時代の移り変わりを感じさせるニュースも伝えられた。東京ファッションアワード出身で、パリコレクションの常連でもあった落合宏理による「ファセッタズム」のブランド休止、そしてブランド設立20周年で、40回目のショー開催となった「ホワイトマウンテニアリング」の相澤陽介の退任。日本のみならず、ファッション業界全体に大きな衝撃を与えた。
レディス同様、トレンドらしきものが無いメンズのパリコレクションではあるが、今季ははっきりとした強い色を提案するブランドが目に付いた。どちらかと言えば、パステルが基調となっていた「オーラリー」は、ブルーやバーガンディ、ターコイズのアイテムで新しい側面を見せ、「ドリス・ヴァン・ノッテン」は、ルックによっては色の洪水のようなスタイリングを提案。「アイム メン イッセイミヤケ」は、一日の空の色の移り変わりを美しいトーンで表現し、「シュタイン」は自然からインスパイアされたブルー、グリーン、レッドをあしらっていた。グレーやブラックとのコントラストを強調する手段として、今季の強い色使いは十分に機能していたかもしれない。
また、新しいクラシックにこだわるブランドも印象的だった。「ルイ・ヴィトン」のファレル・ウィリアムスは、長く受け継がれることを前提に、時代を超越したデザインを目指し、タイムレスなアイテムを提案。アイム メン イッセイミヤケは、あらゆる地域・時代のフォーマルウェアの型部分を取り払い、フォーマルウェアの持つ空気感やエレメントだけを残し、新しいクラシックウェア像を創造。韓国のブランド、「ポスト アーカイブ ファクション (PAF)」は、衣服の歴史はスポーツウェアの進化の上に成り立ち、クラシックと呼ばれているものは、かつては実用的な服であったと捉え、「ニュー クラシックを創りたい」と宣言。今季は、モダンなクラシシズムが一つの潮流となる可能性を感じさせた。

オーラリー
人類博物館のホールでショーを開催した岩井良太によるオーラリー。陰鬱で暗い側面ばかりが強調されやすい冬という季節を、軽やかで透明感あふれる季節として捉え直し、繊細な光に照らされた新しい冬のイメージを創造した。その方向性は、ボリューム感の出る重衣料に反映され、カットされたメリノムートンやカシミヤコーデュロイ、ウールのヘリンボーンパイルなど、軽量化された暖かい素材で仕立てられている。そして、特に目を引いたのが色使いだった。オーラリーのブランドカラーは、淡いトーンをイメージするが、今季はブルーやパープル、ターコイズやグリーンなど、冬のイメージを覆すような強くてはっきりとした色が登場した。冬のイメージのみならず、ブランドのイメージも良い意味で裏切る新鮮なコレクションとなった。

キディル
根底にパンクの精神を漲(みなぎ)らせながら、東京のファッションの様々な要素を咀嚼(そしゃく)し、新たなモードを描いて見せた末安弘明によるキディル。コレクションタイトルを「Heaven」と題し、その二面性を様々なコントラストで表現。混沌と整頓、大胆さと繊細さ、キュートさとハードコア。黒い天使もいれば白い天使もいる。ミリタリーブランドである「アルファ・インダストリーズ」とのコラボレーションによるMA-1には、チュールをまとわせて男性性と女性性をミックス。40ものアジャスターを散りばめた「アンブロ」とのコラボレーションアイテムや、東京を拠点とするアーティスト、トレバー・ブラウンによるアートワークをあしらったアイテムも目を引いた。あらゆる違和感を取り込みつつ、このブランドらしいバランス感覚と世界観を見せていた。

