「音符を綴るように、日常を奏でよう

中澤知也さんと弟の中澤卓也さんは新潟県長岡市の出身。上京して以降は全く違う道を歩んでいた。
兄の知也さんは高校時代、「A BATHING APE(ア ベイジング エイプ)」のクリエイティブディレクターとしてストリートファッションを牽引していたNIGOの存在を雑誌で知り、ファッションにのめり込んだ。「アルバイト代を2カ月分貯めては、東京へ行っていた」という。「そんな日々を送っていたある日、母親から文化服装学院への進学を薦められたんですね。『あんたがいつも雑誌で見ているNIGOっていう人が通っていたんだって』と、学校のパンフレットを手渡されたんです。ファッションの世界を志したのは、それがきっかけ」。文化服装学院では主にブランドの運営について学び、卒業後は某ストリートファッションブランドで多くのプロジェクトを手掛けてきた。24年に独立し、ライフスタイルファッションブランド「ONE MORE BEER(ワンモアビア)」のディレクションやOEM事業、三軒茶屋にバーを開業するなど多様な活動を展開。ワンモアビアは「お酒呑みのためのユニフォーム」の位置づけで、「テキトーな服を着て飲みに出るな。」をコンセプトとする。新作のローンチに合わせて「オリジナルのクラフトビールを仕込む」などユニークなブランドだ。

中澤知也(なかざわ・ともや) NoTeディレクター
1989年生まれ、新潟県長岡市出身。高校時代にファッションに興味を持ち、18歳で上京し文化服装学院に入学。ファッションビジネス科でブランド運営について学ぶ。23歳でストリートファッションブランドに入社し、店長を勤めた後にPR/セールスとして在籍し、多くのプロジェクトマネージャーを経験。2024年に独立し、ファッションブランドの運営、飲食店のプロデュース、各種OEM事業など幅広く事業を展開している。

一方、卓也さんは幼少期からレーシングドライバーを目指し、レーシングカートに始まり、高校はモータースポーツを専門的に学べる学校に進んだ。しかしスポンサーが見つからず、資金の壁に阻まれた。目標をなくして悩んでいた頃に、祖母から薦められたのが「NHKのど自慢」への応募だった。音楽はクルマと同じくらい好きだったことから応募すると、何と優勝。これをきっかけにレコード会社からスカウトされ、17年に演歌・歌謡曲歌手としてデビューした。演歌は全く知らない分野だったが、師匠のもとで歌唱力を培い、数々の音楽賞を受賞。しかし成功に安住せず、ポップスや洋楽などジャンルを超え、活発に活動した。23年には所属事務所で自主レーベルを立ち上げ、オリジナルの楽曲制作やバンド演奏など表現の幅を広げている。音楽以外でも、レーシングドライバーになるという夢を実現。デビュー戦で優勝を飾り、モータースポーツ界でも活躍している。

中澤卓也(なかざわ・たくや) NoTe トータルクリエイター
1995年生まれ、新潟県長岡市出身。レーシングドライバーを目指したが資金の壁にぶつかり断念。祖母の勧めで出場した「NHKのど自慢」がきっかけで、2017年に歌手デビュー。23年に所属事務所から自主レーベルを立ち上げて活動中。最新シングルは「青い空の下」。歌手とレーサーの二刀流「シンガーソングドライバー」を掲げ、再びモータースポーツに挑戦。デビューレースで優勝を飾り、現在もシリーズチャンピオン争いを展開中。レース実況や解説者としての仕事など、モータースポーツ界での活動も多岐にわたる。

それぞれに活動してきた二人の道が交わったのは、知也さんが在籍していたファッションブランドだった。
「別注企画で歌手である中澤卓也とコラボしたんですよ。ブランドロゴに卓也が歌っていた楽曲の歌詞に出てくる花を散りばめたTシャツやスエットなどを作ったことがあって。ファッションビルでポップアップショップを展開したところ、かなり反響があったんです。ただ、そういう場をブランドの枠内でコンスタントに作っていくのは難しい。ならば、自分たちでブランドを立ち上げてはどうかと思ったんですね。卓也にとっても歌とは異なる表現活動として、ファッションブランドは一つの在り方かなと思い、僕から声をかけました」と知也さんは振り返る。卓也さんは「僕は音楽も車も、そしてファッションも大好きなので、兄と一緒に服作りをさせてもらってすごく楽しかった」と話す。「ポップアップには多くのお客様が来て、購入した服を着てライブにも来てくれたり。普段とは別の嬉しさを感じたんです。僕自身も新しいことに挑戦したいと思っていた時期で、僕と兄は異なる領域で異なる経験をしてきているので、これからも一緒に何か面白いことができるのではないかと。そんなタイミングでブランドを立ち上げないかという話があって、カチッと噛み合った」。

ジャンルレスに活動する二人の接点として「NoTe(ノート)」を立ち上げたのは、23年8月のことだった。ブランド名は英語の「note」に由来する。名詞としては「ノート」や「メモ」だけではなく「音符」の意味も持ち、動詞では「記録する」ことはもとより、「綴る」「奏でる」といった意味があることから、「良い服を着て日常を明るく楽しく奏でようというメッセージを込めた」と中澤兄弟はいう。「音符を綴るように、日常を奏でよう」をコンセプトに、ブランド名には二人に共通するイニシャル「N」「T」を大文字で反映させた。

