ハイグレードを求める声、働く女性の増加から生まれた「ザ クラス」
今でこそミドルエイジの女性を対象としたアパレルブランドは増えているが、ドゥクラッセが創業した2007年当時はあまり無かった。しかし「若い頃に着ていた服がしっくりこなくなった」「今の自分に似合う服が分からない」などの悩みを抱える40代・50代の女性は多く存在していた。この潜在ニーズはあったがほぼ手つかずの市場に着目し、ドゥクラッセが追求したのは「実年齢で輝く」ことを体現した服。シンプルでトレンドを程よく取り入れた上品なデザイン、上質な素材、カラーやサイズの豊富なバリエーション、体型をカバーする設計など作り込んだ服は、生産はもとより物流に至るまで各工程を見直し、コストダウンによって実現したリーズナブルな価格も大きな魅力となり、たちまち40代・50代を中心とする女性たちの共感を集めた。カタログ通販で認知を広げ、その後はオンラインストアも展開。11年以降は直営店も積極出店し、現在は全国に約60店舗を展開している。
ミドルエイジ層に特化したSPAブランドとして成長を遂げる過程で、よりクオリティーの高い商品を求める声が高まる一方、働く女性の増加によりオフィスニーズも増えたことから、2020年に立ち上げたのがハイグレードライン「ザ クラス」だ。ドゥクラッセが培ってきた生産背景やノウハウを生かし、世界中から厳選した最高級の生地を使い、サンプル修正を重ねて体型をきれいに見せるシルエットを生み、ベーシックなデザインにディテールでさりげなくトレンドや華やかさを取り入れるなど創意を凝縮。女性が年齢を重ねるごとに迎えるライフステージやキャリアの変化、それに伴う気持ちや体型の変化に寄り添い、価格も同クラスの商品なら百貨店の半額程度に抑えた「手の届く最高品質」を実現した。ワーキングスタイルを軸にクラスアップした服は、管理職をはじめとするキャリア層の支持を得た。
さらなる進化へ動き始めたのは24-25年秋冬シーズンのこと。母体のドゥクラッセが顧客と共にブランドとして歳月を重ね、原点である40代・50代への提案を改めて強化するに当たって、ザ クラスもまたターゲット層のライフスタイルをより一層フォローアップする服作りへ向けて新たなMDチームを組織した。国内外の大手アパレルメーカー、ブランド、複数社で経験を積み、ブランディングにも携わってきた原田園子さんをMDに起用し、リニューアルを進めた。
「ザ クラス」25-26年秋冬コレクション
「ザ クラス」25-26年秋冬コレクション
「ザ クラス」25-26年秋冬コレクション
「毎日を特別な瞬間にしてくれるリアルクローズ」
「今の40代・50代はデザイナーズブランドやラグジュアリーブランド、ファストファッションやセレクトショップなど、ファッションの変遷を経験してきました。私もそうですが、ファッション経験や年齢を重ねた今の自分に似合う服が着たいと思っても、そういう商品や買う場が少ないんですね。ハイブランドにはあっても、価格の桁が違っていてそうそうは買えなかったりします。だからこそ、今の空気感ときちんと感が備わっていて、ビジネスやオケージョン、お出掛けなど様々なシーンに着回せるクオリティーの高い服を、買いやすい価格で提案していくことが大事だと思いました」と原田さんは話す。24-25年秋冬コレクションはあえて品番数を絞り込んで展開し、通販や実店舗での反応を分析した上で、25年春夏シーズンでMDを本格的に組み直し、現在は25-26年秋冬コレクションを展開中だ。
今季のコンセプトは「City of Moment~1枚の服で、毎日を特別な瞬間に」。ドゥクラッセが得意とする上質な素材の選定や開発、ボディラインを美しく見せる立体的なシルエットはもとより、特にコロナ禍後はカジュアル化が進んだ中でオン・オフを超えて着用できるモダンなスタイルや、シーンに応じてスタイリングの変化を楽しめる仕様など、オーセンティックでありながら「今」の気分で着こなせるエッセンスを融合した「毎日を特別な瞬間にしてくれるリアルクローズ」を提案している。
