その名は、Mr.FanTastiC。大阪発、メンバー全員がMR.BIGの大ファンで、“ビッグ”より上の“ファンタスティック”を目指そうと2018年に結成されたロックバンドだ。早くも2019年にメジャーデビューを飾った彼らが、メンバー脱退とレーベル移籍、そして感涙必至の惜別ソング「グッドラック」のリリースを経て、新体制初音源となるデジタルシングル「ブレイキングブレイジング」をリリースした。ハイパワー、ハイエナジー、ハイテンション、ハイクオリティ……と、“ハイ”が止まらない超絶ギター・ロック・ナンバーだ。10月19日に配信がスタートした、ショートフィルム『ガンダムブレイカー バトローグ』の主題歌に起用されている今作で、この新鋭が大きな飛躍を遂げることは間違いないだろう。作曲も手がけるギタリスト、つっくんに話を聞くことができた。
――まずは、Mr.FanTastiCの結成までの経緯を教えてください。
「もともとヴォーカルのメガテロ・ゼロが、ネットで歌う活動をしていて、そういうネット系の歌い手を集めたフェスが大阪で開催されたんですね。その際に知り合いのつてで、バックバンドとして呼ばれたのが今のメンバーでした。それで、2回目のフェスの時に、ゲストでナナホシ管弦楽団も出ていて、年も近いし、みんなMR.BIGが大好きだったこともあって、じゃあ一緒にやろうよって意気投合して始まった感じです」
――世代的には後追いかと思うのですが、MR.BIGのどんなところに惹かれたのですか?
「凄まじくテクニカルな、技巧派のミュージシャンの集まりだと思うんですけど、それをあくまでポップにというか、大衆向けにやっているところがすごいと思います。バランス感覚が優れているというか、ちゃんとエンターテインメントに落とし込んでいるので、そういう姿勢も含めてカッコいいなと」
――Mr.FanTastiCもテクニシャン揃いということで。
「ハハハハハ。まだまだMR.BIGには及ばないですけど」
――ドリルは好きですか?
「ドリルは興味ありますね。使ってみたことがあるんですけど、マキタじゃない安物のドリルだったので、いい音は出ませんでした。今後、マキタを手に入れて頑張りたいです(笑)」
――結成から1年でメジャーデビューと、幸先がいいスタートですが、想定内でしたか?
「正直、想定内と言えば想定内でした。行けると信じていましたから。予想していたより早くデビューできたなとは思いましたけど」
――今回、ナナホシ管弦楽団さんの脱退と、移籍を経てのリスタートとなります。これからは3ピースバンドとして活動していくことになるのでしょうか?
「そうですね。新たにメンバーを加えることなどは、考えていません。この3人の体制でやっていきます。これまでずっと、ベースはサポートで入ってもらっていたんですけど、その形態も変えないつもりです」
――9月に配信された「グッドラック」は、感動ものの1曲ですね。ナナホシ管弦楽団さんに捧げる楽曲かと思うのですが。
「そうですね。メガテロ・ゼロから歌詞とメロディラインが送られてきて、これはナナホシに向けて書いたんだろうなって僕も思って、聞いてみたら案の定、そういうことでした」
――作曲は、つっくんさんです。どういう気持ちで作っていったのでしょうか?
「脱退ってやっぱり、後ろ向きに捉えられてしまうことが多いとは思うんですけど、別に仲違いしたわけでもないですし、ミュージシャンとしてリスペクトもしているんですよね。これからも活躍してほしいし、僕らも負けていられないという思いもあります。でもまたいつか、“やっぱりバンドでギターを弾きたいな”ってなったら、“いつでもウェルカムだよ”っていう、そういうスタンスなんです。それをそのまま曲にしたので、なんか、くよくよした感じにはしたくなかったです」
――確かに、まったく湿っぽくない、清々しさの中に熱いものを感じさせるナンバーです。ナナホシさんとしても、悩んだ末の決断だったんでしょうね。
「彼自身、バンド以外にも活動をしていて、純粋に自分が作りたいと思うものを、もっと作りたいということだったんですね。実際にMr.FanTastiCでの創作活動も、今年かなりハイピッチでやっていました。書いた曲数もかなり多いし、なかなかハードな毎日だったはずなので、自分自身の時間が取れなくなっていたんだと思います。だから、一番作りたいものを作りたいという意見を、尊重してあげるべきだなって。それで、3人の総意として気持ちよく送り出すことにしました」
――新体制初のシングル「ブレイキングブレイジング」は、ガンダム最新作の主題歌として書き下ろした楽曲ですね。オファーがあった時は、どんな心境でしたか?
