深いブルーに輝くベルベットのパンツスーツという出で立ちが凛々しいリトルブラックドレスが客席の間を縫ってステージへ。オープナーは大瀧詠一「さらばシベリア鉄道」、YMO「君に、胸キュン」、山下達郎「BOMBER」と繋いだ男性ボーカルもののメドレー。ストローク弾きのアコギにマニッシュな声音が絡み合う「さらばシベリア鉄道」は、なるほど太田裕美のオリジナルではなく、音域も抑揚の付けかたも大瀧詠一バージョンを思わせるアレンジだった。ギターをテレキャスに持ち替え、「みなさん、今日は心から楽しんでください」と客席にクラップを促しつつ、とびきりキュートでポップな「君に、胸キュン」へ。そして軽快なギターのカッティング、チョッピーなベースとパワフルなボーカルがグルーヴを醸す「BOMBER」という鉄板の選曲にフロアが沸く。

「第3回のCITY POP NIGHTにようこそお越しくださいました!今夜は私の大好きなシティポップをひたすらにカバーするというライブです」という挨拶から、バンドメンバーの合いの手も入りつつ、彼女のシティポップ愛溢れるトークが続く。「私のCITY POP NIGHTはMCが長いんですよ。愛が深すぎて(笑)」とおどけて見せる。1970年代、80年代当時のミュージシャンシップに思いを馳せつつ、「そういう部分にZ世代の自分が憧れる部分があるし、都会とかバブル期特有の孤独感、日本の哀愁みたいなものと、華やかなサウンドのギャップがシティポップの魅力だなと思います」と語ってから、スツールに腰かけ、安部恭弘「アイリーン」を思い入れたっぷりに歌い上げる。続いてTwitterでいちばんリクエストが多かったという竹内まりや「駅」へ。旅情という言葉がよく似合うしっとりとした佇まいに魅入られてしまう。

ここでバンドメンバーの紹介へ。キーボードは堀 仁一郎、ドラムスは越智祐介、ベースは御供信弘、コーラスとオルガンは佐々木久美、ギターは土方隆行、そしてサックスは鈴木明男という鉄壁の布陣。そんなシティポップの名手が繰り出す鮮やかなハーフカッティングのギターと、パワフルなバックコーラスを従えて、とびきりアップリフティングな吉田美奈子「TOWN」を披露。40年超という年月に磨かれ、普遍性を帯びたシティポップが、いまを生きるシンガーの憧れとリスペクトを纏ってステージから放たれる。

リトルブラックドレスとブルーノート東京のライブシリーズであるCITY POP NIGHTも、回を重ねるたびに、より自由に、より深みを増したように感じられるのだが、続く女性ボーカルメドレー――アニソンメドレーでもある!――は、その自由と深化を象徴するセットだろう。DALI「ムーンライト伝説」、杏里「Cat's eye」から、その名曲たちに伍して譲らない強度のオリジナル曲「逆転のレジーナ」へ、というメドレーは胸躍る瞬間だった。

エンディングはアン・ルイス「恋のブギ・ウギ・トレイン」。手練れたちのシュアで懐の深い演奏と、リトルブラックドレスのボーカル・パフォーマンスが互いを高めあう。サックスの鈴木明男とアイコンタクトしながらの応酬にフロアから拍手が湧き上がる。

アンコールはゲスの極み乙女。の川谷絵音が手掛けたリトルブラックドレス「雨と恋心」。軽やかでいて微かに悲哀を帯びた歌い出しにぐっとくる。彼女が自身のルーツミュージックであるシティポップをかみ砕いて、どうやって“令和のシティポップ”にアップデートしたかを窺い知れる楽曲だ。

「最後は、世界中で再燃しているこの名曲でCITY POP NIGHTの扉を締めたいと思います」と告げて、松原みき「真夜中のドア」へ。少し大人びて響く彼女の歌声と、ほどよい高揚感に包まれるフロアを見て、この曲がCITY POP NIGHTのセットリストの定番になりそうな予感がしてしまったのは、聴き手の思い入れというバイアスのせいだろうか?

ともあれ、ステージで歌い、ギターを掻き鳴らすリトルブラックドレスは、愛してやまない名曲たちを最高のミュージシャンとともにプレイする喜びに満ちていて、この日のブルーノート東京にいた誰よりも楽しそうに見えたことを最後に記しておきたい。

(おわり)

取材・文/高橋 豊(encore)
写真/SANTIN AKI

DISC INFOリトルブラックドレス「白雨」

2022年7月18日(月)配信
PCSP-04319
ポニーキャニオン

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リトルブラックドレス「逆転のレジーナ」

2022年6月8日(水)配信
ポニーキャニオン

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