――最初にドラマ「私をもらって~追憶編」の主題歌に起用された心境から聞かせてください。

「ドラマ「女子高生、僧になる」のオープニング主題歌として書き下ろしたメジャーデビューシングル「センチメンタル☆ラッキーガール」以来のドラマの主題歌だったので、すごく嬉しかったです。ただ、今回は恋愛ドラマで、私は普段、あんまりラブソングを描かないので、大丈夫かな?っていう不安はあったのですが、頑張らなきゃって思いました」

――ラブソングはあんまり描かない?

「そうですね。自分は恋愛ではあんまり感情が動かないので、普段は描くことが少ないですね。例えばアニメ「ワンピース」みたいな冒険もののストーリーに心が揺れたりして、そこからインスピレーションを受けて“あ、曲を作ろう!”ってなることの方が多いです」

――なるほど(笑)。今回の楽曲制作はどのようにスタートしたんですか?

「まず、原作の漫画を読ませてもらいました。昔は少女漫画も読んでたんですけど、最近は全然読まなくなってて。普段、読んでない分、余計に“わ、いいな?”って感じて。恋愛的な部分はもちろん、サスペンス的な要素もあるので、常にいろんな意味でドキドキして。面白いなって思いましたし、こんなに強い絆で結ばれてる人に出会えて羨ましいなと思いましたね」

――ドラマサイドからは何かリクエストはありましたか?

「サスペンス要素もあるので、甘すぎないラブソングでバラードというオーダーをいただきました。その“甘すぎない”っていう部分が難しかったです。“甘すぎる”ラブソングの方が、振り切れるので書くのが簡単なんですよね。“甘い”けど“甘すぎない”というバランスには結構、悩みましたけど、まずサビのメロディから作っていって。あまりくどくなりすぎないように、切なさをメインに入れて作っていきました」

――死神も出てくるドラマなので、少し幻想的なムードも漂うロックバラードになってますね。

「サスペンス要素を出さなきゃいけないなって思ったので。あとは、甘くなりすぎないようにシンセドラムを入れて生音すぎないようにしてもらいました」

――バンドサウンドにはこだわってますか。

「そうですね。shallmというのは、私、liaのバンドプロジェクトなので、やっぱりバンドサウンドがいいなと思ってます。だから、生音のバンドサウンドと打ち込みを混ぜるのは難しいなって思ってました。ただ、バンドプロジェクトではあるけど、私はあんまり縛られずに自由にいろんなジャンルに手を出したい。カメレオンみたいなアーティストになりたいなって思ってるので、ジャンルにはこだわりなくて。その時々の気分によって、聞く音楽が変わるみたいに、私も作りたいものが変わるし、長くやるためにも、自分が好きな曲を作るっていう意味でも、カメレオンみたいなアーティストになりたいなって思ってます」

――歌詞の方はどう考えてましたか?

「それも、ドラマのスタッフさんから主人公の稜英(りょうえい)となつみ、どっちの視点も入れてみたら良いかもっていう提案をいただいて。だから、稜英視点となつみ視点の両方で描き始めたんですけど、それがすごく難しかったです。普段は一人称を揃えるっていうことをルールとしてやっているので、初めての挑戦だったんですよね。だから、いろいろ迷いながらも、わざと強調するように一人称をいっぱい使って、サビを3つ作って、最後はどっちともとれるようなサビにして収めました」

――原作に寄り添った歌詞になってるんですね。

「はい。私は元々、歌詞は全部フィクションで、自分で作ったストーリー主人公になりきって書いてるんですね。だから、今回はとにかく原作を読み込んで、1番はなつみの気持ちになって書いてて。原作では、生き霊になってる稜英となつみがマンションの屋上で会話する場面がよく出てくるんですけど、稜英が消えていっちゃうシーンがあるんです。そこで、私は漫画を読みながら号泣しちゃって。その場面を思い浮かべながら書いたし、ドラマでもそのシーンで流れたら感動できるような曲になるようにというイメージで作りました」

――1番は“私”から見た“貴方”で、2番は逆に“僕”から見た“貴方”になってます。

「2番は生き返ったけど、生き霊の時のことを忘れている稜英から見た、その時のことを覚えてるなつみという視点ですね。稜英は記憶がないはずなのに、なんだか覚えているような気がするっていう感情を書いてます。なつみのパートを作って、稜英のパートを作って、その後はどうしようかなって思って。やっぱりふたりは結ばれるだろうから、同じ気持ちに向かって終わりたいなと思って、最後はどっちにも通じるような内容で書いています」

――2人のどんな気持ちを歌にしようと思ってましたか。不慮の事故に遭った二人は、<黄泉路>で出会ったんですよね。その後、なつみが先に生き返って、現世で生き霊の稜英と再会するっていう……

「どっちも記憶がなかった時期があるんですよね。ドラマではフラッシュバックで出てきたりするんですけど、最初はなつみが稜英と黄泉路で会ってることを覚えてないんです。でも、今度は生き返った稜英が、生き霊として過ごしたなつみとの記憶をなくしちゃうんですね。そこで、なつみが思い出させようと頑張って、“あれ? この子のこの時の姿や仕草、なんか見覚えがあるな”ってどんどん思い出していくっていう。そういう、記憶が失われてもなお繋がっていく二人の強い絆を描きたいなと思って」

――タイトルはどうして「ヘミニス」に?

