毎月のテーマを設定し、新宿靖国通り店だけのVMDを展開

無印良品は2022年秋冬シーズンからアパレル分野の見直しを進め、無印良品を象徴するベーシックな「定番」を追求しながら、環境に負荷をかけない素材を使い、コーディネートやスタイリングを想定した商品の開発に力を入れてきた。結果、衣料品部門は業績を伸ばした。ただ、10~20代の人たちが衣服を購入する際に「残念ながら、無印良品の服を普通に思い浮かべていただくまでには至っていなかった」と無印良品 新宿靖国通りの酒見翔店長。若年層にもファッションの選択肢として認知される、無印良品の服の魅力をより広く伝える場作りが課題となっていた。
その実現に向けて着目したのが、無印良品の全カテゴリーを集積する路面店が徒歩3分圏内に2店舗ある新宿エリアだった。界隈を訪れる人たちに聞き取り調査をしたところ、「どちらかの店舗しか知らないという人が意外と多かったことから、役割を分け、2店舗で1つのMDを組むという方向性が定まった」と酒見店長。靖国通り沿いの「MUJI新宿」を初の衣服特化店「無印良品 新宿靖国通り」へ、新宿通りの伊勢丹隣りに立地する「無印良品 新宿」を生活雑貨・食品特化店へと刷新する構想を固めた。「新宿靖国通り店では、無印良品の服って地味だなと思っていた人にも、こんなに格好良く着られるということをしっかりと見せられる空間作りを目指した」と話す。

「無印良品 新宿靖国通り」の酒見翔店長

無印良品 新宿靖国通りは4層からなり、売り場面積は約1220㎡。1階はシーズンアイテム、2階は「ReMUJI(リムジ)」と「MUJI Labo(ムジラボ)」、MB階はウィメンズ、地下1階はメンズとトラベルアイテムで構成し、カフェも併設する。新たな店作りに当たって重視したのはVMDだ。店舗専属でVMDを担当する「ストアVMD」を新設。全店舗から志望者を募り、5人編成のストアVMDチームを組織した。特に店舗の顔となる1階フロアは、他の無印良品の店舗とはかなり見せ方を変えている。

靖国通り沿いに立地する「無印良品 新宿靖国通り」

なかでも「1階は全てVP(ビジュアルプレゼンテーション)と捉え、来店したお客様にとって発見のある空間を意識しています」とストアVMDマネージャーの柳下早世さん。ほぼ毎月、テーマを設定し、スタイリングを軸に空間全体を作り込む。昨年10月のオープンに際しては無印良品の定番アイテムをスタイリッシュに見せることを念頭に「ブラック&ホワイト」をテーマとし、黒と白をメインに構成した。11月はクリスマス商戦に向けて「ホリデー」をテーマに白を軸としたスタイリング、1月からは環境負荷が非常に小さく、軽くて温かい天然素材「Kapok(カポック)」の素材感と着こなしを伝えた。

ストアVMDマネージャーの柳下早世さん

3月のテーマは、無印良品が毎年この時期にフォーカスしている「ヘンプ」と「リネン」。リネンはナチュラル感、ヘンプはやや光沢のあるきれいめな素材感を特徴とする。共に天然素材で、特にヘンプは少ない水でも育つことから、砂漠のイメージと掛け合わせ、「サファリ」のテーマを1階の空間全体を使って表現した。ウインドーや天井では商品になる前の生地を波打つように象徴的にディスプレイし、売り場の随所にサボテンやヤシの木などの植栽を配置、壁面には動物のアート写真やラグ、籠など、スタイリングのステージにはビンテージのトランクを配置し、砂漠の旅を連想させるプロップを点在させている。
最も目を引くのは、メインとなる中央のVPゾーン(トップ画像)だ。サファリのイメージにつながるカラーとしてベージュとホワイトに絞り込んでアイテムをセレクトし、7体のマネキンでスタイリングを表現した。「お客様は年代も国籍も様々なので、誰もが楽しめるよう、ベーシックとファッショナブルの2軸で多様なスタイリングを心掛けている」と柳下さん。春夏の着用に向けて撥水加工を施した生地などのアイテムや他の売り場で展開しているポーチなどの小物も取り入れ、スタイリングを組む。

