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――クボタさんはリリックを書くのと、フリースタイルとどっちが先だったんですか?
「フリースタイルが先です。18歳の時にフリースタイルをして、1年後ぐらいに仲間内で“曲を作る”みたいな風潮になってきて、そのタイミングで失恋をきっかけに一番最初に曲を作りました。それが「Nakasu night.」っていう曲になります」
――フリースタイルを始めたのは周りの影響ですか?
「それこそ「高校生ラップ選手権」とか「フリースタイルダンジョン」とか、そういうのが流行ってたのが高校3年生の頃で。お風呂で一人で韻踏みつつ、進学したタイミングで始めたという感じで」
――フリースタイルをやる環境があったからですか?
「いや、やろうと思ってたら環境があったって感じです」
――アウトプットはもしかしたら弾き語りやトラックメイクだったかもしれない?
「そうだったかもしれないですけど、音楽しようと思ってしたわけじゃないくて。フリースタイルをしようとして、その先に音楽があったって感じですね」
――フリースタイルは何が面白かったんですか?
「単純にエンタメとして面白くて。僕、部活をしてたんですけど、強豪校でバレーボールを。そこでいろいろ頭使いながら、“このチームの中で俺が目立つために”じゃないけど、どうしたらいいか、そういうなんていうかスポ根?っぽいところにちょっと共鳴する部分があって、とりあえずそういうところはのめり込みました」
――勝ち負けがあるのが楽しかった?
「めちゃめちゃありました」
――勝ち負けがなくて音楽表現としてやってくださいっていうものだったら、そんなに興味なかった?
「いや、わかんないですけど、その時はリスナー的に見たら、勝ち負けのプロセスでもある、そのやりとりが面白いなと思ってて。やってみたら絶対勝ちたいって気持ちではあったんですけど。まぁ、最初は音楽性というよりはそこだったのかもしれないです」
――勝ち負けにこだわる人ですか?
「……こだわります。でも、このインタビューが載る頃には終わってるんですけど、明後日「戦極MCBATTLE」っていう、日本統一マッチみたいなのがあって、それは僕、あんま勝たなくていいかなと思ってます(笑)。それはネガティヴな意味じゃなくて、そこにこだわるというより、より音楽的なことをしたい。別に相手をいなしてとか、韻を無理くり踏んでお客さんを沸かせるというより、あるビートですごい高等なセッションをしたいっていうことしか考えてないです」
――始めた当初はどんなラッパーからの影響が大きかったですか?
「もちろんR-指定さんにはワーッてなってて。僕が今のところ一番好きなベストバウトは「フリースタイルダンジョン」の焚巻vs般若。すごい名勝負で、あれはすごいなと思います。曲でいうとEVISBEATSさんとか。ビートもすごい好きなんですけど、ラップも好きで。踏み方がちょっとダラっとしてて、でもちょっとユーモアが効いてて、最新の踏み方ではないんだけど、オールドな日本語ラップっぽい、でもそこがめちゃめちゃいいっていうか」
――フリースタイルから始まって、失恋を契機にリリックを書いて曲にしたと。それは残しておきたいことだったから?
「単純に学生の裏アカウントじゃないけど、発散する場ではあったのかなと」
――でも作品にしたら誰が書いたのかわかるから、裏アカにはならないんでは?
「でも、最初は別に聴く人がいるともあんまり思ってなかったですし」
――自分のために書き殴る?
「最初はそうでした」
――それまでは嫌なこととか悲しいことをどう消化してたんですか?
「どうしてたんだろう。ま、それまでは体動かしてたというか、部活してたから、なんかそこでやれば解消されてたんですけど、でも進学して、別にそんなにスポーツとかすることなくなって、行き先がこっちになったのかなって」
――クボタさんのリリック、特に初期は恋愛がらみが多いじゃないですか。それは感情の沸点に到達するのが、そういう出来事だからってことですか?
