人生という車のハンドルを絶対手放さない、手放したくない人たちが求めてやまない音楽が、8月の連休最終日、灼熱のオフィス街で鳴っている……a flood of circle、結成15周年ライブはここまでたどり着いたプロセスをバンドとファンが肯定するパワーに満ちていた。アニバーサリーはこの先も続けていくことを告げるためのきっかけでしかないようなところがafocにはある。

実際、4月からスタートしたツアー「CANDLE SONGS-日比谷野外大音楽堂への道-」は15本に渡るそこそこ長いツアーだし、7月の東名阪は先輩であるthe pillows、9mm Parabellum Bullet、盟友cinema staffを対バン相手に迎え、afocというバンドのロックシーンでの立ち位置を改めて知る機会でもあった。そしてツアータイトルに冠された「CANDLE SONGS」はASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文をプロデューサーに迎えた「キャンドルソング」を含む15周年記念EPのタイトルである。常に前進と試行錯誤を続けるこのバンドらしい道の途中なのだ。ただそのプロセスで「行けるとこまで行く」こと以上に大事なのはライブ中、佐々木亮介(Gt / Vo)が話していたように、「行けるとこまで行く時に、どこまで自分でいられるか」なのだ。まるでそれを自分で試すように彼らは本編に30曲をぎっちり詰め込んだ。

どシンプルなステージに入場SEもなく、ゆったりとした足取りで現れた4人。黒い革ジャン姿の佐々木は「おはようございます!a flood of circleです」と、恒例の挨拶。オープナーは1stシングル「Buffalo Dance」だ。いきなりトップスピードで攻めるというより、ジリジリギアを上げる感じ。サビで勢いよく挙がるファンの腕を見るに、客席の熱量の方が上回っている印象だ。立て続けに初期作品を繰り出すが、トライバルな渡邊一丘(Dr)のビートに乗り、風を受けて踊るようなHISAYO(Ba)のプレイ、佐々木とアオキテツ(Gt)のリフの応酬が見られた「Human License」ではブルースとロックンロールをベースにしたこのバンドが貪欲にその時々のバンドミュージックのエッジを吸収・昇華してきたことを思い知る。

「The Beautiful Monkeys」で佐々木は歌詞の内容よろしく身振りを入れたり、スタンドマイクを引き摺ってステージを移動する。人間風刺から一転、シャッフルのビートが気持ちを鼓舞する「I LOVE YOU」で聴く者を歌で抱きしめる。そしてユーモアも溢れる「理由なき反抗(The Rebel Age)」では“シャララララ”のシンガロングとともに裏表がなさすぎる佐々木のことをファンが抱きしめるような感覚に陥る。ところで、台風の風にちょっと期待していたものの、オーディエンスが歌い、動くとビールの匂い混じりの汗や体温で野外と思えない暑さが醸成される。なんだここはライブハウスか?と思わず周りを見回してしまった。

ギターのロングトーンから佐々木の少年性を湛えた声で始まる「I’M FREE」。空港の出国検査場での出来事をトレースしていく語り口のスリルは青臭いのに暑苦しくならない。リアルな心情は今も有効だ。他のバンドなら常套句に聴こえなくもない「Do You Wanna Rock’n Roll?」という佐々木の投げかけは常に本気だ。ロックンロールしたいのか?それは“黒い瞳のブルース”というタイトルの「Black Eye Blues」に接続していく。日本人がブルースを歌うことについて、自分の体験をそれこそメンバー交代が激しいこのバンドのリアルストーリーも込めて表現するこの曲。ロック×ヒップホップの手法を曲ができた当時に採った佐々木のスタンスが今も刺さる。少なくとも自分は天然・無垢のロックンローラーなんかじゃないことを彼はロックバンドで証明してきた。めんどくさいけれど、そこに佐々木やafocを信用する根拠がある。そして一回目に息が上がりそうなタイミングでファストな2ビートナンバー「ベストライド」をセットするタフさ。歌詞を“なけなしの命賭けて野音にやってきた”とアレンジすると歓声が上がった。

