをここでチェックすることができる。

「鞄とその中身」を象徴する店頭のディスプレイ

「ポータブルスティックバーナー」はアッソブのオリジナルで、22年の発売以来、「キャンパーが目掛けて買いに来る」ヒットを飛ばしている。スタイリッシュなデザインで手に馴染みやすく、ガス充填式で燃焼温度が約1300℃という高火力が魅力。最大火力時の炎の形状から「キャンプのライトセーバー」の愛称で呼ばれている。
ポータブルエネルギーのパイオニア、米国の「GOAL ZERO(ゴールゼロ)」が開発したLEDライト・ランタンの「Lighthouse Micro(ライトハウス マイクロ)」シリーズも人気。USBで充電でき、遠方をピンポイントで照らすファラッシュライト機能とランタン機能を備えたものもあり、瞬く間にキャンパーの必須アイテムとなった。ガレージブランドの間ではその利便性を高めるギアの開発も活発で、アンバイではコラボ別注アイテムも揃える。「38explore(ミヤエクスプローラー)」とは多機能ライトスタンド、「ASOMATOUS(アソマタス)」にはテント内の好きな場所にランタンを吊るせるフック「HANGBOURGER(ハングバーガー)」を別注するなどし、ライトハウス製品とセットで売れている。
英国のブランド「COLAPZ(コラプズ)」のウォータージャグは、BPAフリーでフードグレードのリサイクルプラスチック素材を使い、8リットルの容量があり、しかもコンパクトに折りたためる。機能的かつミニマルなデザインが受けている。米国のサーマルウエアブランド「STANLEY(スタンレー)」に別注したタンブラーやワンハンドマグなども注目したい。「原宿店のオープン時から取り扱っているのですが、出店の翌年に本国のチームが来店し、即決。アンバイなら別注をしてもいいよ、と言ってくださり、以来、毎年、別注アイテムを展開している」という。

大人気の「ポータブルスティックバーナー」
写真右は「Lighthouse Micro(ライトハウス マイクロ)」シリーズ、左は「HANGBOURGER(ハングバーガー)」
「COLAPZ(コラプズ)」のウォータージャグ

「A SHARED SENCE OF VALUE」の体現

アンバイは、大阪発のバッグブランド「master-piece(マスターピース)」の誕生から成長までを牽引したディレクター冨士松大智氏とデザインチームが2013年に設立したバッグの製造卸。マスターピースは1990年代、アウトドアのギアに匹敵する機能性と、当時は珍しかった異素材の組み合わせなどファッション性を融合し、ハイスペックながら保守的なデザインが一般的だったメンズバッグ業界に新風を起こした。
ハイクオリティーなプロダクトを、より手の届く価格で、より多くの人に体験してもらいたいという思いから、理想的な物作りができる環境を求めて、マスターピースから独立して立ち上げたのがアンバイだ。ファブリックブランドや生地メーカーと共同開発する生地、日本のタンナーが鞣(なめ)したレザー、世界中から集めたパーツ、縫製職人の得意分野を把握した上でのアイテムに合わせた工場選び……生み出したい価値を形にするためのネットワークを構築。物作りのコンセプトとする「A SHARED SENCE OF VALUE(共有する価値観)」の頭文字をとり、新たなブランド「AS2OV(アッソブ)」をスタートさせた。

         
アッソブの定番「DOBBY(ドビー)」シリーズ
             
軽くて機能的なビジネスリュックも人気

ブランドの根底にあるのは日常、街での使い勝手の良さだ。カジュアルにもビジネスにも合うデザインはもとより、アウトドアでも十分に活躍する機能を備える。耐久性や防水性、用途に応じたシルエットや生地の厚み、消費者の持ち物の変化に対応する収納性など、普段使いをサポートする機能を吟味し、トレンドに左右されないデザインへと融合していく。細部にまでこだわるからこそ得られる機能とデザインの心地良いバランス、「ええ塩梅(あんばい)」をプロダクトに体現し、より多くの人が体験できる価格で提供することをミッションとしている。その価値体験への入り口として、14年に原宿店を出店した。自社ブランドのオンリーショップではなく、当初からセレクトアイテムを組み込んだジェネラルグッズストアであることも、バランスを重視するアンバイらしいアプローチと言える。