ルイ・ヴィトン
ファレル・ウィリアムスによるルイ・ヴィトンは、フォンダシオン ルイ・ヴィトン敷地内の特設テントでショーを開催した。会場中央には、1950年代を中心に進められた住宅建築プログラム「ケース・スタディ・ハウス」を彷彿とさせるノット・ア・ホテルとのコラボレーションによる生活スペースを設置。コレクションは「タイムレス」と題し、時代を経ても決して古びないデザインを目指し、テーラードを中心に提案している。一見オーソドックスなフォルムであっても、防水ジャケットには水滴のようなクリスタルが刺繍され、インナーには温度調節機能が備わったハイネックシャツをコーディネート。機能性を高めたラグジュアリーなアイテムで構成。リバーシブルのモノグラム・パターンが施されたバッグやブルゾン、水が掛かるとモノグラム・モチーフが浮かび上がるバッグなど、コレクション全体に様々な仕掛けを散りばめて遊びの要素も加えている。未来に向けて長く着用できる服、そしてビンテージ感溢れるランウェイ中央の生活スペースが見事に呼応していた。

ケンゾー
ニゴによる「ケンゾー」は、ブランド創始者の高田賢三が2009年まで住んだバスチーユの邸宅でプレゼンテーション形式のコレクションを発表。フローラルや半纏(はんてん)など、モチーフ・フォルムをアーカイブから引用しつつ、ニゴらしいジャパニーズクールとアメリカーナの要素をフレンチシックにミックス。マニラ刺繍(ししゅう)のバルーンスカートやマニラ刺繍のカウボーイシャツ、キモノジャケットやスタジアムジャンパー。洋の東西を問わないアイテムに、ケンゾーグラムと題したモノグラムをあしらったブルゾンやベルトを提案。新しいケンゾー像を創出して見せていた。

アクネストゥディオス
今年の9月でブランド設立30周年を迎える、ジョニー・ヨハンソンによる「アクネストゥディオス」は、パリ市内のショールームで最新コレクションを披露した。1996年にクリエイティブエージェンシーとして200本のデニムを配ったことがファッションの世界に進出するきっかけだったことから、原点に立ち返りつつ、アップデートされたクリエーションを提案。1996年型のデニムパンツにはクラッシュ加工を、定番のTシャツやジャケットにはビンテージ加工を施し、適度な使用感を演出。ビンテージモチーフをあしらったスカーフ、擦れて毛玉が出来たようなスエット、手垢汚れ風のペイントを施したレザー製ブルゾンなど、これまで通り古着の要素も加えている。一方で、美しく仕立てられたテーラードもしっかりと提案し、そのコントラストがアクネストゥディオスの揺るぎないスタイルとなっている。

アイム メン イッセイミヤケ
13世紀建立のベルナルダン中学校を舞台にショーを開催した、アイム メン イッセイミヤケ。コレクションタイトルは「フォームレス・フォーム」。世界中に存在するフォーマルな装いの型を取り除き、「ちゃんとした」 空気感だけを残して一枚の布で表現することを目指したという。コレクション全体を日常の始まりと終わりになぞらえ、朝日から夕焼け、そして月夜のイメージから色を引用。平坦な組織と、熱で収縮するリブ編みのような組織を一枚の布に共存させ、フォルムに凹凸を出した「クレイ」のシリーズや、ひも状の中綿を使用してダウンのような効果を出した「ラフト」のシリーズなど、このブランドらしい革新的な素材使いのルックも新鮮だが、何よりも目を引いたのが後半のルックの数々。三色に染め分けた糸を使用した絣織りのシリーズや、手作業でグラデーションに染めたシリーズ、尾州の毛織物をあしらったシリーズなど、どれもが圧巻。今季は、これまでのようにダンサーを起用したパフォーマンスをせず、シンプルな演出に徹したが、素材の繊細さや色の美しさが際立ち、各ルックの美しいイメージが鮮烈に残る結果となった。

