――2022年7月にギターの夏目創太さんが脱退し、挫・人間は下川さんとベースのマジル声児さんの2人体制になりました。当時立て続けにメンバーチェンジが起こっていたこともあり、下川さんはインタビューで“もうメンバー脱退は避けたい”とおっしゃっていましたが、声児さんとの2人体制は安定しているようですね。
「常に“1人になるぞ”っていう危機感を抱えて生活することが大事だなと(笑)。僕の酒癖が悪いのも良くないんだろうなと思っていましたが、声児の方がもっと酒癖が悪いので、そこも全然余裕でしたね」
――ニューアルバム『銀河絶叫』は、前作『散漫』以来およそ2年半ぶりのアルバム作品となります。この2年半を振り返ると、どんな期間でしたか?
「親友が亡くなりまして…」
――挫・人間のオリジナルメンバーだった吉田拓磨さんですよね。
「そうです。あと、祖父も死にまして。死にまくりの期間でしたね。メンタル的なところから、体にも影響が出ましたし、作品にもやっぱり影響がありました。歌詞を書こうとすると“死”がテーマに入ってきますし、どうしても、なくなるものや失われていくものに意識が向いちゃうって感じで…」
――今回のアルバムだと、10曲目の「ここにいないあなたと」は吉田さんのことを書いた曲なのかなと思いました。
「そうです、そうです。「このままでいたい」(2022年9月リリースのシングルの表題曲)にも、吉田との思い出を盛り込んだんですけど、そのことだけにピントを絞らずに、恋愛のことも絡めた歌詞にしたんです。でも、ストレートな曲があってもいいんじゃないかなと思って。恋人とか、そういう浮いた話が一切ないっていうのもありますけど(笑)」
――自分も身内を亡くした経験があるんですが<こころの中にいるような よくある話はぜんぶうそ 非科学的なうそ>という歌詞にはとても共感しました。
「周りの人って、こっちを元気づけようと思って“(亡くなった人は)ここにいるから。見ていてくれてるよ”みたいな、常用的な慰めをしてくれるんですよね。でも“いや、いないじゃん。いないからこんなことになってんだよ”って。“いるんだよ”でオッケーな人はピンと来ないと思うし、それで全然いいと思うんですけど」
――<どこかでクジラがはねる 送電線がゆれてる>という歌詞も詩的ですごく素敵ですね。
「ありがとうございます。クジラが跳ねるとか…まあ、クジラは跳ねないんですけど(笑)、どっかの海沿いの街で風が吹いて、送電線が揺れるとか。そういうことが、世の中には同時多発的に発生しますよね。それって、なんでもないようなことなんですけど、(吉田と)一緒にもっと見たかったなという気持ちがあって。なんか“もっとでっかいところでライブしたかったぜ”とかよりも、そういう普通のことを思うんですよね。なんでもないことを一緒にできないのが、やっぱ寂しいなって」
――だからこそ曲の最後では<こんな曲なんて二度とほしくないよ>、<アンチ 神 嫌いだ 殺したい forever>と怒っているわけですね。
「2度と作りたくないですからね。アンチ神ですよ。ほんと、バカタレがって感じですよ(笑)」
――アルバム全体の話をすると、下川さんは4thアルバム『OSジャンクション』、5thアルバム『ブラクラ』、6thアルバム『散漫』を3部作的に捉えていたそうで。“八つ当たり的な音楽活動”をこの3部作で終えて、次のビジョンについて“もっと静かな曲がやりたい”、“親が聴いてもわかりやすい曲を作りたい”と話していましたが、『銀河絶叫』を再生したら1曲目「セイント・ギロチン(Scream Ver.)」から叫んでいたので驚きました。
「いきなり、おばあちゃんとかが聴いたら失神しちゃうような曲ですよね(笑)。どうしてこうなったのか…なんとかコントロールしようと思ったんですけど、やっぱり“自分の音楽”になっていっちゃって」
――そもそも、アルバムタイトルが『銀河“絶叫”』ですしね。
「このタイトルは、AIがつけたんです。ChatGPTに“挫・人間のコピーバンドの名前を考えて”って投げたら“銀河絶叫”って言われて。それ、ちょっと面白いなって」
――そうだったんですね。AIと言えば、3曲目の「未来・挫・フューチャー」でも<AIよ ぼくにおしえて すばらしい人生だって>という歌詞が出てきます。
