ブランドのカルチャー、ヒストリーを空間ごと体感

フレッドペリーショップ トーキョーは、グローバル展開するフレッドペリーの中で最大規模の店舗。約490㎡の総売り場面積を持ち、フレッドペリーのほぼ全てのコレクションをラインナップする。店舗は表参道から一歩入った路地にあり、レンガの外壁がひときわ目を引く贅沢な造り。「イギリス積み」という積法を採用し、実に約4万5000個のレンガが積み上げられている。
フロアは地下1階、1階、中2階、2階の4層から成る。高低差のある敷地を生かし、2カ所に来店客用の入り口を設けている。南側の正面エントランスはメインの売り場であるグランドフロア、表参道へとつながる東側は1階にアクセスする。店内は地階から天井まで吹き抜け、どこからでも各フロアを見通せる構造で、英国特有の北側に斜めに広がる天窓からは柔らかな光が注ぐ。空間がスケール感を持って開けていく感覚が心地良い。ジェネラルデザインの大堀伸氏が設計した建物と空間は、ショップでありながら「フレッドペリーの家」のような佇まいだ。

蔦がからまるレンガ積みの建物は英国様式を採用
2階から見た店内
正面エントランスに掲げられたローレルリースのサイン

今回のリニューアルでは、基礎的な構造は生かしつつ、フレッドペリーが展開するコレクションの幅広さや層の厚さ、その背景にあるヒストリーやカルチャーを体現する創意を随所に凝らした。ローレルリース(月桂樹の葉)のロゴマークのサインを掲げた正面エントランスから入って、グランドフロアでまず目に飛び込んでくるのは、1952年のブランド設立時から継続している「フレッドペリーシャツ」のコレクションだ。1シーズンで約50品番をリリースするアイコンのポロシャツで、襟と袖口の2本線「ティップライン」と左胸に刺繍されたローレルリースを特徴とする。
世界的にも人気が高いのは「M12」と「M3600」と呼ばれるモデル。M12は12番目にデザインされたフレッドペリーシャツで、やや短めの丈に細身のシャープなシルエットはコーディネートの汎用性も高い。誕生以来、メイド・イン・イングランドを貫き、60年代にはモッズたちに愛着され、その後も英国のロックやクラブカルチャーなどと結び付きながら、現在に至るまで不動の人気を誇っている。サブカルチャーとの親和性は、多様なスタイルに溶け込むベーシックなデザインもさることながら、創業者フレデリック・ジョン・ペリー氏の「優等生になりたいと思ったことはない。チャンピオンだけが、僕のなりたいものだったんだ」という挑戦心や反骨心への共鳴から生まれているのかもしれない。一方、M3600は、フレッドペリーのオリジナルテニスシャツをスリムにしたシルエット。ポロシャツの定番である鹿の子素材と、より伸縮性のある素材をミックスすることでフィット感を高めた。日本では数年前から展開し、その長袖モデル「M3636」と共に支持を広げている。
これらアイコンモデルのフレッドペリーシャツが、地階から1階の床に届くほどに屹立した木製什器の40もの枡目に整然とディスプレイされている。「枡目を横に見ていくと型の違い、縦で見ていくと色の違いが分かるように配置している」とは、フレッドペリーを運営するヒットユニオンでVMDを手掛ける寺本伸之介さん。インパクトのあるビジュアルと同時に、同じボディの色違いなど、来店客の気持ちに添って探しやすさを工夫した。

常時40品番のフレッドペリーシャツが並ぶ。品番を指定するとスタッフが取ってくれる
フレッドペリーシャツ「M3600」
フェレッドペリーシャツ「M12」

奥へ進むと、ローレルリースを彫り込んだ白い壁が立ち上がり、その背後、店奥の左右に広がる壁にはテニスプレーヤー時代のペリー氏やコラボレートしてきたアーティストなどの画像がコラージュされ、ブランドのヒストリーをビジュアルとして感じることができる。
圧巻なのは横4250×高さ1500mmの巨大なLEDビジョン。250mm角のLEDパネルを実に102枚使用し、迫力の映像を届ける。本国のデザイナーがシーズンやコラボのコレクションのイメージムービーをLEDビジョンのサイズ感に合わせて制作し、「年に2回ほどのペースで更新していく予定」という。フレッドペリーの「今」「これから」が躍動的に表現される場と言えるだろう。