「そうですね。結構、僕はどうでもいいものはどうでも良くて。変な話、噂話とか僕は聞きたくないんですよ。知らなくていいから。友達のそういう部分も別に知らなくていいと。でも恋人ってなると、どうしても性質上、互いに向き合うから恋人じゃないですか。適度な距離感というのも成り立つけど、向き合わざるをえない、だから、そこで歌詞が生まれるのかなと思いますね」
――なるほど。確かに言葉にして音楽にしてまで残したいものってなかなかないのかもしれない。
「残すというか、書きたいから書いてます」
――それは主に衝動?
「うん。自分は衝動で。ま、残すって言ったら「僕が死んでしまっても」の歌詞、あるじゃないですか。あれは衝動でもあるけど、残さなきゃなと思って」
――この曲は今までと比べると驚きますよね。もちろん延長線上にはあるなと思いますけど。
「うんうん。びっくりしますよね。1曲目ですげえ音鳴ってんじゃん、って。銀杏BOYZかと思いますよね」
――そう!まさに銀杏BOYZみたいなバンドサウンドだなと思いました。
「デモ音源は自分で弾いたんですけど、力入りすぎちゃって、ギターの弦2本ぐらい切れて、途中から高音がないんです。高音弦切れちゃって」
――これは書きたいことが先にあったんですか?
「感情が先にあって、ガッて書いて、これにはトラックじゃなくて、こうギターの音だと思って、バンドサウンドにしました」
――これまでの恋愛を題材にした曲にも「醒めてるな」と思う内容もあったんですよ。でもこの「僕が死んでしまっても」は自分のやってることを否定まではいかないけど、<音楽も言葉も暗い底には届かない>って歌ってるから、自分のやってることと矛盾する部分もある。こんな気持ちになるきっかけがあったんですか?
「諸々タイミングで嫌なことがすごい重なった時期の歌で。でも僕がそう思ったんで、全然音楽聴かない時期があって。ピアノ伴奏モノとかアンビエントミュージックばかり聴いてて。で、なんか人に相談するとかも違うし、愛の歌も全然心に響かないな、と。それをそのまま書きました」
――こういう時ってあるよねっていうのは誰でも感じるかもしれないけど、曲にしたのは?
「でも死の問題って、ほとんど人に話さないじゃないですか。友達とお茶行って、“最近、私、ちょっと死にたくて”とか言わないじゃないですか。でも、大小あるけどみんな思ってるじゃないですか、どっかで。だから、それは強くて思って」
――強く思ったことは曲にする?
「それも職業病じゃないけど、もったいないなと思う、気持ちが。せっかくいい曲書けそう、とかそういうつまらない話なんですけど」
――形にしていく過程ではフラットに見られるようになると思うんですけど、そのプロセスはどうでした?
「衝動って最初のタネだけでいいと思うんですよ。うわって気持ちは。そのあとはそれをどんだけ音にするか、それはフラットな方がやりやすい。で、まぁ自分の歌録りとかも含めて、バンドサウンドを詰めて形にしてって感じです」
――そのせいかこの曲にはクボタさんのセルフプロデュース力を感じました。
「ははは。(笑)ありがとうございます」
――こんなにギリギリのことではあるけど、ほんとにこの人が死ぬとは思わないし、ポップに昇華されているので。
「うん。ありがとうございます」
――でも最後の自殺防止センターに電話かける描写まで書いたのはすごいですね。
「(笑)。これをシングル曲にしてくれたスタッフ側にも男気がありますよね。こんなね?短い曲が流行の時代に6分半のシングルカット(笑)。イントロもアウトロもゴリ長い」
――あれがないとこの空気の中に入っていけないかなとは思いますよ。自分で推したわけではないんですか?
「推しました。推しましたし、一瞬ちょっと反対とかもありつつ、でもいい曲だし推したいと思って」
――この曲があってアルバムタイトルも出てきたのかな?と思ったんですが、違いますか?
「1番は夜だけど2番は朝みたいな?なんかそれを軸に『来光』って付けたわけではないけど、ま、でも絡めてはいます」
――既発曲以外の新曲も全部面白いです。
「ありがとうございます」
――フリースタイルの「拝啓」とか。これはどういうことだけを頭に浮かべてフリースタイルを?
