ライブ/フェスシーンの活況のテン年代にデビューしたバンドにとって、2度目の武道館公
演とはライブバンドとしてこの数年をサバイブした証左が明らかになる場だ。にしても、7年半ぶりと聞いてスパン開け過ぎでは?とも思えるが。それもこれも「今、改めてライブが楽しくてしょうがない」事実ががこの公演を計画した時点であったからに違いない。メジャーデビュー10周年という節目ももちろんあるけれど、それ以上にバンドマンとして特別な場所に最高な状態で臨みたい、4人の真面目な気質が1回目の何倍もの強度でもって実現したのだと思う。
今のバンドの強度という意味で意外だが腑に落ちたのがオープナーにその時点での最新曲「君とサマー」を自然体で届けたこと。エンディングで全員が斜めの姿勢でストップモーションよろしく体幹我慢比べをしていたのには笑ったが、一旦、ファンに謝辞を述べたところで、1曲1曲丁寧に見せていく想像ができた。それ以降は武道館の壁を突き破りそうなレーザーが交錯する「大脱走」、ステージ左右に伸びた花道を小野武正(Gt)が駆ける「夜の蝶」、早くもキラーチューン「MATSURI BAYASHI」を投下と、俄然ハイテンションに。そんな中でも特に目を引いたのが小野の重力を感じさせない軽いステップを踏みながらのオブリだったり、新たなドラミングにトライして以降、より明確な打音を聴かせる八木優樹(Dr)のプレイだったりしたのだ。そもそも巧いプレーヤーだが、より削ぎ落とされたフレージングを聴かせている。
MCで寺中友将(Gt/Vo)が前回の武道館より必然的に体力を消耗しそうなセットに苦笑し、小野は1曲1曲噛み締めたいと同時に終わりたくないと、いかにこのライブを待望してきたか、そして今現在が楽しいかを言語化する。まだ全然序盤というのに、だ。そこからインディーズ時代からKEYTALKの背骨であるジャズ/フュージョンやボサノヴァ・フィールの「fiction escape」や、同じ感触を進化させた「Love me」などを披露。宇宙からの交信めいたイントロに歓声が上がる「YURAMEKI SUMMER」では以前よりメンバー全員が健康的(失礼)というか、フィジカルが強化された印象が増幅。小野のブレのないアクション、ステージ袖のマイクに自分のパートに間に合うようにダッシュする首藤 (Ba/Vo)と寺中のタフさ(首藤は若干、危ういのだが)にも目を瞠る。
引き締まった演奏と大いにギャップを生むMCでは八木はこの日のためにドラムを新調、小野はこの日のためになんと8kgの減量を達成――どうりで動きがシャープだし、顔つきも違う――したと報告。記念すべき2度目の武道館かつメジャーデビュー10周年らしい発言が続くと思いきや、八木の髪のポイントカラーを「何、それ苔?」と、いつも通りイジるのだ。いや、これこそがKEYTALK。ライブハウスでもホールでも武道館でもここは変わらない。
とは言え、メジャーデビュー10周年に触れた後はデビュー曲「コースター」がセットされてすんなり曲に入っていける。踊れるロックに切なさを忍ばせた初期の名曲だ。ビジョンに当時のスチール写真が次々に映し出され、思わず見入る中、前回の武道館のタイミングでリリースされた「スターリングスター」がセットされたことで、会場のエモーションがブワッと溢れたように感じられた。さらに近年の楽曲の盛り込み方も鮮やかで、シンガロングとバンド流のファンクネスがあふれる「BUBBLE-GUM MAGIC」ではボーイズグループのR&Bダンスナンバーと言っても通用しそうな首藤のファルセット、センターの花道でのパフォーマンスには従来の彼とは違う、フロントを張る心意気を見た。
続く「照れ隠し」は寺中の弾き語りから始まる、両親への感謝の表明だ。演奏を終え、寺中が1度目の武道館の際、「ここまでのし上がった」と強気でいたものの、様々な人や表現に触れるたび、自分は特別な人間でもなんでもないという思いを深め、「ここにいることはみんなのおかげだと思ってます」と正直な言葉を吐露した。真っ直ぐな謙虚さを手にしてからのバンドは強い。それはこの日のライブ全般で感じたことでもある。
爆踊りする楽しさはもちろん、最強のメロディメーカーを擁する作家軍団でもあるKEYTALKの強みを見せた中盤。「バイバイアイミスユー」の素朴なアンサンブルが過去と今の映像を背負って、不変の輝きを見せた後は寺中が花道の最前まで歩いて来て、オレンジ色のグレッチを構える。「この武道館のためにもうひとつ、新曲を作ってきました」と、彼らには珍しいストレートな8ビートナンバーで、いつまでも感じたままに音楽を作るであろう、彼の心情が鮮やかな歌だ。「未来の音」と題されたこの曲から、まるで宇宙に4人だけが佇んでいるようなライティングがバンドの始まりの在り方を思わせて、「黄昏シンフォニー」に新たな意味が吹き込まれた印象に。
メジャーキーの爽快な曲が続くブロックの最後はスカビートの小気味よさから転調し、2ビートに突入するサビのグッドメロディとポップパンク感が強力なカタルシスをもたらす「Monday Traveler」。“yeah yeah yeah yeah yeah”をシンガロングできる喜びが炸裂する。踊れるロックバンドであることはもちろんなのだが、パンク、ギターロック、オルタナティブといったバックボーンの広さはやはりKEYTALKの強みだ。
終盤のブロックは文字通り、渾身のプレイが続発。グッと音圧が上がった「DROP2」が4つ打ちのダンスロックという十八番中の十八番の進化を示し、初期ナンバー「夕映えの街、今」では小野も首藤もスカダンスのステップを踏みながら確かなプレイを続ける。自分をぶん回すような勢いで、プレイし続ける4人は最終盤で、より調子を上げてきた印象で、確実に1回目の武道館公演よりしぶとくなっている。本編ラストは正真正銘、誰もがぶち上がる「MONSTER DANCE」という期待に応える大団円。生身のパフォーマンスで武道館をちょっと大きめのライブハウスに変えてしまったエンディングだった。
アンコールでは先程披露した「未来の音」、さらに新曲「狂騒パラノーマル」のリリース、夏には8thアルバム、そして全国ツアーも発表され、ここから始まるブランニューKEYTALKへの期待値はマックスへ。初めて4人で共作した、バンドヒストリーを詰め込んだ「shall we dance?」は彼らのライブについてのマインドセットが凝縮されていた。初めて見るファンにもキャリアを横断して応援してきた古参のファンにも優しいセットリスト、ひたすらいい演奏と笑える演出。7年半の歳月で彼らが身につけてきたものは他のバンドにはない唯一無二のものだった。
(おわり)
取材・文/石角友香
写真/後藤壮太郎、高田 梓、木村泰之
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