2026年9月10日に恵比寿LIQUIDROOMで開催された「Hedigan’s “AWAI vol.3”」を観た。「AWAI」はHedigan’sの自主企画による2マンイベントで、2024年にスタート。今回が3回目となる。
どうして「AWAI」というタイトルなのか。初めて5人にインタビューしたときに鍵盤の栗田祐輔がこんなことを話していたのが印象に残っている。「自分は強引にグルーブに巻き込んでいくようなステージよりも、オーディエンスが自分からそこに入り込める隙間のあるライブが好きで。聴く人が演奏の“あわい”みたいなところに自分からすっぽり入ってこれるような場所にしたい、っていうのがあるんですよ。そういうライブが好きだし、Hedigan’sはそういうのが合ってるんじゃないかなと思うんです」。この発言をメンバーが覚えているかどうかわからないが、きっとそういうことなのだろう。
その「AWAI」、2024年9月17日に開催されたvol.1のゲストは彼らが敬愛するクレイジーケンバンド。2025年8月4日に開催されたvol.2のゲストはサイケデリックな音楽性というところで繋がりのあるHAPPY。そしてvol.3となる今回は、初開催となった大阪のゲストがベースの本村拓磨も所属するNOT WONK。東京のゲストがTexas 3000だった。クレイジーケンバンドからTexas 3000まで、ゲストは世代もキャリアも音楽性も客層もまるきり異なり、そこに共通項を見つけるのは難しい。が、いずれもHedigan’sのメンバーたちが何らかの影響や刺激を受けているバンドであり、相手に対する敬意と「好き」の気持ちがそこから見えてくる。
「2マンって、それぞれが自分のライブだけを気持ちよくやるというあり方もあるだろうけど、やっぱりその日の流れみたいなものをちゃんと踏襲して演奏したいという気持ちが自分たちにはあるから」(本村拓磨)
「こういうシナジーがあるんだというような発見があったほうがオレらも楽しいしね。そもそも対バン相手やお客さんに腕相撲をしかけにいってるわけじゃないから。とにかくその場にあるものを使って、その場にいる人と一緒にオモロイ空間にしちゃおうよ、っていうのが目的でもあるので」(河西“YONCE”洋介)
ふたりのこの発言も初インタビューのときのもので、これが即ち彼らが「AWAI」というイベントをスタートさせた理由であり目的であり、なんならワンマンライブのとき以上に自由に解き放たれた感覚で演奏しているようにも見える、その根拠でもあるのかもしれない。シナジー、即ち単独では得られない相乗効果。化学反応。Texas 3000をゲストに迎えたこの日も、間違いなくそれがあった。
先攻のTexas 3000は、ドラムの崎山が何やら叫び、別の誰かが「ヘディガンズ!」と叫ぶところから演奏が始まった。崎山のバスドラ音が異常なまでにデカく、後方で観ていた自分のカラダに振動がブボボボっと伝わってくる。強烈だ。kirinのベースも、Jojoとサポートメンバーとして参加する魚頭圭のギターも、度を超えた爆音。4人がそれぞれ勝手に演奏しているようでいながら、しかし不思議と見事なアンサンブルになっている。ボーカルはJojoとkirinがとり、ときにふたりの声が重なりもする。まるで向きが違うのに、合わさると奇妙な調和が生まれる。歪みと爆音で空間の広がりを表し、ふたりのボーカルからエモの感覚が立ち上ってくる。混沌としていてぐちゃぐちゃなのに、不思議と美しいと感じられる瞬間がある。ビーバドゥービーが新作『Pylon』を作るにあたってよく聴いていたバンドのひとつがTexas 3000なのだそうで、「自分たちのクリエイティブなプロセスで、ひとつひとつの決断を考えすぎてない感じがするというか」「ガレージにいる子どもたちが、ただめちゃくちゃ楽しんでるみたいに聞こえる。それって最高だよね。本当に素晴らしい」とRollingStoneJapanのインタビューで彼らを絶賛していたが、それ、言い得て妙。メンバーひとりひとりがそれぞれ“めちゃくちゃ楽しんでるみたいに”オルタナティブを体現していて、その強烈さにすっかりやられてしまった。
