『超時空要塞マクロス』の先進性
1970~80年代前半が、『機動戦士ガンダム』に代表される“ロボットアニメ”の時代だったとすれば、2010年代は、後に振り返ったとき、今年公開された劇場版『ラブライブ!The School Idol Movie』の大ヒットが記憶に新しい『ラブライブ!』に代表されるような“アイドルアニメ”が、大きな支持を得た時代と位置づけられるのかもしれない。まるで現実のアイドルのように歌い、踊るキャラクター。2次元の世界と現実を交錯する新しいエンターテイメントは、どのように成り立ったのだろう? まずはビジネス的視点からの概観が必要かもしれない。
「1960年代頃は、お菓子や薬品の販売促進としてアニメがつくられるような――つまりスポンサーが一般メーカーでした。1970年代早々には、『マジンガ―Z』から始まるロボットアニメの時代が来た。このロボットアニメの時代には前期/後期とあって、最初は子供向けに超合金を代表とする合金玩具が流行りました。そして、合金玩具が飽和になった80年代に入る頃、『機動戦士ガンダム』が放送後にプラモデルという商材を得た。そこで、成長した高年齢層へプラモデルを売るためにアニメが作られる……といった流れができたんです。そこからほどなく1983年末、OVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)という新しいメディアが出てきました。最初はあまり上手くいかなかったものの、88年に『機動警察パトレイバー』という連続6話シリーズが出てきた。この成功をうけて “OVAシリーズ”と呼ばれるものが流行し始めた時に、テレビシリーズに発展していた『パトレイバー』は――当時はレーザーディスク、もしくはVHSだったんですけど――1本に3話入っているんですが、セル版を買ったお客さんにだけ、4話目に新しいオリジナルビデオをつけますと、そんな商売を始めたんです。それが深夜アニメの先祖なんですよね」
そしてさらに時は経ち、1995年、『新世紀エヴァンゲリオン』が登場する。20年後の今も続くこの大ヒット作品は、アニメのパッケージ・ビジネスにおける大きな転換点でもあった。
「それまでもTVアニメのレーザーディスクはたくさん出ていたんですが、お菓子や玩具に頼らず、作品だけでビジネスが成り立つ形にできたのが『新世紀エヴァンゲリオン』でした。それ以降、“コンテンツビジネス”という言葉が流行りはじめ、パッケージがDVD主流にシフトした2000年代前半は、以前ならOVAとしてリリースされていたものが、テレビ局の深夜営業のショッピング枠を買い取って放送されるようになった。“ただで見てもらって、気に行ったら買ってもらおう”という形になったわけです。DVDはアメリカの需要もあったので、輸出されれば日本で1万、アメリカで2万、合計3万でリクープ……といったようなスタイルで、いわゆる製作委員会方式が主流になっていったんです。この時期が、コンテンツビジネスの最盛期です。ところが2006年頃でしょうか。YouTubeが流行りはじめて、違法配信含めてネットでアニメを観るようになりました」
世界中の誰もが投稿できる動画サイトの登場によって、DVDという記録メディアの中にしかなかった作品を、さまざまな形で世界中のファンが触れられるようになる。時代の変化が始まった。 「コンテンツがバラバラになって時間が分断され、パッケージメディアをユーザーそれぞれが勝手に消費する。ネットがこれを無料にすると、コンテンツ消費が逆に古くなってしまったんです。むしろネットにない最前線、たとえばリアルタイムで誰よりも早く感想を言うことが、新たな価値として台頭してくる。それと“同時に繋がって共有している感じ”が求められ始める。そういうユーザーを束縛する部分は切り離し、好きなときに見ることが出来るからパッケージは良いとされていた。ところが “リアルで見ているほうがすごい”というふうに価値が反転した。部屋の中にいて、好きなときに好きな作品を見る。その優位がひっくり返ったんです。だから、“〈コンテンツ〉の先にあったのは〈ライヴ〉だった”って言うことができると思います。ちょうど同じ頃にCGの技術も発達してきた。その中でこの流れを大きく加速したのが『マクロスF』(2008年)だったと思います。マクロスシリーズの第1作『超時空要塞マクロス』(1982年)は、当時、松田聖子を頂点とするアイドルブームをアニメに取り入れたものでした。ヒロインのリン・ミンメイを演じた飯島真理さんはアーティストで、その飯島さんがアイドル歌手であるミンメイの声を演じるという、現在にも通じる「声・歌同一スタイル」のひな形が『マクロス』だったと思います」
飯島真理が歌った劇場版『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』(1984年)の主題歌『愛・おぼえていますか』は当時大きなヒットを記録した。こういった、現実のアーティストがアイドル歌手のアニメヒロインを演じるといった仕掛けの部分はもちろん、キャラクターの演出に関してもマクロスは先鋭的だった。
「アニメのキャラクターは記号ですから、服を着替えたら別人に見えてしまう。なので劇中の衣装が変わることは、それまでほとんどなかった。ところがミンメイは日常のシーンで服が変わるのはもちろん、ステージ衣装はいくつもある。そのうえ振り付けも照明も、歌に合わせて変わる……これをやったのが『マクロス』だったんです。ビジュアルのイメージ演出も先鋭的でした。劇場版の『~愛・おぼえていますか』では、レーザーがとびかってホログラフが飛び出すっていうミンメイのステージ演出があります。“アニメだからできる未来的表現”と、当時は思っていた。それくらい時代を先取りしていた。でも今の初音ミクのコンサートと、そんなに変わらないんです。『マクロスF』も、今では普通に観られているかもしれませんが、ドローンを使ったような空撮的映像や、ヒロインのシェリル・ノームが、ステージ上でシェリル本人とホログラム映像が絡むような、さらに進化した演出……こういった工夫がいろいろ考えられています。そういう先進的なイメージが、もうひとりのヒロインであるランカ・リーと声の中島愛さんの現実のアイドルがサクセスするストーリーともシンクロしていた。この『マクロスF』が提示した世界観と、AKB48に代表されるようなアイドルブームが重なって、今のような状況に至った部分は大きいのではないでしょうか」
(つづく)
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