リック・オウエンス
「リック・オウエンス」は、パレ・ド・トーキョーでコレクションを発表した。タイトルは「タワー」で、「塔」は愛や光の象徴であると同時に、不確かな世界の中にあって統制や抑圧とも結び付き、そんな状況をパロディーとして転換、誇張して、権力の象徴としての肩の強さを逆説的に捉えて表現したという。特に原産地などのコミュニティーや若手アーティストとのコラボレーションを前面に出し、リスペクトの意を表している。尾州のメランジウール、兵庫県でなめして神奈川県でガーメントに仕上げたカウレザー、インドの自然色の8ミリ厚のフェルト、イタリアのボノットによる密に織られたウール素材。それぞれがリック・オウエンスの構築的なクリエーションの根幹となっている。また、3000メートルにも及ぶワックスコードを編んだルカス・モレッティによるヘアマスクやフィッティングモデルのターニャ・サルによる手編みのニットベストなど、コラボレーションによるアイテムも、リック・オウエンスの世界観を強化する重要なアクセサリーとなっていた。

ヨーク
公式スケジュール外ではあるものの、ゲーテ・リリックを会場にパリで初のショーを開催した寺田典夫による「ヨーク」。彫刻家・画家のジャン・アルプにインスパイアされ、アルプ作品の美学や制作過程を独自解釈して、服に落とし込んでいる。「自然界に直線はない」と唱えたアルプの言葉に影響を受け、丸みを帯びた柔らかいシルエットを創出。客席には、寺田本人が手掛けたというアルプの彫刻を想起させる曲線で構成されたオブジェが置かれていた。ドロップショルダーによる丸い肩のラインのコートや、ダブルブレストのジャケットなど、テーラードにはウエスト部分にニットプルを巻き、ドレープによる有機的なラインが生まれている。布のシワをそのまま残しながらボンディングしたファブリックによるコートや、直線を避けるかのようにワイヤーを内蔵させ、強制的に曲線を形作るという大胆な手法によるニットポロは、アルプのシュールレアリスティックな側面から影響を受けたアイテム。一見シンプルなアイテムの中に技巧や創意工夫を込め、繊細さの中に大胆さを覗かせるコレクションとなっていた。

アミリ
マイク・アミリによる「アミリ」は、カロー・デュ・トンプルを会場にショーを開催。世界的チャンプのサウル・アルバレス(カネロ)や神宮寺勇太など、様々なセレブリティーが最前列を埋めた。カジュアルに着こなしたフォーマルウェアに魅力を感じるというマイク・アミリは、ハリウッド黄金期を築いた映画界のスターたちが住み、1970年代以降はカウンターカルチャーや音楽の拠点ともなったハリウッド・ヒルズやローレル・キャニオンにイメージを求め、モダンなラグジュアリーを創出。バーガンディやグレー、ブラウンといった落ち着いたトーンのアイテムには、華やかな刺繍を施し、豪華さの中にエレガンスを漂わせる。昼はドレスアップし、夜はカジュアルに、がアミリ流の着こなし。デニムパンツを合わせて気軽でリラックスした装いを提案していた。 

バウルズ
八木佑樹によるバウルズは、ギャラリー・ペロタンでプレゼンテーション形式の最新コレクションを発表。基本を踏まえて工夫を凝らし、独自の世界を切り拓くことを意味する「守破離」の哲学を貫きながら、拠点をニューヨークと東京に構え、日本での生産にこだわった物作りを続けている。クラシカルなコートやスーツなどのテーラードの他に、カーディガンやスタジアムジャンパー、ボンバースやワークウェアがアウターとして提案され、それぞれがリラックスした空気感をまとっている。プレゼンテーションでもベッドルームをイメージする部屋があり、温かみのあるムードに包まれていた。毎シーズン目を引くプリントは、スキーヤーやカリカチャライズされたボタニカル、オランダの画家、フランス・エヴァーバッグによるチューリップなどが登場。コレクション全体をより一層優しい雰囲気に見せていた。

