「シンプル×快適×トレンド」のプロダクトをリーズナブルに提供

韓国のファッションブランドが続々と日本市場に進出する中、特に注目されているのが「マーティンキム」だ。その服の在り方は「トレンドを意識しながらも着心地の良さを追求し、日常のどんなシーンにも馴染むファッション文化を目指す」というブランドフィロソフィーに象徴される。コーディネートの汎用性が高い「シンプルさ」と、高品質な素材使いでリラックスして着こなせる「快適さ」を核に、マーケットの生の声から察知した最新の「トレンド」を溶け込ませることで、ストリート系とも一線を画す洗練された今のスタイルへと昇華させる。バッグや財布、シューズなどスタイリングを作るアイテムもトータルに展開し、マーティンキムの世界観を表現している。Tシャツが5000円台後半~1万円前半、ジャケットやジャンパーが約2万円台、バッグが1万円前半~2万円台前半など、2025年夏シーズンベースでは平均1万5000円台というリーズナブル性も魅力だ。服はユニセックスなアイテムが多いこともあり、20~30代の男女客を中心にその前後世代を含め、幅広い世代の支持を獲得するに至った。

「マーティンキム」2025年春夏コレクションのキービジュアル

日本市場については、「K-ファッションに対する注目が続いていると実感している」と、マーティンキムの日本国内での公式ディストリビューションパートナーを担う韓国最大級のンラインファッションプラットフォーム「MUSINSA(ムシンサ)」のキム・ユンジョン氏。「日本の消費者はオフラインで購入するケースが韓国よりも一般的。素材やディテールを直に確認したいという傾向が強く、ファッションマーケットが成熟しているため、ブランドや商品に対する期待度も高い。また、日本には『COMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)』や『UNDERCOVER(アンダーカバー)』などグローバルな成長を遂げたブランドがたくさんあり、ブランドの哲学や個性を持続、強化していく傾向が見られます。それに対して、韓国のファッションブランドはトレンドや変化をより早く受け入れ、ブランドのアイデンティティーと結合させる形で発展を図っています。この違いが、日本のお客様に韓国ブランドが愛されている理由のように感じます」と話す。
日本を含む海外進出を視野に21年からはオフラインにも販路を拡大し、韓国内の百貨店や商業施設に実店舗を展開。現在は韓国に15の単独店舗(ショップ・イン・ショップ含む)と同国の人気セレクトショップ「HOUSE BY(ハウスバイ)」や「HAGO:HAUS(ハゴハウス)」のインショップ11店舗がある。24年にはグローバル戦略をスタートさせ、台湾、香港、マカオにも出店した。当初から「ファッション文化」というキーワードをブランドフィロソフィーに掲げているように、実店舗には各都市に紐付くコンセプトに基づいたアート作品を制作・展示し、ブランドの世界観をより豊かに体験する空間作りを重視している。

「オン・オフライン共に熱い」日本市場で初の実店舗

日本市場への進出は、本国の実店舗を訪れる日本人客が増加し、現在唯一の公式販売チャネルであるムシンサでマーティンキムを検索する日本人が急増していることが理由。「ムシンサはグローバル展開を始める前からブランドの成長を共にしてきたパートナー。24年11月にムシンサを日本での独占販売権を持つパートナー社として提携し、日本進出のための協業を継続してきました」とキム氏は話す。
前述のように検索や購買が急増する中、25年初めには主要都市のファッションビルでポップアップストアを展開し、大きな反響を得た。1月の阪急うめだ本店のポップアップでは、1週間で実に約9000人が来店し、期間中のオン・オフラインを合わせた売上高は約6億ウォンに達した。「オン・オフライン共に熱い」日本のファンの反応を得て、4月24日に出店したのがマーティンキム渋谷店だ。

ミヤシタパーク

「渋谷カルチャーにおけるミヤシタパーク自体の象徴性は非常に大きい。ありきたりな表現かもしれませんが、『渋谷の心臓部に到着した』という感覚です。立地の良さや建築の魅力はもとより、ハイエンドからストリートまでネームバリューの高いブランドが幅広く揃い、藤原ヒロシ氏が手掛けたスターバックスコーヒーもあったりと、多様な要素が共存しています。TikTok撮影のスポットとして若い人たちが多く訪れる場所でもあり、幅広い世代を惹きつける面白さがあります。ショップは施設内ながら路面店のような要素も備えている。日本における初の実店舗として申し分の無い環境です」とキム氏。その環境下での日本初となる渋谷店では「本国のマーティンキムを訪れたかのような没入感を感じていただけるよう演出した」。

マーティンキム渋谷店の外観

店舗は「RAYARD MIYASHITA PARK(レイヤードミヤシタパーク)北棟の2階、「MAISON KITSUNÉ(メゾン キツネ)」と「SOPH.(ソフ)」の間の角地に立地し、トレードマークのプレートにロゴを刻んだサインが目を惹く。ウインドーには、テキスタイルが重なり合うアートピースがうごめくように宙に在る。韓国のテキスタイルデザインスタジオ「FIVECOMMA(ファイブコンマ)」による、森を表現したインスタレーション「WHITE GROVE(ホワイト グローブ)」だ。色を失った森には質感だけが残り、近づいて見ると様々な織物の質感が重なり合い、角度によって見え方が変わる。来店した人がそれぞれの視点で見つめ、自分だけの森を思い描いてほしいという想いが込められている。

