開演BGMがアンダーワールドの「Born Slippy(Nuxx)」になり、場内が暗転すると同時に前方のファンがステージ前に押し寄せる。そこにお馴染み「Burger Queen」のSEとともにメンバーが登場し、生演奏が重なると歓声も叫びも相まったカオスが現れる。そこからの「KABUTO」のメタル真っ青なクランチなギターの圧の凄まじさ。磯部寛之(Ba&Cho)が間奏で鳴らすシンセベースの重低音もまた凄まじい。一転、Aメロからシンガロングが自然発生する「Forever Young」、磯部の蠢くフレーズに翻弄される「?」、白井眞輝(G)のクリーントーンのオブリが冴えている「My Blueberry Morning」、ストップ&ゴーを完全に把握しているフロアのリアクションがビビッドな「Baby’s Alright」と、冗長なエンディングを排して、異なるカラーの5曲を一気に畳み掛けた。一曲一曲を咀嚼する暇を与えず、矢継ぎ早にステージが変わるRPGのように、見ているこちらが気を抜いたらバンドが遥か先を走っているようなスリル。もちろん、ライブハウス規模に参加するファンの食らい付き方はとてもタフなのだが。
川上洋平(Vo&Gt)は「昨日も(オーディエンスの)声、デカかったけど今日はさらにデカいです」と、声を浴びるようにイヤモニを外す。彼の歓喜がオーディエンスに還流し、さらに上がるテンション。ライブで並列すると過去曲も最近の曲も同じ板に乗ることを実感したのはオーセンティックなギターロックである「無心拍数」。アニメ「アオアシ」OPテーマでもあるが、“キリがない願望”が爆発し続ける状態はこのバンドのモチベーションにもすごく近い。そこから16ビートの太いグルーヴで揺らす「Kill Me If You Can」、馴染みのイントロが鳴李、川上の「暴れようぜ!」の一声でさらにフロアの熱が上がった「Kick&Spin」。彼らのライブではエースストライカー級のナンバーが今もアップデートし続けている事実に思わず笑うと同時に久々にクラウドサーファーの出現を見たことも、100%のライブ現場が戻ったことを実感させる。受け継がれてきたトライバルなタム回しにもリアド 偉武(Dr)のカラーが伺えるし、デッドな鳴りで音というより体感としてビートを放つ彼のスタイルがロックバンドの中でもダンサブルな要素が突出している[Alexandros]のスタイルにハマる。
「バンドよりお客さんの声がデカい、そんなバンドでいたいです。コロナ禍の期間にファンになった人には激しいフロアかもしれないが、ロックバンドなんで」と明言しつつ、苦しそうな人は助けるようにとも。そこからディズニーコンピの参加曲「Supercalifragilisticexpialidocious」のフォーク×HIP HOPなグルーヴ、オープニングSEでの“ボンスリ”の伏線回収のごときカバーではライブハウスがクラブに変貌、クラップやレイズハンズで応えるフロアをそのままのノリで「Stimulator」に繋いだのは見事で、“Get in to Get out in to”のシンガロングの大きいこと。さらに四つ打ちのキックに歓声が上がったテクノテイストの「we are still kids & stray cats」ではまさにダンスフロアが出現し、川上はフロアにマイクスタンドごと差し出して、ステージとフロアの垣根をぶっ壊していく。
体感30分ぐらいなのだが、すでに11曲演奏していることに少し驚いていると、川上がこれまでの声を出せないライブはストレスだったんだなと振り返り、ファンに向けて「よく我慢したと自分たちを褒めよう。だから引き続き我々のライブではガンガン歌ってください」と話す。今回のツアーの最大にしてシンプルな意味はおそらくそこだ。何度つまづいても進むバンド初期の意思表明である「Spy」に繋いだことで、さらにこのバンドの進み方が明快になった感じだ。
[Alexandros]のライブでカバーはお馴染みだが、この日はオアシスの「Wonderwall」を川上が弾き語り。川上いわく、先日のノエル・ギャラガーの来日公演は見られなかったそうで、フロアからも残念そうな声が上がる。ファンの中には彼らをきっかけにUKロックをディグった人も少なからずいるだろう。ごく自然にそうしたことが繋がっていくのも[Alexandros]のライブ体験の醍醐味でもある。そこでアコギのコード進行にその影響が見て取れる「de Mexico」に接続するのも粋だ。白井のワウの効いたソロも90’sUKの匂いが溢れていた。
