この現実を前に、楽天ファッションウィーク東京は新たなアプローチを模索している。会期外でのコレクション発表を「前提」として受け入れ、それに対応する体制を構築し始めた。
1月から2月にかけてメンズを中心に行われたショーについては、 JFW がプレスやバイヤー向けにスケジュールを配信するなど、告知面でのサポートを強化。また3月の公式会期中には、台湾や中国のファッションウィークとのパートナーシップショーを開催している。新興デザイナーのインキュベーターという従来の役割に加え、ファッションウィークそのものをイベント化して注目度を高めるオーガナイザーとしての機能が、明確に変化しつつある。
まだトライアンドエラーの段階ではあるが、東京ならではのファッションウィークの形をどう確立していくのか。その変容を注視していきたい。
存在感を増す「ジャパニーズ・ミニマリズム」
日本発のシンプルなメンズブランドが、いま世界のファッションシーンで新たな潮流を生み出している。
かつて日本の男性ファッションは、欧米のトレンドを咀嚼し、日本人の体型や感性にアダプトさせることが主流だった。しかし今、その図式は逆転しつつある。日本の市場で研ぎ澄まされたクワイエットな美意識とクラフツマンシップが、「ジャパニーズ・ミニマリズム」のファッション版として注目を集めている。そして国内やインバウンドニーズはますます拡大している。
この動きを加速させているのは、円安という経済環境の変化だ。ラグジュアリーとリアルクローズの中間に位置する「コンテンポラリーマーケット」において、価格高騰したインポートブランドの存在感が相対的に低下。その隙間を、クオリティーと価格のバランスに優れた日本ブランドが埋めるようになっている。
今シーズンの楽天ファッションウィーク東京では、こうしたシンプルなデザイン、秀逸スタイリングを強みとするデザイナーたちのショーが目立った。
今季は服の正統性を訴求し、男性の日常的なワードローブをレイヤードで再構築した。テーラリングにオーバーフィットなコートを羽織り、アウターオンアウターを同色でまとめた。デニムジャケットの上にロングトレンチの片掛け、コーデュロイとチェック柄をドッキングしたチョアコートなど、素材の組み合わせにも遊びが見られた。
最も印象的だったのは色使い。アーストーンを基調に、チェリーやキャロットなどレッド系を起毛やニットで表現し、ライムでアクセント、ホワイトのトーンオントーンで清廉さを演出。
ブランドの特徴であるエイジング表現は、クリーンさやタイムレスな要素と掛け合わせることで、ルック全体にニュアンスを与えている。
フィンランドの映画監督、アキ・カウリスマキの「労働者三部作」から着想を得た今季は、彼の作品が映す人生の哀愁をコレクションに反映しているようだ。使い古したようなエイジングを施したワークウェアに、ユーティリティー由来のディテールを利かせたテーラリングを挟み込み、物語性を高めた。
カラーパレットはブラック、ネイビー、ベージュといった労働着のリアリティーに寄り添いながら、無垢なホワイトを差し込むことで、希望を表現したという。素材はタフなウールやコットンを軸に、シルクやカシミヤ混の柔らかさをブレンド。粗野さの奥ににじむ上質感も感じさせる。現代の実用性とニュアンスが同居するコレクションだ。
パリメンズでメンズモデルによるショーに続き、東京では女性モデルでウィメンズラインをお披露目した。
コンセプトは「Beyond Form」。彫刻家であり画家のジャン・アルプから着想を得て、「自然界に直線はない」という概念に基づき「有機的な曲線」を表現した。歪んだフロントプラケット(前立て)、アシンメトリーな合わせ、身体に巻き付けたニット、新たな発想のレイヤードなどが印象的だ。
「YOKEの新しいフェーズを見せたかった」と語るデザイナー、寺田典夫。フィジカルではウィメンズラインを見せながら、映像ではメンズモデルによるユニセックスコレクションを映し出すことで、パリで始まり東京で完成させた。
