開演前、まだ誰もいないステージ上にあるのは、ドラムやキーボードといった楽器、それから中央に立つ中央にスタンドマイクのみ。なんの装飾もないステージが目の前に広がっていた。それはシンプルの極みと言っても過言ではない空間だったが、それが今回のライブ演出において大きな意味を持つことを私たちは間もなく知ることとなる。
19時の開演時間になると、まずはバンドメンバーが登場。この日のメンバーは昨年末から今年1月に行われた“CHIT CHAT”ツアーと同じく、ハナブサユウキ(Key)、坂本遥(Gt)、Naoki Kobayashi(Ba)、守真人(Dr)、そして実の妹であるMa-chang(Cho)という面々。そして、最後に姿を現したFuruiが凛とした様子でマイクの前に立つと、観客から大きな歓声と拍手が湧いた。1曲目は最新アルバム『Love One Another』から彼女のルーツでもあるR&Bやゴスペルをベースにした「Your Love」。繊細さと力強さを兼ね備えた歌声で堂々と歌い上げ、ライブの始まりを告げた。
Furuiの「行くぞ、東京!」の声を合図に始まった「Rebirth」では、客席から自然と発生した手拍子が後押しとなってか、ハンドマイクに持ち替えたFuruiもステージを右へ左へと動きながら会場のボルテージを上げていく。
高揚感がみなぎる中、Furuiはさらに「PSYCHO」「ピンクの髪」と最新アルバムから2曲を投下。アップテンポなダンスチューンの「PSYCHO」ではサイケデリックなライティングでフロアを照らし出し、パワフルなボーカルに加え、観客とのコール&レスポンスを楽しむ場面も。一方、メロウな中にもエッジーさが際立つ「ピンクの髪」では、その名の通りピンクのライティングが会場を染め上げ、Furuiもリズムに身を任せながら伸びやかな歌声を響かせた。
最初のMCでは、会場に詰めかけた観客に向かって思わず「会場が大きいです…」と呟いたFurui。「正直、今日は会場に入って、仲間たちに“おはよう”って言われただけで泣きそうになってました」という言葉に観客からより大きな拍手が上がると、「早い!早い!後半にとっておいてください(笑)」と茶目っ気たっぷりにリクエスト。さらに「こうしてみなさんと時間を共に過ごせるのが、とてもうれしいです」と破顔し、「今日は金曜日!明日から休みという人も多いと思うので、身体をバシバシと動かして、全力で心から楽しんでください!」と言ってライブを再開させた。
「みんなが幸せになるものを選びとって、そんなふうに毎日を生きていけたらなと思います」というメッセージを託して歌ったのは、ライブ限定で披露されている「Do what Makes You Happy」。ラスサビでバンドメンバーが各々のプレイを聴かせると、Furuiが「うちのバンド最高!」と胸を張る場面も。さらに「SAPPORO TOKYO」「Friends(Album ver.)」と、札幌と東京を行き来しながら音楽活動を続けている彼女だからこそ感じる想いを綴った2曲を披露。歌い終えると、一旦バックステージへと消えていった。
バンドメンバーによるファンキーなナンバーが流れる中、再びステージに戻ってきたFurui。スポーティーな衣装にチェンジしただけでなく、両サイドに従えたダンサーとともに見事なダンスパフォーマンスを繰り広げ、観客をあっと驚かせた。
これまで、多重録音や弾き語りなど毎回ライブのたびに新しいことにチャレンジしている彼女。今回の挑戦は「ダンス」ということで、ダンサーのKyoichioとManaを交えて中盤戦へと突入していった。
「ウソモホント」「Sins」「青信号」では、会場中を無数のレーザーが飛び交うド派手な演出が印象的。のちの彼女の発言によると、この日の照明演出は「ブルーノ・マーズみたいにしてくださいってお願いした」のだとか。であれば、ステージがシンプルな空間であることも納得。このパートに限らず、曲ごとに趣向を凝らしたライティングも大きな見どころのひとつだった。
このダンスパートでは、ダンサーとともに魅せる彼女のダンスもさることながら、エモーショナルなギターに合わせて力強いシャウトを響かせた「ウソモホント」、ダンサーたちのしなやかな身体表現によってダークな世界観がより際立った「Sins」、ラップ調のアグレッシブな「青信号」では、Furuiの「ジャンプ! ジャンプ!」の声に合わせてステージも客席もそろってジャンプし、フロアを揺らすなど大盛り上がり。演奏を終えた瞬間、ハナブサや坂本がステージに座り込んでしまうくらい、メンバー一丸となった全身全霊のパフォーマンスで観客を魅了した。
MCを挟み、いよいよライブは後半戦へ。キャッチーなサウンドとユーモアに富んだ歌詞の「Super Star」を弾ける笑顔で歌い、続く「We are」ではダンサーたちと振りを揃えたキュートなダンスや観客とのコール&レスポンスなどを盛り込みながらパフォーマンスし、会場を多幸感で包み込んだ。
今回のツアータイトル「Love One Another」は、今年4月にリリースしたアルバムタイトルでもあり、彼女にとっては「人生のモットーになっている言葉」。“互いに愛し合う”という意味で「みんなで支え合ったり、愛をあげたり、もらったり。そんな日常が溢れれば、不安がある中でもきっと生きていけると思ってタイトルにしました」と、名付けた理由を語ったFurui。「でも、人を愛するって難しいなと思います。自分に余裕がないときは、人に優しくできない。だから、まずは自分を愛してあげようと思います。自分の中にコップがあって、それが愛で満たされたとき、そして(愛がコップから)零れ落ちたとき、その愛はLove One Another――みんなに伝わるんだと思います。だから、まず自分を愛そう。そう思って書いた曲です」と言って、「嫌い」を披露。彼女自身のコンプレックスを赤裸々に描いた1曲だが、誰かと比べたり、誰かを羨んだりする気持ちを手放し、“自分にしかできないものがある”とのメッセージが共感を呼ぶ、ライブでも定番の人気曲。この日は鍵盤のみでの歌い出しから後半にいくにつれて楽器が重なるドラマティックなアレンジが施されており、観客はじっくりと耳を傾けていた。そして、「みなさんの心の中のコップを溢れさせて、そしてそれが零れて、毎日が豊かになりますように」という願いを告げて届けられたのは「LOA」。観客からの手拍子と笑顔が会場を満たすピースフルな雰囲気で本編を締めくくった。
アンコールに応えてステージに戻ってきたFuruiは、「アンコールありがとう!もう少し楽しみましょう」と言って「I’m free」をパフォーマンス。軽やかなステップを踏みながら歌う姿は、まさに自由な翼を手に入れた歌姫のよう。
そんな彼女がさらなる飛躍を遂げるべく、この日の公演では10月に東京と大阪で初のBillboard Liveツアーを行うことを発表。「やったぜ、ついにビルボードだ!」と喜びを爆発させ、「ビルボードでは落ち着いたバンドセットを中心にやろうと思っているので、いつもと違うFurui Rihoを楽しんでいただけるかなと思います」と意気込みを語った。そして最後に「Purpose」を歌い上げると、客席から大きくて温かな拍手が贈られる中、名残惜しそうに何度も手を振りながらステージを後にした。
(おわり)
取材・文/片貝久美子
写真/tatsuki nakata
Furui Riho『Love One Another』DISC INFO
2024年4月3日(水)発売
PCCA-06284/3,300円(税込)
LOA MUSIC / PONY CANYON