店奥のローレルリースを彫った壁は、大阪店と東京店のみにある
コレクションなどのイメージムービーを流すLEDビジョン
フレッドペリーのヒストリーを視覚で感じるビジュアルウォール

グランドフロアでもう一つ、これまでと大きく変えたのは売り場中央のMD展開とその表現だ。「ウェアだけではなく、バッグやシューズなどフレッドペリーの多様性をフレキシブルに発信する場作りが今回のリニューアルの大きな目的の一つ。その表現として『和』の要素を取り入れ、自然素材で作ったキューブ型の什器を設けました」。キューブには古民家の土間をイメージした大谷石や天然木が使われ、木の什器の角部分には秋田の伝統工芸「曲げわっぱ」の技術を施すなど細部にもこだわった。また、いくつかの木の什器には厚みのあるアクリル製のディスプレイ台を設置した。一見、透明だが、角度を変えると様々な色が見えてくる。アクリル作家の俵藤ひでと氏(ひょうどう工芸)と制作したもので、3層からなるアクリル板の各層の厚みをフレッドペリーシャツのティップラインの幅と同じ5:5:4の比率にすることで、「混ざり合い、あいまいに変わっていく日本の色」を表現した。

グランドフロアの中央、キューブによるビジュアルプレゼンテーション
見る角度によって色が変わるアクリル製ディスプレイ台 

ブランドの可能性を拓くコラボやアーカイブも注目

吹き抜けを囲むように伸びる階段を上った1階では、巨大な木製のローレルリース型レセプションテーブルが存在感を発揮し、博物館のよう。その手前、売り場中央では大谷石に銅板を打ち付けたキューブ型什器が並び、オープニングでは英国製のフレッドペリーシャツからピックアップしたモデルを象徴的に展示した。
その周りには、フレッドペリーが15年間にわたりコラボを続けてきたRaf Simons(ラフ・シモンズ)とのコラボアイテムと、病気や薬物依存で苦しむ若者を支援する非営利組織Amy Winehouse Foundation(エイミー・ワインハウス・ファンデーション)とのコラボアイテムを配した。プラダのデザインに専念することを発表したラフ・シモンズとは23年秋冬シーズンで最後のコラボとなる。これまでも人気だったモッズコート「フィッシュテールパーカ」の新作が、今季も好評だ。エイミー・ワインハウス・ファンデーションとのコラボでは、10年に生前のエイミーと協業したモデルをベースに商品を開発し、収益の一部を財団に寄付する活動を続けている。
「フレッドペリーの商品カテゴリーは、ブランドのルーツであるスポーツをベースにした『SPORT』と、サブカルチャーや世界のユースたちのスタイリングからのインスピレーションを取り入れた『SHARP』に大別され、それぞれの中に細分化されたコレクションがあります。グランドフロアでは、各コレクションの背景にあるストーリーごとにラックを構成し、見せているんですね。1階では今後、コラボアイテムだけでなく、特にストーリー性の強いコレクションからピックアップしたアイテムも編集していく」と寺本さん。日本のみで展開するアイテムも含め、旗艦店ならではの商品構成が注目される。

ローレルリースをかたどったレセプションテーブルは圧巻
東側の入り口を備えた1階売り場
ラフ・シモンズとのコラボによるフィッシュテールパーカ
エイミー・ワインハウス・ファンデーションとのコラボアイテム

