シンプルを追求し、「100」ではなく「110」を目指す

イレブンティはオーナー兼デザイナーのマルコ・バルダッサーリとパオロ・ズンティーニ、アンドレア・スクーデリが、自分たちが着たいと思える服を提供していこうと2006年にミラノで立ち上げた。仕事を通じて実感していたイタリアの職人たちの卓越した技術を保護・継承していくことをポリシーとして服作りを始め、07年にメンズのファーストコレクションを発表。初期に作ったバタフライモチーフのシンプルなポロシャツがヒットし、人気は拡散して、バラフライはブランドのアイコンとなった。シンプルを基本に「着たい服」を追求する姿勢は、ブランド名そのもの。「eleventy」とは「110」を表し、100%を超えたクオリティー、顧客の満足を目指すことの表明でもある。

その後も、余分なディテールを削ぎ落としたデザインパターン、ネイビーやライトグレー、ベージュなどのニュートラルカラーにスモークをかけた「スモーキーカラー」を基本色としてシーズンごとにエッセンスカラーを差し込むカラー展開など、洗練されていながらコンフォート、上質で清潔感のある装いは「クワイエットラグジュアリー」のトレンド以前から世界的に高い評価を獲得。裁ち切りの生地で縫製し、裏地は袖裏のみのコットンピケのジャケットなど象徴的なプロダクトを生んだ。日本ではこのカットオフジャケットが先行してセレクトショップを中心に紹介され、ファンをつかんだ。
日本への進出を本格化したのはウィメンズを立ち上げた16年のこと。三喜商事が輸入代理店となり、ウィメンズの販売からスタートした。「小物や雑貨も合わせて紹介すると、日本ではジャケットの印象が強かっただけに、『こんなに作っていたのか』と驚かれた」と三喜商事ファッションビジネス部の藤井雅貴サブマネージャー。20年にはメンズも加え、フルラインナップ展開となった。ところが、コロナ禍に突入してしまう。この間に空き店舗が出たスペースなどにポップアップストアを積極出店し、「大成功も大失敗もあったが、日本での常設店舗の出店に向けてデータを積み重ねた」。22年に大丸心斎橋店に出店し、ここでイレブンティの接客・販売をトレーニングしたスタッフと共に、東京への出店に備えた。

「イレブンティ銀座店」

24年には銀座三越と日本橋三越本店に出店。日本での取り扱いから10年目にようやく叶ったのが、日本初の路面店であり旗艦店のイレブンティ銀座店だ。「路面店の候補はいくつかあったが、最終的にイタリア・イレブンティ社も望んでいて、世界的に知られ、伝えたいブランドイメージとも合う銀座に決めた」と藤井さん。これまでの服作りにより素材やカラー、デザインを追求することで強まったこだわりから、イレブンティの進むべき方向として「スマートラグジュアリー」を掲げ、商品と空間を通じて体現していく。

シーズンのフルラインナップに加え、銀座店限定品も展開

銀座店は2層構造で、総売り場面積は約180㎡。1階はウィメンズを軸にメンズと合わせて構成し、2階はメンズに特化したMDを組む。「銀座店は『プラチナライン』と呼んでいる高品質・高単価なアイテムをメインに構成し、サロンのように寛いでいただけることを意識して、空間を設えています。平日は女性のお客様の通行が多い界隈なので、抵抗感なく入店できるよう1階はウィメンズが目に入りやすいよう構成しました」とファッションビジネス部の飛川高志部長は話す。

  • ウィメンズを軸とした1階フロア
  • 白い壁にフローリングの床、ゴールドのハンガーラックで高級感のある心地良い空間を演出(1階)
  • ウィメンズのスタイリング提案
  • プリント物はイレブンティでは新鮮
  • 2階のメンズフロア
  • メンズのスタイリング提案

オープン以降は50代を中心に70代までの来店が多く、男女とも経営者や医師など可処分所得の多い客層が占めるが、徐々に40代も増えてきている。「既存の顧客はもちろん、今後も10年、20年とブランドを愛してくださり、ベースとなっていく世代にもフォーカスしていきたい」と藤井さん夫婦・カップルでの来店が多いのも特徴で、そのほとんどが「男性が普段はあまり着ないようなカラーの服も、女性がイレブンティの柔らかなカラーやデザインが気に入って推してくださる」ことで購入に至っている。