ヨウジヤマモト
ミリタリーウェアをモードに変換し、山本耀司らしい世界観をまとわせて見せた「ヨウジヤマモト」。カモフラージュのように見えて、実は抽象的なモチーフをプリントしたシリーズでショーはスタート。張りのあるファブリックによるルックは、厚みとボリュームにより見るからに暖かそう。コートやジャケット類には、オーバーサイズのオールインワンやバギーパンツが合わせられ、ミリタリーのイメージとは異なる美しいシルエットを創出。航空整備士を思わせるツナギのシリーズでは、テクニカル素材を駆使してモダンウェアに仕上げている。ニードルパンチによる赤や白をアクセントにしたコートのシリーズや、染めでグラデーションを表現したヘリンボーンのコートのシリーズなど、今季は遊びのある素材使いが目を引く。最終の、何層にも葉のように布を重ねたカモフラージュのシリーズは、日本のボロを彷彿とさせ、得も言われぬ魅力に圧倒された。

ドリス・ヴァン・ノッテン
学校を卒業したばかりの若者によるビーチパーティーをイメージした先シーズンから、今季は社会に出ようとする若者像を描いたジュリアン・クロスナーによるドリス・ヴァン・ノッテン。実家を出て新しい生活に向けて旅立つ時に、不安が募る中でバッグに詰めるものをイメージ。父親のコート、母親のフローラルプリントのスカーフ、祖父からもらったベスト…。それらが一つのルックにまとめられ、新しいモードに仕立てられている。ミリタリージャケットにはニット帽を合わせ、ボーダーのニットタートルにはキルトスカートをコーディネートし、垢抜けない男子のチグハグなスタイリングを演出。ニットトップとベストの一体型トップスには、シャツの裾だけのエプロン状のアイテムを合わせて独特なトロンプルイユを見せる。継ぎはぎのコートやモチーフを繋いだニットプルなど、敢えてDIYの不器用さを強調させたアイテムも印象的。各アイテムには、それぞれ美しい素材をあしらい、仕上がりは非常にシリアス。しかし、終始ユーモアを滲ませ、コレクション全体を柔らかくて優しいものにしていた。 

ジューンJ
コレクションタイトルを、過去・現在・未来の共存を探るという意味で「NEWSTALGIA」と題したジョン・ウクジュンによる「ジューンJ」。これまで通り、レザーやウール、デニムによるクチュールライクなテーラードが並び、シルエットもパワーショルダーが多く見られた。しかし、ニットのドレスやスパンコールドレスについては肩パッドの大きさは控え目で、ラフルを飾ったニットポロに至っては、肩パッドは内蔵されていなかった。ショー後半には、イタリアのモータースポーツブランド、「アルパインスターズ RSRV」とのコラボレーションによるバイカールックが登場。オールインワンやブルゾンは、それぞれ力強さと大胆さを備え、ブランドイメージと見事に融合するルックとなっていた。  

メゾンミハラヤスヒロ
三原康裕による「メゾンミハラヤスヒロ」は、サル・ワグラムを会場にショーを開催した。年齢を重ねるにつれて、見慣れた物や風景がぼやけ始めるが、そんな日常のズレや違和感をコレクションに落とし込んだという。フロントから見るとクラシカルなフォルムに見えるルックも、バックスタイルに大きなボリュームがあり、見る者を驚かせる。以前より続いているコンセプトではあるが、今季は技巧的に変化させ、より一層洗練された手法を見せた。引き続きダメージ加工や経年加工は様々なアイテムで見られたが、今季は値札プリントが目新しく、クリーニングの札やサイズタグ、値札と共に各アイテムを彩るアクセントに。インナーとボンバースが一体型になっているトロンプルイユのトップスや、フーディーと一体型になったボンバース、フロントはスタジアムジャンパーで、バックがボンバースのアウターなど、ショーが進むにつれてシュールレアリスティックな傾向が強まって行く。ライニングがそのままフードになったヘリンボーンのコートや、シャツがライニングになっているスカジャンなど、それぞれ境目が曖昧。デザイナーのぼやけた視覚やモヤモヤとした感情が、全く新しいアイテムの誕生に繋がっていた。

