「混、魂、今」を軸に、多様な要素をミックスする

新たなセレクト業態を立ち上げる考えが萌芽したのは2022年のこと。トウキョウベースが創業時から主軸とするセレクトショップ「ストゥディオス」の顧客の年齢が、店としての歴史を重ねる中で上がってきていた。主要ターゲットの20代前半よりもアッパー世代の客数が増え、若年層をカバーする業態の必要性を感じたのが始まりだった。
当時はストゥディオスの商品部長、現在はコンズのディレクターを務める熊沢俊哉さんは、「弊社ではSPA事業も展開しているので、どんな形態が理想かを模索」したという。自社で好調なストゥディオスと「ザ トウキョウ」を「高い」「低い」の年齢軸と「カジュアル」「モード」のテイスト軸からなる4象限で見ると、いずれもテイストは「モード」。大手アパレルなどのブランドは、年齢層の高いカジュアルゾーンが多く、「そこに参入していくのは不毛だと思った」。導き出された仮設は、「若年層を主要ターゲットとしたカジュアルな業態」だった。

「コンズ」の熊沢俊哉ディレクター

「カジュアルを好む若いお客様はどんな人なんだろうと思い、観察していくと、ラグジュアリーブランドのスニーカーを履いて、コーディネートしているシャツやパンツはファストファッションだったりする。バイネームで欲しいものがあって、それ以外は新品でも古着でも、安いものでも高いものでもニュートラルにミックスする。そんな印象を強く受けた」と熊沢さん。そのミックス感のキーワードとして「混」、デザイナーやブランドの精神性を正しく伝えていきたいという思いを表す「魂」、時代の気分をしっかりと表現していくという「今」の3つの要素を一体化した「CONZ(コンズ)」という概念を発案し、ショップ名にした。ストリートもエレガントも様々な要素をミックスして、世代や性別も超えて自分のスタイルを作っていけるという意味で、コンズが提案するカジュアルにはテイストだけでなく、肩肘を張らず「自由」にファッションを楽しんでほしいという思いを込めた。

「コンズ」のイメージを表現したビジュアル

ストリートとエレガントが混ざり合う独自の「カジュアル」

店舗は裏原エリアの路地にあり、角地に建つガラス張りの2階建ての建物がひと際目を引く。この2層を売り場としてコンズ仕様に変えた。
空間デザインを担当したのはダイケイミルズ。「混ぜる」をテーマにアイデアを出し合い、木や石、鉄など異素材の組み合わせ、床や柱のグレー、壁や天井のオレンジ色の吹き付け、1階と2階を結ぶ螺旋階段の黒など、あえて違和感のある空間を出現させた。ストゥディオスの整然とした空間に対して、コンズでは「隠すはずの躯体も剥き出しで、ちょっと荒々しさを残した空間に仕上げた」。1階と2階の売り場とバックヤードの仕切りには大きなカーテンを設置。モノトーンで何かの柄が入っていると思い、少し離れて眺めると昔の表参道の写真が浮かび上がってくる。原宿店の翌日にオープンさせたルミネエスト新宿店のカーテンには、歌舞伎町の風景がプリントされている。「出店する立地の地域性をカーテンの写真で表現していく」考えだ。

2階の売り場。品揃えは1階よりもややエレガントなイメージ
1階のエントランスから見た売り場。ストリートな印象のアイテムが揃う

商品構成比は、セレクトが80%で、オリジナルが20%。開店時には全25ブランドを揃え、その7割がトウキョウベースでは初めての導入となる。ブランドはストリートとエレガントの組み合わせを意識し、日本のブランドを中心に多様な個性が売り場で混ざり合う。「NVRFRGT(ネヴァーフォーゲット)」や「carne bollente(カルネボレンテ)」、「Midorikawa(ミドリカワ)」といったメンズはもとより、「Nomàt(ノマット)」や「ANTHEM A(アンセム エー)」、「INSCRIRE(アンスクリア)」といったウィメンズ・ユニセックスブランドからもセレクトしている。日本と中国のハーフというデザイナーのルーツを感じさせるアジアンテイスト、ゲーム性、機能性が特徴の「JIAN YE(ジェンイェ)」など若手ブランドにもフィーチャー。これらのブランドを軸に相性の良いブランドやアイテムを揃え、オープニングのラインナップを構成した。

女性はもちろん、男性も着こなせるウィメンズやユニセックスのウェアも注目
「SOE(ソーイ)」に別注したボンバージャケット(左)や、「カルネボレンテ」のデニム(右)、「foot the coacher(フット ザ コーチャー)」のシューズも

