昼下がりの渋谷・円山町。ド平日の月曜日に、陽も差さぬ密室と呼んでいいような場所にて繰り広げられた逢瀬は、とにかく濃厚で愛あふれる時間となっていったのだった。

結成27年周年を迎え、6月4日にシングル『愛の唄』で徳間ジャパンより3度目のメジャーデビューを果たしたMUCCが、このたび6月9日=MUCCの日から今年初のツアーとなる[MUCC TOUR 2024「Love Together」]を渋谷TSUTAYA O-EASTにて開始したうえで、翌日10日に同会場で引き続き行ったのはバンド史上初の“昼公演”。

これまでにもフェス出演の時間帯が昼だったことや、2016年の6月9日に長時間ニコ生特番の放送内で緊急告知をし、明けて10日の早朝6時9分から開場というかたちをとって新宿ロフト公演になだれ込んだことはあったものの、ツアーに組み込まれたワンマンライヴを13時から開演するというのは、かなり斬新にして大胆な試みだと言えよう。

「おはよう。いや、こんにちはか?平日のお昼にこんなたくさん来てくれてありがとうございます。こういう時間にしか来られないっていう人もここにはいると思うんだけど、オマエらさては仕事休んだな??いくら平日昼の方が来やすい人のためにこのライヴを企画したとはいっても、こんなにたくさんいるわけないんだよ(笑)。まぁ、せっかく休んじまったんなら今日一日をみんなで楽しんで帰りましょう。よろしく!」(逹瑯)

記念すべき初の昼公演を、わざわざドロリとした空気感と「星に願いを」というタイトルを持つ曲から始めてみせたMUCCは、夢烏(MUCCファンの総称)たちが曲とシンクロしながら大声でのコールと拳上げを展開した「懺把乱」、2階席も含めて観客たちのほとんどがいわゆる“おりたたみ”ムーブをみせた「サイコ」で、しょっぱなからディープかつコアなライヴ空間を生みだすことに成功。

バンドのコンディションも絶好調な様子で、まだツアーが始まって間もないとはとても思えないほど、各パートの発する音たちには全く浮ついたところがない。

また、躍動感あふれる「サイレン」のエンディング部分にあたる歌詞を逹瑯が〈愛に死のう〉ではなく〈愛の唄を〉と歌い替え、そこから再々デビュー曲「愛の唄」へと繋げてみせたくだりの鮮やかな手腕もお見事としか言い様がなかった。

ランディーVシェイプのギターを駆使しつつ重さと粘性のある音を醸し出すミヤ、指弾きの効果を存分に活かしてアンニュイな雰囲気をベースで表現していくYUKKE、詞世界の人物が取り憑いたかのようにステージ上で這うような動きをみせながら〈君に跪いた〉と歌いあげる逹瑯。

気付けば、ここまでのたった5曲で我々は時を忘れてしまっていたところがあり、前述した逹瑯のMCが挟まれることによって、「そうか。まだ昼過ぎだったのか!」と認識した人も少なくなかったのではないかと思う。

ちなみに、ツアー初日のMC内容によるとこの2デイズに関するセトリは逹瑯が構成したとのことで、最新シングル『愛の唄』の曲たちはもちろん、そのほかには2022年に発表されたアルバム『新世界』と『新世界 別巻』、そして2015年に発表されたミニアルバム『T.R.E.N.D.Y. -Paradise from 1997-』の収録曲たちが絶妙なバランスで並べられている印象を受けた。

初日と翌日の昼公演では多少曲順が違った部分もあったにせよ、特に『愛の唄』のカップリング曲でありメロウでムーディな色合いを持った「Violet」、『T.R.E.N.D.Y.〜』からの「睡蓮」と「TONIGHT」はいずれも“90年代”をモチーフにして作られた楽曲たちということで、独特の時代感が会場内のそこかしこに香りとして立ちこめていったように感じたのだ。

なお、このライヴを観ながら筆者は2015年当時にとある取材に対してミヤが答えてくれた以下の言葉をふと思い出すことにもなった。

「90年代って、夢のある時代だったなというのはありますね。音楽も昔の方が曲とか大げさだったし、そこに対して聴く方も夢をみられる感覚があった。

今の音楽と比べると現実味にちょっと欠けていたところが良かったし、普段なら恥ずかしくて言えないようなことも、音楽を介してだったら言えるみたいなところもあって良かったなと思います」