メンズも独特のカラー展開が印象的
ヒマラヤンソルトピンクなどのエッセンスカラーを取り入れた26年春夏コレクション

銀座店のオープニングを飾った26年春夏コレクションは、前述の基本カラーに加え、エッセンスカラーとしてヒマラヤの岩塩をイメージした「ヒマラヤンソルトピンク」、香辛料の「コリアンダーイエロー」、ミリタリーグリーンを独自に表現した「ソフトカーキ」を差した。定番のコットンピケのビブ付きフーディージャケットは、銀座店でも人気のアイテム。イレブンティが日本に本格上陸する以前にセレクトショップで話題を呼んだジャケットとフーディーを一体化したレイヤードスタイルが大きな特徴だ。フードパーツであるビブはジャケットのラぺル裏に配置したジップで着け外しが可能。ビブのジップにはメンズはシルバー、ウィメンズはゴールドを採用し、メンズではジャケットの袖口や襟の裏に人工皮革のエクセーヌを配してアクセントを効かせている。ジャケットもビブも鹿の子に近い伸縮性のあるニットを使い、軽く、様々なシーンでカジュアルだが品のある着こなしを楽しめる。
「ゴルフの名門倶楽部でもビブを外してジャケットスタイルにすればドレスコードにかからない。ゴルフを愛好する方々にも人気のアイテム」と藤井さん。ジャケットもビブ付きジャケットも同素材のパンツとのセットアップ購入が多く、「今春はエッセンスカラーのソフトカーキが各店頭で人気」。

「イレブンティが日本で知られるきっかけとなったジャケット」と藤井さん
ンピケ ビブ付きフーディージャケット(ソフトカーキ)

銀座店限定のカプセルコレクションも注目だ。これまでもイレブンティではシーズンごとにカプセルコレクションをリリースし、ブランドとしての新たな表現に挑戦してきた。25年春夏にはブランド初の「ゴルフコレクション」を発表。タウンユースも可能なスポーティー&エレガントスタイルを提案した。25年秋冬には「黒」をテーマとする「ブラックコレクション」をローンチ。イレブンティが黒に取り組んだのは実はこれが初めて。スタイルを作る要素として黒を捉え、単なるモノトーンのコーディネイトではなく、ブラックとブランドの基本カラーであるベージュやオフホワイト、グレーを重ねることで完成するニューベーシックを提案した。
26年春夏のテーマとしたのは「ワークウェア」。培ってきたブランドイメージとは対極にあるカテゴリーを再解釈し、コットンを使ったジャケット、ジレ、パンツ、ショーツの4型を製作。タイトなシルエットを軸とするイレブンティにはめずらしくオーバーシルエットを取り入れながらも、ワークウェアに特徴的な無骨さを抑え、上品かつスタイリッシュなテイストでブランドのアイデンティティーを体現した。シーズンコレクションとの親和性も高いアイテムとなっている。イレブンティはニューヨークのマジソンアベニューにアメリカの旗艦店があり、近年はアメリカでの人気・業績を高めている。デニムがアメリカで作業着として始まったことから、アメリカの顧客の声も取り入れながら商品開発を行った。

26年春夏カプセルコレクション「ワークウェア」のルック

オーダー対応も予定、銀座店ならではのコト提案を追求

イレブンティは現在、日本では4店舗を展開しているが、ファッション小物・雑貨を展開しているのは銀座店のみとなっている。バッグやシューズ、キャップなど、イレブンティの服とのスタイリングを作るアイテムとして提案され、それぞれが上品な佇まいだ。そうした銀座店ならでは品揃えに加え、今後は独自のサービスの提供も予定している。

小物・雑貨を随所に配置し、スタイリングを連想させる

「現在もサロンにいるようにゆったりとお買い物を楽しんでいただけるよう、ドリンクを出しして寛いでいただいたり、お買い上げのお客様にはノベルティーを進呈するといったことは常時行っています。加えて今後は、本国でも行っているニットとジャケットとスーツのメイド・トゥ・メジャーに取り組む計画です」と飛川さん。「他の直営店も同様ですが、特に旗艦店である銀座店だからこその提案で店のファンを増やしていくことに力を入れたい。2階スペースを活用した音楽イベントや絵画展、ワインの試飲会など人が集い楽しめる場作りを考えていく」。路面店だからこそできる取り組みを通じて、「コレクション=モノを使う動機・目的となるコトを増やす。それによって、イレブンティという存在を銀座にしっかりと根付かせていく」(藤井さん)としている。


写真/遠藤純、三喜商事提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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