日本の参加ブランド数は10で、依然として1割強を占めている。「サカイ」の不参加は大きな欠落感を漂わせたが、それを埋めて余りある日本勢のクリエーションの力強さを感じさせた。
森永邦彦による「アンリアレイジ」は、2つ前のコレクションでも見せたLEDをあしらったドレスを披露。ただ、コンセプトは大きく異なり、新たなスタイルで観衆を魅了して喝采を浴びた。近藤悟史による「イッセイミヤケ」は、石との出会いから発展させたコレクションを見せ、イッセイミヤケの新しい側面を確立。感動的なフィナーレとなった。「ヨウジヤマモト」は、これまで以上に力強い服作りの姿勢を見せ、ここ最近のパリコレクションでは珍しく、スタンディングオベーションをする招待客の姿も見られた。どのブランドも、それぞれの作風と個性を更に前進させる強い意志を見せ、日本のデザイナー達の服作りへの熱量の高さを感じさせた。
今季は特に新任デザイナーによるコレクション発表が皆無で、トピックの少ないシーズンだったかもしれない。ただ、「シャネル」や「バレンシアガ」「ロエベ」など、新任デザイナーによる2回目のコレクションは依然として高い注目度となり、早くも安定感を備え始め、それぞれが見応えのあるコレクションを披露している。キム・ベッカーによる「イザベル・マラン」も、これまでのコレクションと比べても何ら違和感の無い内容。各デザイナーはそれぞれのブランドにしっかりと根付いた印象を与え、その力量と巧みさを呈したシーズンとなった。

ジュリー・ケーゲルス

「Face Value」と題し、素のイメージと、社会の中での自分のイメージの境目が曖昧な現代を捉え、外見そのものについての考察を服に反映させたジュリー・ケーゲルス。「口を開いた途端にオーラが消えてしまう」と分析したアンディ・ウォーホルの言葉やマルティン・ハイデッガーの存在についての考察を引用しながら、見せることと隠すことの間で揺れ動く女性の心理を表現。サイドやバックにカットを入れたニットプルや、イレギュラーなジグザグカットのダマスク織りのトップスなど、絶妙な割合で肌を露出させたアイテムでコレクションを構成。これまで通り、不安定さや違和感の中にケーゲルス独自のバランス感覚を配し、観念的なコンセプトを飛び超え、遊びの要素も感じさせた。

ガニー

故郷のデンマークの風と海にイメージを求めた、ディッテ・レフストラップによる「ガニー」。厳しさと優しさの両方を持ち合わせる自然のイメージを、強さと優しさの両面を持つ女性に重ね合わせ、素材や色でコントラストを描いている。ローゲージの無骨なニットと繊細なレース、大地を思わせるブラウンやベージュと花を思わせるオレンジ、パープル、グリーン。その対比によって硬くも重くもならず、絶妙なバランスで各ルックが成立している。ナイロンの漁網を再生した綿入りのボンバースや、オリーブ、オレンジの搾りかすから作られる植物レザーによるバッグなど、環境に配慮したクリエーションも目を引いた。

アンリアレイジ

「GHOST」と題して、攻殻機動隊にイメージを求め、森永邦彦による独自の解釈を披露したアンリアレイジ。サイボーグであるヒロインの不確かな存在を、有機的な外骨格のようなシルエットで表現。シャツに浮かび上がる刺繍ワッペンのようなモチーフは、LED TOKYOとのコラボレーションによって実現したLEDによるもので、様々な形状に変化する。京セラのサステイナブル・テキスタイル・プリンター「FOREARTH」で制作されたプリントを用いたドレスは、ビンテージのエッセンスを取り込みながらも、丸みを帯びたシルエットは不思議な未来感を醸し出している。終盤のLEDのドレスでは、モチーフを背景と同化させて存在の曖昧さを表現。様々なモチーフが描き出されるも、最後にアシッドグリーンの数字で締めくくり、圧巻のフィナーレとなった。

