――デビュー2年目は去年とは違う手応えはありましたか?
「やっぱデビュー年とはまた違うのはありました。「Spotify:READER Early Noise2023」に選ばれたこともあって、自分への期待度というか、これからどんな曲が書けるんだろうな?と思いながら毎リリースしていった感じがあります」
――れんさんの場合、単曲を配信していくスタイルなので、一曲単位のシングルなわけで。曲の強度みたいなことも考えて作ってらっしゃいました?
「確かに一曲一曲のキャッチーさは意識しつつも、曲調があんまり被らないような、世界観も全曲違う新鮮味がある楽曲になるように意識はしています」
――ほぼ毎月連続でリリースしていたので、制作も大変だったんじゃないですか?
「毎月リリースしてもそんなに大変さは感じないです。大学に通いながら学業と仕事の両立という意味では、大変さはありますけど、楽曲制作に対する大変さや過酷さはそんなに感じていないです。趣味の一環というか、楽しみのひとつで作詞・作曲をしているので」
――今年夏以降では、7月に「正論さん」をリリースされました。これは元々は恋愛の曲だったのに、いまのかたち変わったそうで、テーマとしては「赤」以来の激烈な内容になりましたね。
「恋愛の曲として制作していたのですが、これを恋愛の曲じゃなくて社会の不満というか、「正論さん」というワードと歌詞の中で<世間一般論という物差しで>など、恋愛ではない解釈もできるワードがあったので、それを社会全体に向けて、“れんが10代のうちにしか書けない歌詞を10代最後に書いてみればいいんじゃない?”みたいなアドバイスをスタッフさんから頂き、そこから全部書き直した感じでした」
――ボーカリストとしての表現の幅も広がった曲じゃないですか?
「そうですね。レコーディングでも、より感情がこもって、魂を乗せて歌うことはできてきた楽曲の一つかなと思います」
――この楽曲が出た前後にライブが開催されました。
「6月ワンマンの際、楽曲リリース前に初めて歌わせて頂きました。ライブでも結構盛り上がる一曲になったかなと思います」
――バンド形態でのライブも徐々に増えてきましたね。
「アコースティック規模ではベースとピアノなどでの3人編成でやる事もありますが、ワンマンはそこにドラム、ギターも入ってきてフルバンド編成でやる事が多いです。絶対バンドが欲しいわけではないですけど、お客さん側からの見え方として、一人よりはバンドがいた方が映えるなとは思います」
――そして9月に「マジックアワー」が出て、珍しく歌詞面では別れや不幸な内容ではなくて。
「今年のリリースで唯一ポジティブな曲ではあるかなと思います。それまで全部失恋の歌詞だったので。「マジックアワー」は高嶺の花みたいな存在を表現したくて、マジックアワーっていう時間や景色に重ねて、という内容になっています」
――「マジックアワー」というタイトルはスタッフさんの一言から着想したとか。
「「フシアワセ」のMV撮影の時にスタッフさんが“マジックアワーじゃん”みたいに言っていて“マジックアワーってなんですか?”って聞き返しました。“こういう時間、こういう景色を”マジックアワー”と呼ぶと知った時に、もう歌詞できるやん。一個できるやん!て思って、ガチで曲にしちゃったっていう。マジックアワーっていう単語としての響きがいいし、可愛いなっていうので、曲にできたらいいなと思って」
――幸せ系と言いつつ、やはり哀愁のあるメロディはれんさんの個性なのかなと思いました。
「そうですね。メロディと歌詞はそんなに合ってない、逆にいい意味でギャップがあって、でもキャッチーだなと思います」
――そして「最低」のリリースから1年経ったところで、アコースティック・バージョンが出ました。これは聴いていてぞわぞわっとしました(笑)。
「ぞわぞわ(笑)。確かに楽器が少なくてシンプルな分、僕の声がダイレクトに届くなと思います」
――「最低」という曲は改めてどういう曲ですか?