佐々木がアコギを携えての「月面のプール」、そしてこのバンドの真骨頂を示す「BLUE」。「青臭いねって言葉が好きで、青臭くない人で面白い人を見たことがない」と佐々木。客席を見渡し、「みんな真っ青で素敵です」という一言には笑いと拍手が起きた。みんな自分の青臭さを肯定したいのだ。この日何度も佐々木は自分がロックバンドをやることの意味を話していたが、「BLUE」を演奏し終えたほぼ折り返しのタイミングで、もう一歩踏み込んだ話をした。ロックバンドはやる必然がある人がやるもので、彼にとっては意識的なものであること。いつか人生が終わる時、「その人なりに成長しました」止まりの評価では耐えられないこと。だからこそどうなるかわからないけれど、行けるところまで行くことを毎回のライブで証明しにきているのだろう。このタイミングで「武道館のライブもやるつもりだけど、良質のエンタテイメントをやるつもりはないから」と、改めて言葉にした。つまり冒頭に書いた「行けるところまで行く時に、どこまで自分でいられるか」ということだ。そこから後半の1曲目の「花」が鳴らされる。<どこにも故郷がない人は土に還るまでが遠足です>という歌い出しは必然でロックをやっている人にはない発想だと思う。さらにバンドが新陳代謝を続けてきたことにもつながる「New Tribe」から、イントロで大きな歓声が上がった「ミッドナイト・クローラー」、激烈なリフが炸裂する「Blood&Bones」へのブロックは2016年に現在最後の新しいメンバーであるアオキの加入以降、この4人で精度と強度を高めてきた不屈の佇まいを証明していた。そのブロックにアオキ、HISAYO、渡邉3人のセッションを繋げたことも胸に迫った。

佐々木がステージに戻り「Are You Ready?野音Baby!」と喝を入れると、アオキが歌詞の一部を“今日は野音の月曜日で最高だな!”とアレンジして歌った「Lucky Lucky」、ホラーなムードが漂う「美しい悪夢」では渡邊のタフさが際立つ。さらに畳み掛けるように近年のアンセム「Rollers Anthem」や「北極星のメロディー」が本気でこれが限界に挑むセットリストであることを理解させる。そのセクションの最後に何もかも曝け出して訥々と搾り出すように、佐々木がピアノを弾きながら歌う「白状」を持ってくると誰もが息を詰めてステージを見守る。シャウトや高音が厳しそうに聴こえていたが、じっくりと言葉を紡ぐこの曲で俄然ボーカルに説得力は増していた。誰かや何かに勝つことではなく、自分がまだ終わりだと思えないから終われない。このたった一つのことがafocとファンを繋いでいると強く感じた。

最後のまとまったMCで佐々木は「どこまでも行けない」ことがわかってからが面白いと、新たな視点をぶっ込んできた。ラストスパートは以前にも増して飾らない言葉で生きている輝きや爆発力を生々しく感じさせる近作『花降る夜空に不滅の歌を』から「花降る空に不滅の歌を」「月夜の道を俺が行く」「本気で生きているのなら」を連投。かっこいい喩えやソリッドな物言いではなく、素朴な言葉で書かれた日記のような歌詞がこの場にいる誰しもの心に響き、すでに20数曲演奏してきたとは思えないほど、新鮮な空気でライブを底上げしていく。バンドの足跡通りに演奏して行くことの意味を見る思いだ。特に「本気で生きているのなら」では、自分にも目の前にいるファンにも語りかけるように歌われる。“これしかないって賭けているなら、誰かが向いてくれないのではなく、向き不向きなんてどうでもよく、本気で向かっていなかっただけなのです”と、歌が進んでいくにつれ、自分の中の真実が痛快に暴かれる。ここにいる人の鼓動が聴こえるような鮮烈さだったのだ。