サン・ローラン

アンソニー・ヴァカレロは、ブランド創始者イヴ・サン・ローランを象徴するスタイルや素材の新解釈を試み、マニッシュなテーラリング、シリコンを含ませたレース、そして今回60周年を迎えるスモーキングの3つのジャンルでコレクションを構成。エコファーのビッグシルエットのコートやバロック期を彷彿とさせるワイヤー入りのレース製ドレス、キャミソール風ランジェリードレスには、大振りのバックルやネックレス、ブローチをコーディネートしてアクセントに。白蝶貝をあしらったシースルーパンプスや、アンリ・マチスの鳥を思わせるイヤリングなど、それだけで美しいアートピースのようなアクセサリーが「サン・ローラン」らしさを強調。パリジェンヌがイメージするサン・ローランの女性らしい官能的な側面が増幅され、新たなサン・ローラン像が生まれていた。

ドリス・ヴァン・ノッテン

今年1月に発表されたメンズコレクションの流れを汲み、若い学生が学校を卒業し、社会に出る過程をコレクションとして描いたジュリアン・クロスナーによる「ドリス・ヴァン・ノッテン」。制服と別れを告げた後、何を着れば良いのか判らずに、自信の無いまま服選びに悩む。そんな状態をコレクションに落とし込んでいる。スクールユニフォームからスタートし、家にあった家族由来の毛玉の出来たコート、自分が着ていたピタピタのニットベストをイメージしたアイテムが登場。社会に出ることは、自身のルーツと向き合うことであり、随所に民族的な要素を散りばめている。キルトスカートや17世紀のフランドルの静物画モチーフ、インド風のエスニックな刺繍、北アフリカや南米を思わせる色使いなどが各アイテムを彩っていた。デニム素材のパンツやセットアップ、コートは、服選びに窮する中、取り敢えず自分に自信を与えてくれるアイテムとして登場。今季は特にブーツに合わせ、長い丈のルックが多く見られたのも特徴的だった。

ステラ・マッカートニー

午年にちなみ、パリ16区の乗馬場でショーを開催した「ステラ・マッカートニー」。幼少期に過ごしたスコットランドにイメージを求め、母親のリンダ・マッカートニーの装いや自身がリアルタイムで触れた1980年代のスポーツウェアのスタイルを取り入れている。フィッシャーマンニットやハートモチーフのハンドニットマフラー、カラーブロックのブルゾンなど、ビンテージの要素がそこかしこに。このブランドらしいテーラリングには、ボリューム感あるエコファーを飾っている。今季も全体の素材の93%に環境に配慮したものを使用し、スパンコールやクリスタルに至るまで、リサイクル・アップサイクルされたものをあしらった。

トム・フォード

ブランド創始者のクリエーションの要素を取り入れながら、ハードな素材とソフトな素材をあしらい、シャープでありながら包み込むような構造に仕上げて、コントラストあるアイテムを提案したハイダー・アッカーマンによる「トム・フォード」。ピンキングエッジのラムレザーのユニフォーム風セットアップや、グリーンのパイピングを施したアニマルモチーフのニット製セットアップなどはエレガントな仕上がり。その一方で、レザーパイピングのPVCのスカートやピンストライプのシルクのシースルーシャツ、細いベルト使いのパンツなど、トム・フォードらしい官能的なアイテムが目を引く。バゲットビーズで埋め尽くしたロングドレスは、濡れたような輝きを放ち、その艶めかしさが印象的だった。

