──ファーストソング「Sangría」のリリースから8月で1年経った心境から聞かせてください。
小牧果南「今年になって“衣食住”をテーマしたEP三部作を制作したんです。試行錯誤しながら、とにかく、やりたいことをと全部やってみようという気持ちで作っていて。EP『住』、『食』、『衣』をリリースしてから、何となく自分たちの中で音楽活動に向けた“輪郭”が持ってたっていう実感があったんです。そこで得た輪郭やちょっとした土台をもとに、次のステップに進んでいこうっていうムーブだったので、気がついたらもう1年間が経ってたっていう感じですね」
森⼭瞬「この1年、割と継続的にリリースをしてきて。今、小牧が言ったように、monjeというチームが、音楽に限らずどういう作品を作れるのか?っていう“monje像”みたいなのが見えてきて。今は、そこから派生的にどんなことができるのかな?って、わくわくしながら考えられるような状態になっています」
──この1年間の活動を通して見えたという“monje像”、monjeの“輪郭”とはどんなものですか?
小牧「それこそ“輪郭”という言葉の通り、まだ輪郭しかなくて(笑)。本体まで触れないという意味合いで使ってる側面がかなり大きいんですけど…」
森山「1つのキーワードとしては、“領域横断的だな”っていうふうには思っています。私達はアートを学ぶ大学にいて。表現を突き詰めるっていう意味でも、すごくクリエイティビティの高い作品から、より多くの人に楽しんでいただける音楽を同時に考えています。自画自賛すぎますけど(笑)、表現としての軸みたいなものがすごくしっかりしてるんじゃないかって。表現形態としても音楽だけではなく、「madobe」のMVをゼロから考えて、自分で撮影もしています。そういうことも含めて、いろんな意味で“領域横断的”にやれるのが強みだし、輪郭っていうものの一つのキーワードかなっていうふうに思います」
小牧「そうだね。あとは自分たちの最初の音楽集が“衣食住”だったっていうことも…手探りで決めたテーマではあったけど、振り返ってみるとmonjeらしさのベースにあるものだったなと思います。表現の軸に“衣食住”という生活の根幹をなすものがあって、領域横断っていう側面も込みで、生き物のように流動性を持ったイメージが自分たちの中にあるんじゃないかなと思います」
──アートを学ぶ大学とありましたが、おふたりは藝大で出会ったんですよね。
小牧「そうです。私は美術学部で、森山は音楽学部なので、普段は一切関わりがないんですけど、1年生の時の夏の藝祭で出会って。1年生が活発に参加する催し物になっていて、お神輿を担ぐっていう大きなイベントがあるんですけど、そこで私が神輿を担ぐパフォーマンスの振付のダンスを担当していて、彼が楽曲の作曲を担当してくれていたんです。そこで、意気投合して」
──それまでに音楽活動はしていたんですか?
小牧「私は大学で「身体の在り処」を研究テーマにしていたので、自分の身体のことを軸に作品を作っていました。身体的なパフォーマンスとして歌と踊りをやっていて。踊りに関しては小さい頃からクラッシックバレエをやっていたんですけど、ヒップホップダンスもやっていたし、ブラジルに留学してラテンのペアダンスをやっていたこともあって。いろいろやりたくなっちゃうんですよね」
──同じダンスでも、バレエとヒップホップでは身体の使い方が全然違いますよね。
小牧「そうですね。そこを横断できるのが私の特徴なのかな?って思います。歌も踊りも作品も全部そうかもしれないです。歌は中3から高校1年生の2年間ぐらい、軽音部に入ってギター&ヴォーカルをやっていたくらいです。女子高だったので、ガールズバンドで、L'Arc~en~Cielやワンオクのコピバンをやっていて。あとはカラオケで、歌がうまくてちょっとだけものまねができるお姉さん、みたいな」
森山「あはははは」
──ちなみに誰のものまねしてたんですか。おはこは?
小牧「当時はT.M.Revolutionのモノマネをしていました(笑)。カラオケのメニューでみんなが風を送ってくれて。歌に関しては本当にそれぐらいです」
森山「僕も大学に入る前にものすごい音楽のルーツがあったかって言うと、そんなに強いものはなくて。強いて言うなら、コンピュータで音を扱うことは小学校6年生か中学校1年生ぐらいからやっていて。動機はあんまり覚えていないんですけど、その辺の音を録音してきてパソコンに取り込むとか…コンピュータが好きだったっていうのがあるかもしれないですね」
──生活音や環境音を録ってきて、トラックを作っていた?
