感度が高く、物の価値を知る大人の女性のための新たな「屋根裏部屋」
ソフィットは現在、直営店が4店舗、FCが2店舗あり、ECでも販売している。もともとは若い客層に向けたメルローズのカジュアルブランド「alcali(アルカリ)」の服を軸に、バイイングしたアイテムをアソートしたセレクトショップとしてスタートした。「Soffitto da alcali(ソフィット ダ アルカリ)」として下北沢に路面店を出店したのは2006年のこと。「soffitto」とはイタリア語で屋根裏部屋を意味し、宝探しをするような、わくわくする時間を過ごせる空間を意図している。その後、オリジナルアイテムを増やしながら、アルカリから派生したブランドとしてソフィットを単独出店し、エッジーでモードなスタイルの提案により30代を中心に幅広い世代の女性に支持されてきた。
リブランディングに踏み出したのは、ストアブランドとして20年近くが経ち、30代アッパーの大人の女性の顧客も増えていたことによる。これからへの新たな基盤作りを見据え、ブランドの原点に立ち返り、一からの見直しにかかった。ディレクターには、ジャーナルスタンダードやアメリカンラグシー ジャパン、デイトナインターナショナルなどでバイヤーやディレクターを務め、メルローズではニューヨークとロンドンから得たインスピレーションを基に大人のミックススタイルを提案するブランド「A_(エース)」を手掛ける平ゆかりさんを起用。主要ターゲットは30代後半~50代に上げ、ファッション感度が高く、物の価値に対する意識も高い大人の女性に向けてカジュアルウェアの「ニュースタンダード」を提案するブランドへと刷新した。MDだけでなくビジュアルもロゴマークも全て見直し、新たな「屋根裏部屋」を設えた。リブランディングに伴い、20~30代を中心客層とするルミネ新宿2から、その上の世代である30~50代を中心客層とするルミネ新宿1への移転が決まった新宿店をブランド表現の象徴的な空間と位置づけ、今年9月11日に移転リニューアルオープンとなった。
「館の客層がブランドのターゲットと同じで、感度の高い大人の女性に向けたブランドが多く入っている。そうした環境だからこそ、ソフィットの服作りもセレクトも磨かれていく可能性を感じる」と、メルローズの吉田昌弘ソフィット・ゼネラルマネージャーは話す。


オリジナルとセレクト・別注を掛け合わせたミックススタイル提案
新たな新宿店はルミネ新宿1の4階、旧店舗とほぼ同じ約60㎡の奥行きのある空間だ。店装のディレクションも平さんが務め、商品のデザインが映えるシンプルでモダン、クリーンな空間に仕上げた。エントランス右側のL字型の壁面には木製のリブパネルを張り、自然で落ち着いた空気感を演出。床は大理石風のPタイルにブラックで小さな四角の模様を連ね、クラシカルで高級なムードを醸し出した。リブパネルの前ではシーズンを象徴するアイテムのスタイリングを見せ、正面から店内へと続くラックにコーディネートアイテムを陳列し、選びやすい導線を作っている。オープニングではビンテージのトランクやスーツケースを配置し、什器として使うことで、リブランディングのテーマである「再出発」を表現した。このテーマは25-26年秋冬シーズンのビジュアルにも反映され、「旅というよりは、これから飛び立とうよという出発のイメージを体現」している。ロゴマークも刷新。ローマ字の「SOFFITTO」は以前のイタリックからスマートでありながら意思を感じさせる書体になり、上に屋根裏部屋の屋根の線を添えた。飛行機で飛び立っていくような印象も受ける。