アライア

ピーター・ミュリエが手掛ける最終コレクションとなった「アライア」は、前シーズンに引き続き旧カルティエ財団でコレクションを発表。ボディーコンシャスブームを巻き起こし、女性の身体の美しさを強調して見せたブランド創始者、アズディン・アライアによる1980年代のクリエーションを新たに解釈。削ぎ落されたシルエットのアイテムでコレクションを構成した。シンプルなラインを強調させるために、今季はグローブ以外のアクセサリーは用いていない。スクエアカットのシンプルなジャージーのドレスには、ヒップ部分にダーツを入れることで、身体にぴったりと添う構造に仕上げ、極限まで細くした糸を用いたニットドレスやクロコレザーをあしらったジャージーのドレスなど、ボディーラインを強調させるアイテムが目を引く。一方で、ダブルフェイスカシミヤによるコートやシアームートンのコートなど、ボリューム感あるアイテムが美しいコントラストを描いていた。今回は、コレクションに関わった人々のポートレートを写真家の北島敬三が撮影。会場でプロジェクションされ、一冊の写真集にまとめられた。

リック・オウエンス

「タワー」と題したコレクションを発表した「リック・オウエンス」。現在、戦時下にある中で、愛と希望、そして強さと守護への祈りを込めて、1月に発表されたメンズコレクションとリンクさせた。短いジャケットと長いベストを合わせるルックは、一見戦闘服のようだが、身を守るためのプロテクションの役割を担うアイテムである。防弾チョッキなどの防護服に用いられる、鋼鉄の5倍の強度を持つケブラー繊維はイタリアから、伝統的にウールの混紡素材は尾州から、デニムは岡山から、ナチュラルカラーの8mm厚のフェルトはインドから調達。全ての素材を追跡可能にしている。オウエンスのフィッティングモデルだったサルタニャによる市松モチーフのニット、ルカ・モレッティとのワックスコードのフリンジドレスなど、今季もコラボレーションを継続。独自の個性とスタイルを呈しながら、第二次世界大戦中にはレジスタンスとして活動した女優、マレーネ・ディートリヒをオウエンスは称賛。大振りのファーのコートやグラマラスなロングドレスに、その影響が見て取れた。

イザベル・マラン

キム・ベッカーが引き継いで2回目のコレクションは、リュレックスによるメタリック素材や大振りの肩パッドなど、80~90年代のビンテージの要素を取り込み、当時を謳歌していたニューヨークの女性にイメージを求めた。エッジーだが、決してエレガンスを損なわないスタイルを提案。今季は特にコートやブルゾンなどのアウターが多く、インナーにはロングスリーブTシャツのようなカシミヤのニットをコーディネート。ブルゾンにはシルクをあしらい、ムートンのアビエータージャケットやラムレザーのミリタリージャケットなど、ラグジュアリーな素材使いも目を引いた。デニムパンツや大きな肩のジャケットなど、ボーイッシュなアイテムを交えて、このブランドならではのマスキュリン・フェミニンを表現。流れるようなシルエットのドレスには、80年代を意識した大きなスパンコールを刺繍。当時のエッセンスを巧みに取り込みながらもモダンに仕上げ、パリジェンヌらしい様々なスタイルを取り入れるエクレクティシズム(折衷主義)を貫いていた。

アンダーカバー

パリ市内のショールームで最新作を発表した高橋盾による「アンダーカバー」。特にテーマやタイトルを設定せず、コンセプチュアルなストーリーを語ることもなく、アンダーカバーにしか出来ない服作りに徹したという。ブランド設立35周年の記念碑となった「But beautiful 4」 のコレクションを継承し、カジュアルさの中にこのブランドならではの毒々しさや歪みを盛り込んでいる。特に今季は、素材のグレードを上げ、シルクやカシミヤをふんだんに使用。華美な装いが求められる場ではない、別荘地で過ごすことが多くなったという高橋は、一点一点のアイテムを日常生活に馴染むものに変換。しかし、間近で見るとディテールの繊細さや素材の上質さが伝わってくる。ダブルフェイスカシミヤのコート、裾にシンディ・シャーマンのポートレートをプリントし、ドット刺繍を施したデニムパンツなど、大胆さやエッジーさを抑えながら、普段使い出来るアイテムばかり。ブランドの新たな方向性が生まれたようだ。

