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アジア圏への広がり
初音ミクで最も有名な楽曲は「千本桜」だろう。CM曲に使用されるなど、既存の枠を超えて聴かれていったこの曲は、昨年、NHKの紅白歌合戦で小林幸子の歌唱により、全国のお茶の間にその旋律を響かせた。
「僕の位置づけでは、不思議な力学が働いて、21世紀に、ニコ動経由で演歌の最新型が生まれてしまった……っていうのが“千本桜”なんです。そしてこの曲だけが唯一、上の世代にまで届いているんですね。あるカラオケチャートが、世代別に歌われている楽曲のチャートを出しているんですが、10~20代ではアニソンとVOCALOID曲がトップテンのほとんどを占めているんです。30代過ぎからいわゆるJ-POPが入ってきて、60代以上になると演歌になる。60代以上が演歌層で、30~50代が80~00年代の歌謡曲/J-POP、10代~20代はVOCALOID曲とアニソンといったように、世代間でギャップがあることがわかります」
時代は変わり、既にJ-POP、バンドシーンにはVOCALOIDによる楽曲からキャリアをスタートさせたアーティストが次々と登場している。
「今の時点では、たとえば、米津玄師さんのように、BUMP OF CHICKEN、RADWIMPSといった日本のロックがルーツにあって、VOCALOIDでクリエイターとしてのキャリアをスタートさせた世代がシーンの中核に現れ始めています。VOCALOID曲を聴いて音楽を始めた世代は当然これからも出てくると思うんですが、反面、VOCALOID曲に対する世代間のギャップはものすごくある。演歌や歌謡曲、そしてJ-POPがある意味連続して見えるのは、それがテレビっていうメディアを主戦場にしていた音楽だからだと思っていて。VOCALOID曲は、テレビというものに適していない……適していないっていうと語弊あるかもしれないですが、少なくとも、VOCALOID曲がテレビでフィーチャーされたことは一度もない。唯一の例外が“千本桜”なんです。VOCALOIDの楽曲は、ネット動画っていうアーキテクチャーありきの、たとえば画面にコメントがあふれかえるようなニコ動的な視聴環境に適した、常に注意をひきつけるような音楽なんじゃないかと思います。ニコニコ動画で育ったというのがやっぱり大きい。それから――VOCALOID曲とアニソンは別なものなのですが――例えばアニソンも構造的に89秒という、オープニングとエンディングの決められた尺があって、それに全部おさめなきゃいけない。昔のアニメと違って、今のアニメはストーリーの情報量が全然違うので、登場するキャラクターも今のほうが数が多いと思うんです。群像劇のようになってますから。そうすると89秒の中で見せる絵が格段に増えている。絵にあわせたフックを全部入れると、当然展開とキメが多量に詰め込まれた曲調になる……こういった要素が海外の音楽にはない。日本のアニメ、VOCALOID曲、およびニコニコ動画だからこそ生まれ得た音楽性なんだろうと思います」
初音ミクの人気は海外へも広がっている。欧米でのイベントなどで歌う彼女の姿をニュース映像などで見たことのある人も多いだろう。そして、この海外での人気において特筆すべきが、アジア圏の少女たちへの大きな認知とリスペクトだ。
「小学生の女の子が初音ミクを好きだっていうことは、すごく可能性を感じさせてくれることだと思っています。10年後、20年後に、初音ミクを原体験にした女性アーティストが大量に現れて、シーンの底上げをするかもしれない。もうひとつ可能性があって。海外での人気に関して――初音ミクはアジアで特に人気がある――クリプトンの伊藤社長に聞いたんですが、初音ミクのファンコミュニティが、FacebookなりGoogle+なりのSNSで広がっているんだそうです。アメリカやフランスはもちろんですが、統計をとったら実はインドネシアをはじめとした、アジア地域にも広がっていた。そして、そこでも10代が多いんだそうです。かつて日本のミュージシャンが、アメリカのポップスに憧れていたように、アジアの10代が日本のVOCALOIDに憧れて育つっていう現象が、今まさに進んでいる可能性があるんですよね。日本のポップス史を探っていくと、海外……特にアメリカ、イギリスの音楽を、どう輸入して、どうローカライズするかが、ずっと課題だった。はっぴいえんどもそうですし、GSもそうですし、ヒップホップもそう。J-POPもそうだった。ただ、VOCALOIDは明らかに海外に前例のない音楽文化です。それがアジア圏の10代から認知され、リスペクトを受けていることは、ある種、文化のフロンティア・ランナーとして存在しているっていうことが言えるかもしれない……いや、あってほしいという、願いがありますね」
(終わり)
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- (C)柴那典/太田出版