「自分の人生がいいか悪いかなんて、わかんないじゃないですか。だから、AIとかに訊くしかないなって。でもAIは雑魚だから、全然答えを出してくれないんですよ。でも『銀河絶叫』というタイトルに関してはいいなって思いました。やっぱりちょっとIQが低めだから、すごいこと言うんですよね。ちなみに「未来・挫・フューチャー」ってタイトルは、声児が考えました。意味わかんなくないですか?(笑) でもそれを言われた時に、“これ、俺には絶対に思いつかない言葉だな”と。しかも“ザ”が挫・人間の“挫”になっていると思って…“とんでもないタイトルつけてきたな”と。まあ、声児もAIのようなものなので(笑)」
――「セイント・ギロチン」や「未来・挫・フューチャー」からは、下川さんの怒りを感じました。挫・人間はインターネットのことをたくさん歌ってきたバンドですが、これらの曲はリアルな現代社会への風刺なのかなって。
「それは構造上の問題だと思っていて。僕は“インターネット出身”なんですけど、今のインターネットの中では、植民地支配を受けているみたいな状況なんですよ。近頃はインターネットそのものが社会みたいになって、ネチケットを知らない奴らで溢れています。あの時代にあったヌクモリティがなくなってしまったんですよね。こんなことを言い出すと老害なんですけど(笑)、作法もない人がいきなりスマホ1つでインターネットに放り出されたら、そりゃあ揉め事になりますよ。そんな予見できたようなことが起こっているのが、本当に嫌なんです」
――サウンド面で言うと、「セイント・ギロチン」「教祖S」「未来・挫・フューチャー」と最初の3曲には激しさがありますよね。うねるようなグルーヴからは、RED HOT CHILI PEPPERSっぽさも感じて。
「それはもう、演奏陣がレッチリ大好きだからですね(声児に加え、レコーディングには元爆弾ジョニーのギター・キョウスケとドラム・タイチが参加)。僕も好きですけど。たぶんレッチリ聴きすぎて、彼らの中にレッチリが入っちゃってるんでしょうね。でも、僕が歌った瞬間にレッチリじゃなくなるからびっくりです」
――それでいて初期の挫・人間を彷彿とさせるなとも感じたのですが、こちらについてはいかがですか?
「うん、そう思います。1stアルバム(2013年6月発売の『苺苺苺苺苺』)の時は、大学とか、自分の手の届く範囲のことに対して怒っていたんです。でもその規模が、SNSとか社会とか、どんどんデカくなってきて。それこそ“アンチ神”までいきますからね。全体的に先祖返りじゃないですけど、挫・人間を始めた頃くらいのムードが今バンドにあって。それは、メンバーが一新したっていうのも大きいと思います。音楽的にも、ピコピコしたものをあえて排除して、ライブで4人で再現できるバンドサウンドにしています。そのシンプルなバンドサウンドっていう要素が、1stの頃と同じなんですよね。まあ、1stの頃はそうするしかなかったんですけど。歌詞もシンプルな音にフィットする言葉にしようと考えていたら、初期の頃に近しい感じになった気がします」
――“シンプル”がキーワードなんですね。
「制作している中でもシンプルに、シンプルに、という方向に進んでいきましたね。あれですよ、ヒロトとマーシーのポップの法則。簡単なことは深く、複雑なことはシンプルに、みたいな。例えば、この曲のここで叫ぼうと決めた時に、難しい言葉よりも、シンプルな言葉を叫びたい。やっぱりみんな<気が狂いそう>って叫びたかったわけで。そういうことを考えながら制作していたから、叫ぶ曲が多くなったんだと思います」
――リード曲の「俺だけがZU・BU・NU・RE……(Story Ver.)」はすごい曲ですね。2000年代初めのヴィジュアル系バンドの楽曲を思い出しました。
「これもやっぱ、サビで<抱いて!>って叫びたかった(笑)。まず散歩中にタイトルが浮かんだんですけど、曲も最初から最後まで全て決まっていたみたいに、頭の中ですぐに出来上がりました。散歩しながら<抱いて! 踊れないなら>(V系ボーカルのような身振り手振りをしながら)って(笑)。テーマに沿って体を動かすと曲が出てきやすくて、よくこういう作り方をしているんです。V系の曲を作ったのは初めてですけど」
――どうしてV系の曲が出てきたんですか?