「自分の音楽を肯定してくれた曲というか、制作において自分を肯定できる一つの材料になったかなと思います。それこそ作詞作曲始めてまだ3年ぐらいなので、全く自分の音楽に自信がなければ、正解が分からない――まあ正解なんてたぶんないんですけど――その中で探った中での、「嫌いになれない」に続く代表曲になったので、そういった面では自分の作る音楽を肯定してくれる結果になりました」
――アコースティックバージョンではキーを下げているんですか?
「そうですね。二つぐらい下げました」
――その意図は?
「アコースティックってより近くで聴こえるから、僕の高音とかそのままのキーでも良かったんですけど、もうちょっと僕の声の良さがいちばんよく出るキーに合わせて、静かめな雰囲気にも合うので、二つキー下げバージョンがいいねってなりました」
――そして新曲の「通り雨」ですが、この曲は小説とのコラボレーションと言えるものなのですか?
「二年前ぐらいからSNSで繋がっていた“MIYAMU”さんという作家の方から小説のプロモーションに合う楽曲制作のお話が直接あって、“ぜひやらせてください”とお伝えして。小説を読んで書いた曲です。『愛、執着、人が死ぬ』という作品です」
――どんなストーリーなんですか?
「ストーリーはネタバレになっちゃうので触りだけ(笑)。小説の冒頭に“あなたが死んでくれたら、きっと私は安心すると思う”ってあるんですけど、僕も歌詞の中で<あなたが死ねば、永遠を誓ってそばにいるのに>って書いてます」
――美味しいところを抜き書きするところと同じセンスだった?
「はい。でもこの書き方は確かに初めてだったんですよ。そのMIYAMUさんの小説の内容が僕が今まで書いてきた歌詞の世界観にちょっと思考が似てるというか、言葉選びも好きだったんです」
――なるほど。この小説の中でもどういう部分にフォーカスして歌詞を書こうと?
「メインの登場人物、ヒロインなのかな……夏夜っていうキャラクターがいるんですけど、夏夜が男性の主人公であるアタローのことが好きで、そこからどうアプローチしていこうっていう作品でもあると思うんですけど、それが愛や執着が行き過ぎたストーキング行為であったり、愛しすぎたゆえの行き過ぎた感情、そういうのを歌詞に当てはめました」
――歌詞だけ読んでいると主人公の男女の身勝手さからくる行き違い、思いの行き違いのように聴こえたんですね。
「それもそれでめちゃくちゃいいですね。小説を読んでくれた人が聴いたら小説を重ねてくれる歌詞かなって思うし、知らなくても曲単体で楽しんでもらいたいし。でも最終的にはちょっと希望を見せるというか、通り雨はもうすぐ止んでいずれ晴れるから、最後に陽射しを残して終わってくっていう展開にはなっています」
――曲としてどう組み立てていったんですか?
「メロディは2、3日ぐらいでできて。作詞は自分が小説を読む時間もあったので、2、3週間ぐらいかな……そこから重要ワードというか、自分が気になるワードと自分の言葉、物語を読んだ自分なりの解釈もちりばめて、MIYAMUさんとも話し合いつつ作った感じです」
――これまでのれんさんの描く恋愛の曲ともまた違うスリルを感じる曲ですね。
「自分でも“小説読んで曲書いた方がええやん”って思いましたよ(笑)」
――なるほど(笑)。こういう書き方は自分に合ってる?