「ファイブコンマ」によるインスタレーション

約120㎡の売り場は、モノトーンの落ち着いた配色に、磨き上げられたシルバーのプレートが什器や壁面の随所に配置され、ブランドのミニマルなイメージと呼応する。マーティンキムのミニマルでカラーバリエーション豊かなプロダクトが映える洗練された空間だ。店内の什器は全て韓国で調達し、マネキンのスタイリングや商品陳列などVMDに細やかな配慮を加えた。

Tシャツやバッグなどのバリエーションが豊富

勢い増す人気、5年間で15店舗の出店を目指す

渋谷店はマーティンキムの25年春夏コレクションを軸に、そのハイエンドライン「KIMMATIN(キムマーティン)」で構成。オープン以降、大盛況を続け、初日だけで約1000人が来店し、約8000万ウォンの売り上げを叩き出した。その後も勢いは止まず、2週間で来店客は約1万6000人、売り上げは約6億700万ウォン。日本のオンラインストア取引額は前月比で約200%と急伸した。来店客は20~60代と幅広く、女性客が6割程度。実際の購買は20~30代を中心に活発という。

マーティンキム渋谷店の店内

好調を牽引しているのは、バッグ、Tシャツ、帽子。一番人気はバッグのカテゴリーで、売上高の約30%を占める。特に支持が高いのは「HALF SHIRRING RIBBON ROUND BAG(ハーフシャーリングリボンラウンドバッグ)」のブラック。ラウンド型のコンパクトサイズのバッグで、本体の左右にシャーリングを施し、リボン結びがチャーミングだ。日本限定カラーのシルバーバージョンも好評。
Tシャツはマーティンキムの定番アイテムで、売上高の約26%を占める。「LOGO CROP TOP(ロゴクロップトップ)」は無地にロゴが入ったTシャツで、ショート丈が可愛く、シンプルなホワイトが一番人気となっている。白、黒、ピンクの定番カラーに加え、日本限定でグレーも揃えた。

  • 「ハーフシャーリングリボンラウンドバッグ」。人気のブラック
  • 「ハーフシャーリングリボンラウンドバッグ」。日本限定カラーのシルバー
  • 「ロゴクロップトップ」。グレーは日本限定カラー

帽子カテゴリーは売上高の約15%を占め、ロゴ入りのキャップが人気。7連にロゴを刺繍したビンテージ加工の「LETTERING WASHED BALL CAP(レタリングウォッシュドボールキャップ)」、ステッチでロゴを表現した「MATIN STITCH BALL CAP(マーティンステッチボールキャップ)」など品揃えが豊富で、店内でもキャップ専門店のように壁面の棚でバリエーションを見せる。ビーニーも人気だが、キャップの販売点数は2倍に上る。
渋谷店限定アイテムとしては、「MATIN POPPIN ECOBAG IN LIGHT PINK(マーティンポッピンエコバッグ イン ピンク)」を発売。ロゴとマーティンキムのファッションに対するメッセージをプリントしたエコバッグのピンクカラーは、オープンするや完売し、7月に再入荷を予定している。

  • 定番のキャップはデザイン・カラーも充実
  • 渋谷店限定の「マーティンポッピンエコバッグ イン ピンク」
  • エコバッグにはメッセージをプリント

この他、「マーティンキムといえば」の定番アイテム「ACCORDION WALLET(アコーディオンウォレット)」や、「MATIN CLASSIC DERBY SHOES(マーティンクラシックダービーシューズ)」などの靴もしっかり揃い、これからの季節はサンダルも楽しみだ。梅雨シーズンに向けては、オリジナルの晴雨兼用の折り畳み傘と長傘も入荷予定。どんなプロダクトが登場するのか、注目したい。

人気の「マーティンクラシックダービーシューズ」
マーティンキムファンのマストバイ「アコーディオンウォレット」
晴雨兼用の折り畳み傘
晴雨兼用の折り畳み傘
同じく長傘
同じく長傘

キムマーティンは24年にローンチしたマーティンキムの姉バージョン。「マーティンキムと同じアイデンティティーを共有しつつ、より深みのあるブランディングを展開している」とキム氏。上質な素材を使い、デザイン性を高めた大人のためのスタイリッシュなカジュアルを提案し、中心価格帯も2万円台とやや高めの設定。ウェアやバッグ、アクセサリー、シューズなど、マーティンキムと同様に幅広いカテゴリーのアイテムをラインナップしている。

「キムマーティン」はサンダルも展開
ハイエンドラインの「キムマーティン」

渋谷店ではシーズンコレクションや新作のリリースに合わせ、体験型のプロモーションも随時企画していく。「大きな話題を呼ぶことができた渋谷店のオープニングマーケティングのように、継続的に話題を創出できるよう様々な企画を準備する」という。
日本市場では今後、5年以内に路面店を含む15店舗の出店を計画している。

※本文中の価格は全て渋谷店での展開プライスです。

写真/野﨑慧司、ムシンサジャパン提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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