ランバン
ピーター・コッピングによる「ランバン」は、モンソー公園に程違い邸宅を会場にプレゼンテーション形式で最新コレクションを発表。ブランド創始者、ジャンヌ・ランバンがクチュールメゾンとして初めてメンズウェアを提案したのが1926年。実に100周年目の記念すべきコレクションとなった。会場には、ジャンヌ・ランバンのアパルトマンのインテリアを手掛けたアルマン・アルベール・ラトゥーの家具やアーカイブの装飾品、オブジェなどを集積。今季は、ジャンヌ・ランバンがベニスへ向けて旅をしたという史実からインスパイアされ、彼の地に因んだクリエーションで構成。ムラーノガラスから着想を得た抽象的なモチーフがコートを彩り、ベニスに滞在したスペイン人クチュリエのマリアノ・フォルチュニを思わせるプリーツ素材はパンツに仕立てられる。ジャンヌ・ランバンが所持していたベニスの図案は、供給元であるベヴィラクアによってシャツとして再現された。アール・デコ期のシルエットは保たれてはいるが、ジーンズやスポーツの要素を加えてモダンウェアに変換し、コッピングらしい巧みな手法を印象付けた。

ビューティフル・ピープル
公式スケジュール外ではあったが、6年振りにコレクション発表を行った熊切秀典による「ビューティフル・ピープル」。「Systeme D(システム・デ)」は、独自の工夫で何とか難を切り抜けるフランス人の知恵を表わす言葉であるが、Dは「何とかする、切り抜けること」を意味するDébrouilleの頭文字。服に潜む制約を再創造のための余白と捉え、新たな可能性を探った。上下で着用可能なジャケットや、気候に合わせて袖を外せるブルゾン、気分によって表裏を選べるリバーシブルのコートなどは、二面性を持つファブリックや機能素材で仕立てられ、様々な環境や条件に適応出来るようになっている。幅広い要求に応えることの出来る、理想的なアイテムで構成されたコレクションだった。

ホワイトマウンテニアリング
相澤陽介による最後のコレクションとなったホワイトマウンテニアリングは、11区のガレージを会場にショーを開催した。コレクションタイトルは「ポスト・デ・スティル」。ピエト・モンドリアンやヘリット・リートフェルトといったアーティストを輩出した、1917年にオランダで創刊の雑誌『デ・スティル』の哲学からインスパイア。「形態は機能に従う」というデ・スティルの思考を反映し、機能性を高めた上でのフォルム、プロポーション、構造を考案し、身体に動きや身体の形に沿う服作りを目指したという。当時の赤や黄といった特徴的な原色の組み合わせは排除し、黒、白、ベージュ、グリーン、パープルの単色を採用。オブジェのような服が評価されるファッションの世界にあって、機能服を追求してきたこのブランドによる一つの完成形を見せていた。

カラー
2019年のスリラー映画、2人の灯台守をテーマにした『ライトハウス』とハーマン・メルヴィルの『白鯨』からインスパイアされた、堀内太郎による2回目の「カラー」のコレクション。タイトルを「The Waves」と題し、荒波に苛まれながら生きる19世紀の人々の装いを服に落とし込んでいる。ウールの縮絨フェルト製のスーツは、一度解体して再構成したようなフォルムで、アンティークのような風合い。ミリタリージャケットとドレスジャケットのドッキング、あるいはボンバースとジャケットのドッキング、麻袋をあしらったレザージャケットなどは、創始者である阿部潤一の手法よりも大胆。漁師が着用するダッフルコートにはサテンのパンツを合わせてドレッシーに仕上げ、魚を刺繍した襟のコートはウレタンのスポーティーな素材で作成してカジュアルダウンさせる。その差し引きのバランスがコレクション全体に感じられ、新しいカラーのイメージを強く印象付けるコレクションとなった。