「僕が小学生の時、よくV系の曲がアニメの主題歌になっていて…」
――アニメ『学校の怪談』(2000年〜01年放送)のエンディングテーマもCASCADEでしたもんね。
「「Sexy Sexy,」ですよね!あ、この曲の中で<セク・シー セクシー>って言ってるの、その影響かもしれない(笑)。あと『ブラック・ジャック』(2004年〜06年放送)のオープニング曲もJanne Da Arcの「月光花」でしたし」
――<背中に爪たて>という歌詞、Janne Da Arc感があるなと思いました。
「そうそう、「ヴァンパイア」っぽいですよね(笑)」
――続く「ストリップ劇場の恋」は、ストリッパー目線の歌詞が特徴的です。これまで曲の中で幼女やアイドルになってきた下川さんですが、今回はストリッパーなんですね。
「ストリップ、好きでたまに行くんですよ。ストリッパーと、リボンを投げる常連さんの関係性も好きで。曲の中では<愛のない世界>と書いていますけど、実際はすごく愛のある世界なんです。でもストリップ劇場って今、どんどんなくなっちゃってて。あと、ホームの秋葉原も、ここ5年ぐらいで街並みもいる人間も全く変わっちゃいました。吉田の件で、自分が好きなものを残しておきたいという気持ちがあって」
――それでストリップ劇場をテーマに曲を書いたんですね。
「好きなものがなくなっても、曲だけは残るじゃないですか。例えば、僕は『コミックボンボン』派だったんですけど、そこに掲載されていたゲーム『ぐるぐるガラクターズ』のコミカライズ作品が好きで。でも今インターネットで調べても、その作品の情報って全く出てこないんです。無視され続けると、その存在自体が消えてしまう。それはすごく寂しいですけど、歌にすると、好きだった存在と密接に結びついたような気持ちになる瞬間があるんです」
――奇抜な楽曲群がある中で、吉田さんのことを歌った「ここにいないあなたと」をはじめ、「夏・天使」や「ギンガ」といった、聴き入ってしまう歌モノがあるのも挫・人間らしいですね。どれもいい曲ですが、一番のお気に入りは?
「「夏・天使」は、本当に作れてよかったなと思います。歌詞もメロディもアレンジも、どれもうまいことやれたと思っています」
――「多重星」(2018年発売のシングル「品がねえ 萎え」収録)に続く、夏の恋の歌ですね。
「オタクはみんな、夏にやり残しがあるんです。エンドレスエイト(『涼宮ハルヒの憂鬱』の一編)もそうですし、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年に公開されたテレビアニメ『うる星やつら』の劇場版2作目)も夏の物語ですし。夏って、何かが起こるんですよね。「夏・天使」は『イリヤの空、UFOの夏』っていうラノベをイメージして書きました」
――ラストの「下川くんにであえてよかった」は「下川 VS 世間」や「下川最強伝説」に続く“下川シリーズ”の最新作です。どんなきっかけで作ったんですか?