MUCCが結成された1997年とは、27年も前のこと。

つまり、よくよく考えれば日本国の経済的または時代的推移を示す時によく使われる“失われた30年”とは、ほぼほぼMUCCがここまでに過ごしてきた日々とも重なる。

ただ、いくら時代が移り変わろうとも音楽に込められている魂そのものは不変であり普遍的だとも考えられはしまいか。

それこそ、今宵の本編最後に演奏された「TONIGHT」で歌われた〈あの頃のままで〉というフレーズからは、良い意味で変わらないノスタルジーをひしひしと感じられた。

そして、良い意味で変わらないと言えば。今回の“昼公演”自体は初の試みであったにも関わらず、久しぶりの光景が続出した点も特筆すべき点だったかと。

本編で「娼婦」が演奏された時にも、客席フロア内でモッシュやリフト〜クラウドサーフ(コロダイ)といった現象が勃発していたほか、アンコールの「MAD YACK」や「蘭鋳」では遂にサークルモッシュピットまでが出現することに!

昨年中は、東京でのワンマンがLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)や、国際フォーラムなどのホールを中心に行われていたこともあり、2023年5月からライヴ現場の通常化が進んで以降にMUCCのワンマンをライヴハウスで観るということ自体が筆者は久しぶりだったためか、その“コロナ禍の前まではよく見ていた光景”が楽しそうに繰り広げられているのをこのたびのライヴで目にし、ようやく理解へと至ったのである。

「なるほど。逹瑯は規制下でリリースされた『新世界』や『新世界 別巻』の曲たちを、ここであらためて解き放ってあげることもこの2デイズの目的にしていたのか」という風に。

「あのさ、訊きたいんだけど。今回はMUCCが早い時間にライヴやるとか言ってっから、とりあえず有休取って来たっていう人はどのくらいいる?やっぱり多いね。じゃあ、土日とかはライヴ行けないけど平日の昼間だから来れました!っていう人は?あぁ、いっぱいいるじゃん。いや、俺としてもこういうのって自分のゴールデンタイムにライヴやれてるからめっちゃいい(笑)。みんなはこのあと何すんの?コドモのお迎え?そういう人もいっぱいいるんだ」(ミヤ)

「あとは、ライヴもう1本行けるよね。今日、夜はReXで今度の[MUCC TOUR 2024「Love Together」]に出てくれるMAMA.がやるんでしょ?ん?何?このあと、夜は京都のライヴ行くの?へー、6月10日だからROTTENGRAFFTYの日か!」(逹瑯)

「すごーっ!そんなこと出来ちゃうんだ(笑)」(YUKKE)

アンコールでの演奏を始める前には、メンバーと夢烏たちの間でこのような会話も交わされただけあって、昼下がりのライヴが終わって場外に出ると外はまだまだティータイムの最中にあたる15時過ぎ。

ついさっきまでの濃密なアレやコレやと、外の明るさには正直ギャップを感じてしまったのも事実だが、たまにはこんな日があってもいい。

さて。ここからのMUCCは今夏をキズ、NoGoD、甘い暴力、vistlip、MAMA.、CHAQLA.、JILUKA、ΛrlequiΩ、色々な十字架、DEZERTといった後輩バンドたちをサポートバンドとして迎えながら、この[MUCC TOUR 2024「Love Together」]を続行していくことになる。

そのうえ、9月16日にはEX THEATER ROPPONGIにてアンティック-珈琲店-、キズ、YUKI-Starring Raphael-、lynch.が一同に会するイベントもツアーの一環として行われるそうだ。

きっと、愛あふれる場所には新しい何かが生まれていくことになるものと信じたい。

2024年6月10日(月)
MUCC TOUR 2024「Love Together」
Spotify O-EAST
SETLIST
 
1 星に願いを
2 懺把乱
3 サイコ
4 サイレン
5 愛の唄
6 G.G.
7 NEED
8 Violet
9 I wanna kiss
10 パーフェクトサークル
11 ニルヴァーナ
12 睡蓮
13 シリウス
14 娼婦
15 SLAVE
16 My WORLD
17 TONIGHT
EN1 You&I
EN2 MAD YACK
EN3 蘭鋳

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