ロエベ

ジャック・マッコローとラザロ・ヘルナンデスによる「ロエベ」は、作ることによって喜びの得られる遊び場としてコレクションを捉え、その中にスペインらしい美しい色を配し、ロエベの持つクラフト技術を最大限に盛り込んだ。今回は特にケニア出身のアーティスト、コジマ・フォン・ボニンとのコラボレーションを実現させたことにより、コレクション全体をオプティミスティックで楽しい雰囲気に仕上げている。彼女の作品に多用されるギンガムチェックは、様々なルックやストールに採用され、彼女の造形作品に見られる海の生物や犬は、ミノディエールやチャーム、ジュエリー、アクセサリーにあしらわれている。空気で膨らむインナーを合わせたコートドレスや、ベルト部分を空気で膨らませたトレンチなど、独特の造形を生むルックは印象的。ミトンと一体型になっているシアリングによるコートや、3Dプリンターを駆使して完成させたラテックスのランジェリードレスなど、素材の質感の面白さや美しさを強調したアイテムや、プロのトリマーに刈り込みを依頼したというニットフリンジドレス、ダイビングスーツインスパイアのボンディングレザーのコートなど、見どころの多いコレクションとなった。

イッセイミヤケ

道で拾った美しい石との出会いがコレクションの出発点となり、物質にはそれぞれの美しさと価値があることを伝えたかったという近藤悟史によるイッセイミヤケ。マシュー・ハーバートとモモコ・ギルの演奏をバックに、石をイメージさせるコートやニットをまとったモデル達が登場。特にニットは、石を内包するモダンアートのようなフォルムを呈している。アイテムは徐々に華やかなカラーリングとなり、80年代の三宅一生による樹脂製ビスチェを彷彿とさせるベルトやビスチェがドレスを彩る。しかし樹脂製ではなく、越前和紙を重ねて成形したものを京都の職人に漆を塗らせた、サステイナブルなアイテムだった。身体と衣服の関係性、そして物質そのものの考察を続けた結果、豊潤で美しいコレクションが完成。ひとつの集大成を見た気がした。

ジバンシィ

「自分を取り戻す取り旅」をテーマに、アーティスティック・ディレクターのサラ・バートンは、自分の人生の中で受けたインスピレーションや人との出会いを服に落とし込んだ。北欧の絵画から影響を受けたフローラルモチーフを刺繍したドレス、90年代に「ジバンシィ」を手掛けたバートンの師でもあるアレクサンダー・マックイーンによるドレスから着想を得た、ジャカード織の絢爛なドレス。それぞれが、バートンの個人的な出会いによって生まれたものである。レースモチーフをハンドペイントしたレザーのドレス、レースモチーフを刺繍したベルベットのドレス、シルク糸でフランス刺繍を施したドレスなど、クチュールメゾンであることを強く想起させるルックが登場。その一方で、Tシャツをそのままハットにするなど、シリアスなルックに絶妙な遊びを加えている。そのハットはスティーブン・ジョーンズの手によるもの。また、マニッシュなピンストライプのダブルブレストのスーツをミックスして、マスキュリン・フェミニンなコントラストを描いていたのも興味深かった。

ヨウジヤマモト

『昭和枯れすゝき』や『赤とんぼ』など、やや物悲しい昭和歌謡のカバー曲が流れる中で登場したのは、着物袖のジャポニズムドレス。布の重なり合いだけでボリュームを描き出す手法を用い、贅沢な素材使いが唯一無二の重厚なシルエットを形作っている。黒のイメージを貫きながらも、様々なモチーフや色を配置。チェックやストライプ、ジャカード素材がアクセントとなり、全体を引き締める効果を出している。ダブルの折り返しパネルを配した綿入りカラーのコートや、バックサイドにノットを配したケープコートなど、それぞれがユニークピースの特別感を漂わせていた。着物柄のように見えて、実は夜の街の風景だったり、逆にモダンなモチーフのように見えて、伝統的な和柄や絣モチーフだったり。境界線を曖昧にして、新しい側面を引き出している。最終シリーズでは、西洋の服飾史と着物の見事な融合を披露した。