YONCEはこのあとの自分たちのステージで、「Texas 3000、出てくださって誠にありがとうございました。凄すぎて、こなごなにされるかと思いました。台風を見てるみたいでした」と話していたが、まさしくそれは台風のようだった。ただ、音の質感こそ異なれど、ビーバドゥービーの「ひとつひとつの決断を考えすぎてない感じ」「ガレージにいる子どもたちが、ただめちゃくちゃ楽しんでるみたい」という言葉は、そのままHedigan’sにも当てはまるよなと自分は思う。今回の「AWAI」に彼らがTexas 3000を呼んだのも、そこに対する共感が大きくあったからじゃないか。
さて、Hedigan’sだ。軽やかに足並み揃えてメンバーが登場。本村の重いベースから始まるオープナーは「その後…」。間奏で栗田将治が早くも激しくギターを弾き倒し、歌っていたYONCEは動物のように鳴いてカラダを痙攣させる。彼が何やら叫んで演奏がダン!と終わるや沸き返る観客たち。湯沸かしの早いバンドだ。2曲目は「グレー」。流れるようなメロディと転調の面白さで引きこんでいく。次の曲の序奏時に本村が「テキサス!」と叫ぶと、YONCEも同じように「テキサス!」。言うまでもなくTexas 3000のメンバーたちが何度も「ヘディガンズ!」と連呼していたことに対する返答で、先に紹介した「やっぱりその日の流れみたいなものをちゃんと踏襲して演奏したいという気持ちが自分たちにはあるから」という本村の言葉の、これもひとつの具現化だよなと思った。
「ロックンロール一丁!」というYONCEの掛け声を合図に将治のギター音がうねりだす。「But It Goes On」だ。ここでは鍵盤の祐輔もギターを弾き、栗田兄弟に挿まれる形でYONCEが長身を折り曲げて歌い踊る。間奏で将治のギターソロと大内岳のビートがさらなるうねりを作ると、本村とYONCEがまたも「テキサス!」と言い合い、曲の終盤はシンセ音がぐにゃぐにゃと。続く4曲目は特に説明もなかったが、初めて聴く曲だった。スタッフにもらったセットリストを見ると、「ヒト科オンザストリート(新曲)」と書かれてある。グラムロック味もほんのりあって、彼らにしては捻りのない明快なロックンロール。コーラスワークもグッドだ。が、曲のエンディングで一気にテンポアップ。やはりただでは終わらない。
どこかプロコルハルム「青い影」や荒井由実「翳りゆく部屋」を想起させる教会の鍵盤音みたいなそれから次に始まったのは、スローの「地球(仮)」だ。作者のYONCEがギターを弾いて歌う。ライブでこれが演奏されるのは久しぶりな気がするが、近頃の天候の荒れようを鑑みるに、まさしく地球はとってもローンソムなのだよなと、歌詞を嚙み締めることにもなった。
ここで一息入れて、YONCEがMCを。「“AWAI”という、ゲストアクトを招いての2マンライブのイベントが今年でもう3年目になりました。Texas 3000にぶっとばされた人? (挙手する観客たちを見て)いるいるいるいる。かくいう私もそのひとりです。気持ちよすぎて疲れました(笑)。先週はAWAI大阪編初開催ということで、本村くんのやってるNOT WONKと2マンライブをやったんですけど、NOT WONKも気持ちよくてやっぱりその日も疲れちゃいました。今日もくたくたになりたいと思いますので、みなさまにおかれましては帰る体力だけ残して楽しんでいってください。楽しみます!」。そして、あたたかみのある歌ものの「再生」を。さっきまで強烈なロックンロールをお見舞いしていたバンドとは別もののようだが、このあたたかみもまたHedigan’s。途中「LIQUIDROOMにお集まりのみなさんに紹介しましょう。ギブソン・レスポーーール!」とYONCEが紹介すると、それを受けて将治がいい感じのソロを。そんなスロー曲も後半でやっぱりフリーキーな展開となるのがこのバンドらしさでもあるのだった。
7曲目は「LOVE(XL)」。YONCEが「だから今はあなたを抱きしめた~い」とファルセットで歌うと、アウトロで将治が前に出てディストーションをかけたギターを弾き倒す。ただただ無心で楽器を鳴らすことの喜びが伝わる。大内がドスッドスッと重いビートを叩き出すと、YONCEのオ~イという掛け声から8月リリースの新曲「ハリネズミ」がスタート。終盤で「曇り空~」と繰り返すYONCEに、祐輔も低い声で「曇り空~」と続ける。次の「Mission Sofa」は原型とは音色が変わり、イントロや間奏での本村のベースはフュージョン的で、祐輔の鍵盤はニューソウル的。間奏からテンポアップして、終盤でそれぞれが好き勝手に音を鳴らす。