アコースティックギタリスト・押尾コータローと、2人組ギターインストゥルメンタルユニット・DEPAPEPEによる、スペシャルプロジェクト「DEPAPEKO」が約6年半ぶりとなる2ndアルバム「PICK POP II ~meets the WORLD~」をリリース、コンサートツアーをスタートさせた。
その初日を飾る東京公演、東京国際フォーラム・ホールCでのライブ「DEPAPEKO -押尾コータロー×DEPAPEPE- LlVE TOUR 2025 "PlCK POP ll"」のオフィシャルライブレポートが到着!
アコースティックギターインストゥルメンタルでメジャーシーンにその名前、音楽を響かせる押尾コータローとDEPAPEPE。2組のアーティストが組んだDEPAPEKOが6月29日、東京国際フォーラム ホールCにてライヴを開催した。DEPAPEKOは、2018年に1stアルバム『PICK POP! ~J-Hits Acoustic Covers~』をリリース。その後も定期的にライヴなどで音を鳴らしてきたが、この日の東京国際フォーラム公演は今年4月9日にドロップした2ndアルバム『PICK POP II ~meets the WORLD~』を引っ提げたツアーの初日にあたり、ツアーに限定すると1stアルバムタイミング以来の約6年半振りとなる。
開演前、会場に入るとステージ奥の壁1面に雄大な海の映像が映し出されていた。
そして、場内が暗転、押尾が書き下ろしたオープニングSEが流れる。ゴスペルの空気をたっぷりと吸った壮大なSE には“DEPAPEKO”や、徳岡慶也、三浦拓也、押尾それぞれの愛称を呼ぶ声などがコラージュされていて、さらには汽笛も聞こえる。急速に高揚感が膨れ上がる中、3人がステージの定位置に着いた。すぐに三浦が芯のある音で印象的なフレーズをストロークする。頭上に上げた手を打ち、ハンドクラップを扇動してから押尾が、ギターのボディを叩く、パームを交えリズムとベースラインを生み出す。DEPAPEPE の2人がハーモニーでフレーズを奏で、そして、徳岡が煌びやかな音色で旋律を紡ぐ。3階席まで埋め尽くす約1,500人のクラップをアンサンブルに加え演奏されるオープニングナンバーは、最新アルバムに収録されたTOTOの「I’ll Supply the Love」だ。押尾と徳岡と三浦はそれぞれアイコンタクトをとりながら、3本のギターでこの名曲を織る。“I met the girl across the sea”──“海を越えてその少女に会った”、そんな下りがこの曲にはある。今、奏でられるのはインストで当然、歌、言葉は乗っていないのだけれど、力強く魅惑的な3人の音の重なりは、物理的な距離を越えて聴く者を引き込む。そして愛情を注いでくる。ホールが熱気を帯びる。
間髪を入れず入った「Landscape」、オリジナルは押尾のソロ曲である。ひとりで演奏された時はソリッドで逞しく生きる生命力を感じたのに対して、DEPAPEKOで奏でられると、例えば春や夏の草木から伝わってくるような溢れ返る生命の臭い、情熱と華やかさを届けてくれる。
「はい、どうもDEPAPEKOです。チケット完売、満員御礼でございます。ありがとうございます」感謝を伝えたMCを挟み、今度はDEPAPEPEの初期の曲「Sky! Sky! Sky!」。3本のギターがスピードに乗って遮るもののない広い世界を描き出す。押尾、三浦が包容力のあるリズムと中低音を形成し、その上で徳岡の弾くメロディは透明で瑞々しさを放つ。お互いの曲をDEPAPEKOで響かせるとニュアンス、脳裏に浮かぶ景色が変化するのも魅力だ。
“ジャジャジャジャーン”──運命がドアを叩く音と言われる有名なフレーズを3人が鳴らし、その音圧に心が鷲掴みされる。ベートーヴェンの交響曲第5番をDEPAPEKOアレンジで聴かせる「運命 -Variations of the Symphony No.5-」。メロディフレーズをリレーし、パームを交えてスリリングに、時に美しく表現されるのは、まさに運命の奔流である。MCで新作アルバムに触れ、「前作は邦楽というテーマを設けていたんですけど、今回は洋楽であったり、それぞれのオリジナル曲、“運命”のようなクラッシックもカヴァーしていて。DEPAPEKO号という船に乗って世界中を旅し、いろんな楽曲に出逢い、それを奏でていくというテーマで作っています」三浦が代表して話し、続いたのはニューアルバム収録のDEPAPEKOオリジナル曲「meets the WORLD」だった。細やかなループフレーズが船底に当たるさざ波の音を思わせる導入から、演奏がダイナミズムを帯び一気に見せる景色を広げる。その移ろいは港から外洋に出たかのよう。そして曲は4分の6拍子へと展開、サウンドが紡ぐ物語で、DEPAPEKOが辿る船旅の未開拓の冒険のワクワクをオーディエンスが追体験していく。