オーバーサイズの2WAYジャケット「ウール混サキソニー・スリット袖ジャケット」(3万690円)は新生ザ クラスの象徴的なアイテム。ベーシックなノーカラージャケットだが、同素材のパンツとのセットアップで着用すれば上品でモダンなスタイルを楽しめ、袖口のジップを開くとケープ風の着こなしに早変わりする。さりげなくフェミニンなムードを漂わせる「品格とモードを一瞬でスイッチングできるアイテム」だ。
「レオパードジャカード・2WAYペプラムスカート」(3万2890円)も、着用する女性の気持ちに寄り添った工夫が光る。膝下丈で、ボディラインを拾わないストレートシルエットのスカートは、ウェスト部に着脱可能なペプラムフリルが付属。取り付けた状態ではベーシックなセーターを合わせても華やかなスタイルに、取り外せばタイトスカートとしておしゃれに着こなせる。同素材のジャケットとのセットアップも、ペプラムを付ければパーティーにも着て行けるドレッシーなスタイルに、外せばビジネススーツとしても活躍する。「オフィスからカジュアル、華やかな席までいける。コーディネート次第で様々なシーンや用途に着られることは常に念頭に置いて服作りをしている」と原田さんは話す。
「ウール混サキソニー・スリット袖ジャケット」
セットアップでも素敵
「レオパードジャカード・2WAYペプラムスカート」
「二重織ストレッチ・コクーンワンピース」(2万6290円)はギャザーをたっぷり寄せた裾のフォルムが愛らしく、大きく切れ込みの入ったネックとフレンチスリーブが特徴的。暑い時期は羽織るだけで決まり、秋はカットソー、冬はタートルなどレイヤードも自在で、ロングシーズンの着用を楽しめる。その形状から原田さんが「クリオネ」の愛称で呼び、スタッフ人気も高いアイテムだ。「働く女性が増えた中で、朝に迷わずサッと着られて、一発で決まることはコレクション全体で重視していることの一つ」という。
着るだけでおしゃれ度が上がると人気なのが「エコミンク・異素材ジレ」(3万2890円)。前身頃に最高級毛皮の代名詞とされるミンクファーを完全再現した「エコミンク」を使い、贅沢なジレに仕上げた。後身頃はジャージーに切り替えることで、着姿がボリューミーになり過ぎず、バックもすっきりとして軽い着心地を生む。
「二重織ストレッチ・コクーンワンピース」
1枚で羽織るだけで決まる
「エコミンク・異素材ジレ」
トップスは定番化していきそうなオーセンティックでコーディネートの汎用性のあるアイテムが多い。「ストレッチサテン・ドレープネックブラウス」(1万989円)は2シーズン目。サテンの艶と襟元をたわませたデザイン、優しく広がるドレープが高級感を醸し出す。「Tシャツのように着られるブラウスを意識」して作られたというブラウスは、もちろん1枚で十分に決まり、セットアップと合わせればドレッシーな装いに。素材のストレッチサテンは程よく肉厚でハリがあり、ボディラインを拾わないのも魅力だ。「ストレッチニット・ボウタイハイネック」(8780円)も注目。総針編みによる程よい肉厚感とハリの美しさを備えたノースリーブのニットは、ハイネックに長めのボウタイを組み合わせ、結べば華やかに、ストールのように垂らせば知的に着こなせる。「高密度フラノ・スキッパーブラウス」(1万9690円)は、深いVネックと襟を抜いたデザインをオーバーサイズで品良く表現し、あえてラフに着ることで大人の女性にこそ似合うリラックス感溢れる1着に仕上げた。同素材の「高密度フラノ・ドロストワイドパンツ」(1万9690円)は総ゴム仕立てで快適に穿け、ドロストで自分好みのサイジングも楽しめる。
アウターを中心に生地開発も。着用して実感する価値を伝える
素材から独自に開発したアイテムも多い。