そして「説教くさいおっさんのルンバ」へ。ライブを重ねるなかでアレンジがどんどん変化していっている曲で、当初のダブ的なあり方からいつしかロックンロールのそれへと変化したが、今回またさらに狂気の成分が増量され、テンポアップしてからの凄まじさといったらなかった。一音一音はヘビーでありながらも前へ前へと転がりゆくリズムと爆裂ギター。ハードロックのようでもありファンクロックのようでもあり。そこで高らかに歌われているのは「おっさんのルンバは説教くさい」というわけのわからぬフレーズであるからして、こちらも同時に狂っていく。将治が歯でギターを弾き、本村は何やら絶叫。要となるのは大内の凄まじいドラムだ。続いての「敗北の作法」では不穏な音のなかで本村が「テキサス!」「テ~キサ~ス!」と繰り返して、またも絶叫。「負けようぜ。揃いも揃って負けようぜ」とYONCEが敗北の作法を説いたあとにこれもまたテンポアップして、そこから混沌とした展開に。将治がハーモニカを吹き、祐輔はといえばステージ中央へゆっくり進んだかと思えば、そこで無表情のまま謎の垂直ジャンプをし始めた。男性客たちはそれを見て「うお~っ」と沸いている。意味がわからないけど最高だ。スタジオでは誰よりも冷静に全体を客観視できるプロデューサー的資質を持つ男でありながら、ステージでこのように突然狂気を表すのが祐輔なのだ。曲は終盤でもう一段階テンポがあがって、5人の演奏は暴れ狂う怪物のよう。さらに短曲「BtbB」が逃げ惑う人々を追いかけてかたっぱしから殴りつけるかのようなパンクロック的破壊力で襲い掛かる。叫ぶように歌っているのは祐輔だった。
「最後の曲です。またどこかでお目にかかりたいと思います」。YONCEがそう言って始まった本編ラスト曲は「論理はロンリー」。ついさっきまでの狂暴さが嘘のようにゆったりとしてテンポで進み、混沌の果てに安らぎが訪れたかのような、そんな感覚に。彼の歌声とほかのメンバーたちの歌声が美しく重なる。エンディングに相応しい演奏の広がりとボーカルの説得力がそこにあった。しかし、それで全てが終わったわけじゃない。アンコールに応えて5人が再登場し、「あー、楽しかった」「vol.3ということで、vol.4もきっとやることでしょうから、引き続きひとつにならずにバラバラで、よろしくお願いします」とYONCEが彼らしい挨拶をすると、将治のディストーションギターがそこで鳴り出す。本村が「ロックンロール! ドゥ・ユー・ウォナ・ダンス?」と煽り、始まったのはゴリゴリのロックンロールナンバー「O’share」だ。将治が前に出て荒々しく弾き倒すほどに前方の男性客たちが沸き返る。そう、Hedigan’sのライブは結成当初こそ女性客が多かったが、今では8割方が男性で、将治は彼らにとってのギターヒーローにもなっている。祐輔もギターを弾き、本村は腰を振りながらベースを弾き、大内はといえばこの曲の終わりでエアードラムのように空(くう)を叩いてみせたりも。合気道じゃないが、そのうちドラムにスティックが触れずとも音が鳴るようになるんじゃないか。バンドは多彩な曲を持ちながら、しかしこうしてやっぱりロックンロールへと帰着した。改めて思う。Hedigan’sとは結局のところロックンロールバンドなのだと。それも最新型の。
どの曲においても5人それぞれがそれぞれに主役のようで、誰かひとりでも欠けたら成り立たなくて、このバンドであるからこそどこまでも自身を開放しながら演奏していて、そこに信頼があるからこそ自分はその瞬間最高の自分であろうというスタンスで5人はこの日も演奏していた。そう見えた。初めてのライブから3年ちょっとが経ち、初めの1~2年はまだ呆気にとられた様子の人たちも少なくなかったが、今では観客たちもそれぞれが好き勝手に楽しんで熱い反応を示している。そこに信頼関係も生まれている。曲のありよう共々、変化を楽しみながら進んでいくHedigan’sという生き物、ここからまだまだ面白くなっていきそうな予感しかない。
(内本順一)
photo by Kippei
◾️Hedigan’s Live at Umeda Quattro 2026.09.03 AWAI vol.3
ライブ音源配信中:https://fcls.lnk.to/Hedigans260903AWAIvol3
▼Texas 3000ライブ写真
▼Hedigan'sライブ写真