「それはもう、だいぶビックリしましたよ(笑)。“タイアップの話が来ました”って、いったい何のタイアップだろうって思うじゃないですか。そしたら、ガンダムだって。ガンダムといえば、知らない日本人はいないじゃないですか。そんな超メジャーな作品に抜擢していただいたということで、飛び上がるような感覚でした」
――どのようにして出来上がった楽曲なのでしょうか?
「このバンドに決まったスタイルというのはないんですけど、ほとんどが、メガテラゼロが弾き語りで歌ったデモを持ってきて、そこに僕らが楽器をつけて膨らませていくか、逆に僕らがオケを作って、そこに歌をつけてもらうかなんですね。その2パターン。今回はナナホシの置き土産でして、彼がオケを作って、メガテラがそこに歌詞と歌を乗せました」
――歌詞はやはり、ガンダム作品の主人公のキャラクターや、ストーリーをふまえて書かれたものなのでしょうか?
「僕の口から言うのもあれなんですけど、たぶん、何も考えていないというか(笑)。あまり考えずに、歌詞が出てくる人なので。思っていることとかが積み重なった結果、そうなるんでしょうけど。とにかく、スピードが尋常じゃないんですよ。オケを送ったら、次の日には歌詞が乗って返ってくるみたいな感じなので。練っていない……いや、練っていないのではなくて、あふれ出してくる歌詞がそのまま、歌って気持ちがいい状態になっているんだと僕は思うんですね」
――なるほど。
「感性が凄まじく鋭いんだと思います。でも、肌感覚でいろんなロジックもわかっているから、それだけのスピードでできるんじゃないかと。歌って気持ちいいかどうかを、かなり重要視しているように見えます」
――歌っていても気持ちがいいんでしょうけど、こちらも聴くほどに気持ちが良くなる、会心のロックナンバーに仕上がっていると思います。
「聴いて思わずガッツポーズをしたくなるような曲にすることを目指して、作っていました。実際にそういう仕上がりになったと思うので、良かったです」
――演奏も生々しくて、ライヴ感にあふれていますね。
「そうですね。実際にライヴ感というか、エネルギッシュなものを損なわないようにというのは、かなり意識しました。ドラムは僕が録ったんですけど、ふじゃんが叩いている時に、“ドラムの皮を破るくらい叩いてくれ”って注文したり。僕もギターを弾く時に、まあ普通は座って弾くと思うんですけど、ライヴばりに動きながら、熱量を落とさずに、なるべく音源に封じ込められるような状態でレコーディングしました」
――それは、セッションに近い感覚なのでしょうか?
「いや、みんなで合わせることは、しないんですよ。音源制作は全部リモートで行っていまして、顔を合わせるのは、僕とふじゃんでドラムのレコーディングをする時くらいなんです。それ以外は一切、会いません。音源だけを聴いたら信じがたいと思うんですけど、ほとんどリモートなんです。だから、ライヴ感を出したかったら、考えている以上にやらないといけないんですよね。あたかもメンバーと同じ部屋にいて、一緒にやっているようなつもりで」
――主題歌ということで、まだバンドを知らない人も、聴いてファンになってくれるかもしれないですね。
「そうなってくれたら、嬉しいですね。まだまだ知名度を上げていきたいし、実際にライヴができないと伝えられないものもあったりすると思うんです。だからこそ、曲をたくさん作って、いろんな人に聴いてもらいたいと思っています」
――自分たちはライブバンドである、という意識は強いと思いますか?
「そうですね。“ライヴがめちゃくちゃいいね”って言っていただくことも多いので。だから早くやりたいんですけど、僕らのライヴって一緒に歌ったりするのが醍醐味でもあるので、コロナ禍で思うように身動きが取れないのが、正直もどかしいところです」
――鬱憤が溜まっていますか?
