――ベランダはencore初登場なので、まずはベーシックな質問から。前身バンドを含めて、髙島さん、中野さん、田澤さんが出会うまでのストーリーを教えてください。
髙島颯心「メンバーの脱退を機に前身バンド「ほいほい」を解散することになったのですが、2014年当時のドラムだった金沢健央に、“続けようぜ!”と言われたのがベランダというバンドの始まりです。(中野)鈴子とは、彼女がやっている別のバンドとベランダが共演した際に出会いました。その時は別のサポートメンバーがベースを弾いていて、正規メンバーとしてベースを弾いてくれる人を探していました。ベランダのライブを見た鈴子から“メンバーとしてベースを弾かせてほしい”と打診があり、加入してもらうことになりました。その後もサポートギターは流動的だったのですが、健央が大学の後輩であった(田澤)守に声をかけたところ、しっくりきたのでしばらくサポートとして弾いてもらったのち、メンバーになってもらいました」
――お互いのファーストインプレッションはどんな感じでしたか?
髙島「鈴子は楽しそうに演奏する人、守はギターが好きそうな人」
中野鈴子「そうしくんは飄々としていて、守はギターがかっこいい、かわいい」
田澤 守「正直あまり覚えていません(笑)。すみません!」
――2014年のベランダとしての活動開始から現在まで約10年の活動を振り返って、3人それぞれにバンドや音楽への向き合い方の変化であったり、ご自身の――あるいはベランダとして――転機になった出来事や作品はありますか?
髙島「1stアルバムを出したとき、ずっと好きだったミュージシャンの人やたくさんの人たちが自分の音楽を評価してくれているのを目の当たりにした瞬間は転機だったかもしれません。最初はただ自分ひとりで曲を作っていたのに“バンドってすげー!”と実感した記憶があります」
中野「ベランダを始めた頃おそらく5歳くらいだった精神の発達具合が、色々経て中学生くらいにはなってきたかなと……それで音楽への向き合い方にも変化はあったと思います。万能感も劣等感もなるべく手放して、あらゆる音楽家たちに敬意をもって、その積み重ねの中に自分が立っていることを自覚し、その上であまり気負わずに、つくることに集中したいと最近は思っています」
田澤「ベランダでギターを弾き始めたのがかなりの転機だと思います。ギターでやりたいことをより深く考えるきっかけとなりました」
――前作『Anywhere You Like』から最新作『Spirit』のリリースまで約6年のインターバルがあります。その間にコロナ禍もあったりしたわけですが、どんなふうに過ごしていましたか?
髙島「ひたすらマンガを読んだりゲームに明け暮れていました」
中野「本読んだり、Netflixを見たり、考え事したりしてました」
田澤「コロナ禍で身動きが取りづらくなったことにより、思考がどんどん内向きになり、その結果、自分自身を見直すことが多かったです」
――バンドとしてのモチベーションはどうやって維持していましたか?
髙島「維持できてはいなかったです。レコーディングを経て持ち直したような感じです」
――『Spirit』のソングライティングに費やした時間と、レコーディング期間は?
髙島「音源を出していなかった6年間で地道に書いてきた曲たちなので、丸々6年ですかね。レコーディングには約半年かかりました」
――本作に限らずですが、楽曲のアイデアやモチーフはどんな時に生まれてきますか?
髙島「前作までは、生活の中で大きな感動があったときに曲が生まれることがほとんどだったのですが、年々そういった心の動きが少なくなってきたこともあり、今はやはり良い音楽を聴いたときに作曲に衝き動かされることが多いです」
――そうして髙島さんが書き上げた楽曲は、どうやって中野さん、田澤さんに共有されるのでしょうか?
田澤「スタジオに入ったときに弾き語ってくれたり、デモをきかせてくれたりします」
――アレンジは3人の共同作業で?あるいは誰かがリーダーシップをとって進めていく?
中野「曲によりますが、弾き語りを元に皆でスタジオで“せーの!”で合わせて作ったものもあれば、デモの時点でそうしくんが簡単に各パートを作っていて、それをメンバー各々が昇華させるパターンもあります。最終的な細かいアレンジは、録りの段階で思いついた誰かが誰かに“これ弾いて”となどと言ったりして、完成させていきます」
――レコーディング時のエピソード――できれば苦労話――を聞かせてください。
髙島「個人的には「Funeral」の歌録りが一番キツかったです。自分の技量が足りていないのもあって、良いテイクが録れるまで6時間くらいかかった記憶があります」
中野「私は、最初に録った「スピリット」のベーシックが気に入らず、無理言って録り直しました。当初はコンパクトにおさめる予定だった録りが伸びに伸びたのは、これがきっかけかもしれません。メンバーはふだん仕事をしているので、休日に予定を合わせて立ち会いMIXをしていたのですが、それだけではいよいよ間に合わなくなってきた12月、平日の仕事終わりにもミックスエンジニアの横山 令さんのスタジオに通って、クリスマスイブはみんなでピザ食べつつMIXしたという思い出が……。とことん付き合っていただいた令さんには本当に感謝です」
田澤「後日ギターを録音し直すとなった際に、前回の録音時と同じ音を再現するのが本当に大変でした。今回は曲ごとにアンプや他の機材の設定をかなり変えていたので、その都度記録しておけばよかったなと後悔しました」
――『Spirit』というアルバムタイトルと、楽曲の「スピリット」はどちらが先に?
