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「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」 by SMART USEN



通常はファーストセッションとセカンドセッションの2回に分けられる春夏ウィメンズ・トレードショーだが、今回は、ファーストセッションのフーズネクストが日程を後ろ倒しにし、会場もポルト・ド・ベルサイユからチュイルリーに変更、WSNが主催するもう一つの展示会プルミエールクラスに合流し、そこにさらに、主催者を別にするマン/ウーマンを招待するという異例の開催形式となった。

会期は3日間で10月4日までだったが、5日に仏政府がコロナ関連の衛生安全措置を強化し、6日から一切の展示会が禁止となったことを考えると、きわどい日程の中でむしろ奇跡的に無事開催できた、と言えなくもない。「TRANOI(トラノイ)」は今季、トレードショーのリアル開催を断念した。

ウィズコロナ初の今回のトレードショーでは、会場内に同時に入れるビジターが当初5000人に限定されたが、開催直前にも仏政府の措置強化があり、同時入場がさらに1000人までに制限された。
会場内でのマスク着用も義務化され、入口はもちろん、会場内の各所に消毒用アルコールジェルが設置された他、例年は受付でできる入場券の印刷も不可、スマホ上のチケットを提示するか、あるいは事前にプリントアウトしたものを持参することが求められた。パンフレットやカタログ類は一切配布されず、ビジターは各自、展示ブランドやブース番号、会場地図などを、会場のあちこちに掲示されるQRコードを利用してデジタル版カタログ上で確認した。

1000人という制限がある中、会場入りに長蛇の列が出るのではと、初日には開幕1時間前に到着してみたが、予想以上に人影はまばら。開場する9時30分には20人程度が列を作ってはいたが、近年減少気味の来場者数が、より大幅に減少しそうな様子が早くもうかがわれた。
3日間を通じて会場内のビジター数が1000人を超えることで、入場したい来場者を待たせるような事態はなかったようだ。

世界的に渡航制限が続く中、当然、出展者数や地域も限られた。以下が近年との出展者数の比較となる。



※16SSと20SSのWSNには、ファーストセッションのフーズネクストは含まず

※16SSと20SSのWSNには、ファーストセッションのフーズネクストは含まず



この特殊な状況下、WSN主催の二つの出展者数は前年の422社から207社と半減。内訳はフーズネクストが130社、プルミエールクラスが77社だった。ウーマンに至っては前年の80社が5社へと90%以上の大幅減となった。

ウーマン主催者のAntoine Floch氏によると、コロナ禍により今回のウーマンにエントリーしたブランドは夏の時点で25社。そこから夏明けの感染再拡大を受け、開催2週間前には10社、さらに開催直前にも10社が出展をキャンセルし、結果的に残ったのは5社のみだったそうだ。

コロナ禍を背景にトレードショーが本当に開催できるのかという問いについては、夏のうちからWSNと何度も協議を重ねたという。ウーマンは最終的には開催維持を決めたものの、参加ブランドの減少に鑑み、今回は独自の会場は利用せずWSNからスペースを借りることにした。

コロナ危機の中、ファッション業界でもウェブでのコレクション発表などデジタル化が進んでいる現状で、逡巡しながらもリアルなトレードショー開催に踏み切ったのは、「実際に人を前にしたフィジカルな交流を通じてしか得られないものがあると考えた」からだという。

総出展者数では、トラノイ、ヴァンドーム・ラグジュアリー、スプラッシュ・パリが無くなったことで、1006社から212社となり前年比78.9%減、5年前比では1398社からの減少となるため84.8%減となった。

フィジカルな交流が大切との考え方を共有するのは日本から参加の「mature ha.(マチュア・ハ)」代表取締役の高田氏だ。
「我々の業界では、素材のクオリティー、質感、重さやデザインのディテール、バランスなど実際に物を見て、触らないとわからない商品を扱っている」という。
国外のバイヤーに実際に商品を触ってもらい、試してもらえるパリのトレードショーに、多少の無理をしてでも参加した理由の一つはここにある。

個人のユーザーがネットで一つだけ商品を買って失敗しても「こういうこともあるさ」と諦められるだろうが、ストックを抱えることになる「仕入れ」を目的としたバイヤーにはメールオーダーのような失敗は許されない。