そしてさらなるギアアップは「Waitress, Waitress!」。リアドのトライバルなビートで2階席も揺れるほどのジャンプが起こり、ジャジーなセクションではピアノが映える。川上が語り部分に「筋肉痛になっても行けますか?」と妙なアドリブを盛り込んで煽る。ショーマンシップとパンクス魂は両立するんだな……と感心してしまった。そしてリアドの正式参加後の代表曲というMCから、今の彼らだからできるオーセンティックでファストな8ビート「閃光」が爆走。無数のストロボライトがプレイを盛り上げる。マイナーの速い8ビートという邦楽ロック要素多めの構成をクールな印象に仕上げる個性がこのバンドだなと感じた演奏でもあった。続いて初期からのバンドの背骨っぽいアンセム「city」が鳴らされると、つくづく今回のセットリストの強さを思わずにいられない。“ここはどこですか”“私は誰ですか”のシンガロングに、カッコよさや楽しさと常に並行して存在する誠実さへの信頼を見る。初期からのファンにとって大事なレパートリーといえば、「Kids」が続けて演奏されたのも胸に響いた。
しみじみフロアを眺めるメンバーの満たされた表情、「俺は今年で一番楽しかったです!」と言い切った川上。ワンマンライブだからこそ可能な今のセットリストと、それを受け止めて返すファン双方の達成感のようなものが会場中に満ち満ちている。本編を締め括ったのは大きなメロディと演奏がバンドのルーツを窺わせる「Plus Altra」。季節柄、クリスマスを想起させる輝きを放っていたようにも感じた。本編ラストはパーティの大団円にふさわしいロックンロール「Dracula La」。2番の歌詞を“東京に奪われたい”にアレンジして、まだまだ終わりたくない夜を共有していく。途切れることのない高いテンションで、2時間が経過していたことに大袈裟じゃなく驚いてしまった。なんという密度とスピード感だろう。
本編も出し切った上で、アンコールも大好きだという彼らはアンコールならではの選曲――例えば家入レオへの提供曲「空と青」や代表曲「ワタリドリ」などを披露。何より締めに「Don’t Fuck With Yoohei Kawakami」をチョイスし、白井はギターソロでthee michelle gun elephantのよく知られたギターリフを盛り込み、言葉ではなくあくまでも音で想いを表明。このスタンスは[Alexandros]そのものでもあるよな、と改めて感じたのだった。
なお、アンコールで来年10月に川上と白井の地元である相模原で主催フェス「THIS FES ‘24」が開催されることも発表された。
(おわり)
取材・文/石角友香
写真/河本悠貴
「[Alexandros] NEW MEANING TOUR 2023@Zepp DiverCity――2023年12月9日(土)SET LIST
M1. KABUTO
M2. Forever Young
M3. ?
M4. My Blueberry Morning
M5. Baby's Alright
M6. 無心拍数
M7. Kill Me If You Can
M8. Kick&Spin
M9. Supercalifragilisticexpialidocious
M10. Stimulator
M11. we are still kids & stray cats
M12. spy
M13. de Mexico
M14. Waitress, Waitress!
M15. 閃光
M16. city
M17. Kids
M18. Plus Altra
M19. Dracula La
EN1. MILK
EN2. Starrrrrrr
EN3. 空と青
EN4. ワタリドリ
EN5. Don't Fuck with Yoohei Kawakami
[Alexandros] presents THIS FES ’24 in SagamiharaLIVE INFO
2024年10月26日(土)、27日(日)相模原ギオンフィールドおよびの周辺