バレンシアガ

ピエールパオロ・ピッチョーリによるバレンシアガは、「ClairObscur」と題し、明暗法や陰影法と訳される、美術において見られるキアロスクーロの技法を採用。光と闇の相互作用によって生まれる世界観を表現し、布地と身体との関係性、内部構造も熟考してフィット感を出したアイテムを揃えている。今回は特に、人間の感情に深く切り込む内容のHBOのドラマシリーズ『Euphoria』の制作者サム・レヴィンソンとコラボレーション。ドラマのワンシーンをプリントしたアイテムが登場した。オートクチュールメゾンのヘリテージとのリンクは続いており、今季もクリストバル・バレンシアガによるシルエットは随所に見られた。軽量だが形を保てるウール製新素材を用いたコクーンシルエットのコートや、日本製のデニム素材によるラップジャケットなどが登場。シルクジャージーのドレーピングドレスや、オーガンザを羽のようにあしらったガウン、羽のようにカットしたパーツを縫い付けたコートなど、そのどれもがクチュール的だが、ピッチョーリによる着やすさを優先させる技術も反映され、それぞれをモダンウェアに仕上げていた。

ラコステ

ペラジア・コロトロスによる「ラコステ」は、ブランド創始者、ルネ・ラコステのキャリアを切り拓く契機となった、1923年の豪雨に洗われた一戦にインスパイアされた。会場となったローラン・ギャロス内のフィリップ・シャトリエ・コートには、所々に水溜りが見られ、スモークが焚かれる。そんな中を、レインコートやポンチョをまとったモデル達が登場。濡れたような風合いを持つナイロン、コントラストカラーをボンディングした素材など、進化系素材をあしらってモダンでフレッシュに仕上げている。ゴム引きコットンを用いたマッキントッシュとのカプセルコレクションも披露。創始者に因んだ「ルネ・ブレザー」を発展させたテーラリングは、これまで通りソフトな印象。曇天のグレーから、クレーコートを思わせるバーガンディ、雨上がりの芝生のようなグリーンなどの他に、ピンクやオレンジなどの差し色をミックス。スポーティーでカジュアルだが、パリファッションのコードに則ったエレガンスに貫かれていた。

シャネル

招待状には折り畳み定規のチャームのネックレスが添えられ、グラン・パレの会場には色とりどりのクレーンの鉄骨が配置されていた「シャネル」。今季、アーティスティック・ディレクターのマチュー・ブレイジーは、コルセットから女性を解放し、実用性を取り入れて革命を起こしたブランド創始者、ガブリエル・シャネルにインスパイアされた。スポーツウェアやワークウェアといった、本来ならばカジュアルにカテゴライズされるアイテムをモダンなラグジュアリーに仕上げ、幅広いバリエーションの服を新しいシャネルのコードを用いて解釈し直している。ポロシャツドレスやフリンジを飾ったニットドレスなど、多くはローウエストで、リーンなシルエットで統一。シアリングのコートやゴールドボタンのギンガムチェックのブルゾンなど、スポーティーなアイテムにはビンテージ感を漂わせている。シリコン素材でツイードモチーフを描いたスーツや、プリントでツイードを表現した鎖かたびらのジャケットなど、これまでのシャネルには見られなかった素材使いも新鮮。「昼は毛虫、夜は蝶になりなさい。毛虫ほど気楽なものはないし、蝶ほど愛される存在もありません」というガブリエル・シャネルの言葉を引用し、デイウェアとイブニングウェアの明確な線引きも見せ、その両方をクチュールメゾンらしい精緻な技術を用いて繊細に仕上げている。実験性と革新性を込め、新旧の要素をバランス良く配して新しいシャネル像を描いていた。