森山「いえ、トラックを作るという意識はなくて。音を加工することが好きだったんです。当時は“音楽を作ろう”みたいな目的もなく、本当に赤ちゃんが積み木で遊ぶように、音に加工を施すことによってその音が変わるっていう過程が面白かったんです」
小牧「森山くんは音楽学部ですけど、普段はもの作りをする人なんですよ。私も歌をやっていたわけじゃなく、もの作りをベースにしていたし」
森山「僕にはものを作るときの方法論があるんですけど、それがあるから、作りたいものは頑張ってなんでも作ってみるというスピリッツで生きてて」
小牧「そうだね。もの作りをする、とにかく作ってみるという精神が共通であって。音楽もパフォーマンスも、全部に対して“もの作り”であるっていうところが一番共鳴した部分なんじゃないかなと思います」
──この春からは新体制としてスタートしてますね。
小牧「タイミングで言うと、やっぱり“衣食住”がちょうど切りが良くて。もう1人のメンバーは私と同じクラスで、イラストに特化していて、洋服をベースにしたアート作品を作っていた人なんです。“衣食住”までは楽曲制作は私と森山くんが担当して、彼女が全部アートワークをしてくれていて。ちょうど大学の卒業を迎える時期に、いろいろと話し合って、お互いに別の方向に進むことになりました」
──今年の6月30日に配信リリースされた「ippo」には“これから二人でやっていくんだ”っていう決意表明のようなものが込められていると感じました。
小牧「“新体制となった”という背景がめちゃくちゃ大きかったっていうのもありましたし、そこに上乗せして、私もこの3月で藝大を卒業して、4月の最初の週から就職をして。自分の中で、全てが大きい変化だったんです。学生っていう身分ではなくなり、社会人になり、monjeも新しくなった。大きく一歩目を踏み出すっていうところで新曲を出すことになったので、自分のその大きな背景を歌詞にして出たって感じです」
──全てが変わっていくけど、新しい一歩を踏み出してくっていう気持ちが入ってますもんね。
小牧「そうですね。プラスで、長く慣れ親しんだ場所を離れるというめちゃくちゃ大きい不安もあって。変化の分だけ、葛藤も同じ量…ないしは倍ぐらいあったんです。もちろん明るく前向きにではあるけれども、歌詞の中にもあるように<後ろ髪引かれるような>感覚もありました。でも、どっちもマイナスな意味ではないっていうのが自分の中の感覚としてあったので、それをうまく表現できたかなと思います」
森山「そのタイミングでアーティスト写真も新しくしたんですけど、それが曲とマッチした、同じコンセプトになっていて。1枚目のアーティスト写真は室内でパジャマ姿で撮っていたのに対して、屋外で撮っているんです。monje全体をオープンエアな感じにしていくという意味合いも込めて、ドアを開けて外に出てみようみたいなコンセプトになっていて。歌詞が先でしたけど、音楽的にも開けたものを作ろうっていうふうには心がけて曲を作りましたし、このアーティスト写真が、曲の内容、空気感も演出してるかなっていうふうには感じてます」
小牧「“衣食住”も身の回りにあること、家の中のことを歌っていて。私たちは藝祭が終わって、意気投合して友達になって、2年目に急にコロナ禍に入ったんです。オンライン授業になってしまった中で、“何か一緒に作ろうぜ”、“楽しいことをやろうぜ”って言って大学の課題として出したのが、2曲目としてリリースした「Heya」だったんです。友達から次のステップ、初めてmonjeとして一緒に制作した曲が「Heya」=“部屋”という曲で、やっぱり室内でした。monjeを結成したきっかけから“衣食住”まで、自分たちを見つめ直すっていう意味でも、初年度のテーマは全て内に向かっていて。だから、「ippo」を作る前から、“今年は外に開けていこう”っていうコンセプト、目標を掲げていました」
──部屋から外には出たようですが、アーティスト写真のふたりはまだ目を閉じていますよね。
森山「あははははは。まだ眩しいぜっていう」
小牧「一歩目だからね」
森山「目を開いた写真もあったんですけど、閉じている方が面白いかなって。そこは何か後から意味がついてくるような気がしますね」
──そして、9月20日に配信リリースされた新体制として第2弾となる新曲「Fragrance」がドラマ「沼オトコと沼落ちオンナのmidnight call 〜寝不足の原因は自分にある。〜」の第4話EDテーマになっています。書き下ろし曲とのことですが、台本を読んでクリエイトするという過程はどうでしたか?