また、「たとえデジタルが一般化されたとはいえ、やはりバーチャルなやりとりは苦手というお客さんもいる」という配慮もあったようだ。メールだけではわからないバイヤーの本当の反応を、実際に肌で感じることができ、次にどういったものを提案できるかという先のビジョンが得られることもトレードショーのメリットだという。

今回のトレードショーは、これも当然ながら、非常にフランス色が強いものとなった。
プルミエールクラスとフーズネクストの展示ブランドでは約6割が国内からの参加、それに近隣国であるイタリア(12%)、スペイン(6%)が続いた。

次に多かったのはモロッコ、ポルトガル、そして意外にも台湾で、それぞれ8~10社の出展があった。ウーマン出展者では、5社中4社がフランスのブランドで、ベルギーから参加の残り1社は在パリのスタッフがブースに立った。

片や来場者の国や地域については、出展者から「ほぼフランス人しかいない」「外国人バイヤーは全体の5%程度という感触」「たまに見かける外国人はスペイン、ドイツ、イタリア、スイスなど近隣国からのみ」といった声が聞かれた。

フランスのファッションサイト1がWSNの情報として伝えたところよると、実際には国外からの来場者は全体の13%で、スペイン、ベルギー、日本、スイス、ドイツからが上位5カ国。例年のパリ・トレードショーでは、外国からの来場者が40~50%程度を占めることを考えると、今回はかなり国際色が薄れている。また、バイヤーが全来場者に占める割合は34%だった。

マチュア・ハとともに日本から参加した「To & Co(トゥ・アンド・コー)」の濱田氏も「これまでに20回以上参加してきたが、今回の引き合い件数は通常の1/5程度。ブースに立ち寄るのもフランス人ばかり」。特に中日は、誰もが「来客が非常に少なく、閑散としていた」と証言、「2日目にはブースに立ち寄った来場者が10人で、通常の1/3程度」という出展者もいた。

引き合い件数が激減したという声が多数で、全体的にトレードショーでのバイイングは低調ではあったようだが、かたや、メールだけでのオーダーが年々増えており、トレードショーでの受注減もある程度は補填できていると言う出展者もおり、従来型のB2B取引もフル・デジタルへと移行する傾向にあることは否めない。

濱田氏は、「それでもトレードショーに参加し、外に出ることで、ネガティブになりがちなこの時勢に前向きな刺激が得られる」と穏やかな笑顔を見せた。

予想通り、出展者数や来場者数が大きく減少し、かなりドメスティックな展示会となった今回のパリのトレードショー。下降傾向にあったところに追い打ちをかけるコロナ禍。
そして、それによるデジタル化の加速で、トレードショーの存在意義自体がさらに問われるという現実に直面する主催者らは、今後のイベント存続に向けて、確固としたポリシーや方向性、時には、なんらかの新機軸を打ち出していかねばならないだろう。

「触れて素材を感じて欲しい」「自分の目で見たものでないと買えない」「リアルでヒューマンな交流が必要」「バイヤーの反応や業界のトレンドを肌で感じられる場が欲しい」「最終顧客に話して購買意欲を誘うようなクリエーター/ブランドのフィロソフィーやパーソナリティーはメールやHPでは伝わりきらない」。

そういった出展者や来場者の生の需要が、今後のトレードショーのあり方という課題への回答のヒントになるかもしれない。



エッフェル塔をモチーフにしたバックルが目を引くTO&CO

高度なデザイン性と機能性を兼ね備えた帽子を提案するmature ha.

Maison F Paris
ネクタイとそこから派生したアクセサリーがユニークな「Maison F Paris」(プルミエールクラス)

Lovely Day
タリスマン調の神秘なモチーフが特徴的な仏ジュエリー「Lovely Day」(フーズネクスト)

bourrienne paris x_1
真っ白なシャツに徹底的にこだわった「bourrienne paris x_1」(ウーマン)



(おわり)

取材・文/齊藤あや子
写真/齊藤あや子

齊藤あや子(さいとう あやこ)
KSM NEWS&RESEARCH社代表。1999年渡仏。リヨン大学文学部修士課程およびグランゼコールESIT就学を経て2003年、パリKSM入社。2016年から現職。KSM NEWS&RESEARCH社は1981年創業のKSM社から情報発信、翻訳、通訳、調査業務を引き継ぎ発足した。フランスおよび欧州の政治、経済、産業、社会関連のニュースレターの編集、配信、調査、クリッピングおよび翻訳、通訳サービスを提供している。







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