MDはソフィットとエースのオリジナルウェアを軸に、平さんがハンドピックしたウェアやファッション雑貨で構成。全体の約7割がオリジナルだが、残り3割のセレクトに粒選りのブランドが揃い、売り場に混在させることでブランドらしいミックススタイルを提案する。ソフィットの他店舗にもECにも無い、新宿店だけのセレクトもあり、まさに屋根裏部屋でコレクションを探すわくわく感がある。
ブランドの「再出発」を象徴するのは、ミラノ発のバッグブランド「MIA BAG(ミアバッグ)」のウェアライン「COUTURE MIA BAG(クチュール ミアバッグ)」のジャケット。テーラードジャケットにパールチェーンやパッチワークなどを施し、ベーシックに遊び心を効かせる新生ソフィットのコンセプトが体現された一着だ。インナーにTシャツを合わせればカジュアルに、シャツを合わせれば大人な着こなしを楽しめる。祖業のバッグでは、ミアバッグならではのユニークなデザインと素材使いを堪能できる。ニューヨークを代表するモチーフをパッチワークした「スエードバッグ)」や、レザーに「J'adore」の文字をプリントした「レザーバッグ)」なども揃う。
「クチュール ミアバッグ」のテーラードジャケット
「ミアバッグ」のスエードバッグ
「ミアバッグ」のスエードバッグ
洋服では、クラシカルでありながら遊び心のあるデザインとスカンジナビアのアイデンティティーを融合させたフェミニンでレトロなテイストのブランド「BAUM UND PFERDGARTEN(バウムウンドヘルガーテン)」、11年の設立以来サステイナブルな服作りに徹するイタリアのデニムブランド「HAIKURE(ハイクル)」などもある。今季から新たなヘッド・オブ・デザインが就任した「3.1 Phillip Lim(スリーワン フィリップリム)」の取り扱いもスタートさせた。


これまでもコラボレーションしてきたデザイナー川島幸美のウィメンズブランド「AULA AILA(アウラ アイラ)」の別注アイテムも注目だ。「CHECK COMBINATION BLOUSON(チェックコンビネーションブルゾン)」は、大きさの異なる2種類のチェック柄を左右に配し、中央に無地のモッサを組み合わせた大胆なコンビネーション。「目を引くデザインなので、フリーのお客様が興味を持って入店し、即決するケースもある」という。

オープン以降、人気を呼んでいるのは日本人デザイナーによるロンドン発のジュエリーブランド「ANIMUS(アニムス)」。ビンテージジュエリーのパーツを厳選し、手仕事で組み合わせる手法に徹して生み出されたリメイクアクセサリーだ。ビンテージ、サステイナブル、タイムレスといったテーマを網羅したクリエイションが響いている。

「ソフィット」と「エース」、シーンに応じて楽しめるスタイリング
ソフィットのオリジナルではカバーオールが好評だ。ビンテージのダック生地をリプロダクトした生地を使用。襟にはコーデュロイ、袖口裏にはチェック生地をあしらい、女性らしい着こなしができるビンテージ感あるワークテイストのウェアに仕上げた。今季はインナーに程よい厚みの度詰め天竺によるラガーシャツ、ボトムにミディ丈スカートを合わせるスタイルを推している。スカートはレオパード柄とネイビーのストライプ柄の2タイプで、センターフロントにダブルジップを配し、裾から覗く裏地のディテールでアクセントを効かせた。ジャケットでは、バックサテンジョーゼット製のノーカラータイプを提案する。2WAYストレッチ、紫外線防止、接触冷感の機能があり、インナーやボトムとの組み合わせによってきれいめにもカジュアルにも着こなせる。


エースは、トラッド&ストリートをキーワードにオリジナルアイテムを製作。ツイードのノーカラージャケットは、2種類のブレードを組み合わせ、大人っぽい雰囲気を演出する。トラッドでフェミニンなムードだが、スムース仕上げのウール製プルオーバーと同素材のパンツとコーディネートすれば、大人のカジュアルスタイルを楽しめる。新宿店のリニューアルオープン以降、活発に動いているのが「タイプライターオーバーシャツ」。スタンダードなシャツの作りを残しつつ、襟は小さめに、袖や身幅をゆったりと取り、モード感を表現した。袖を伸ばした状態ではベルスリーブのようなシルエットで着こなせ、袖口のカフスはボタンになっているので長さの調節もできる。下前身頃にさりげなく刺繍された「A_」ロゴがおしゃれ。今後、定番になっていきそうな新たなシャツのスタイルだ。


「セレクトもオリジナルも価格帯はリブランド前より高まり、クオリティーを上げたが、旧店舗時代からの顧客様はもとより、新規のお客様の来店も増え、客単価も上がった」と吉田さん。館の客層のマインドを捉え、30~50代の女性客を増やしている。今後は、新作は1~2週間ごと、オリジナルアイテムは月2回程度のデリバリーを予定し、鮮度の高い提案を維持していく一方、新宿店での顧客体験を充実させていく考えだ。
写真/野﨑慧嗣、メルローズ提供
取材・文/久保雅裕

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。