「空音ってラッパーがいて、空音のアルバムの中に「拝啓」って曲があるんですけど、それはクボタのこと思って書いたみたいなことを言ってくれて。で、その歌詞を見ながら改めて聴いたら、“確かに”と思って。でも、“ありがとう”って口でいうよりアンサーソングをいつか返したいなと思って。で、同じ名前の「拝啓」っていう曲をフリースタイルでアンサーソングにしました」
――ラストの「アフターパーティー」も、「僕が死んでしまっても」同様、音像がちょっと不気味で。後ろで鳴ってる音って人の声なんですか?
「人の声のサンプリングですね。最初ギターで作って、ギターの弾き語りデモバージョンもすごいいいです」
――この曲はドライな感じもありつつ未練もあるというか。
「そうですね。ドライを装ってるけど、<殺意込めてキスした>とか書いてて(笑)。「アフターパーティー」って、恋人と別れた後に会っちゃうっていうことで。肩書きは恋人じゃないから、クッソー!みたいな意味で、<殺意込めてキスした>って歌詞にしました」
――クボタさんと同世代ぐらいの男の子が思ってるけど、言葉にできないことだらけだと思うんです。
「ああ、そうですね。多いと思います」
――言葉にすると非常に切ないし怖い。特に歌詞の世界には怖さがあるところが、みんな書きたいけど書けないことだったのかなと。クボタさん自身はこういう曲がないから書こうと思ったわけではない?
「そうですね。なんかでも、まぁでも、それは計算で作ったとかではなくて、曲とかは特に生まれた曲というか。ま、「MIDNIGHT DANCING」とかは、“これ、このままアルバム行くと、全曲ジメジメしちまうな”とか思って(笑)。「博多駅は雨」で、もう湿度マックスなんで(笑)。だからちょっと明るい曲も作ろうかなっていう、コスい考えもありつつ」
――クボタさんの曲の面白さはリリックだけじゃなくてトラックとのバランスもあると思うんですよ。
「ああ、それは言われてみて気づくことですね」
――最初の頃ってビートがあってそこにラップを乗せて行ってたと思うんですが、いつ頃からいろんなウワモノとか加えられるようになってきたと思いますか?
「原点は「せいかつ」かな。「せいかつ」は自分で弾いて作ってやったから、そこから「TWICE」とか、それ以降はそうですね」
――ちなみに作曲はプロデューサーと共同プロデュースというクレジットになってますが、実際の曲作りはどんな感じなんですか?
「いろいろあるんですけど、僕が弾いて編曲をしてもらったりとか、メロディを考えてその他の諸々の作業をしてもらったりとか、そういうキャッチボール系が多いです」
――中にはクボタさんがある程度打ち込みで作ったデモを送ったり?
「そうですね。僕がトラックを作業で詰めるっていうのはあんまりないです」
――音楽性がどんどん広がってきた印象があって。割と早い段階からチルアウトヒップホップ系ってくくりから抜けてると思うんです。
「ちょっと早かったなと思って。マウンティングじゃなくて、めちゃめちゃ音楽好きだから、どうしても一般の人よりは一歩前に音楽の情報とか、音楽的には行ってるわけですよ。だから僕として、もう、ちょっとチルアウトの枠から、その先に行きたいなとか思って。だからいろんなジャンルをやってみたんですけど、世間的にはまだチルアウトヒップホップも全然大好きだったからちょっと早かったかなと思いつつ、でも僕も現段階でこれができたのはすごい面白いなって思います。今後、どういう曲を作ろうかなって、指標にもなりましたね」
――ちなみにクボタさんがラッパー以外で歌詞面で影響受けた人って?