「溜まっていると言えば溜まっているんですけど、そのおかげで制作にたくさん時間を割けているので、そっちで発散するようにしていますね。時間の使い方が180度変わった感じで、去年の年末ぐらいから制作ペースをかなり上げて、たくさん作っています。それがだいぶ板についたというか、慣れてきたので、この勢いのままどんどん作っていきたいと思っています」
――今は、バンド以外の表現に向かうミュージシャンも少なくないですが、バンドの魅力というのは、どんなところにあると思いますか?
「演奏者としては、みんなで楽器を持って、ジャ~ン!って合わせてデカい音を鳴らすと、とにかく気持ちいいんですよね。“やっぱりこれだよな”ってなる。何ものにも代え難いものがあリます。クラブミュージックとかのキックがズンズンしたものとは違って、自分のエネルギーが解き放たれるというか、そういう瞬間があってたまらなく気持ちいいんです。特に生バンドだと、音源にはない強弱がついて、ライヴですごくドラマティックに聴こえたりもしますよね。エレクトロ・ミュージックって抑揚がつけづらいというか、かなり激しめな重低音か、逆にアンビエントなサウンドっていう、そこの狭間だと思うんですよ。でも生バンドだと、もっと自由にできる。そこの人間味というか、そういうところも面白いです」
――ちなみに、MR.BIGのメンバーと会ったことは、あるのでしょうか?
「まったくないんです」
――誰に一番、会いたいですか?
「やっぱり、ポール・ギルバートさんですかね」
――もしも会えたら、どうします?
「手の大きさを比べてみたいですね(笑)。たぶん、そうとう大きいと思うので、どのくらいなのか見てみたいです」
――では、Mr.FanTastiCの今後の展望を聞かせてください。
「曲をいっぱいお届けできるように、本当にめちゃくちゃ作っていまして、こうして小出しにしていますけど、まとまった形でも出せたらいいなと考えています。1年ぐらい前まで、できたらすぐ出すっていうことをやっていたので、それにしては、かなりの数あると思います。とにかく、メガテラの曲作りのペースが尋常じゃなく速いので。1日に3曲、送ってくるような時もあるんですよ。そのアレンジに追われたりするので、制作に関わっていない日はないですね。毎日楽しいです」
――現時点での目標や夢はありますか?
「僕らとしては、前向きに暑苦しくやっていくというのが持ち味だと思っているので、そこはぶれずに突き進んでいきたいですね。欲を言えば、MR.BIGと対バンしたいです(笑)」
――いいですね~(笑)。今後、ライヴで立ってみたいステージというのは、あリますか?
「僕らの始動ライヴの会場が、渋谷のO-EASTだったので、そこでまた単独公演をやりたいですね。Mr.FanTastiCの始まりの地なので。あとは僕らがホームにしている、大阪の十三にある246ライブハウスGABU。ライヴを再開できた暁には、ぜひあそこでやりたいです。もちろん、大阪城ホールでも、ドームでもやりたいですね。ロックバンドがドームの時代ではないかもしれないですけど、やっぱりドームでデカい音を鳴らしたら、最高に気持ちいいと思うんですよ」
――MR.BIGは、日本武道館でもやっていますね。
「そうなんですよね。やってみたいです。恥ずかしながら、まだ行ったことがないんですけど。初めての武道館が、自分たちのライヴだったら最高ですよね」
――最後に、これからのMr.FanTastiCの理想の姿というか、どんなバンドを目指していきたいかを聞かせてください。
「ここまで話してきた中で、なんとなく感づいていらっしゃるかもしれませんけど、僕らって、暑苦しいのが好きなメンバーが集まったバンドなんです(笑)。頭の中を空っぽにして、拳を握りしめたり振り上げたりして聴いてもらうのが一番だって、みんな思っているんですよ。しんみり聴くような音楽もいいかもしれないけど、僕らの音楽を聴いている時には、とにかく体を動かしたくなってくれたらいいなって。思わず走り出しちゃうとか、自転車に飛び乗って目一杯、漕ぎ出しちゃうとか、車で高速に乗って突っ走っちゃうとか、そういう感じでテンションを一緒に上げてもらえたら嬉しいです」
(おわり)
取材・文/鈴木宏和