オリジナルを軸に、粒よりのセレクト・別注をミックス

アンバイは現在6店舗を展開し、22年に出店した兵庫の三田本店とも一味異なる都市の旗艦店と位置づけているのが原宿店だ。約100㎡の売り場はL字型で、中央部レジ前に中庭がある特徴的な構造になっている。「原宿では珍しく、この物件に決めた一番のポイント」という。中庭では不定期にポップアップやライブなどのイベントが行われ、取材時は代理店を務める韓国のアウトドアブランド「MINIMAL WORKS(ミニマルワークス)」のテントなどを提案していた。キャンプアイテムの体験にはうってつけのスペースだ。8月にはキャンプにも部屋にも合うファニチャーやギアを提案するガレージブランド「NODEL design(ノデルデザイン)」のポップアップを展開。その製品を収納できるバッグとケースをアッソブが製作してお披露目し、好評だった。
商品やイベントなどの最新情報は自社アプリ「UNBYメンバーズアプリ」で配信され、会員登録すると新商品や人気アイテムなどの先行予約ができ、クーポンをゲットできたり、物作りの背景を知ることもできる。「まずはアプリで会員に伝え、次にインスタグラムなどのSNSで広めていく」と齋藤さん。ポップアップの開催や新商品の発売に際しては、インスタライブも活用する。「顧客が仕事などをしている平日の夜よりもトラフィックが多い土曜の朝、開店前にスタッフが配信している」という。いったん来店すると、一客一客の滞留時間も長いのが特徴だ。一つひとつのアイテムにこだわりが凝縮されているだけに、その説明を受けたいという来店客のニーズもあるのだろう。その思いに応えるのが、スタッフのフレンドリーな接客だ。「鞄も人も中身が大事」という出店時からのコンセプトが今も、人、モノに通っている。

キャンプアイテムを臨場感を持って体感できる中庭スペース。この日は「MINIMAL WORKS(ミニマルワークス)」を展示
「NODEL design(ノデルデザイン)」の製品を収納できるバッグ、ケースを製作

アンバイの直営店は現在、三田本店をはじめ6店舗。「品揃えは全店舗のちょうど中間」という原宿店はオリジナルが5割、販売代理店を務めるキャンプギアを中心とする海外ブランドが3割、雑貨が2割で構成している。その軸となっているのが、アッソブだ。店奥半分の壁面にアッソブのリュックやビジネスバッグを集積。この日はインビスタ社と共同開発した「コーデュラ」の特殊ポリエステル糸をドビー織にすることで独特の光沢を生んだオリジナル生地によるシリーズ「CORDURA DOBBY 305D BACK PACK(コーデュラ ドビー 305D バックパック)」や、3レイヤーで耐水圧20.000ミリのハイスペック生地「UNBY-TEX(アンバイテックス)」を用いた「WATER PROOF CORDURA 305D DAY PACK(ウォータープルーフ 305D デイパック)」をメインに陳列していた。表面にも室内にも随所に大小のポケットが配置され、止水ジップなど細部への配慮もうれしい。
このゾーンをメインに、店内の随所にアッソブのオリジナルアイテムを点在させている。「WATER PROOF SUEDE SACOCHE(ウォータープルーフ スエード サコッシュ)」は、北米産の希少な2ミリ厚のスエード革を採用。クロム鞣しにより強度を高め、防水撥水剤とともに2度にわたり染色することで革の芯まで色を入れ、防水撥水性の強い素材に仕上げた。内装には420デニールのブライトナイロン糸をオックス織で織り上げ、PVC(塩化ビニール)加工を施した生地を使い、放水性と強度を高めた。一般的なサコッシュよりも大きめで、ポケットも充実しているため収納性が高く、性別や年齢を超えてコーディネートできるデザイン、カラーバリエーションも大きな魅力だ。

出店以来、店奥の定位置に「AS2OV(アッソブ)」のバッグを集積
「WATER PROOF SUEDE SACOCHE(ウォータープルーフ スエード サコッシュ)」

アッソブのビジネスリュックとともにステーショナリーを集積し、オンタイムのニーズにも対応しているゾーンもある。英国の時計ブランド「BRISTON(ブリストン)」の腕時計やベルト、インテリアデザイナーとプロダクトデザイナーによるガジェットブランド「NATIVE UNION(ネイティブユニオン)」のスマホアクセサリー、モバイルギアブランド「ROOT CO.(ルート)」に別注したカラビナ付きマグネットリールなど、目を凝らすと様々なこだわりアイテムが掘り起こされる。

ビジネスに対応するバッグやステーショナリーも展開

店奥のもう半分のスペースでは、キャンプやスケートボードなどの「遊び」をテーマにオリジナルとセレクトでアイテムを編集。壁面はカタログのようなディスプレイで見せ、手前の空間ではキャンプのシーンを再現するなど、外遊びを体感する空間を生み出している。また、遊びのフィールドは野山の自然だけではない。店頭ではサーフボードも提案している。パフォーマンスショートボードでもロングボードでもない、型にはまらないデザインの「オルタナティブサーフボード」に絞り込み、サーフブランド「T-MEN Surfdesigns(ティーメンサーフデザイン)」のシェイパーに別注したボードを常時展示している。近隣にボードを扱う店もあることから、「ロングボードの世界チャンピオンだったジョエル・チューダーが訪れたり、海好きな人たちが『何、このボード』と興味を持って立ち寄ることもあります」。

