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スピッツのシングルコレクション『CYCLE HIT 1991-1997』、『CYCLE HIT 1997-2005』いよいよSMART USENに登場!



2017年、スピッツは結成30周年を迎えた。草野マサムネ(Vo&G)、三輪テツヤ(G)、田村明浩(B)、﨑山龍男(Dr)の同い年4人が出会ったのは日本がバブル景気に突入して間もない1987年のこと。そこから彼らは一度のメンバーチェンジもなく、解散も活動休止もなく今日まで共に歩いてきた。

今年の8月からは結成30周年を記念したアリーナツアー「SPITZ 30th ANNIVERSARY TOUR“THIRTY30FIFTY50”」が全国11ヵ所22公演で開催されたが、ここに銘打たれている“THIRTY30FIFTY50”とは「今年でバンド30歳、メンバー全員50歳」という意味。改めて彼らが重ねてきたキャリアの長さと歴史の重みを感じさせる内容だった。

さて、そのツアーに先駆けてスピッツがリリースしたアイテムがある。それが『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』。説明すると、これはスピッツの全シングル曲に「愛のことば -2014mix-」、「雪風」といった配信限定シングル、さらに本作のためにレコーディングした「ヘビーメロウ」、「歌ウサギ」、「1987→」という新曲3曲を追加した全45曲入りの3枚組CDボックスである。これをベスト盤ではなく、シングルコレクションと呼ぶところに彼ららしさは表れている。つまり本作は主観的なベストではなく、単純にシングルを集めた作品集という解釈で、そこに「シングル=ベストではない」、「シングル以外の曲にもいいものはたくさんある」という彼らの主張が感じられないだろうか?。だからこそ本作は純粋なクロニクル(年代記)として楽しめる一面を持っていると思う。

3枚のディスクは『CYCLE HIT 1991-1997』、『CYCLE HIT 1997-2005』、『CYCLE HIT 2006-2017』と年代別に分けられ、もちろん各ディスク単体でも購入することができる。収録曲はすべて発表順なのでスピッツというバンドの歩みを追うのにも適しているし、自分の思い入れのある時代の歌に直でアクセスすることができる。

そんな3枚組CDボックスについて、個人的には立派な漆塗りの箱に入った三重のおせち料理のようなものだと感じている。一品一品=一曲一曲、手間のかかった愛らしい料理が箱の中に並べられ、その箱が3段重ねてあるというイメージ。この“小さくて愛おしいものがびっしり詰まってる感”はジャケットデザインにも表れていて、『CYCLE HIT 1991-1997』は種々の貝がら、『CYCLE HIT 1997-2005』はダイヤル、『CYCLE HIT 2006-2017』はハサミ、そしてボックスにはボタンが散りばめられている。それは大好きなものだけを集めた秘密の宝箱のようでもあり、何が出てくるかわからない玉手箱のようにも見える。

今回はその重箱をひとつひとつ開け、中に入った品々をいただくことにする。スピッツという名匠が30年の歳月をかけ、手塩にかけて作り続けた名作料理。絢爛豪華で雅な美曲の祝宴にどうかお付き合い願えればと思う。

まずひとつめの箱『CYCLE HIT 1991-1997』を開けてみよう。スピッツは1987年結成だがメジャーデビューまで4年の歳月を要している。当時はザ・ブルーハーツを筆頭とするビートパンク全盛期。その洗礼をもろに浴びた彼らは独自の作風を求め、メロディアスな楽曲やファンタジックな中にもピリリと毒の効いた歌詞の世界に辿り着く。そのひとつの結晶がデビューシングル「ヒバリのこころ」だった。ドライブ感のあるバンドサウンドに、メロディーと歌詞が一体となった草野ならではのソングライティング。この曲は今でもライブで頻繁に演奏されているが、まったく古さを感じない。ある意味最初から完成されたスタイルを持ってスピッツは私たちの前に登場したのである。

その後もストリングスをフィーチャーした「魔女旅に出る」、ヘビーなギターと甘いメロディーが合体した「惑星のかけら」、デジタルのシーケンスが耳に残る「日なたの窓に憧れて」など彼らは精力的に楽曲を発表していく。やがてロックファンの間でも認知は広がり、音楽業界では誰もが次期ブレイク最有力候補としてスピッツの名を挙げるようになる。