シュタイン
浅川喜一郎によるシュタインは、公式スケジュールに掲載されて初のショーを、パリ工芸博物館のテキスタイルの間で開催した。ジェイミー・ホークスワースの自然を捉えた写真や、東京で何気なく目に入って来る景色から受ける温かみや幸福感、懐かしさといった情緒をコレクションに反映。自然の木々の葉が秋になり色づき、黄色から赤に変化する様は、コレクションの後半にカラーパレットとして反映された。これまでXSサイズも生産してきたが、レディスの展開も視野に入れ、今季から女性向けにロングスカートやタンクトップも発表。アイコンとなっているダブル身頃のコートは、シャトル織機でゆっくりと織り、柔らかい風合いを持つフランネルを使用。襟が立つようにスウェードを合わせている。光沢感を出すために、素材によっては縮絨させ、多くに起毛テクニックを駆使。これまで通り、細かな手作業に支えられた、こだわりの詰まったコレクションとなった。

ダブレット
空気にまつわる物語を描いて見せた井野将之による「ダブレット」。普段気にも留めない、可視化できない空気を様々な形で目に見えるように表現した。今季は大阪の素材メーカーであるプレジールが開発した、バイオマス由来を含むCO₂を原料とする素材、ゼフィールを全面的に使用している。熱に弱いなどの特性から、何度も失敗を繰り返した開発者との親交が、一つのコレクションとして結実。針金を内蔵して風になびいたかのように見せたコードをあしらったフーディー、排気ガス由来の染料ですすけさせたブルゾン、風に吹き飛ばされた枯れ葉や新聞紙が貼り付いたスーツ、バルーンアートの犬を象ったマフラー、モクモクと上がる排気ガスと工場のインターシャニット。エアの駄洒落は、ギターをプリントしたエアギターシャツや、バッグをプリントしたエアバッグスエットなどに反映。某ブランドが発表して爆発的にヒットした顔に見えるバッグは、泣き笑いの表情に変換され、水筒はプロパンガスのボンベのフォルムに。これまで通りではあるものの、そこかしこにユーモアが散りばめられ、シリアスなクリエーションとのコントラストがひと際心地良かった。

ポスト アーカイブ ファクション (PAF)
2018年にドンジュン・リムとスキョ・ジョンによってソウルで設立されたポスト アーカイブ ファクション (PAF)が、パリで初のショーを開催した。クリエイティブ・ディレクターのドンジュン・リムは、インダストリアルデザインを学んだ後にIT企業に勤務。独学でメンズデザイナーとしてキャリアをスタートさせたという経歴の持ち主。今季は「ニュークラシック」の創造を目指し、「クラシックと呼ばれて来たものは、かつては実用的な服であり、衣服の歴史とは、スポーツウェアが進化してきた歴史である」と定義。機能性の高いスポーツウェアをクラシカルなアイテムに落とし込み、シャツの前立てをリボン状にしたり、ポケットのフタ部分を二重にしたり、ジップアップパーカーの中心線をずらしたり、カーディガンの前立てに切り込みを入れたり。様々なディテールの遊びを散りばめながら、クラシカルなモダンウェアを提案した。

ターク
1万4千年前から約1万年に渡って続いた、縄文時代の文化に魅了された森川拓野による「ターク」。縄文時代に生み出されたミニマルとは対極にある造形物と、内側から湧き上がる自らのエネルギーを重ね合わせ、これまで以上に勢いを感じさせるダイナミックなコレクションを披露した。うねるような文様は刺繍のモチーフやニットカーディガンの編み模様となり、レザーシャツには土器を思わせる円心状のモチーフが刺繍される。ジャカードによるグラデーション素材はシャツやボンバースにあしらわれ、ブラウンのトーンは土を想起。茶色に抜かれたベルベット素材のコートは、モチーフの大胆さにより強いインパクトを与えた。今季は特にファー使いが新鮮で、様々なトーンの毛皮が繊細かつプリミティブな雰囲気を演出。タークの想像する縄文のイメージをより一層強いものにし、コレクション全体に大きなアクセントを与えていた。