          
遊びをテーマとした店奥のゾーン
店頭にはオルタナティブサーフボード

店内を巡っていて気になってしまうのが、小さな扉が並んだロッカー。商品が陳列されている壁面にあり、聞けばストック用だとか。表面にはマジック書きのサインが並び、「これまでにアッソブとコラボしたアーティストなどのもの」という。15年にコラボバッグを製作したアメリカ西海岸のスケートボーダーでミュージシャンのトミー・ゲレロのサインがあったりと、思わず立ち止まって見入ってしまう。

コラボしたアーティストのサインが書かれたロッカー

アッソブは「ブランド設立時から次々と新作を発表するのではなく、作り込んだモデルを定番へと育てていく」ことをポリシーとしてきた。そのため最近はバッグの新作はあえて発表せず、バッグの縫製技術を生かしたプロダクト開発を積極化している。
キャンプやガーデニング、D.I.Y.など様々な用途に人気なのが「CANVAS APRON L(キャンバスエプロン エルサイズ)」。10号帆布をベースに、ポケット部分に11号帆布を使い、ポケットは作業しやすいように道具を小分けにでき、胸部分にはペンやドライバーなどを引っ掛けるループも付属している。男女兼用で、白とキャメル、ネイビーと赤など配色もおしゃれ。

「CANVAS APRON L(キャンバスエプロン エルサイズ)」

アパレルはドメスティックブランドを中心に展開し、オリジナルではバッグ職人が縫ったしっかりとしたアイテムが揃う。「SHRINK NYLON CAMP VEST(シュリンクナイロン キャンプベスト)」は、英国陸軍の装甲部隊が着用していたベストがベース。高密度に織り込まれた生地に高塩縮加工を施すことで超高密度の生地に昇華させ、フロントパネル内に様々な大きさのポケットやループを搭載、背全体にゲームポケットも備えた、まさに「鞄のようなキャンプベスト」に仕上げた。他、フィッシングベストをモチーフにアソッブらしい機能やカラー展開などギミックを利かせたタイプは、キャンプ歴の長い顧客に好評だ。

「SHRINK NYLON CAMP VEST(シュリンクナイロン キャンプベスト)」
                   
「SHRINK NYLON CAMP VEST 2」
「SHRINK NYLON CAMP VEST 3」

新たな遊びのフィールドへ、ゴルフラインを始動

コロナ禍ではキャンプ需要が増加したが、日本オートキャンプ協会の調べによるとオートキャンプ参加人口は12年から増え続け、様々な制限の影響を受けた20年は減少したものの610万人、21年には約750万人と再び増加した。コロナ禍でグンと伸びてブーム化したが、行動制限がなくなって以降は他のアクティビティーの復活や消費の分散に伴い、落ち着いてきた感がある。
「昨年までと比べるとダウントレンドにはありますが、基本的なギアは一通り揃え、購入が落ち着いたのが今。ギアは揃えたけれど、キャンプ場は満杯で予約が取れず、使用の場が足りていない感じです。もともとキャンプ好きだった人たちは、冬を選ぶ傾向にあります」と齋藤さん。アンバイの主要客層は30~40代を中心とする熱心なアウトドアファンが多く、男性客が8割を占める。「一昨年、昨年はテントの中で使うストーブがすごく売れた」ことからも、コア層を筆頭に冬場へとキャンプ時期が長期化している様子が窺える。「全体的にはキャンプをする人が増え、テントの動きが以前よりも速くなりました。ファッションのようにデザインの面白さも重視されるようになったと感じる」とも話す。
ギアを使う場として、キャンプイベントは依然盛んだ。アンバイも顧客と共に直近では9月に新進ギアブランド「ZANE ARTS(ゼインアーツ)」が主催する長野県でのイベントに参加する。また今年は自らが主催する初のキャンプイベントも計画している。昨年出店した三田本店の自然環境を生かし、「人気の高いミニマルワークスのファンが集うイベント」を11月に開催予定。

アンバイ ジェネラルグッズストア三田店

また、今年は新たな遊びのフィールドへ、アッソブの提案を広げる。ブランド初の「AS2OV GOLF(アッソブ ゴルフ)」をスタートさせた。ファーストコレクションは、オリジナルのコーデュラバリスティックナイロンとベジタブルタンニン鞣しのレザーを使ったキャディバッグ、スタンドバッグ、ボストンリュックで構成。「鞄屋ならではの機能とデザインを備えたゴルフギア」を訴求していく。公式ECサイトと一部の卸先店舗やゴルフ専門店で先行販売し、9月に伊勢丹メンズ館へのポップアップストア出店で本格始動する。新たなマーケットに挑戦し、アッソブの可能性をさらに拓いていく。

  • 新ラインの「AS2OV GOLF(アッソブ ゴルフ)」
  •        

写真/遠藤純、アンバイ提供
取材・文/久保雅裕

関連リンク

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

Journal Cubocci

一覧へ戻る