テーマは「主観に捉えた私」。ウールトレンチ、テーラリング、ワークアイテムといった普遍的なピースを軸に、個性豊かなアイテムが加わる。「ミクスチャー・スタイルの原点」と名付けたNO-BRAINER PANTS、立体的なニットプルオーバー、ビーガンファーのブルゾン、ハードクラック加工のボアブルゾンなど、多様な素材が奥行きをもたらした。
印象的だったのは官能的な表現。ブラトップや膝丈スカートの肌見せ、メタリック・ラメ糸・ビーガンファーの輝き、レースや透け感、強い色柄を対極の要素と掛け合わせ、「アンセムエー」ならではの「ミクスチャー・スタイル」を完成させている。
日常を描くデザイナーたち
デザイナーが生活者の視点で服を作るというアプローチ自体は、以前からあった。しかし今シーズン注目すべきは、これまで先進的なファッションをクリエートしてきたデザイナーたちまでもが、この領域へとシフトしていることだ。
生活のためのギアとして機能性を追求するケースもあれば、シンプルな設計で着こなしの自由度を最大化するアプローチもある。手法は異なれど、共通するのは「見せるための服」から「生活するための服」への明確なシフトだ。日常を見つめ直し、そこから新たなファッションを立ち上げる。服が主役なのではなく、着る人の生活に寄り添う。この価値観は、もはやコレクションシーンでも一つの前提となっている。
デザイナー横澤琴葉が暮らす東京・西新宿での様子をコレクションで表現。東京マラソンのランナーたちや海外からの旅行客などからヒントを得たという。コレクションでまず印象に残るのは、そのカラフルな配色。まるでブロッキングしているかのようにレイヤードし、街の多様性を映し出す。体にぴったりと張り付くトップスをメンズモデルが着用したり、26年春夏コレクションのアイテムを用いたりと、ジェンダーレスかつシーズンレスな提案も現代の日常にフィットする。多様な人間像をカラフルに包み込んだコレクションだった。
「日常という"誰とも違うロングトレイル"」がテーマ。マラソン参加者の総柄セットアップで幕を開け、テクニカルなトラックスーツが続く。止水ジップやスリングバッグがギア感を強調し、ダッフルコートを重ねたレイヤードは都市生活者の日常を描写。後半は南米山岳民族を想起させるフリンジやシャギーなど、エスニック要素が融合。全員がランするというフィナーレの演出も印象的だった。
造形と立体感で美を追求
クワイエットやミニマルの潮流から意図的に逸脱するコレクションも目立った。造形性と立体感で服の存在を主張する。そんなアプローチを取るデザイナーたちだ。ワイヤーや電飾を用いて、コンセプトを大胆に可視化する試みもあれば、プリーツやドレープといった伝統的な技法で、さりげなく立体的なディテールを生み出すアプローチもある。
手法の振れ幅は大きいが、いずれも「服そのものの美しさ」を前面に打ち出している点で共通している。生活に寄り添う服が増える中、あえて服を主役に据える。その対照的な姿勢もまた、今シーズンの東京を特徴づけるものとなった。
衣服と身体の関係を再定義する「ヨウヘイオオノ」。膨れ、トロンプイユ、ねじれなどでタフタのドレスやニットアイテムに大胆なフォルムを構築した。カットワーク、電飾、大ぶりのフリンジでエッジを効かせながら、軽やかに魅せる。ほとんどのアイテムがトランスフォームされているのも特徴。Tシャツを捻ってケープにしたり、パネルのようなオブジェをドレスにしたりした。「オートモードヒラタ」と協業した目が覗くキャップ、シューズブランド「スリートレジャーズ」と製作した厚底シューズ、ラストフレームと作ったニットバッグ、グラスを歪ませたアクセサリーオブジェなど小物づかいも魅力的。
特徴的なのは、彫刻的なフォルムを描くアイテムの数々。コクーンシルエットをベースに膨れ上がったドレスやセットアップが登場し、服そのものが立体作品のような存在感を放つ。ニットワークやカッティングワークが効いたアイテムも目をひいた。印象的だったのは、1960年代のミッドセンチュリー・モダンを想起させるカラーパレット。彩度の高い色彩が、立体的なフォルムを鮮やかに包み込む。レトロでありながら新鮮な配色が、実験的な造形に温かみと親しみやすさを与えていた。
