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ヴァイオリニストとしてリサイタルを開催するだけでなく、企画性に富んだコンサートや音楽の普及活動なども行う吉田恭子。音楽家だから当たり前なのだが、音楽に対する敬意と感謝、そしてヴァイオリンに対する強い愛情が会話のいたるところで感じられた。
「ヴァイオリンて1500年代中期に姿を現してから、ほとんど姿を変えていない――逆に言うと生まれた時に既に完成された形だったので、どこも直す必要が無い楽器なんです。だけど、誰が発明したのかよく分かっていない。現存する最古のものというのが2台あって、ガスパロ・ダ・サロ(ガスパロ・ディ・ベルトロッティ)という人と、アンドレア・アマティという人が作ったものなんですけど、その人たちが発明したというのは信憑性が薄くて――謎が多い楽器なんです。名器と呼ばれるストラディバリウスなんて、制作されたのは1700年代前半ですが、これが今一番いいと言われています。テクノロジーがこれだけ発達してるのに、300年前につくられたものを超えられないって不思議ですよね」
彼女のニューアルバム『Romanza』に収録された作品のラインナップ、そしてそれらの作品を演奏するために彼女が費やした数々の労力からは、良質な音楽を残すための使命感が感じられる。
「ヴァイオリンは、女性の声に一番近い音を出す楽器と言われているんです。だからアルバム制作では、“歌う楽器としてのヴァイオリン”が伝わるような選曲ということも考えてみました。例えば、3曲目のコルンゴルド〈死の都〉や、9曲目のシューベルト〈アヴェ・マリア〉などは元々歌のための曲です。これらを聴いていただければ、ヴァイオリンが如何に歌心のある楽器かということを感じ取っていただけるのではないかと思います。それから、このアルバムを通して伝えたかったことは、“こんなにいい曲がまだたくさんあるんだよ”ということ。でも、これらの楽譜は廃版・絶版になっているものが多くて、入手するのが本当に大変だったんです。リストの〈ワルツ・カプリース〉は、五嶋みどりさんも弾いてるんですけど、彼女のウェブサイトを見たら、“この楽譜は友人から譲られたものです”という趣旨のことがわざわざ書かれているんです。いろいろと知り合いを通じて当たっていったら、ドイツのオーケストラに所属する、あるヴァイオリニストが持っていることが分かって。それで、調べていたらそのオーケストラのコントラバス奏者がご自分のウェブサイトを持っていたので、そこに“わたしは日本のヴァイオリニストです”って書き込みをしてコンタクトをとったり――見ず知らずの方に(笑)。すべてを自分ひとりでやったわけではないですけど、特に大変そうなものは人を辿って辿って連絡をしてみました。だからこそありがたいと思って弾いてます。ほかにもエピソードがあるんですけど、とにかく廃盤になった楽譜を探すのって本当に大変なんです(笑)」
笑いながら語る彼女だが、これは本当に大変な作業だったに違いない。誰が持っているか皆目見当もつかない楽譜を、人づてに辿っていくわけなのだから。ちなみにシューマンの「ミルテの花」は、ハイフェッツの録音を聴きながら楽譜を自分で起こしたそうだ。
「100年以上も前の人たちなんですけど、素晴らしいヴァイオリン弾きたちが編曲している作品がいっぱいで、それを音として残したかったんです」
(素晴らしい音楽でも)「誰かが残さないと消えてしまう」。そう語る彼女には、もうひとつ使命感を持って行っている活動がある。チェロの渡部玄一、ピアノの白石光隆と行っている「ふれあいコンサート」だ。小中学校を中心に全国を周り、音楽を通じて心の豊かさを育んでもらおうというのがこの活動の趣旨となっている。既に400以上の学校を訪問したそうだ。
「ある中学校での出来事なんですけど、リハーサル中に女の子が入って来たんです。ヴァイオリンは複数台持って行ってるので、遊びで弾かせてあげてたんですよ。その後、コンサートが始まったら、2曲目くらいにその子が入って来たんです。中学1年生向けだったので、2年生か3年生で音楽が好きで聴きたいのかなと思っていたら、コンサート終了後に先生がボロボロ泣いてて。実はその子は学校に来ても教室には入れない、不登校の子だったそうです。自分から音楽室に行きたいと言って、集団の中で音楽を聴くことができたとすごく喜んでくださった。この話には続きがあって、5年後くらいに同じところに行ったら、彼女は服飾デザイナーになっていた。ちゃんと人生が始まっていたんですよ」
この女の子が音楽を聴いて何を感じ取ったのかは知る由もないし、音楽がきっかけでデザイナーになったとは言い切れない。ただ、今まで自分の意思表示のほとんどが“拒絶”だった彼女が、音楽を“受容”し、音楽室に行くという行動を起こしたことは事実だ。その時彼女は、音楽に対して心を揺さぶられる何かを感じた事だけは間違いない。しかしたくさんの場所を訪問していると、寂しい現実に直面することもあるそうだ。