1階からは2方向に短い階段があり、中2階へと続く。中2階はギャラリーで、オープニングではフレッドペリーシャツをキャンバスに見立て、デザイナーやミュージシャン、アーティストらとのコラボによりブランドの世界観と新たな可能性を表現するプロジェクト「ブランク・キャンバス」のアーカイブをキュレートした。L.A.ハードコアシーンと親和性の高いライフスタイルブランド「PLEASURES(プレジャーズ)」、カリフォルニア発のストリートブランド「NOONGOONS(ヌーングーンズ)」、英国のクリエイターユニット「ART COMES FIRST(アートカムズファースト)」、英国のスカバンド「THE SPECIALS(ザ・スペシャルズ)」など、興味深いコラボアーカイブが多数。「COMME des GARÇONS(コムデギャルソン)」や「JUNYA WATANABE(ジュンヤワタナベ)」といった日本ブランドとのコラボもある。

中2階で展開されるギャラリー
ピーター・イェンセンとのコラボはポロシャツのネクタイスタイル
ザ・スペシャルズらしいツートーンのフレッドペリーシャツが新鮮
コムデギャルソンとのコラボ
ブリットポップの雄、ポール・ウェラー、ゴリラズとのコラボ

このスペースには英国の老舗オーディオブランド「TANNOY(タンノイ)」のスピーカーや英国王室御用達のスコットランドのオーディオメーカー「LINN(リン)」のターンテーブルなどのシステムを備えたDJブースもあり、ライブなどのイベントも開ける。DJブースから1階への階段の壁面に70年代のフレッドペリーシャツのアーカイブを展示し、取材時は白を基調にした当時のテニスウェアが特集されていた。「創業者が最初に作ったのがテニスで使う白のリストバンド。ブランドのルーツになった色ということで、白のアーカイブを揃えました。アイテムは本国のストックから選んできたもの。今後も企画展のような形で内容を変えて展示していく考え」という。
普段は公開されていないが、中2階の上にはアティックと呼ばれる小さな空間がある。フレデリック・ジョン・ペリーやフレッドペリー、英国のサブカルチャーなどブランドに紐づく書籍や写真集などの資料を集積し、打ち合わせスペースとして活用していく。

壁面ではフレッドペリーシャツの70年代のアーカイブを展示
本格的なオーディオシステムを整備したDJブース

新たな客層へ、ブランドとの出会いの場を

フレッドペリーは70年代に日本に進出し、80年代、90年代にブームが起こった。それだけに客層は30代中盤以上が多かったが、この数年で20代にも広がっている。「スポーツブランドのブームやワンポイントの流行、音楽やファッションなど90年代カルチャーのトレンドが影響し、若いお客様が増えているのだと思います。中にはKポップのアーティストが着ていたポロシャツを検索し、フレッドペリーにたどり着いたという人もいます」とプレスの表谷有子さん。コロナ禍が明け、訪日外国人客も増えている。
来店客層がさらに多様化する中で、豊富なコレクションの品揃えは東京店の強みと言える。23-24秋冬シーズンは、アウターではフィッシュテールパーカの新作がおすすめ。冬の定番モッズコートで、毎年、色や仕様を変えるなど進化させている。今季バージョンは、高密度コットンナイロンのライナー付き。ダウンに匹敵する暖かさのプリマロフト中綿を使ったライナーは取り外しができ、単体でジャケットとして着ることもできる。フード口のファーも取り外せる。オリジンのフレッドペリーシャツを再解釈し、ロングスリーブに仕上げたM3636は、単体でもインナーとしてもコーディネートを引き立てる。環境に配慮したベターコットンを使い、ティッピングはリサイクル、縫製もリサイクルポリエステル糸による。サステイナビリティーの観点からも注目のアイテムだ。スポーツウェアのアイコン「トラックジャケット」も、最新版が好調に推移。光沢のあるトリコット素材によるシンプルなジャケットで、エナメルコーティングされたジップや両袖に配したローレルリースのトラックテープがポイントだ。

              
フィッシュテールパーカ。ライナーを取り外して単体でも着用できる
スポーツカテゴリーで人気を継続するトラックジャケット
サステイナブルな物作りも注目のM3636

フレッドペリーの70余年に及ぶヒストリーと現在進行形のプロダクトを世界で最も広く深く体感できるのが東京店の魅力。年に4回発表されるコレクションに合わせて、売り場のMDは変わるというから、進化する定番を季節ごとにチェックするのもいいだろう。

写真/田村尚行、ヒットユニオン提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディターウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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