ウールリバーのコートは毎シーズン、大人の女性の冬の王道スタイルとして提案している。著名メゾンのウールリバーを手掛ける工場と直接やりとりし、今季はカシミヤ混ウールとピュアウールの2タイプのダブルフェイス生地を生産。職人のハンドワークで一点一点、根気強く丁寧に縫製した。工場の閑散期に発注することでコストを下げ、ロングコートでも4万円台前半(税込)という驚きの価格を実現している。「リバー仕立ての生地は重くなりがちなのですが、身体の線を拾わない程度の肉厚感があって軽いということに焦点を当てて開発した」と原田さん。メンズライクに仕立てたダブルブレストのロングコート(4万3890円)はジャストショルダーにやや細身のシルエットで、今季から取り入れた金ボタンが華やかさを添える。
「ライトピュアウール・Pコート」(3万2890円)は、ピュアウールを空気を含ませながら織り上げたプレミアムなフリース生地を使用。ショールカラーのオーセンティックなデザインと両面起毛によるふっくらとした質感を備え、カジュアルにもビジネスにも活躍する大人のためのフリースアイテムに仕上げた。セットアップできる同素材のタイトスカートと、ロングコートも展開する。
「ピュアウールリバー・ダブルブレストロングコート」(ベージュ)
「ピュアウールリバー・ダブルブレストロングコート」(ミッドナイトパターン)
「ライトピュアウール・Pコート」
クラシカルモダンのトレンドが継続する中で、ツイードにも工夫を凝らし差別化を図った。「ミックスツイード・ジャケットブルゾン」(4万3800円)は、ノット糸によるオリジナルのファンシーツイードを使用。ドロップショルダーを採用し、ツイードジャケット特有の硬さを和らげた。生地目からチラチラッと輝きがのぞく黒と白のシックなモノトーンのツイードは、コーディネートするボトムによってマニッシュにもフェミニンにも着こなせる。
ジャケットでは、ハリ、艶、伸縮性を兼ね備えたダブルクロスを襟付きのボクシースタイルに仕上げた「二重織ストレッチ・コンパクトジャケット」(3万690円)が推し。生地の程よい厚みとすっきりとした丈感、前後の切り替えにより体型をカバーし、シンプルかつコンパクトなシルエットはテーラードやノーカラーとも異なる大人のエレガンスを醸し出す。普段のお出掛けに羽織ってもよし、前出のペプラムスカートと合わせればオケージョンにも着こなせる。
ニットの着心地とファーの贅沢感を両立させたのは「ミンクタッチカシミヤ」シリーズ。原田さんが昨年、アメリカ出張の折りに購入したカシミヤのセーターに着想を得たもので、「1枚で何通りにも着られるカシミヤのアイテムを作ろう」と創意を凝らした。極細のカシミヤ糸(14~18.5μ)を編み上げたニット地に起毛加工を施した、エアリーなテクスチャーが好評だ。クルーネックセーター(3万2890円)とカーディガン(3万8390円)があり、カラー展開も豊富。
ザ クラスのコレクションはドゥクラッセのカタログのみで展開するアイテムを含め、25-26年秋冬シーズンは約100型を展開。通期では約200型ペースで発表していく。直営店では現在、旗艦店である1号店の日比谷シャンテ店と路面店の自由が丘店がフルラインナップで揃え、他9店舗でスモールコレクションとしてコーナー展開している。
3シーズン目に入って、「目に見えてお客様が増え、伸び率の高いアイテムが増えた」と同社。直営店ではドゥクラッセの商品を見に来た40代・50代の女性客が店内を回遊してザ・クラスの商品と出会い買い求めたり、ドゥクラッセを知らなかった若年層も店頭の商品を見て入店するようになったという。「基本的にドゥクラッセから派生したラインであり、ドゥクラッセのカタログや店舗で展開するので、テイストを全く変えるということはしていません。お客様が気になっているところをデザインでカバーしたり、ドゥクラッセで使っている素材をアップグレードして差別化したりしながら、今の空気感が感じられ、オン・オフとも様々なシーンに向けて悩まずにコーディネートできることを意識して服作りをしています。結果的にクオリティーが上がり、コレクションの内容が変わった」と原田さん。「ぜひ多くの方々にザ クラスを知っていただき、袖を通して価値を実感していただきたい」とメッセージをくれた。
写真/遠藤純、ドゥクラッセ提供
取材・文/久保雅裕

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。