「実は音楽の先生がいない学校って今すごく増えていて、ピアノはあるのにピアノを弾ける先生がいない学校って多いんです。ある学校に行ったときに、ひとりの男の子が話しかけてきて、音楽室の壁を指さしながら“この学校はこんなに外人さんがいたんだよ。すごいでしょ”って。作曲家の肖像を校長室の肖像と同じものと勘違いしてるんです。結局教えてくれる人がいない訳ですよね。わたしの感覚では3分の1くらいの学校では、音楽の先生がいないと思います。このふれあいコンサートは、子どもたちにというのもありますけど、その後ろにいる先生方に向けて発信している側面もあるんです。子どもたちと毎日会うのは先生方ですから。わたしは音楽家なので、音楽を通した話になってしまいますけど、ふれあいコンサートを観て聴いていただいた後に、こんなことをやったら音楽教育がもっと広がるんじゃないかというメッセージを残せたらと思うんですよね」
草の根的な活動で音楽に接するきっかけづくりの種を撒き、かつ往年のヴィルトゥオーソたちの埋もれてしまいそうな名作を後世に残したいと語る吉田恭子。手法は違うが、そのコンセプトは繋がっている。未来だ。後世に聴き継がれる音楽のためには、聴き継ぐ人を育てなければならない。まずは全国の小学校に音楽と美術の先生を配置することからだろうか……。
最後に彼女は、新作『Romanza』を通して、わたしたちにもきっかけづくりの種を撒いてくれた。
「初対面の人と話をするときに、出身地が同じだったり、趣味が同じだったりすると話がはずむじゃないですか。それと同じように、作曲家だったり作品だったりのちょっとした背景を知ると、作品に親しみを感じてより楽しめると思うんです。例えば、シューマンの〈ミルテの花〉。シューマンはクララ・ヴィークという当時ヨーロッパ随一と言われたピアニストと8年越しの大恋愛の末結婚するんですけど、この大恋愛というのが韓流ドラマ顔負けのドロドロ劇。で、やっと結婚するという前夜に贈った歌曲がこの作品なんです。ガルデルの〈タンゴ〉という曲はアル・パチーノが盲目の軍人を演じた映画『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』のワンシーンで流れている曲。映画が好きな人はそのシーンが思い浮かぶんじゃないでしょうか。それから、モンティの〈チャールダッシュ〉は浅田真央ちゃんが何年か前にフリーの演技で使って有名になりましたね。〈トリスタンとイゾルデ〉なんかは、後にシェイクスピアがこの作品をベースに『ロミオとジュリエット』を書き上げてます。こうした背景を知って、自分との共通点を探せると作品はもっと面白くなると思うんですよ。ただ、クラシックはやっぱり生で聴くのが一番なので、後は会場に足を運んでほしいかな」
吉田恭子
ヴァイオリニスト。桐朋学園大学音楽学部を卒業後、文化庁芸術家海外派遣研修生として、英国ギルドホール音楽院、米国マンハッタン音楽院へ留学。アーロン・ロザンド、江藤俊哉、滝沢達也各氏に師事。ヴァイオリニストとして活躍する傍ら、テレビ、ラジオ、雑誌等各種メディアにも多数出演。
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■イベント情報
<ミニコンサート&サイン会>
日時:3月26日(土) 15時30分
場所:ヤマハ銀座店 1Fイベントスペース「ポータル」 [東京]
http://www.yamahamusic.jp/shop/ginza/event/kyoko_yoshida-mini_concert.html
日時:5月12日(木) 18時30分
場所:銀座山野楽器本店 7Fイベントスペース JAM SPOT [東京]
https://www.yamano-music.co.jp/docs/event/index_honten.html
■リサイタル
<~名器グァルネリ・デル・ジェスで聴く「奇才プロコフィエフ」~>
日時:5月15日(日)
場所:宗次ホール [名古屋]
http://www.kyokoyoshida.com/schedule/index.html#160515
日時:6月3日(金)
場所:紀尾井ホール [東京]
http://www.kyokoyoshida.com/schedule/index.html#160603
- 吉田恭子『Romanza』
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3月23日(水)発売/NYCC-27299/2,500円(税別)/ナクソス・ジャパン
http://naxos.jp/news/nycc-27299
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