祝福の夜に、完成度の高いパフォーマンスでライブバンドとしての真髄をあらためて提示してくれたのは、叙情的音像と文学的センスの香る歌詞を身上とする、空間系オルタナティヴバンド・umbrellaだ。
天赦日、一粒万倍日、寅の日までが重なっていたこの佳き日に、彼らの地元であるOSAKA MUSEで開催されたワンマンライブに冠されていたのは、ずばり[umbrella 14th anniversary ONE MAN【Happy Birthday umbrella】]というタイトル。厳密には3月14日のホワイトデーが結成日であるそうなのだが、それを経た15年目の第一歩を今宵の彼らはこの場で踏み出した、ということになる。
そんな節目の一夜を幕開けするのにあたり、彼らが1曲目として選んでいたのは歌詞中の〈この時間は、二度とやってこないから。〉というフレーズが印象的に響いてくる「「月」」だった。ドラマー・将がしっかりとリズム部分を支えていく一方、ギターの柊とベースの春はそれぞれに的確なプレイを展開しつつもサビでコーラスワークにも参加していたほか、
フロントマンの唯は歌のみならずギターヴォーカルとしても説得力のある音を聴かせてくれており、しょっぱなから我々がumbrellaの生み出す心地よくあたたかいサウンドにすっかり包み込まれてしまったのは言うまでもない。
「umbrellaです。今日一日よろしく。14歳になったよ。しっかり見届けてね!」(唯)
ちなみに、先ほどから叙情的だの心地よくあたたかいだのとは書いているものの、umbrellaは鋭さを持った楽曲をプレイすることも得意で、たとえばこの夜のセトリの中で言えば2曲目の「リビドー」からの数曲においては、彼らの持つプリミティヴな一面がおおいに発揮されていた。
柊のソリッドなギターと、春のバキバキなベースがからみあい、そこに唯のエッジーなカッティングとエモい歌が重なりつつ、将の攻めこみ具合が頼もしいドラミングが炸裂すると、そこには純然たるロックバンドとしてのアグレッシヴな面持ちのumbrellaが出現。
ひいては、オーディエンスたちも彼らの放つ躍動感あふれる音にクラップで応えたり、アタマを激しく振ったり、ビートに合わせ飛び跳ねたりと、共に場を創り上げていきたい!というスタンスで、このライブを堪能していることが見て取れたのだ。
また、ライヴ中盤戦に入っての“落とし”パートでは、いわゆるギターロック的なアプローチのコード感が満載な「ワスレナグサ」や、唯の繊細なファルセットが活きた「solitude」、どこかシティポップの要素を感じる「LoV」、4つ打ちの律動にストリングス音色の同期やJ-Popの手法を取り入れた「軽薄ナヒト」など、いよいよumbrellaの芸幅は相当に広いものであることが明確なかたちで打ち出されていくことに。
もちろん、カテゴライズという面での話でいけばメイクを施し、ドレッシーな衣装を纏った彼らはヴィジュアル系の範疇に入るバンドではあるのかもしれないが、音楽性や存在感の意味も全て含めると、umbrellaはまさにオルタナティヴ=従来とは異なる型にハマらない新しいこと、をこの14年ずっと具現化してきているバンドだと言えよう。
「2023年くらいから、またこうして黄色い声が飛び交うようになってきて気持ちは有頂天です。ありがとう!umbrellaは今年で14歳になりました。いやー、なんか求めていたものというか、目指してたものに近付いてきたなという今はそんな気持ちです」(唯)
umbrellaのライヴにおいて重要な役割を持つ「アラン」を歌いだす前に、こう語り出した唯がファンに向けて伝えたかったのであろうことは、おそらく“彼がここまでに感じていた葛藤”と、ここに来て“ようやくつかみかけてきたもの”について。
「以前は、盛り上がって一体感のあるライブってumbrellaではけっこう難しいのかなとい考えていたところもあったんです。世界観を守るだとか、キャラを守るだとか。みんなが求めてる像を維持したいな、という気持ちもあったりしましたしね。umbrellaというものがどうであって欲しいのか?って、みんなの気持ち、自分の気持ち、自分たちの気持ち、周りにいる人たちの気持ちも考えてやり続けていたことが、実は自分の首を締めていた頃もあったんだと思います。そういう状態から、やっとライブバンドとして理想のかたちになってきたのかな…と、去年から今年にかけては特にそう思い始めました。今は一番良いumbrellaなんじゃないかと思っていて、凄く楽しんでます。ありがとう。今後もみんなで楽しいumbrellaを作っていきましょう!!」(唯)