しかしわかりやすい形での結果はなかなか訪れなかった。それはデビューから4年後、シングルにして11枚目の「ロビンソン」まで待つことになる。しかしだからといってこの時期の彼らがマイナーな音楽をやっていたわけではない。その後CM曲として再浮上する「君が思い出になる前に」、発売から2年後にドラマ「白線流し」の主題歌に抜擢された「空も飛べるはず」、今も高い人気を誇る「青い車」はどれも「ロビンソン」以前に発表された楽曲である。スピッツは当時から幅広い層に受け入れられる普遍性を持っており、それがなかなか届かないからこそ彼らもスタッフも歯がゆい想いをしていたのだ。だが、前述したように「ロビンソン」でついに風穴が開く。翳りを帯びたアルペジオが世間のハートを撃ち抜く。そこから彼らは堰を切ったように快進撃を続けた。曲名に☆マークという点も話題を集めた「涙がキラリ☆」、浮き立つようなリズムとセンチメンタルな歌詞の融合から代表作のひとつに数えられる「チェリー」、たゆたうようなシーケンスが曲中鳴り続ける「渚」……つかんだチャンスを手離さず、名曲を連打したことでスピッツは音楽シーンに確固たるポジションを築き上げたのである。

そうした流れを考えると、この1枚目のディスクは彼らの黎明期から一般の評価を勝ち得るまでの過程を追った“飛翔篇”と呼べるかもしれない。スピッツはさまざまな模索を繰り返す中でも、楽曲の骨子となる歌の世界観は決して崩さず、それをバンド一丸となって守り抜いた。草野の書いた“いい歌”を、流行に流されず演奏すること……その方向性が間違っていなかったことは、この盤に収められた曲の大半が時代を超えたスタンダードになっていることが証明している。

みずみずしさに舌鼓を打った最初の箱に続いて、ふつめの『CYCLE HIT 1997-2005』を開けてみよう。ここに収められているのは人気バンドとなったスピッツが辿る挑戦と葛藤の旅路である。先程のDISC 1を“飛翔篇”と呼ぶとしたら、DISC 2は“放浪篇”という言い方がぴったりだ。

プレイボタンを押すとまず流れてくるのは「夢じゃない」。ミディアムスロウのゆったりしたテンポにバンドの自信と落ち着きが感じられる。その後もデジタルビートを導入した「運命の人」、リリカルな情感が胸に刺さる「冷たい頬」、流れるようなメロディーの運びにため息をつく「楓」……と佳曲が続く。このあたりの曲のクオリティーは非常に高く、“草野節”がいよいよ揺るぎない段階に達したことを感じさせる。

ここで注目すべきは、この時期スピッツはプロデューサーを変更しているという点である。彼らがそれまで一緒にやってきたのは笹路正徳。笹路はプリンセス・プリンセスやユニコーンなどをブレイクに導いた人物で、スピッツも彼と組むことでメジャーアーティストの仲間入りを果たすことになった。しかし8枚目のアルバム『フェイクファー』以降はセルフプロデュース的なスタンスへと移行。バンドは“親元”を離れ、自分たちの音を探す冒険の旅に出る。

それがビビッドな形で結実したのが9枚目のアルバム『ハヤブサ』である。この作品でプロデューサーとして迎えたのは当時Scudelia Electroとして活動していた石田小吉(石田ショーキチ)。同年代の石田と組んだことでバンドのロック志向は加速度的に進行し、「メモリーズ」で見せたノイジーな音像に仰天した人も多いのではないだろうか。この頃は「ホタル」、「遥か」、「夢追い虫」など、草野の流麗なソングライティングとエッジの立ったバンドサウンドが合体した新たなるスピッツ像を確立していった時期である。

さらに「さわって・変わって」からは椎名林檎作品で名を馳せた亀田誠治をパートナーに招聘。引き続きロック的ダイナミズムを求めつつ、より自由度を増したプロダクションを展開していく。雄大なストリングスをバックに従えた「正夢」、今年藤原さくらによってカバーされた「春の歌」あたりまで来ると、ラジカルなロックモードは次第に収まり、フラットに楽曲に向き合う姿勢が顕著になる。

このように見ていくと、このDISC 2に収録された8年間はスピッツが自立のためにもがいていた期間と言えるかもしれない。ロックバンドとしてのアイデンティティ獲得に傾倒するが、とことんまで突き詰めた後は再びソング・オリエンテッドな方向に揺れ戻す。そんな中でも不変なのは、メロディー、歌詞、声という草野印の3点セットが常に楽曲の味を決定づけているというところである。

(つづく)

文/清水浩司

後編は11月1日(水)に公開予定です。



スピッツ『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』
2017年7月5日(水)発売
UPCH-7329?7331/3,900円(税別)
ユニバーサル ミュージック


スピッツのシングルコレクション『CYCLE HIT 1991-1997』、『CYCLE HIT 1997-2005』いよいよSMART USENに登場!





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