「ウィメンズも入れたのは、僕自身が買っていたから。コンズで揃えているアイテムも、ウィメンズだけれど男性でも着られるサイジングだったりします」と熊沢さん。例えば、アンスクリアはオーセンティックとモード、カジュアルとラグジュアリーが共存した「ストリートラグジュアリー」がコンセプト。デニムもエレガントで上質なカジュアルに仕上げている。「Wool Hybrid Double Breasted Jacket(ウール ハイブリッド ダブル ブレステッドジャケット)」も面白い。ボックスシルエットが特徴的なオーバーサイズのダブルジャケットで、マニッシュなブラックだが、左右の身頃が無地とストライプの異素材で作られ、リメイク感も楽しめる。「Kota Gushiken(コウタグシケン)」は、ジェンダーニュートラルに着こなせる色彩と表情豊かなニットウェアのブランド。「Crushed Aran(クラッシュト アラン)」は一見オーソドックスなアランセーターだが、ポリエステル生地を使うことでボリューム感はそのままに軽量化した。色味を統一しながら、ボディの上下で対比的なカラー表現が為されている。スコットランドの老舗ファクトリーブランド「JAMIESON'S KNITWEAR(ジャミーソンズ ニットウェア)」とコラボしたフェアアイルニットも揃う。

  • アンスクリアの「ウール ハイブリッド ダブル ブレステッドジャケット」
  • 「コウタグシケン」のニットウェア
  • コウタグシケンの「クラッシュト アラン」

オリジナルアイテムは、ネヴァーフォーゲットの山田拓治とジェンイェのスゲノコウスケと共同製作。いずれもここ数年、若年層の支持が厚いブランドで、デザイナーと直接コミュニケーションをしながら主要ターゲットに対して価値の高い服作りに取り組んだ。
さっそく反響を得たのは、ネヴァーフォーゲットと共作した「ショートフードブルゾン」。二重織のポリエステル生地を使い、ブルゾンはゆとりを持たせた身幅とトレンドのショート丈をバランス良く共存させた。ゆったりと曲線を描くポケットにはリベットをさりげなく施した。裾のスリットでシルエットを変えられる同素材の「オーバータックストレートパンツ」とのセットアップが人気だ。同じくネヴァーフォーゲットとのコラボによる「フ―ディーシャツ」も売れ筋。マウンテンパーカとシャツをミックスしたミニマルなデザインで、インナーとしても着こなせる。
ジェンイェとは、ノースリーブのスエットとサーマル生地のカットソーの重ね着を模したフェイクレイヤードが特徴の「レイヤードロングスリーブロンTEE」を製作。UMA(未確認生物)をモチーフに、極端に広い身幅と短い着丈で独特なシルエットを生んだ。裾のドローコードで自在にシルエットの変化を演出できる。

  • ネヴァーフォーゲットとのオリジナル「ショートフードブルゾン」と「オーバータックストレートパンツ」
  • ネヴァーフォーゲットとのオリジナル「フ―ディーシャツ」
  • ジェンイェとのオリジナル「レイヤードロングスリーブロンTEE」

都市部に出店し、30億円規模を目指す

オープン後は順調な滑り出しで、「ストゥディオスやザ トウキョウを知らないお客様が外から見える商品に興味を持って来店され、訪日外国人客も中国や台湾、韓国をはじめ、欧米のお客様も増えている」。想定した若年層を中心に、同型でも色柄によってはより大人世代にも響いているようだ。外国人客には、店頭にレイアウトした日本の絞り染めによるバッグがよく動くという。京鹿の子絞りの老舗・片山文三郎商店のプロダクトで、メタリック生地にツンツンとした独特な形状を生む唄(ばい)絞りによる「プチバッグ」は、まとめ買いも多い。

片山文三郎商店の「プチバッグ」

原宿店の路面店舗生かし、イベントも随時開催する予定。オープニングではおもちゃや古着など通して日本のナードな文化を発信する移動式お土産店「HOODMART(フッドマート)」のポップアップストアを展開し、賑わいを生んだ。すでに毎月のようにコンズが注目するブランドのポップアップも開催している。「ブランドが飛躍するきっかけになれれば」と熊沢さん。
現在は2店舗だが、「原宿店とルミネエスト新宿店では客層が大きく異なり、プロダクトアウト型のMDだけれど立地特性に応じた変化が必要」とも話す。今後の5年間で東名阪を中心に10~15店舗を出店し、売上高は30億円を目標とする。

写真/遠藤純、トウキョウベース提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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