「まず、双子座っていうのを先に決めました。原作で星空を屋上で見るシーンが出てくるので、星にちなんでつけたいなと思って。ふたご座は肩を組んでるし、フタツボシや夫婦星とも呼ばれているらしいので、ぴったりだなと思って、双子座にして。なんていう別名があるんだろうって思って調べたら、もちろん、よく知られてるジェミニも出てきたのですがヘミニスも並んであって。他にもいっぱいあったんですけど、他のは本当に異国語っていう雰囲気が強い印象でした。なので、最後は「ジェミニ」と迷ったんですけど、ジェミニは同じ名前の花があるらしく、やっぱりヘミニスの響きが綺麗だなって思って、スペイン語で双子座の意味のヘミニスになりました」

――ドラマにかなり寄り添った曲になってますが、ご自身の恋愛観や心境と重なった部分はありますか?

「自分の心情はあんまり書いてないんですけど、どこかって言われたら、一番のなつみの<私の気配や仕草を/今はそっと記憶に刻み付けながら>っていうところくらいですね。私はよく、“この場所、あの人と行ったことあるな”って思い出すことが多くて。その場所に行くと、その子のことも一緒に思い出すっていう。この現象に名前があるのかどうかわからないんですけど(笑)、それが<気配と仕草>で、形には残らない記憶みたいな意味で入れました」

――ちなみに、ご自身の人生の中でそういう記憶が呼び起こされる場所はありますか。「花便り」でも<いつか私のことを忘れていっても>と歌ってますし、shallmさんの制作において、“記憶”は割とキーワードになってるのかなと感じたんですが。

「確かに!私、懐古厨って言われてて(笑)。すぐ懐かしんじゃうんですよ。過去が好き。未来より過去の方が好きなんですね」

――まだ19歳だから過去よりも未来の時間が長いじゃないですか(笑)

「なんでなんだろう。友達と話してても、“懐かしいな?”としか言わない。まだそんなに時間が経ってないことでもそうなんですよね。例えば、過去にスタッフさんとカレー屋さんに行ったとしたら、カレー屋さんを通るたびに“あそこのあのカレー屋さんにあの時一緒にいきましたよね”って言うし、下北にライブに行くと、下北のケバブ屋さんで一緒にケバブを食べた話を何回も何回もしちゃうんですね。そういう性格なのかな。“あの時、楽しかったね”っていう共有が好きなんです」

――ドラマのテーマと通じる部分もありますね。レコーディングはどんなアプローチで臨みましたか。

「私の声的に、ザラザラしてるので圧が強くなりがちなのですが、この曲は優しく歌うっていう意識をしました。サビの高低差が激しいので、私はあまり低音の曲がないんですけど、低音の説得力を出すためにしっかり歌うっていう意識でいて。普段とは違う雰囲気の曲にできたなって思います」

――ドラマやアニメなど作品ありきの曲と、ご自身のインスピレーションから生まれた曲を歌うときには何か違いはありますか。

「私はストーリーとか設定がしっかりある曲ほどグッと入り込めるんですね。だから、今回のようにちゃんとお話がある上で書いた曲の方が、すごく感情移入して歌えますね。まだライブでは歌ったことはないけど、きっと入り込んで歌っちゃうんだろうなって思います」

――主題歌が流れたドラマ本編はもう見ましたか?

「見ました! ドラマはアニメと違って、ストーリーの途中で流れるじゃないですか。二人が会話してるシーンで流れ始めて、「すごくいいな」って思って(笑)。これから先のストーリーでも、きっともっと感動する展開が来ると思うんですけど、その手助けに少しでもなれたらいいなと思うし、音楽にはドラマを見ている人の気持ちを盛り上げてくれる効果があるんだなってことも実感できました。この先の展開が楽しみだなって思いましたし、ドラマと一緒に主題歌も楽しんでいただきたいなって思います」

――特に、黄泉路を思い出すフラッシュバックのシーンと曲が重なるところがいいですよね。

「そこで使って欲しくて書きました!って思いました(笑)。そもそも、原作を読んでから書いてるから合うのは当たり前かもしれないんですけど、使って欲しいところで流してくれた監督さんにはありがとうございます!って伝えたいです」