「うーん、歌詞は人を参考にしてっていうのはないんですけど。でもクリープハイプさんは中高時代から聴いてたんで、もしかしたら今、体の一部にはなってますね」
――尾崎(世界観)さんの歌詞を中学生で聴くとどんな印象を受けるんですか。
「最初「イノチミジカシコイセヨオトメ」っていう曲を聴いて、まず声で“女性?男性?”みたいな。“なんだ?”と思って。いい悪いの前に。で、“なんだ?”とは思いつつすごい聴いてしまってて。でも、この曲の2番の<ピンサロ嬢になりました>とか、全然なんのことかわからないんですよ、中学生で。なんかなったんやなって、でも雰囲気でなんとなくわかる。あの曲は共感はないじゃないですか、そういう職業じゃない人は。でも同情なのかな。もしくは作品を見てる感じなのかな、映画とかの衝撃かな。なんかよくわからない形の憂鬱の一部分を歌詞にしてくれる人ができた、みたいな感じです」
――自分のいる世界とは違うけど気分としては共有できたんですね。
「自分のいてる世界と違うとあんまり思ってなくて、特に割と初期の方のクリープハイプさんとかは生活感が溢れてて、あのー、廃盤になった曲がすごいんです、生活感が。“ようそんな歌詞書けるな”みたいな。なんか一番最初らへんの作品に<消費者金融の角曲がりゃ、可愛い女の子が銭湯へ>みたいな歌詞があって、超ギリギリの生活の目線じゃないですか。そういう街で、悲しそうな顔で銭湯に行く、だから多分お風呂もないんでしょうし、とか。共感ではないけど、リアル感や生活感がやばいですね」
――同じことを経験してるわけじゃないけど、尾崎さんが見てる、ギリギリのところを踏み外したらヤバいような世界を感じたんですね。
「「僕が死んでしまっても」とか、もしかしたら同じように受け取る人もいるかもしれない」
――確かに。リスナーの世代によっては全然受け取り方が違うかもしれないけど。
「全然違いますね。僕、地元のおじさんに“これはドライブの時に流しといたらいい曲やな”って言われて(笑)、特殊な感性やなぁと思いました」
――大人なのかもしれない。過ぎ去りし青春ということで。
「ああ、なるほどね。そういう意味ではそうかもしれないです」
――多分、クボタさんの音楽が好きな人はジャンルで聴いてないと思いますよ。
「そう言っていただけてありがたいです」
――どちらかというと「これを歌詞にしてしまったか」みたいな驚きと信用がある。
「ああ、なるほど。確かになんかTwitterのタグで“邦ロック好きとつながりたい”みたいなのあるじゃないですか。SEKAI NO OWARI、ONE OK ROCK、クリープハイプ、クボタカイってあって、“ええ?俺?”みたいな(笑)」
――ありがたい逸れ方ですね。
「うん。それも大事ですね」
――メンタルに食らうのは恋愛や失恋なのかもしれないけど、今回の『来光』では違う側面も出てきて。でも前向きなことよりやられることの方が作品にはなりやすいですか?
「そうですね。明るい曲は作れないですね。人に提供する曲を作ろうとすれば書けるんですよ、“イェイイェイイェイ!”みたいな。でも、自分では歌えないですね。別に僕が暗い人間てわけではなくて……ま、人間て、もちろんやけど明るい時もあるし、おうちに帰って一人暗い時もあるし。でも多分、僕もどっちもあるけど、どっちかというと奥底の方を見てしまうから、必然的にそっちになる。それに明るい時ってあんまり音楽いらないですよね。もちろん、ディスコミュージックがガンガンかかってたらそれは加速しますけど、暗い時にぶっ刺す方が音楽として必要なところなのかな、って感じです」
――リスナーとしての経験もそうだったのかもしれない。
「そうかもしれないです」
――最後にこの『来光』にキャッチフレーズをつけるとしたらなんですか?
「(小さい声で)“ジャンルの幕開け”」
――なんで小声で言うんですか(笑)。OKです。これからも驚き続けたいので、楽しみにしています。
(おわり)
取材・文/石角友香
写真/いのうえようへい
- クボタカイ『来光』
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2021年4月7日(水)発売
DDCB-14076/3,000円(税込)
SPACE SHOWER MUSIC