Barbour(バブアー)

英国北東部のサウスシールズで1894年に創業。初代ジョン・バブアーは地元の港湾労働者が悪天候下でも働けるよう、高密度なコットンにワックスを塗り入れたワックスコットンによる外套(がいとう)を開発。頑丈で防寒性、防風性、撥水性に優れたワックスジャケットは瞬く間に英国に広まり、バブアーの名声を高めた。ロイヤルワラント(英国王室御用達)ブランドとして知られる。現在はメンズ、ウィメンズ、キッズ、ドッグ用のコレクションも展開し、アウターをはじめ、シャツやドレス、ニット、シューズなどライフスタイルを彩るアイテムを幅広く提案している。直営店は世界55カ国にある。

ワックスジャケットの銘品、限定モデルを体感

バブアーは現在、北海道、東京、京都、大阪に7店舗を展開している。2022年2月から3月にかけて直営店をクローズし、4月にマッシュホールディングスが100%出資するバブアー パートナーズ ジャパン(BPJ)がブランドの運営に携わって以降、都市部への出店を新たにスタートさせた。その旗艦店となるのが代官山店で、新体制での路面店出店は初となる。バブアーの世界観を体現するとともに、日本だからこそのブランド体験を提供する空間に仕上げた。
店舗外装にはブランドカラーのグリーンを採用し、トラッドで自然な趣を感じさせる。エントランスではバブアーのアーカイブイメージが壁面に展開され、歴史を感じながら3段の階段を上ると、英国のカントリーをイメージしたウッドテイストの売り場が開けてくる。「これまでバブアーの店舗は百貨店のメンズフロアが多かったので、代官山店では路面の立地を生かし、女性のお客様やカップルで来店したお客様がゆっくりと、落ち着いて買い物を楽しめる空間作りを重視しました」とBPJのプレス、岡林英枝さんは話す。

エントランスのアーカイブビジュアル
英国カントリー調のウッドテイストの売り場

売り場は1フロア・168㎡。手前半分の左右壁面にはメンズとユニセックスのアウター類、センターにはコラボレーションアイテムなど旬のコレクションを提案するステージ、奥にはウィメンズを中心にアクセサリーやドッグアイテムをゾーニングした。ワックスジャケットのアイコンモデルをはじめ、キルトコレクションや日本限定のウールアウターなど注目の2023-24年秋冬コレクションがずらりと並ぶ。
オープニングで軸としたのは、今年でデビュー40周年を迎えた「BEAUFORT(ビューフォート)」の限定モデル。ビューフォートは英国バブアーの現会長、マーガレット・バブアーが1983年にデザインしたもので、背面には両サイドからアクセスできるジップ式のゲームポケットがあり、スーツのジャケットが隠れる着丈が特徴。「40」の数字を刻印したスタッズボタンをはじめ、創業の地である英国北東部サウスシールズのシンボル「Beacon(灯台)」が描かれたインナーパッチや「Beaufort」ロゴのピンバッジ、バブアー家のハウスタータンを使ったライニングなど、随所に特別仕様を施した。代官山店限定で発売したところ「1週間でほぼ完売」の人気となった。

「BEAUFORT(ビューフォート)」の40周年記念モデル

また、バブアーではワックスジャケットを通じてサステイナビリティーの実現を目指す「WAX FOR LIFE」の考え方に基づき、長らく愛用して着られなくなったワックスジャケットを回収し、使える部分を生かして新たな1着を作る「Re-loved(リ・ラブド)」に取り組んでいる。今回はビューフォートの40周年に際し、本国の店舗で回収したワックスジャケットから40着のビューフォートを製作。このうちの5着を代官山店で展示した。1着1着にビューフォートの生みの親であるマーガレット・バブアーのサインや、リプロダクトした職人名、シリアルナンバーを記したタグが付されている。オンライン抽選で1着が1名にプレゼントされるというファン垂涎の企画で盛り上げた(現在抽選は終了)。リ・ラブドは日本ではまだスタートしていないが、実店舗も生かして推奨し、将来的には日本国内でバブアー製品を循環させる仕組みを作っていく考えだ。