氷原をテーマにした26年秋冬コレクションを発表した「ナゴンスタンス」。極寒地で必需となるファーのブルゾンやパンツ、パフジャケットをエシカルかつモダンに変換。カラーパレットは氷原を思わせるホワイトとアーシーカラーをベースに、オーロラのようなアイシーなパステルをアクセントとして散りばめた。
スポーツシーンから着想を得る同ブランドらしく、アイスホッケー、スピードスケート、フィギュアスケートといったウィンタースポーツのユニフォームディテールやプロテクター構造を巧みに取り入れている。ユニークなのは、氷原の動物たちをイメージしたもの。ペンギンのクチバシを模したディテールのワンピースなど、ユーモアたっぷりの要素が、機能的で無味になりがちな防寒ウェアに映えた。
パリ装飾美術館の18世紀から現代までのアーカイブを研究し、パリファッションウィークで発表したコレクションを東京向けにアレンジした。美しいドレープ、ラッフル、リボンをあしらった流動的なディテールのドレスには、パニエを組み入れて独特のシルエットを実現。衣装保管用布からインスピレーションを得たシアー素材を被せたルックや、造形的なミニのフレアドレスも印象的だ。
他に目を引いたのは、メンズモデルが着用したチュチュのようなレザースカート。歴史的アーカイブをジェンダーレスな視点で現代に翻訳する同ブランドの独創性が際立つコレクションとなった。
「静と動の間にある佇まい」をテーマに掲げた今シーズン。クワイエットでありながら立体感と存在感を放つ、絶妙なバランスが魅力だ。
カーキ、ベージュ、グレー、パープルといったアースカラーを基調に、ゆったりとしたシルエットで構成。ドレープから流れるスカーフモチーフ、ケープレットのようなディテールが生むフロントの膨らみ、オーバーサイズシャツの非対称な裾など、静謐(せいひつ)さの中に動きを宿すディテールが効く。秋冬でありながら、鮮やかなフローラルプリントや点描画を思わせるニットなど、春夏的な要素も印象的だった。
断頭台に散った王妃マリー・アントワネットの晩年を映したコレクション。全盛期の華美なドレスではなく、下着のようなレースドレスや黒衣などクラシカルなアイテムが主役だ。テーラリングは断ち切りを敢えて荒く、ほつれの緊張を残す。ボリュームにウエストマークやクロップトを重ね、膨らみと拘束、長短のコントラストでかすかな官能と厳粛を同居させた。
独自素材とクラフツマンシップ
リアルクローズのボリュームゾーンが低価格帯へと流れる中、コレクションシーンでは明確な差別化が進んでいる。その武器となっているのが、職人の手仕事と独自開発の素材だ。
東京でもこの傾向は顕著で、特に日本ならではの素材や加工技術をモードに昇華する試みが目立つ。今シーズンは、トレンド素材として再注目されているデニムを大胆に解釈したコレクションや、和装由来の素材を現代的に再構築する提案、そして一点物を打ち出すブランドなども印象に残った。他者が再現できない質感と物語性。それこそが、東京のデザイナーたちが世界に向けて打ち出す価値なのだろう。
得意のデニムに改めてフォーカス。サイアノタイプ (青写真技法) で花をホワイトデニムにプリントし、青と白が織りなす静謐な美しさが詩情をもたらす。デニムは染めや加工で多様な表情をもたらした。さらに箔、泥染め、藍染め、ビジュー装飾、エイジング加工など複数の手法を単一アイテムへ組み合わせ、新たな表現を実現。無造作なレイヤリングなど自由でアーティスティックなスタイリングも光る。またレザーやシアリングを使用したアイテムも魅力的。シアリングにスムースレザーを切り替えたビュスチェのようなアイテムも目をひいた。
月を思わせる巨大な球体照明、民謡コーラスグループの歌唱と、日本らしい情緒に満ちたショーを開催した。デニムのトラッカージャケットやデニムシャツの上に半纏(はんてん)のようなジャケットを羽織って古来の「日本の重ね」のような着こなしや、「ヴァンズ」とコラボした足袋スニーカーが登場。そして、ボロのアーカイブプリントや ジャカードでボロを表現した生地 、手の温もりを感じるステッチなど豊かな表情、手仕事のディテールがふんだんに見られたコレクションだった。