そう、みんなでより楽しむために。この「アラン」では何時も唯が白いタクトを高く振りながら美しいメロディを歌いあげ、観衆にもシンガロングを促すのである。溶け合う歌声がumbrellaの発する音と混ざり合い、場内を満たしていくさまは尊いの一言。
「次のumbrella、15周年に向けたスタートとして今夜はこの曲をやって終わりたいと思います」(唯)
なんと、ここで本編のラストを飾る曲として選ばれていたのは冒頭でも演奏していた「「月」」。ただし、こちらは2011年の1stミニアルバム『アマヤドリ』に収録されていたヴァージョンではなく、2020年にリリースされた再録盤『アマヤドリ(Re:arrange side)』の方のヴァージョンとなる。
テイスト的には前者がメロウで優しい質感を持った雰囲気だとすると、後者はもっとポジティヴで力強いニュアンスはらんだものになっていて、歌詞も内容そのものは全く同じであるものの今度は〈答えはいつも見えなくて それでも人は歩きだす。〉というくだりが、やけに耳の中に残るから不思議だ。
確かに唯が言ったとおり、ここでの「「月」」が15周年に向けたスタートとしての意味を持っていたことは間違いない。
このあと、アンコールでは楽曲演奏の前にはさまれた将と唯による謎の漫才風MCや、メンバー全員が揃ってのラフなトークに対して場内から笑いが沸き起こったりもしつつ、
最終的には未来に向けてのヴィジョンも生真面目に語ってくれていたので、ここにはその一部を記しておきたい。
「結成した時からずっと“心に傘を”というコンセプトで14年続けているって、凄くないですか。それだけは忘れずに音楽をやってるつもりです。これは自分の中で誇れるところだと思ってますし、今後もみんなに大きい傘を差しかけていこうと思うので、みなさんはわたしに傘を差してください。よろしくどうぞ」(唯)
「15年目っていう実感はメンバーのみんなもきっとないと思うし、不思議な感覚なんですけど、みんなも知ってのとおり俺たちは“活動出来なかった時期”っていうのがあったじゃないですか。でも、そこからだんだんライブが再開し始めて、イベントやフェスも増えて、俺の知ってる限りではもう配信だけをしてるバンドっていないんじゃないかと思うんですよ。っていうことは、やっぱり音楽の行き着く先はライヴなんだな、と自分たちもライブ活動を再開してからそれを良く思うようになりました。俺たちは今後、ライブっていうものを今まで以上に大事にしてかなきゃいけないなと考えてます」(柊)
なお、今後のumbrellaはこのアンコールで演奏された「モノクローム」も収録されるアルバム『monochrome』(2012年発表2ndミニアルバム『モノクローム』の再録盤)を5月15日に発売し、同日に池袋・手刀でフロアライブ[シン・モノクロレイン]を開催するとのこと。
(※フロアライブとはバンドがステージではなく客席フロアで演奏し、観客はバンドを取り囲むようにしながらライブ参加するレアな開催形式らしい)
くわえて、6月には東京でのファンミーティングが2デイズ決定しているそうで、要するに彼らはこの夜アンコールの最後で奏でた「「管」」の詞にあるような、ライブを行うことで生まれる〈かけがえのない世界〉を今年はこれまで以上にたくさんファンと共有していきたい、ということなのだと思われる。
この記念すべき祝福の夜から始まった、umbrellaの15年目。“心に傘を”という彼らのブレない基本姿勢は、必ずやさらなる新しい未来を引き寄せてくれるはずだ。
umbrella 14th anniversary ONE MAN 【Happy Birthday umbrella】
2024年3月15日(金) OSAKA MUSE
SETLIST
1.「月」
2.リビドー
3.【愚問】
4.Frontier
5.群
6.ワスレナグサ
7.solitude
8.LoV
9.軽薄ナヒト
10.ヨルノカーテン
11.dilemma
12.orbit
13.アメイジング
14.HALO
15.Witch?
16.アラン
17.「月」
アンコール
1.モノクローム
2.「管」