――ご自身のMVも公開されてますね。

「MVの監督も、このドラマや曲のテーマである記憶とか、愛しい人にもう一度会いたいという想いを馳せるっていう部分を汲み取ってくれて。2人でかつて行った景色の写真を記憶の欠片に見立て、それを手に持って1人巡って、感傷に浸るっていうストーリーになってるんですね。世界観がすごく合っていて素敵だなと思いました」

――何か印象的な出来事はありましたか。

「いろんなところを回りながら、朝から夜まで撮影してて。公園にも行ったんですけど、園児たちがいて、可愛かったな。かわいかった。あははは。二人で行った景色の写真は、本当に写真を撮りながら移動してたので、なんかお散歩みたいで楽しかったです」

――屋上のバンドでの演奏シーンもありましたね。

「はい。空が綺麗でしたし……やっぱり楽しかったしか出てこないな(笑)。ドラマでも印象的な場所として使われてる屋上で演奏シーンが撮れたのもよかったし、ぜひ色々なところに注目して欲しいです」

――ドラマで流れてるところしか聞いてない方は、liaさんがギターを弾きながら歌ってることに驚くかもしれないです。このドラマ主題歌でshallmを初めて知ったという方には、次はどの曲をおすすめしたいですか。

「全然違う曲を聴いて欲しいな。「センチメンタル☆ラッキーガール」も「境界戦」も逆ではあるんですけど、真逆というと「G2G」かな。何もしたくないな?みたいな曲なので(笑)」

――あははは!ハードでアグレッシブなロックナンバーですよね。「G2G」は<Get you back>の略で、<最寄り駅のホームに着いたところ>から始まりますが

「バンドさんには、“楽器を遊んでください。子供のように表現してください”ってお願いして。惰性で生きてちゃ駄目だよっていうことを歌ってますね。惰性で働くなよ、夢は捨てるなよ、ちゃんと野望を持っていたいよねっていう曲です」

――ご自身も常に野望を持ってますか?

「いや、私自身は結構レールに乗るのが好きなので、ぬくぬく生きたい気持ちもありますね。だから、自分に言い聞かせるみたいな意味で書きました」

――親や誰かが敷いたレールに乗るのは好きなんですか?

「好きです! だから、学校とかよかったなって。基本的に何もしたくないんですよ。けど、「G2G」という気持ちもあるっていうか、自分の中にどっちもいるんですよね。例えば、友達は私に対して、“夢があって、やることがあって羨ましい”っていうけど、私は“大学生っていいな”って思ってる。そういう感でどっちもあるのかな」

――「G2G」は6ヶ月連続配信リリースの第3弾でした。「ヘミニス」は第5弾となってますが、カメレオンのようなshallmの楽曲の中ではどんな立ち位置の曲になってますか。

「結構、異分子的な、新しいテイストかなって思います。まず、ラブソングをあんまり書かないから珍しいですね。6ヵ月連続の中では、7月は七夕もあるし、夏は星のイメージがあるので、7月にぴったりだなって思ってます」

――最後にもう1回、野望を聞かせてください。

「なんだろう……海賊王になりたい、とか?あはははは!でも、王になりたいです。カッコいい人間になりたいから、かっこいい王?とにかく、王になりたい、私は」

――あははは!音楽界の王になるってことですか?

「そんな喧嘩を売るつもりは全くなくて。本心としては、ぬくぬくしたいんですよ。でも、今がすごく楽しいので、ずっと音楽を続けられる人になりたい、自分で全部をやる王様になれたらなって思ってます」

――shallmという世界観の中での王ということかな?作詞、作曲、歌唱だけでなく、全ての楽器やアレンジ、ビジュアルや映像までを自らこなすマルチクリエイターになるっていう?

「そうですね!全部、自分でやりたいし、ライブをしたい場所もいっぱいあるし。自分が作った曲を他の人に歌って欲しいっていう気持ちもあって。自分と真逆の声質の人とか、男性とか。一人称が僕の歌詞が多いので、いつか男性のヴォーカリストさんに歌ってほしいなって思ってます。そのためにはもうちょっと頑張りたいですね。まだまだ何十年かかることなんだろうって感じですけど、もっと上を目指したい」

――今年の夏はどう過ごします。10代最後の夏ですよね。

「今年は暑いからあんまり外に出たくないですね。ただ、来年の夏にはツアーができたらいいなと思ってます。特に北海道に行ってライブがしたいなと。YouTubeの視聴者数とかみて、札幌の方がshallmの音楽をたくさん聴いてくださっていることを知って、会いに行きたいし、shallmのライブを感じてほしいなと思いました。それが今の一番の目標ですね。ぜひ、来年の夏は北海道で集まりましょう!」

(おわり)

取材・文/永堀アツオ

shallm「ヘミニス」DISC INFO

2024年7月6日(土)配信
ユニバーサルミュージック

関連リンク

一覧へ戻る