「はい。より深みというか説得力が出た楽曲になったので。題材があるからこそ、それに忠実に向き合えるから。幅が広すぎると視野が合わないところもあると思うので、それは今後もやってみようかなと思います」
――それにしても、れんさんの楽曲のイメージってちょっと影があるというか儚さが特徴的ですね。
「そうですね。それはずっと言われていて、周囲にも“明るい曲書かないよね”って言われるんですけど、もうそれでいいや!ってなりました。人の影を書いた方が共感性があるし、薄っぺらくないっていうか、僕も幸せな思い出よりも悲しい方に執着があって、じっくり考えこむというか。ハッピーなことってもうハッピーだった、なんでハッピーだったかとか考えないじゃないですか?悲しいことってなんで悲しいんだろうとか、なんで私こうしちゃったんだろうとか、なんでこんなふうになっちゃったんだろうって深く考えるからこそ深みが出るのかなと思っていて。だからたぶん僕もそういう歌詞の方が多くて、深掘りできるのかな?と思いながら書いている事も多いです。儚いのが性に合っているんだと思います」
――確かに幸せの理由なんて追求しませんからね。さて、来年の3月には東名阪でツアーが開催されますね。
「名古屋は初めてなんですけど、やっとワンマンできるなっていう感じもあります。ツアーまでに「通り雨」も含めて楽曲リリースは少なからずすると思うので、今年6月のワンマンで歌えなかった新曲たちも含め、新しいれんを見せられる場になるのかなと思うので、自分自身めっちゃ楽しみにしてますし、2024年のいいスタートを切れたらいいなと思います」
――ところで最近のれんさんはどんな音楽を聴いてるんですか?
「DOESさんとかですね。ずっと好きで「曇天」とか高校生の頃から聴いてて、「バクチ・ダンサー」とか「KNOW KNOW KNOW」とか、アニメが好きなので「銀魂」繋がりでずっと耳に残っていました。そして、最近「THE FIRST TAKE」に出演されたのを見て、やっぱいいな!と思いました。あとはSano ibukiさんいうシンガー・ソングライターの「革命を覚えた日」っていうEPの中の「罰点万歳」っていうのが超いいです。この曲、僕の「最低」でピアノを弾いてくれた西村奈央さんが動画を投稿してて、うわっ!めっちゃいいやん!と思って聴き始めたアーティストさんの一人です」
――ボーカリストとしてのタイプは違うけど、DOESの曲のサビの強さはジャンルを超えますね。
「最高!これ聴いてアニメを想像できるから。いつかアニメの主題歌などもやりたいなってずっと思っているので、少し参考として聴いてる部分もあります」
――れんさんはアルバムを作りたい欲求ってないですか?
「今はそこまでなくって。シングルで刻んでいってもいいんじゃないかなと思ったり。商業的な話になるんですけど、アルバムだとプレイリストの展開も少ないですし、アルバム単位のリスナーの方って本当にコアな方じゃないと聴かないのかなと思っていて。僕の楽曲の場合、「最低」「緋寒桜」「フシアワセ」で結構ストーリーは繋がらせているのでアルバムにしなくてもいいのかなとは今は思っています。これが25歳とか20代後半になってきたら、気持ちも変わってアルバム制作に取り組んでいるかもしれませんが(笑)」
――シングル曲が短編だとすれば、アルバムって長編小説、あるいは短編集っていう考え方があるじゃないですか。だかられんさん的な大作というか塊感でアーティストとしての表現ができるような時期が来るとまた違う展開が見えるのかなと。
「確かに。すでにMIYAMUさんとは小説のお話があって作った曲ともう1曲、別の曲があるんですけど、面白いぐらい共通するところもあれば、小説を読んでなくても小説が思い浮かぶ言葉も入っていたりもするんですよ。だから短編集というかEPとして出す時期はいずれ来るのかなとかも思います」
――まだやってないこと、これからできることがたくさんありますよね。
「そうですね。触れてないものがたくさんあるので」
――逆もできたらいいですよね。れんさんの曲がモチーフになった短編小説とか短編映画とか。
「それには作家さん、監督さんに好いてもらわなきゃ(笑)。だからってわけじゃないけど、もっと幅広い世代に届く音楽を作れるようになりたいなとは思います」
(おわり)
取材・文/石角友香
写真/平野哲郎
LIVE INFO
■MAKE A BOOM #4 -merry-
2023年12月20日(水)Shibuya WWW X(東京)
出演/れん、大橋ちっぽけ、クボタカイ
■れん X’mas Live 2023 at TOKYO FM HALL
2023年12月25日(月)TOKYO FM HALL(東京)
■れん ONEMAN LIVE TOUR 2024
2024年3月20日(水)梅田クラブクアトロ(大阪)
3月21日(木)SPADE BOX(名古屋)
4月7日(日)duo MUSIC EXCHANGE(東京)