ユニフォーム

パリコレクションを主催するオートクチュール組合の公式カレンダー外でショーを行った、ベッツィ・ジョンソンによるフェティッシュなブランド、「ユニフォーム」。拠点をロンドンからパリに移し、シャトレ劇場で初のランウェイショーを披露した。ユニフォームやワークウェアを独自に解釈。腕が出ない拘束衣のようなトップス、イレギュラーなドレーピングのスカートとシャツ、身体に張り付いたようにフィットしたポロシャツと露出度の高いショーツ、パンストの上部が付いたローウエストのデニム。どれもが身体を締め付ける程に小さく作られ、人々に労働を強いる場で着用される服というダークなイメージを抱かせる。大きな肩のレザーブルゾンやニットジャージーのジップアップスエット、シースルー素材のドレスなど、シルエットや素材の面白さを漂わせるアイテムが多く見られ、エッジーではあるが、彼女ならではの魅惑ある世界観を描いていた。

ウジョー

西崎暢による「ウジョー」は、「アンチテーゼ」と題したコレクションを発表した。これまでのブランドのコードは守りつつ、シルエットをシャープに仕上げ、アイテムによってはボリューム感を持たせ、ミニマルにまとめながらも、ジップや切り替え、素材によりアクセントを付けている。素早さが求められる現代にあって、尾州に残る1960年代のションヘル織機によって時間を掛けて織られたシアー素材やナイロンフィルムを織り込んだチェック生地を使用。それは、時代の流れに抗う美学としてコレクションのコンセプトの根幹となり、インスピレーション源である90年代のグランジやロックスピリットとも重なっている。今季は日本人デュオ、DREAMS COME TRUEのツアー衣装をデザインすることも発表されたが、ロックとは対極にある音楽との接点にも「アンチテーゼ=真逆の選択」を感じさせて興味深かった。

ルイ・ヴィトン

「自然こそが最高のファッションデザイナーである」とするニコラ・ジェスキエールによる「ルイ・ヴィトン」は、「スーパーネイチャー」と題したコレクションを発表。ブランド創始者のルイ・ヴィトンは、幼少期をフランス東部のジュラ県で過ごし、徒歩でパリに上ったというエピソードに因み、旅と自然のイメージをコレクション全体に落とし込んでいる。森、草原、そこで暮らす人々の装いからインスパイアされ、山岳民族の衣装を思わせるコートや、羊毛を思わせる植物繊維をメッシュに手で縫い付けたファーのコート、スレート風のボタンをあしらった60年代風のジャケットなど、自然を想起させる要素を各ルックに配した。合わせられたバッグも、ログハウス型のボックスタイプや水牛の角風の素材を持ち手にしたバケツ型、レザー製のバラのコサージュで埋め尽くしたものなど、それだけでオブジェのような愛らしさと美しさを秘めたアイテムばかり。全てにおいて、目を楽しませてくれるコレクションとなっていた。

CFCL

「Knit-ware:Sculpture」と題した高橋悠介による「CFCL」は、ドイツ人アーティスト、ヨーゼフ・ボイスによる社会運動とアートを結び付けるという『社会彫刻』の概念に影響を受け、服づくりを通してより良い社会を作れないか、という問いに行き着いたという。ヨーゼフ・ボイスは、第二次世界大戦中、ドイツ空軍に従軍したが、クリミア上空でソ連軍に撃墜されてしまう。現地の遊牧民であるタタール人は、意識の無いボイスの身体に動物由来の脂肪を塗り、フェルトで身体を覆って体温を保った。それにより無事に生還し、その事象がインスピレーション源となり、その後の作品には脂肪とフェルトが多用されることとなった、という経緯がある。今季は、そんなボイスの提唱した概念と作品自体からインスパイアされたルックが並んだ。ボイス作品のフェルトを思わせる素材のコートや無造作なドレープを描くドレスなど、これまでのアイコニックなシルエットであるポタリーとは大きく異なり、造形的で新しいシルエットが生まれている。ボイス作品『7000本の樫の木』へのオマージュとして現れたのが、樫の木を箔でプリントしたドレス。箔プリントはドレスのフリンジにもあしらわれ、立体的な陰影とフリンジの流れるような動きがエレガントな印象を与えた。後半はドレッシーなアイテムが多く見られたが、厳格な中に艶っぽさも感じられ、このブランドの新しいスタイルが切り拓かれていた。