リ・ラブドのビューフォート

ビューフォートと並んでバブアーが「エバーグリーンアイコン」と位置づけ、世界的にも浸透しているのが「BEDALE(ビデイル)」と「BORDER(ボーダー)」だ。ビデイルは80年に乗馬用ジャケットとしてリリースされた。ワックスクロス(高密度コットンにワックスを染み込ませ、撥水性や防風性、耐久性を高めた生地)はもとより、肩や腕の可動域を広げるラグランスリーブ、乗馬時の裾さばきに配慮したサイドベンツ、手を温めやすいハンドウォーマーポケットなど各ディテールが機能を持ち、ベーシックなデザインに収斂(しゅうれん)されている。ボーダーは膝上の長丈タイプで、袖はセットインスリーブによってドレッシーに仕上げた。フィールドコートとして幅広いアウトドアシーンに対応し、スーツとの相性も良いためビジネスシーンでも活躍する万能なスペックが、82年の発売以来、人気を続けている。

「BEDALE(ビデイル)」
「BORDER(ボーダー)」

英国で定番のキルト、日本企画のウールがラインナップ

キルトコレクションは、ワックスジャケットに通うバブアーのDNAをよりライトに感じられる。コーデュロイの襟に左右のパッチポケットなどのディテールはワックスジャケットから引き継ぎ、本体素材を菱形のダイヤモンドキルティングに替えた前ボタン式のジャケットだ。軽い着心地ながら保温性に優れ、着回しの利くベーシックなデザインが評価され、79年のファーストコレクション以来、英国ではワックスジャケットと人気を二分し、バリエーションを増やしてきた。ベストセラーとなっているのが「LIDDESDALE(リデスデイル)」。コーデュロイを襟のほかポケット口と袖口に施し、アクセントを利かせたモデルで、裏はナイロン加工によりスーツやセーターの上からも羽織りやすく、サイドベンツは用途に応じてスナップボタンで幅を調整できる。長丈のロングキルトもある。いずれもユニセックスで、「メンズとシェアして着回せるアイテム」であることも魅力だ。

「LIDDESDALE(リデスデイル)」

日本限定のウールアウターコレクションは、今季初の取り組み。ロングコートの定番「BURGHLEY(バーレー)」をベースとした「SNOWDON(スノードン)」と、バブアーで一番人気の短丈ブルゾン「TRANSPORT(トランスポート)」をベースにした「BORROWDALE(ボロウデイル)」の2タイプがあり、今年オープンしたルミネ新宿店、京都の藤井大丸店、そして代官山店、公式オンラインストアでそれぞれの限定モデルを展開した。代官山店が提案したのは、グレンチェックのスノードン。グレーがかったブラウンにブルーのオーバーペーンが入ったモダンな配色で、「ワックスジャケット未体験の女性もコーディネートしやすく、冬のアウターとして活躍するアイテム」だ。

「SNOWDON WOOL(スノードン ウール)」

ウィメンズを拡充、ユニセックスと合わせ選択肢を豊かに

BPJが日本におけるブランドの運営を始めて大きく変わったのは、これまで日本ではあまり紹介されてこなかったウィメンズの品揃えを拡充したことだ。ユニセックスで着られるアイテムに加え、より日本人女性の体型にフィットするアイテムを充実。「プロモーションもウィメンズ誌へのリースを積極化し、働く女性や仕事をしながら子育てをする女性に向けた提案を強化」することで、店頭のMDとの連動を進めている。

ウィメンズのお薦めアイテムを紹介するステージ

ウィメンズコレクション「Re-Engineered(リ-エンジニアード)」はメンズやユニセックスのワックスアイテムと比べ、倍ほどにリサイズしたコーデュロイ襟が特徴。ジッパーやスナップボタンなどの金具はゴールドに統一し、シルエットはトレンドのオーバーサイズをAラインに落とし込むことで無骨さを抑え、ほのかにフェミニンさを醸し出している。「バブアーのアイテムはセージのボディにブラウンの襟が定番ですが、ウィメンズでは襟にベージュを使って顔周りを明るく見せたり、黒にして顔が締まって見えるようにするなど、メンズとは少しデザインを変えている」という。
「TOWNFIELD WAX COAT(タウンフィールド ワックスコート)」は、今季のウィメンズを象徴するアイテムだろう。裏地にはメンズよりも大柄のハウスチェックを施し、袖を折り返せばアクセントになり可愛く着こなせる。同ラインの「MARSETT QUILTING COAT(マルセット キルティングコート)」は、ミリタリーテイストのデザインで、コーディネートの汎用性が高い。4万4000円(税込)という価格も魅力の「今季のウィメンズで一押しのアイテム」だ。
ユニセックス仕様で女性にも人気なのが、前述したワックスコットンのトランスポートと、フライフィッシング向けに考案されたショートジャケット「SPEY(スペイ)」。ともに短丈でややワイドフィットなシルエットが、オーバーサイズトレンドの中で人気を呼んでいる。