最後のセクションは音源より何倍もゴリっとした感触の「キャンドルソング」。でもシンガロングされる“ユラユラユラ”は優しい。“孤独なんて内臓の一つじゃん”という想いは多くのファンに共通していそうだ。さらにストレイテナーのホリエアツシがプロデュースした「ゴールド・ディガーズ」で声も演奏も振り絞られるようなギリギリのテンションに。そして旅のようだった本編は「プシケ」を披露、佐々木は誇らしくメンバー紹介をし、いよいよ本編ラストは1stアルバム『BUFFALO SOUL』の1曲目にして永遠のアンセム「シーガル」のイントロが鳴らされる。サビを振り絞るように歌う佐々木が客席にマイクを向けるとほぼ最後列と立ち見席でもシンガロングが起こり、まさに“絶望の果てに答えがなくても?”はファン自身の心からの希求でもあったと思う。行けるところまで行く、まさにそんな30曲の本編が終了した。

アンコールではすでにニューアルバムの制作が進行していること、3曲の歌入れが迫る中、歌詞が一行も書けていないことなども吐露。新作のモチベーションはツアーであることを述べ、その延長線上に武道館公演をやりたいという意思表明も。そして翌日にデジタルリリースされる新曲「虫けらの詩」を披露した際にはステージ上にカメラが入り、MVを構成するシーンも撮影した。すでに新しい曲じゃないとモチベーションが上がらないという佐々木の発言は自分への叱咤激励でもあるのだろう。「3時間に及ぶライブは最後の最後でロマンに満ちた「Honey Moon Song」で鮮やかに締めくくった。そう、この曲にあるように未来は行ってみないとわからない。そうしてa flood of circleの「行けるところまで行く」はまた更新されて行くのだろう。

(おわり)

取材・文/石角友香
写真/Viola Kam(V’z Twinkle)



a flood of circle Tour 2024-2025LIVE INFO

2024年11月28日(木)千葉 LOOK
11月29日(金)千葉 LOOK
12月6日(金)堺 FANDANGO
12月7日(土)堺 FANDANGO(w/ THE CHINA WIFE MOTORS)
2025年1月23日(木)名古屋 CLUB UPSET
2月9日(日)京都 磔磔
2月11日(火)広島 SECOND CRUTCH
2月13日(木)松山 Double-u studio
2月15日(土)高知 X-pt.
2月16日(日)高松 DIME
2月18日(火)静岡 UMBER
3月6日(木)神戸 太陽と虎
3月8日(土)鹿児島 SR HALL
3月9日(日)大分 club SPOT
3月11日(火)岐阜 ants
3月16日(日)横浜 F.A.D
3月20日(木祝)新潟 CLUB RIVERST
3月22日(土)郡山 HIPSHOT JAPAN
3月23日(日)盛岡 CLUB CHANGE WAVE
4月5日(土)長野 J
4月6日(日)金沢 vanvanV4
4月10日(木)奈良 NEVER LAND
4月12日(土)出雲 APOLLO
4月13日(日)福山 Cable
5月9日(金)仙台 MACANA
5月10日(土)水戸 LIGHT HOUSE
5月15日(木)八戸 ROXX
5月16日(金)八戸 ROXX
5月18日(日)山形 ミュージック昭和SESSION
5月23日(金)岡山 PEPPERLAND
5月25日(日)福岡 CB
5月30日(金)札幌 cube garden
5月31日(土)旭川 CASINO DRIVE
6月5日(木)名古屋 CLUB QUATTRO
6月6日(金)梅田 CLUB QUATTRO
6月13日(金)Zepp DiverCity(TOKYO)
6月21日(土)沖縄 output

ファンクラブ先行

a flood of circle『*TBA』DISC INFO

2024年11月6日(水)発売
初回限定盤(CD+DVD)/TECI-1829/5,500円(税込)
通常盤(CD)/TECI-1830/3,300円(税込)
テイチクエンタテインメント

a flood of circle「CANDLE SONGS」DISC INFO

2024年3月13日(水) 発売
初回限定盤(CD+DVD)/TECI-1821/5,500円(税込)
通常盤(CD+DVD)/TECI-1822/2,750円(税込)
テイチクエンタテインメント

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