髙島「同時です。「スピリット」の仮タイトルは「アルバム一曲目」で、アルバムの曲が出揃ったあと、11曲すべてを包括できる言葉を探して、決めました」
――アルバムのオープナーであり、リード曲でもある「スピリット」は、アルペジオの効いたギターと繊細な声音のボーカルから、後半にむけて高まっていく展開も非常にベランダらしさを感じる楽曲ですが、アルバム全編を聴き終えると前作から“ベランダらしさ”の厚みが増しているようにも感じます。皆さんが思ういまのベランダのストロングポイントは?
髙島「突拍子もない展開があったり打ち込みの音があったり、前作までと比べるとなかなか尖った曲も多いかと思いますが、自分が歌うことでベランダらしさというか、普遍性を保つことが出来ているんじゃないかと。自分でいうのもあれですけどやはり声の強さはアピールポイントだと思います。もっと言うと、歌を根幹にメンバーの個性が調和した緻密なバンドアンサンブルも、ベランダの魅力かなと思います」
――『Spirit』はギターロック・アルバムという呼ばれ方をすることが多いと思いますが、本作では打ち込みの要素もあるし、個人的にはレディオヘッドに近いトーンを感じた中盤の「Tidepool」「in my blue」、中野さんボーカルのトイポップ「ぷちろーる」もあったり、1枚のなかで振り幅の大きい作品になっています。これは意図的なものでしょうか?
髙島「意図的なものではなく、この6年間でできた曲を集めた結果このような形になりました。基本的に“良ければ何でもいい”と僕が常日頃思っているのが如実に出ているなと思います」
――アルバムを制作するうえでロールモデルになったアーティストや作品はありますか?
髙島「個人的にはMr.Childrenの『Q』です。わりと音数多めのアルバムなんですがMIXの妙もあって、聴きやすくて、なおかつちゃんと歌が主軸になっていて、たびたび参考にしていました」
――3人がそれぞれに本作から推し曲を上げていただけますか?
髙島「「スピリット」です。ちょうどバンド活動が停滞していて、“なにかしなくちゃ、どうにかしなくちゃ”と思いはするけれど、生活に忙殺されてどうにもできない日々を送っていたある日、遣る瀬のないジメジメとした感情を自分の言葉で詞に書くことができました。この曲が出来たことが、バンドが再び熱を帯びてアルバム制作へ動き出すためのターニングポイントだったんじゃないかなと、振り返ってみて思います」
中野「推し曲は……自分にとってはほぼ全曲ですが、録り、アレンジ、ミックス、全ての過程で個人的に特に力が入ったのは「Funeral」です。デモが送られてきたのは、2020年、コロナ禍の時期でした。“いい曲だなー”“ほんとみんなどこでなにしてんのかなー”と思いながら、たびたび聴いていた。ピアノを弾いてほしいとそうしくんに言われて、何年かぶりに一生懸命練習しました。1番メロのピアノのフレーズは、ショパンの別れの曲イメージです。好きで、ときどき練習している曲で、そういえばキーも同じだよなと、ふと思って参考にしました」
田澤「本作を象徴するという意味ではやはり「スピリット」だと思います。アルバムを作ろうと強く思うきっかけとなった曲なので。個人的な推し曲は「独白」です。複数のファズを使い分けて録音してみたのでぜひ聴いてみてください」
――歌詞カードで読むよりも音源で聴くほうが情報量が多く感じるのですが、譜割りというか、歌詞の乗っていない余白の部分のバランスはどうやってとっていますか?
髙島「勘を頼りにやっているので、いざ曲が完成したときに“なんかゴチャゴチャしてるな”と感じることがよくあるんですが、メンバーからアドバイスをもらったりしながら適宜削ぎ落としていきます。バランスがとれているかは正直わかりません」
――歌詞といえば、ラストの「Tonight (is the night)」というタイトルは、1曲目の「スピリット」からの引用ですが、オートリピートで聴くと曲調も違和感なく1曲目に帰っていきますね。
髙島「そうですね。アルバムをオートリピートしたとき、1曲目が真のラストソングみたいに聴こえるのが好きなので、そういう感じにできたのであれば嬉しいです」
――6月からは本作の京都、名古屋、東京の3都市でリリースツアーが予定されていますが、当然『Spirit』からのレパートリーを中心に?
髙島「はい。もちろん過去の曲も演奏しますが、アルバムの曲はほとんど演奏すると思いますので、是非遊びに来てください!」
――最後に2024年後半の展望を聞かせてください。
髙島「『Spirit』はベランダの今までを詰め込んだ集大成的なアルバムになりました。半年間かけて、録り音からこだわって作りましたので、できれば是非良い環境で、通して聴いていただけると嬉しいです。ツアーは今一緒にやりたい人たちというテーマで組みました。実は今年はベランダ結成10周年ということもあり、ツアー以降も精力的に活動していこうと思っています。気にしていただけると幸いです」
(おわり)
取材・文/高橋 豊(encore)
写真/Pale Fruit(Artist Photo)、waka iwamoto(Live Photo)
Spirit" Release Tour「夜明け生まれの人たち vol.5」LIVE INFO
6月21日(金)名古屋 KDハポン w/ 幽体コミュニケーションズ
6月22日(土)二条 GROWLY(京都) w/ bed
7月7日(日)下北沢 THREE(東京) w/ pavilion
8月31日(土)心斎橋 CONPASS(大阪) w/ Qoodow
9月13日(金)新代田 FEVER(東京) w/ ゆうらん船