スタンディングスタイルで大音量を鳴らし、大がかりな照明を同期させながら、ロックやポップスを演る。これだけでも、ギターインストゥルメンタルのライヴの概念を越えているわけだけれど、DEPAPEKOはさらに先へと帆を進める。
ミラーボールが天井から降りてきて、照明を乱反射させる。そんな中届けられたのは、Earth, Wind & Fireのディスコ期の代表曲「Let's Groove」だ。ボコーダーなどのデジタルとホーンセクションが印象的だったダンスナンバーをアコギ3本で表現し、さらに三浦、押尾、徳岡はステップをシンクロさせ、ダンスしながら弾く。三浦のクールで太いフレーズのループに、徳岡が澄み渡ったメロディを乗せ、押尾がドラムとベースセクションを再現したYMOの「RYDEEN」は、新作に収録されているとはいえ生で体感すると、アコギだけでできるの!?という純粋な驚きが襲ってくる。YMO の3人は、1980年代初頭にシンセサイザーや電子楽器、コンピュータを採り入れ、そこに東洋のテイストを加えて世界中を巻き込むテクノ、ニュー・ウェイヴのムーブメントの起爆剤となった。偉大な先輩アーティストが独自の発想と実験で新しい音楽を生み出した、その根幹にあるスピリッツまでDEPAPEKOは受け継いでいるんだ、と思わされる。彼らの生むグルーヴ、音を鳴らす楽しみが伝播して観客は体を揺らしている。
しかし、これが行き着いた先ではなく、彼らの音楽冒険はまだ続く。YOASOBIの「アイドル」では、多層の円で構成されたセットが現れ、カラフルな光を放つ中、打ち込みを軸にし、オペラティックなコーラスを積み、ラップセクションまで飛び出すこの楽曲をギターだけで表現していく。2番に入りダウナーに展開、ラップセクションが飛び出し、テンポダウン……曲中で次々とサウンドが変化する。そして「アイドル」が内包するきらめき、儚さ、嘘、嫉妬、いつかという願いといった感情が心の底に流れ込んでくる。DEPAPEKOはインストゥルメンタルとしてバックサウンドをギターに変換しているわけではなく、歌、込められた想いも含めた音楽を昇華して表現していることが改めて伝わってきた。
灯ったいくつもの小さな電球たちが描き出した星空の下、DEPAPEPEのミディアムスローナンバー「シュプール」を3人で奏でる。凜とした徳岡の音色、温かな押尾と三浦の音色が織る静かでハートフルな音楽が水を打ったように聴き入る客席に溶けていった。ダンスミュージックで聴く者に火をつけ、しっとりとした曲でじんわりと熱が体内を循環した。そんな一人ひとりの中で湧き上がる衝動を押尾の「みんなで伸びをしたいと思います」の一言が後押しする。
オールスタンディングのホールに放たれたDEPAPEPEの「ONE」、3人と観客のクラップで奏でられることで元気に弾けるこの曲のサビで“ラララララ〜”と会場にいる全員が声と気持ちを乗せる。ピースフルな空気が場内を支配する。続いた押尾コータローの「Big Blue Ocean」では下手から上手、上手から下手、そして前列から3階の再後方席までウェイヴを巻き起こす。ステージ奥に垂らされたたくさんのクリアビーズが光を受けキラキラと輝く。その光景は、音楽探検の海をDEPAPEKOが軽快に走っている姿、そのものだった。
そんな本編を締めくくったのは、押尾コータローの「翼 〜you are the HERO〜」。
観客が左右へ体を大きく揺らし、クラップを打つ。オーディエンスとステージの3人が響かせる「翼 〜you are the HERO〜」は希望に満ち、心に積もる喜び、悲しみ、もやもや、楽しみ……すべての感情を昇華して、明日からの日常を生きるエネルギーへと変換されていった。