パリコレクションの会期のほぼ終わりのタイミングで、パリの中でも大手となったプレス事務所、ルシアン・パジェスから一通の案内メールが届いた。80~90年代にニューヨークコレクションを舞台に活躍し、伝説ともなっている御年83歳のベッツィ・ジョンソンが、珍しくパリで作品を発表するという。と、私は勝手にそう理解していた。会場はシャトレ劇場のステージで、パリコレクションを主催するクチュール組合の公式カレンダー上には無く、また21時スタートとのことで、ごく限られた招待客のみに披露された。フェティッシュでダークな内容のコレクションで、これまでのベッツィ・ジョンソンとは大分違う、と思ったのだが、そんなことを考える間もなく、ショーが終了して幕が上がり、ステージの向こう側の客席側に座る大観衆に目をむいた。シャトレ劇場では、連日ショーの中継をシャトレ劇場で鑑賞するという、インフルエンサーのリヤス主催による『La Watch Party』が開かれており、その日は最終日で、シャネルのショーを中継で見る日であった。そして、その後にシークレット・ショーが予告されていたのだが、それがそのベッツィ・ジョンソンのショーだったのだ。観客は、まさか先程までプロジェクションで見ていたショーが目の前で行われていたとは思わず、またベッツィ・ジョンソンのショーの招待客は、プロジェクションで中継されていたとは露知らず。ショーの招待客も劇場の観衆も、お互いにビックリしたのだった。しかし、二度ビックリしたのが、ベッツィ・ジョンソンは思い描いていたニューヨークのその人ではなかったことである。もっと若いイギリス人女性だった。「トピックが出来た」とほくそ笑んでいたのだが、見事に裏切られた気分だった。しかし、ショー自体は一つのエンターテイメントとして興味深かったので良しとしたい。
今季も特にトレンドらしいものはほとんど無かったが、多くのコレクションで目に付いたのが赤である。ラコステはテラコッタに近い赤を多くのルックに用い、ステラ・マッカートニーやCFCL、ジバンシィやドリス・ヴァン・ノッテン、アライアは差し色として、イザベル・マランは80年代を象徴する色として赤を使った。その他に、イッセイミヤケ、CFCL、そしてバレンシアガが使った赤に近いパープルが印象的だった。一つのキーカラーになる可能性があるかもしれない。ただ、パリコレクションに参加するデザイナーは、それぞれが思い思いにクリエーションに勤しみ、他の作品に影響を受けることは少ない。経験上、大きなトレンドになるとも思えない。
ただ服ではなく、ファッション業界の中でも主力商品とも言えるバッグについては、少なからず明確なトレンドがあったと言える。それが、半開きのバッグである。最初に注目されたのが、昨年のマチュー・ブレイジーによるシャネルのコレクションだった。そして今季はロエベとルイ・ヴィトンが、ジッパーを開け放して持つことを想定したバッグを発表。スリや追いはぎが横行するヨーロッパでは苦戦しそうだが、もしかしたら日本では流行するかもしれない。

取材・文/清水友彰
写真/ブランド提供

清水友顕(しみず ともあき)
1994年、大学卒業後に渡仏し、96年にモード学校ステューディオ・ベルソーを卒業。ランバン、ケンゾーでの実習経験を経て、ファッションジャーナリストとして活動。古いビーズやぬいぐるみ収集を発端に蚤の市巡りがライフワークとなり、2010年以降は蚤の市イベントを日本各地で開催。著書に『パリ蚤の市散歩〜とっておきガイド&リメイク・リペア術』、『パリのヴィンテージファッション散歩』。

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