「MARSETT QUILTING COAT(マルセット キルティングコート)」
「TOWNFIELD WAX COAT(タウンフィールド ワックスコート)」
短丈が好評の「SPEY(スペイ)」
「TRANSPORT(トランスポート)」はバブアーで一番人気の短丈ジャケット

アウターだけでなく、シャツやパーカ、Tシャツ、カーゴ、ペインターパンツ、ニットキャップ、マフラーなどコーディネートアイテムも揃うのは直営店ならでは。代官山店のオープンを記念した「DAIKANYAMA」のロゴ入りのTシャツやトートバッグも好評だ。レイングッズも通年展開し、ポンチョやレインシューズなどシンプルで機能的なアイテムが充実。今春、女性から大きな反響があったレインブーツは、代官山店でも継続して販売している。また、本国でライフスタイル提案の一環として提案し人気のドッグアイテムを置いているのは、日本の直営店では公式オンラインストアのほか、代官山店と藤井大丸店のみ。ワックスコットンやタータンのキルティングを使ったドッグコートやハーネス、ベッドなど様々で、愛犬の散歩をする人も多い代官山エリアだけに今後の動きが注目される。
独自のアウターを軸に生活を横断した品揃えで、ライフスタイルブランドとしてのバブアーの認知拡大を図る。

愛犬のためのドッグアイテムが充実
代官山店の出店を記念したTシャツやトートも販売

バブアーの可能性を広げるコラボ、本質を伝える「リワックス」

売り場のMDは春夏と秋冬のコレクションに合わせて大きくは年に2回変わり、順次、季節や気候の変化に応じて新作が毎月投入される。様々なブランドとのコラボレーションアイテムも展開され、バブアーの新たな可能性を感じることができる。コラボ企画は開店以降、続々と行われている。
トップバッターは「Maison Kitsuné(メゾン キツネ)」。初のコラボで、バブアーのアイコンであるワックスジャケットやキルティングジャケット、フーディーやスエット、パンツ、トートバッグなど多様なアイテムを揃えた。いずれもキツネのキャラクターにBarbourのロゴが印象的だ。英国ブランド「Baracuta(バラクータ)」とは「アイビーリーグ」をコンセプトに、60年代に英国でアレンジされたそのスタイルをベースに表現した。10月末からはイタリアのアウトドアウェアブランド「C.P.Company(シーピーカンパニー)」とのコラボアイテムを展開。両ブランドのアイコンを組み合わせたアウターなど、まさにコラボだからこその表現に臨んだ。11月6日からは日本でも人気急上昇中のデンマーク生まれのウィメンズブランド「GANNI(ガニー)」とのコラボアイテムを展開している。

「GANNI(ガニー)」とのコラボ

代官山店には、売り場中央でつながったもう一つの空間がある。手前のスペースには、ミリタリーウェアをベースに、バブアーのDNAであるワックスクロスやキルティングを駆使してモダンなデザインへと昇華させた「HERITAGE+(ヘリテージ プラス)」のステージを設えた。MA-1やL2-Bといったフライトジャケットやモッズコートなど、無骨な男らしさと程よい軽さのバランスが味わいを生んでいる。

23-24年秋冬からスタートした「HERITAGE+(ヘリテージ プラス)」

もう半分のスペースは「リワックスステーション」。ワックスジャケットの本質を伝える場と言えるだろう。ワックスジャケットは長年の着用によりワックスが抜けていくと撥水性が低下するため、再び塗り入れるメンテナンス=リワックスが必要になる。定期的なリワックスにより撥水性や耐久性などの機能を保ち、「自分だけの一品へと育てていく」ことも魅力だ。代官山店では常設のリワックステーブルを設置し、来店客が持ち込んだワックスジャケットのリワックスに有料で対応している。今後は顧客がリワックスを体験するイベントも開催する考えだ。同スペースでは店頭で購入したジャケットに名前やイニシャルなどを刺繍するサービスも代官山店限定で実施している。

  • 専用の防水ワックスを再び塗り入れるお手入れに対応する「リワックスステーション」
  • 専用のワックス缶も販売
  • 店で購入したジャケットへの刺繍入れサービスも提供

ファッションに関心の高い客層はもとより、訪日外国人客も多く来街する代官山に出店し、これまでと比べて女性客や若い客層の来店も着実に増えてきている。「特に週末はカップルで来店されるお客様が多い」という。今後の日本でのブランディングに注目したい。

写真/遠藤純、バブアー パートナーズ ジャパン提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディターウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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