鳴り止まないアンコールに応えた1曲目はモーリス・ラヴェル作曲の「ボレロ」である。徳岡が椅子に座りギターを爪弾いて、上質な演奏をじっくりと聴かせる。静寂をまとった3人の音楽が曲のラストでクレッシェンドし、その迫力で聴く者の意識を釘づけにする。そしてこの日のラストはクイーンの「Bohemian Rhapsody」が飾った。2022年発表の押尾コータロー20thアニバーサリーアルバム『My Guitar, My Life』にDEPAPEKO名義で収められた1曲でもある。美しくありながら次々と表情を変えていく押尾、徳岡、三浦のアンサンブル。ロックオペラと称されるクイーンもまた音楽実験を繰り返したバンドで、そんな先人たちの想いが脈打つギターアレンジの「Bohemian Rhapsody」を聴きながら、止められない音楽への好奇心と冒険心は時代を越えて、ステージで音を放つ3人の音楽家に宿っているんだと改めて感じた。
7月4日の名古屋・ダイアモンドホール、5日の大阪・サンケイホールブリーゼもソールドアウト、全公演で万雷の拍手と声援を浴び、このツアーの国内公演を終えたDEPAPEKOは、海を越え7月27日〜8月10日まで中国7都市、韓国、台北を巡る。そして、その先は押尾コータローとして、DEPAPEPEとしてそれぞれに音楽探究を続けながら、そこで得た刺激やスキルを持ち寄って、DEPAPEKOとして演奏する姿を見せてくれるだろう。3人の音楽を求める航海はまだまだ終わらない、と確信できるだけの楽しみ、発見、驚き、心の震えを味わった夜だった。
文・大西智之
写真・sencame
●公演情報
DEPAPEKO -押尾コータロー×DEPAPEPE- LlVE TOUR 2025 "PlCK POP ll"
【日時】 2025年6月26日(日) 16:15開場 / 17:00開演
【会場】 東京・東京国際フォーラム ホールC
SETLIST
01. I'll Supply the Love
02. Landscape
03. Sky! Sky! Sky!
04. 運命 -Variations of the Symphony No.5-
05. meets the WORLD
06. For You
07. Let's Groove
08. RYDEEN
09. アイドル
10. チョコレイト・ディスコ
11. シュプール
12. ONE
13. Big Blue Ocean
14. 翼 〜you are the HERO〜
Encore
01. ボレロ
02. Bohemian Rhapsody
▼プレイリスト公開中!
DEPAPEKO -押尾コータロー×DEPAPEPE- LIVE TOUR 2025 "PICK POP II"
https://DEPAPEKO.lnk.to/pickpop2_2025

●リリース情報
DEPAPEKO
2nd Album
PICK POP II ~meets the WORLD~
2025.4.9 Release!
SECL3180 / ¥3,300 (税込)
▼ご購入はコチラ!
https://DEPAPEKO.lnk.to/PICKPOP_II
★アルバム収録曲「meets the WORLD」ミュージックビデオ
◆「meets the WORLD (Music Video / Short Version)」
https://youtu.be/UTsBEIvwUiY
■押尾コータロー KOTARO OSHIO
大阪府出身のアコースティックギタリスト。
オープンチューニングやタッピング奏法を駆使した、独特のギターアレンジやパーカッシブで迫力ある演奏と、繊細で暖かい音色が共存するステージは、世代を超えて多くの人々に支持を受けている。
ソロアーティストとして全国ツアーなどのライブ活動を中心に、映画音楽、番組テーマ曲、CM音楽などの作曲も手掛けるなど、幅広いスタンスで活躍中。
■DEPAPEPE
2002年11月徳岡慶也と三浦拓也で結成された、2人組ギターインストゥルメンタルユニット。
アコースティックギター2本で、さわやかなメロディーとアコースティックギターの柔らかな音色で心象風景や喜怒哀楽といった感情、四季折々の情緒を表現する。
ライブ・コンサートでは、アコギ2本だけの演奏から、バンド編成までその場所に合わせて様々な感動を提供している。対照的な2人のキャラ、絶妙なトークも魅力の一つ。
「インストミュージックをポピュラーに!」を掲げ、世代、国境も越えて勢力的に活動中。
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