「NoTe」のブランドロゴ

新作は毎月リリース。オンラインで受注し、生産する

服作りでは卓也さんがアイデアを出し、兄弟で話し合ってそのニュアンスを共有し、知也さんがデザインする。ブランドの客層として卓也さんのファンはもちろん想定していたが、いわゆるタレントグッズは作らないことを前提として服作りに取り組んだ。
生産は懇意にする国内外の縫製工場と連携し、形にしていく。「ずっとパートナーとして取り組んでいる工場で、僕たちが作りたいものは何でも作れることが強み」と知也さん。スエットのフーディーやTシャツ、パンツなどストリート系のアイテムを中心に、バッグやキャップ、ソックス、アクセサリーなどの小物雑貨も展開する。ウェアはストリート感がありながらシンプルで落ち着いたデザインで、世代を問わず、コーディネートの汎用性を楽しめる。

今年2月に神宮前で開催したポップアップショップ

ブランドロゴをプリントした「PULLOVER SWEAT(プルオーバー スエット)」は、ノートのアイコンアイテム。厚みのあるボディにブラックやバーガンディー、パープルなど深みのあるカラー展開で、ボディの胸中央部とフードに色違いでロゴが施されている。今冬はジップ付きのフーディー「ZIPUP SWEAT(ジップアップ スエット)」もリリース。卓也さんの楽曲「青いダイヤモンド」の歌詞から着想した「ALL WE NEED DIAMOND」のワードを左胸部にグラフィックで表現し、フードにブランドロゴを配した。「陽はまた昇る」からは太陽、「東京タワー」からは東京タワーといったように、楽曲から得たインスピレーションをグラフィック化し、歌詞を想起させる英文のメッセージを添えたスエットは人気シリーズとなっている。「東京タワー以外は、歌詞そのままの世界を表現するのではなく、一捻りしたグラフィックにしています。ファンの方々は元歌に気づくかな、どんな反応をするかな、と僕にとっては楽しみになっています」と知也さんは話す。

「ALL WE NEED DIAMOND」の「ジップアップ スエット」
ブランドのアイコンアイテム「プルオーバースエット」
「東京タワー」のグラフィック
「陽はまた昇る」のグラフィック

新作はほぼ毎月リリースしているのもノートの特徴だ。「僕らのようなお客様にダイレクトにプロダクトを届けている小規模なブランドは、春夏・秋冬という半年先のトレンドを想定したコレクションよりも、お客様とのコミュニケーションを通じて今欲しがっている物を捉え、1カ月、2カ月という短期間で形にして提供していくスタイルが適していると思う」と知也さん。ノートでは、発案からデザイン、生産、撮影、リリースまで1カ月半という流れを採っている。
さらに、商品は見込みで量産せず、インスタライブでローンチし、SNSとオンラインストアで受注する。オーダーのあった数量だけを生産する仕組みだ。「シーズンコレクションを否定しているのではないんです。でも、ファッション業界では商品を作り過ぎて、結果的に廃棄されてしまったりしています。僕らはSDGsを打ち出しているわけではないけれど、受注した分だけを作り、廃棄しない。受注生産は今後、ベーシックな在り方の一つになっていくのではないかと思います」と知也さんは話す。
ウェブ以外では24年4月からポップアップショップにも取り組み、25年2月現在で6回を数える。「購入して持ち帰りたいお客様もいるため、ある程度の在庫を積む」が、ポップアップは基本的には顧客を対象とした受注会と位置づけている。

新作をローンチするインタライブの様子

ブランドの基盤作りから、次のフェーズへ

インスタライブもポップアップも、NoTeの提案に対してダイレクトに反応が返ってくる場だ。インスタライブは、配信中にも様々なコメントが寄せられる。「基本的には自分たちが作りたいものを作っているのですが、最近はインスタグラムのコメントやポップアップで直接いただいた要望を検討し、アイデアを出し合って商品化することが多いですね。ジップフーディーもそうだし、ソックスやネックレスも。インスタライブも1時間のうち半分は兄弟で無駄話をしているんですけどね。『そろそろ商品を見せて』なんてコメントが入ったり」と知也さん。その気軽な感じがコメントの入れやすさにつながっているのかもしれない。フォロワーもじわじわと増えているという。

ネックレスなどアクセサリーも顧客の要望でアイテムが増えつつある
顧客からの要望でラインナップに加えたソックス
ロゴのネームを施したビーニー
「NoTe」ロゴを刺繍したマフラー

ブランドを立ち上げて以降、卓也さんのファンを中心に販売し、顧客ベースはできてきた。50代アッパーの女性客が中心で、フーディーやロゴ物などはあまり着ないという人も多かったが、この1年余りで「自分たちの生活にはなかった服にトライし、楽しむようになった」と卓也さん。当初はタレントグッズ的に認識していた顧客も、普段に着る服として購入するようになり、ブランドとしての認知が広がった。商品面では試験的にオリジナルのクッションカバーを発売したところ好評を得たことから、ライフスタイル雑貨の展開も視野に入れている。

ポップアップでのダイレクトなコミュニケーション

「次のフェーズに入ったとすごく感じています。卓也のファンはもとより、今後はより幅広い世代にブランドを伝えていきたい」と知也さん。これまではルックも卓也さんがモデルを務めてきたが、女性モデルを起用し、ブランドの方向性をビジュアルとして明確に発信していく考えだ。ブランドとしての新たなファンコミュニティーの醸成が期待される。

写真/遠藤純、NoTe提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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