ベージュとホワイトを軸にスタイリングを提案

左右のゾーンでは、ブラウンやレッドなど今季登場した深みのあるアースカラーのアイテムを男女のマネキンに着せ付けて前面に出し、平台とラックで定番のカーキやホワイトなどと共に全色を見せる。壁面の棚とラックではアイテムごとにカラー展開し、来店客が選びやすく、コーディネートしやすい陳列となっている。VPゾーンの後ろでは、ヘンプとリネンを軸としながら、例年4月以降に需要が増えるカットソーアイテムも加え、コーディネートを組めるよう選定したアイテムを棚とラックをミックスしたライブラリー什器内にレイアウト。次を予感させるストーリーがVMDに体現されている。
「1階が大きく変わり、通常店舗よりもビジュアル提案を充実させたことで、20代を中心とする若いお客様がとても増えた」(酒見店長)と好調に推移している。

エントランスから左手の壁面ではウィメンズをアイテム別にカラー展開
深みのあるレッドなど新たな色を見せる。プロップでサファリのイメージを表現
右側の壁面ではメンズをカラー展開
無印良品にありそうでなかった色展開
ライブラリー什器には当月の打ち出し商品と翌月に需要が増える商品をコーディネートが組めるようセレクトして陳列

メンズ、ウィメンズの売り場は「買い回り」しやすく

MB階はウィメンズ、地下1階はメンズを集積する。両フロアとも基本的なMDは他の無印良品の店舗と同じだが、商品量は充実させ、内装や什器、ゾーンごとのレイアウトを変えている。「何がどこにあるのかがアイテム、カラー、素材から探しやすく、買い回りしやすい陳列を重視した」と柳下さん。平場では服種ごとに島を作り、マネキンでシーズンのスタイリングを見せ、什器では各アイテムのカラーバリエーションを見せる。壁面の棚では、最上段にコーディネートしたマネキンを置き、その下にコーディネートを構成している各アイテムをカラー・デザイン別に陳列することで、目当てのアイテムを見つけやすくしている。「ウィメンズフロアは棚や台に木製の什器を多用し、グリーンやアート作品を随所に配置することで全体的に柔らかな印象に。メンズフロアは、改装時に出たアルミの端材を加工したシェルフを使い、木製のシェルフと組み合わせることで、ウィメンズフロアよりも硬質なイメージを表現しました」。
地下1階はメンズをメインに、トラベルアイテムの売り場やカフェを併設していることもあり、新宿靖国通り店で売上構成比が最も高いフロアとなっている。メンズフロアは仕事帰りや界隈での買い物帰りの来店客、訪日外国人客が増加した。「お客様からは『無印良品ってこんなに商品があったんだ』『見たことがない商品がある』といった声をよくいただきます」と酒見店長。定番のコットンのTシャツやシャツをはじめ、ジャケット類も好調だ。ヒットしているのはダブルジャケット。再生ペット糸を使い、ピークトラペルのダブルに仕上げた。「きれいめのビジネスカジュアルで、洗濯後にシワになりにくいのも魅力」となり、同素材のパンツとのセットアップで買い求める。訪日外国人客はアジア圏を中心に欧米からも増加中で、店舗売り上げの30~40%を占める。旅行中に増えた土産品などを運ぶキャリーバッグが売れ筋だ。

MB階のウィメンズ売り場
壁面でのコーディネート提案と商品陳列
壁面でのコーディネート提案と商品陳列
地下1階のメンズ売り場。ステージは前店舗から引き継いだ
地下1階のメンズ売り場。ステージは前店舗から引き継いだ
再生ペット糸を使ったダブルジャケット

カフェ・レストラン「Café & Meal MUJI(カフェ アンド ミール ムジ)」は08年から継続し、今回のリニューアルでは座席数を増やした。大きなシャンデリアが特徴で、ワイングラスでできている。「豪華さを出すためではなく、日常に使うものをこんなふうに配置するとこんなに素敵になるという提案」として設置したもの。写真スポットとしても人気だ。
地下1階から地上1階までは吹き抜けが設けられ、425×425cmサイズのデジタルサイネージで無印良品の環境活動や物作り、シーズンアイテムなどを紹介している。