「実は2人体制になった時点で、キョウスケとタイチがサポートをやってくれることが決まっていて。その2人と制作するってなった時に、最初に作った曲が「夏・天使」と「下川くんにであえてよかった」だったんです。どっちも、挫・人間らしい曲だなと思って」
――なるほど。「下川くんにであえてよかった」は人生讃歌のような楽曲ですね。
「死別を経験して、悲しみを突き抜けていかなければな、と思って作った曲です。全ての悲しみの根源は、出会いだと思っていて。出会えば出会うほど、別れは増えますから」
――<ねえ いつか 絶望に飽きたなら まためぐり逢えるから>という歌詞がとても好きです。
「絶望に飽きた時にやっと再会できることが、“希望”だということで。漫画だったらその時に希望の光がブワーッと光って“であえてよかった”って文字が出るイメージです。やっぱり僕はハッピーエンドが好きなんです。今って、救いようのない作品の方が流行ると思うんですよ。でも、僕はそういうものに憧れてこなかった。好きな小説や漫画にしても、どこかしらに必ず救いがあって…地獄だけど、最後になんか一個残ったよねっていうのが、めっちゃ大事だと思っています」
――『銀河絶叫』、いいアルバムですね。
「今までで一番良くないですか?バンドらしさもあるし、反則技はあんまり使っていない。前までは絶対に何かしらの反則技を使ってましたから。今のタイミングでちゃんとバンドっぽいアルバムを出せたのは、すごくいいんじゃないかなと思っています」
――勝手ながら下川さん、大人になった感じがします。
「大人になりましたね。例えば、1stの時と同じように“○○が嫌いじゃ!”と言うにしても、今の方がずっと大変なんです。それで傷つく人の顔も浮かびますし、やっぱり名前が大きくなった分、リスクもありますし。それって、“大人になった”ってことなんだろうなと。でも、これからも大言壮語を吐きますけどね」
――ライブの話をすると、下川さんは2023年の末に、忌野清志郎さんの共演者としても知られる、サックス・クラリネット奏者の梅津和時さん主催のイベントに出演していましたね。
「梅津さんをはじめ、ムーンライダーズの白井(良明)さんや、かわいしのぶさんとか、憧れの人たちと一緒に挫・人間の曲をやりました。セトリは「テクノ番長」、「セイント・ギロチン」、「下川くんにであえてよかった」の3曲だったんですけど、せっかくホーンやバイオリンの方がいるので“いやいや、もうちょっと違う曲ありますよ…!”と言ったんですけど“こういう速い曲で火をつけていこうよ!”と皆さん燃えていらして(笑)。「テクノ番長」では、僕のセリフに絡むように梅津さんがサックスを吹いてくれたんです。なんかやってることはもう、清志郎みたいじゃないですか。僕が清志郎じゃないだけで。皆さん70歳とかですけど、本当に若々しくて。挫・人間みたいなバンドの曲に全力でトライする姿に、めちゃくちゃ感動しましたね。音楽って、ずっと楽しんでいいんだなって。いい背中を見ました」
――ライブには、下川さんの憧れの存在であるナゴムレコード主宰のケラさんも出てましたよね。
「打ち上げでケラさんが“『最後のナゴムの遺伝子』って呼ばれてるの?最後のナゴムの遺伝子、大変だと思うよ?”とおっしゃっていて(笑)。大槻ケンヂ(筋肉少女帯)さんと対談した時も、同じことを言われました」
――2024年は、どんな1年にしたいですか?
「やったことのないことをたくさんやりたいです。今、ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)と、ハマの同級生と僕の3人で、写真部みたいなことをやっていて。眼鏡をかけたおじさんが3人、似たような身長で並んで“パシャー、パシャー”って(笑)。楽しいですよ。ここ数年で野球も好きになりましたし、実はすっごい多趣味なんです。でも今年の目標としては、やっぱりこの『銀河絶叫』を売ることですかね。そういうことも言っておかないと(笑)」
(おわり)
取材・文/石橋果奈
Release Information
挫・人間『銀河絶叫』
2024年3月6日(水)発売
初回限定盤/RCSP-0143/2,750円(税込)
redrec/sputniklab.inc
Live Information
挫・人間 TOUR 2024 「みんなで!ZU・BU・NU・RE」
3月26日(火) 東京 新宿red cloth *SOLD OUT
3月31日(日) 愛知 名古屋CLUB UPSET
4月13日(土) 福岡 UTERO
4月14日(日) 大阪 心斎橋Live House ANIMA
4月20日(土) 北海道 札幌Bessie Hall
4月21日(日) 宮城 仙台FLYING SON
4月25日(木) 東京 渋谷CLUB QUATTRO