ベッドフォード
山岸慎平による「ベッドフォード」は、まるでアパルトマンの一室のようなプライベートな空間が広がる11区のレストラン「ディモラ」を会場にショーを開催した。コレクションタイトルを「ロマン」とし、フォーマルなアイテムとスポーティーなアイテムをバランス良くミックス。リラックスしたモダンウェアを提案した。ボールチェーンを縫い付けたラバリエールシャツには、スポーティーなブルゾンを合わせ、フェルトのスーツにはワークウェアブルゾンをコーディネート。それぞれのルックに合わせたローファーのようなサンダルは、スイコックとのコラボレーションによるもの。ウールコットンのコーデュロイのコートには、全体が下に落ちるようにヘムの裏側にレザーをあしらって重みを持たせ、アイテムによっては裏地に動物柄のプリント地を配している。鈴のディテールは今季も登場。これまで通りの強いこだわりを随所に見せていた。

フランスでは、相対的に女性に比べてファッションに気を使わない男性が多い。そんな土壌のせいもあるのか、保守的な傾向が強く、新しいスタイルが広まりにくいと言える。そんな動かし難いパリのムードに寄り添ったとは思えないが、今季は時代を選ばない、クラシカルなデザイン、フォーマルなスタイルにこだわるデザイナーが多く見られた。
しかし、ただ正統派なデザインを発表しただけでは、創造性を重視するパリコレクションでは評価されない。かといって、前衛的だったり革新的だったりするデザインは一般的に受け入れられず、ここ何年もねじれが生じたままである。
パリコレクションとパリジャン・パリジェンヌの装いは相入れない。とはいえ、ブランドとして前進させないわけにはいかず、アイデアを絞り出して、いかに新しさを演出するかに腐心することになる。それが独自のバランスを生み出し、パリらしさに繋がっているのではないか、とも思えるのだ。
他人の装いを気にしないパリジャン・パリジェンヌであるから、パリの街には明確なトレンドは存在しない。それは、パリコレクションも一緒ではあるのだが。もちろん流行色も無い。好景気の時は色が鮮やかになり、不景気な時はモノトーンが流行するという定説が存在するようだが、残念ながらパリでは当てはまらない。色が好きな人は色物を着るだけ。トレンドがあったとしても完全に無視である。
一方のパリコレクション。今季は鮮やかな差し色が多く見られ、フローラルモチーフも所々ではあるが目に留まった。不確定要素の多い世界へのメッセージとして、1960年代のヒッピー的思考からフラワーパワーを表現したリック・オウエンス、祖母から受け継いだフローラルプリントのスカーフをイメージしたドリス・ヴァン・ノッテン、刺繍の花でウェスタンシャツを飾ったアミリ、アーカイブからモチーフを引用したケンゾー。リック・オウエンスは別として、全員が平和への渇望としてフローラルプリントを表現したのかは全くわからないが。
インターネットが普及し、娯楽やメディアが増えた2000年代を境に、ファッションは気に掛けられることさえなくなってしまった。パリの人々の装いとパリコレクションの乖離(かいり)は、ずっと続いたままである。もちろん、依然として重なり合う部分は無くもないが。今季の保守的な傾向がパリジャンたちの心に響き、パリのメンズファッションの隆盛に繋がるかは全く未知数であるにしろ、少しでも注目する要因になってはくれまいか、と願うのだった。

清水友顕(しみず ともあき)
1994年、大学卒業後に渡仏し、96年にモード学校ステューディオ・ベルソーを卒業。ランバン、ケンゾーでの実習経験を経て、ファッションジャーナリストとして活動。古いビーズやぬいぐるみ収集を発端に蚤の市巡りがライフワークとなり、2010年以降は蚤の市イベントを日本各地で開催。著書に『パリ蚤の市散歩〜とっておきガイド&リメイク・リペア術』、『パリのヴィンテージファッション散歩』。

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