ビンテージの輸入・バイイングの経験を持つ佐藤紀夫が手がけるブランド。訪日客に人気のブランドとなっている。絢爛豪華な着物や帯をアップサイクルし、トラックジャケットのセットアップ、トラッカージャケット、ボンバージャケットなど、ストリートスピリットに満ちたウェアを作り上げた。
セントマーチンを卒業し、トップメゾンでキャリアを詰んだ工藤花観。同ファッションウィークの初日のトップでショーを行うなど、今注目度の高いデザイナーだ。インハウスの職人が一つ一つ編み上げる「HANDSPUN HANDKNIT」シリーズをキーにコレクションを発表した。複雑な編み模様を見せるニットドレスから始まり、テーラーリングに羽織ったガウン、花を入れたバッグなどが登場。またファータッチ素材を使用したドレスやブラトップなども見られた。
ローカルPOPカルチャーの独自進化
欧米のコレクションブランドが踏み込みにくい、ローカルなPOPカルチャーを軸にしたコレクションも健在だ。
今シーズン特に印象的だったのは、ロマンティックさでファンコミュニティーを醸成しているブランドたち。彼らは顧客層に近いモデルをキャスティングし、物語性の高い演出でショーを構築。インディーズ感溢れるプレゼンテーションで、メインストリームとは異なる美意識を提示した。
すべて手作業で商品を作り出す同ブランド。得意とするニットを中心としたコレクションを芝居仕立てのショーで披露した。ふわっとしたAラインシルエット、花柄、パステルカラー、ハンドニットなどをレイヤードやミックス。まるで人形のような甘いルックが中心だ。くしゃくしゃの紙のような素材のワンピースや「キジマタカユキ」による大きなリボン型の糸が垂れたヘッドピースなど、よく見るとそこには脆さや儚さも感じさせる。今回のテーマである死後の世界を感じさせ、独特の世界観を強く伝えるコレクションだった。
昭和51年に開業した新潟の地下街西堀ローサの佇まいに着想を得たというデザイナーの「ユェチ・チ」。ドリーミーでロマンチック、ヘルシーでセンシュアルなルックは職人の手仕事によって創り上げられたもの。一針一針のステッチやニットワークによってつくられた花モチーフ、独創的で精緻なバランスのレイヤードなどが彩る。レースやビーズ刺繍、ハンドスプレーによるペイントを施したティンバーランドのブーツ、IPキャラクター「ロイヤルモリー」とのコラボレーションアイテムも登場した。
会場を小劇場に見立てて芝居仕立てのショーでコレクションを発表した。モデルが階段を降りながらルックを披露。大きく膨らんだ舞台衣装のようなワンピースがキーアイテムだ。フローラルやたっぷりとしたギャザーやシャーリング、ラッフル、フリルでロマンチッなどルックも共演。それらにスポーツやスクール要素のリアルクローズを挟んで提案した。
クなムードが広がる。芝居のように、ダークガーリーやフォーマルなムードのメンズ
ブランド20周年を記念するショーを行った「ペイデフェ」。ブランド名の英訳 Fairylandをショータイトルにしてまさに「おとぎの国」を表現したコレクションを発表した。 ふんわりとしたAラインドレスやバブルヘムのロングスカート、ボウタイ付きやプリント入りベルベットのブラウス、デコラティブなシアートップでファンタジーなストーリーを提案。空や花畑の風景画、フリル、透き通った羽根、ベール付きとんがり帽などがフェアリーなムードを高める。目や月のモチーフなど、ダークでシュルレアリスティックなルックも登場した。
取材・文:山中健
大手百貨店、外資系ブランド、大手経営コンサルタント会社を経て、ファッションビジネスコンサルタントとして独立。
アパレル業界を中心に、ライフスタイルショップ、百貨店、SCなど幅広い業態に対しマーケティングやMD、リテール、海外進出のコンサルティングを手掛ける。
2011年から2025年までapparel-web.com編集長として国内外のコレクションを取材。現在は複数の媒体の外部エディターとして活動している。