ワイングラスでできたシャンデリア
「Café & Meal MUJI(カフェ アンド ミール ムジ)」
デジタルサイネージでは無印良品の取り組みなどを紹介

服を、店を、未来へつなぐ

2階は服の可能性を広げるラインナップで構成している。回収した衣服をリサイクル、アップサイクルして再販する「ReMUJI(リムジ)」は2階フロアの約半分を占め、これまでで最大規模となる。手を加えれば着られる服を藍色や黒に染め直した「染めなおした服」、洗いをかけて古着として提案する「洗いなおした服」、そのままでは着ることができなくなった服を解体して使用可能なパーツをドッキングさせた「つながる服」を展開し、リムジの取扱店舗では最多の品揃え。「古着ショップに来たような感覚で、自分だけのオリジナルを見つけ出すような楽しみ方ができます」と酒見店長はいう。隣りの2階エントランススペースには回収センターを設置し、回収から生産までの工程を解説するとともに、廃棄物の削減や資源の循環化、服を大事に着続けることを客と共に考えていく姿勢を伝えている。
売り場のもう約半分を構成するのは、未来の無印良品の定番作りを目指す実験的なライン「MUJI Labo(ムジラボ)」。性別や年齢を問わないワードローブとして、春夏・秋冬ごとにシーズンテーマを設け、「新たに服を再定義する」商品開発を続けてきた。24年春夏は「機能」に焦点を当て、「乾きやすい」「汚れが落ちやすい」「燃えにくい」「撥水」を追求したアイテムを提案している。乾きやすいニットポロシャツ、汚れが落ちやすいブルゾン、アウトドアシーンでの着用を想定して燃えにくい素材を使ったジャケットやベストなど、ベーシックなデザインに機能をしっかりと凝縮したアイテムが並ぶ。この品揃えも無印良品では最多となる。
取材時には「伝統・知恵から生まれた服」も提案されていた。世界各地、特に東洋の生活文化を生かし、そこに息づく知恵や情緒を服として未来へつないでいくことを目指す取り組みだ。和紙・綿混のブラウスやワンピース、ラミー・綿混のデニムシャツやコートなど興味深い。タイの漁師の日常着に着想を得た「漁民パンツ」は、スカートのようなオーバーシルエットで動きやすく、ジェンダーを問わず着こなせる。

「つながる服」など1点物が並ぶ
最大規模となる「ReMUJI(リムジ)」の売り場
伝統・知恵から生まれた服 「漁民パンツ」
MUJI Labo(ムジラボ)」。写真は「汚れが落ちやすい吸湿速乾クルーネックTシャツ」

2階に並ぶ服もそうだが、環境対応を前提とした「循環」化は無印良品が積極的に取り組んでいるテーマだ。今回の店舗刷新に当たっては、「ごみを出さないリニューアル」をテーマとした。前述したメンズフロアのアルミの棚板、さらにファサードの「MUJI」のネオンサイン、1階の鉄板を張った柱、レジ台や商品を陳列するステージ・什器など、可能な限りリサイクルないしはリユースしている。
また、無印良品では各店舗が立地に応じて「地域のコミュニティーセンター」を目指しているが、新宿靖国通り店では2つのプロジェクトに取り組んでいる。1つは、新宿エリアの飲食店や物販店などを紹介する「SHINJUKU to GO」。無印良品の視点で界隈の約80~100店舗をセレクトし、各店ごとの紹介カードを作成して1階奥に集積している。来店客は自由に持ち帰ることができる。訪日外国人客にも対応できるよう、今後は外国語の説明に飛べるQRコードを付ける考え。もう1つは「新宿アート工房」。新宿と縁(ゆかり)のある若手アーティストを募り、「新宿」をテーマに創作したアート作品をシャツやTシャツなどにプリントする有料サービスだ。「次代を担うアーティストたちと共に新宿を盛り上げ、新宿の新たな魅力を感じていただきたい」と酒見店長は話す。

リニューアルで出た端材を加工した棚板
レジ台は前店舗から引き継ぎ、色を塗り替えて再利用
「新宿」に想を得たアートをTシャツなどにプリントする「新宿アート工房」。アーティストの発掘・支援にも役立てていく
1階にある「SHINJUKU to GO」

商品面では新宿靖国通り店とネットストアの限定アイテムの販売や、一部アイテムの先行販売も行うほか、サービス面では予約制で専門スタッフによるスタイリング相談やパーソナルカラー診断、さらにフィッティングルームの貸し切りなどにも対応していく。新宿エリアで衣服特化店の基盤を築き、今後は国内の都市部はもとより、アパレル比率の高い海外での展開も視野に入れている。

写真/野﨑慧嗣、良品計画提供
取材・文/久保雅裕

関連リンク

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディターウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

Journal Cubocci

一覧へ戻る