小牧「タイアップというのはmonjeとしては初めてではあるんですけど…」
森山「制作はそんなに変わらないから、むしろ慣れていたような感じはします。もともと既存のパーツからインスパイアされて作っていくということをよくやるので、そんなに突っ掛からなかったかなと思います」
小牧「私たちは“衣食住”の段階から、作り始めが誰であってもいいという形をとっていて。先にビジュアルがあったこともあるし、歌詞や曲が先にあったこともあります。そういう意味では、どこを起点にして、何のモチーフからインスパイアされて作るか?という違いしかなくて。今回はそのインスパイア元がドラマだったいうだけで、初動は変わらないんですけど、歌詞に関しては、初めて台本があってストーリーが外側にあるっていうのは、これまでとは違う経験にはなりました」
──小牧さんが書く歌詞にもストーリーがあるから。
小牧「そうですね。普段自分が歌詞を書くときも、私の中では基本的に最初から最後まで時間軸があって。今回は、そのストーリーが自分の時間軸なのか外の時間軸なのか…最初は自分を軸に書いていたんですけど、途中からどんどんドラマと同化していったタイミングもあったんです。しかも最後に主人公が鼻歌で歌うっていう、ドラマの中に出てくる構造にもなっていて。エンディングで、ちょっと先が気になるような終わり方であるということもキーになっていたので、そこから先の彼、ないし彼女の気持ちを勝手に想像して、その先を描いてあげるみたいなふうになりました。そこは純粋に面白かったです」
──同化していったというのは?
小牧「あまり詳細には想像しすぎないようにはしていたんですけど、恋愛ドラマって、やっぱり共感していくものだと思うんです。そういう部分では、自分の恋愛をリンクさせてしまいますし、自分の恋愛と同じような部分は引き出しとしても持ってきた部分ありました(笑)」
──共感しました?
小牧「めっちゃ共感しました(笑)。台本をもらう前、「沼オトコと沼落ちオンナ」という企画書もらった段階で、“あぁ、わかるわかる”っていう気持ちは若干あったんです。でも、逆に共感しすぎて入り込みすぎないようにはしました」
──(笑)この曲の中の主人公はもう終わりには気づいているはずなのに、気付かないふりをしていますよね。どんな心情を描きたいと思ってました?
小牧「まず台本を読んで、一番大きく思った部分は“香り”がキーになっているなってことだったんです。歌詞を書くときは何か一つ“もの”を持ってきて、そこから広げる方がいいなと思って。人の香りと記憶ってめちゃくちゃ結びついているし、私にも何度も経験がありました。ドラマではちょうどハンドクリームが起点になっていたし、何度もキーポイントとして出てきていたので、そこを軸に“香り”をモチーフとして書き始めて。あとは、「沼オトコと沼落ちオンナ」というコンセプトですよね。「沼オトコと沼落ちオンナ」の恋愛の特徴は、抜け出したくても抜けだせない、どんどんハマっていくものだし、抜け出せない理由を見つめるべきだと思って」
──どうして抜け出せないんでしょう?
小牧「絶望と希望が交互に与えられて、行ったり来たりして、超中毒性があると思うんです。その行き来と、クリアにならなさ、希望の持たされ方…。このドラマってそこなんじゃないかと思って。だから、“香りと記憶”を軸に、<グラグラのルール>とか、はっきりしない恋愛の中毒性を自分の想像のままに書いています」
──<終わりは近いけど そのままでこのままで>という最後の2行は特に共感する人が多そうです。
小牧「ドラマでは描かれていない部分なんですけど、だからこそ楽曲でどう見せるかは悩みました。勝手な解釈の部分ではあるんですけど、広がりを持って次につながるように、希望を失いたくないっていうところをどう出すかだと思っていて。やっぱり沼オトコとの恋愛はズルズルしているイメージがあるし、沼落ちオンナの心情としては、いけないってわかってるけど、そのぬるま湯に浸かっていたいっていう純粋な欲望もあって。そこがキーだし、いい引力のある欲望だなって思うんで、そこを素直に書きました」
──この曲は歌詞先ですか?
森山「そうです。<グラグラのルール>っていうちょっと不安定な言葉とか、“香り”っていうのも絶対的じゃないものとかが書かれていて。その掴みどころのなさとか、不安定な感じを表現しようと思って。なおかつ、タイアップとしてのキャッチーさも失わないためにちょっとリズムで遊ぶっていうことは考えました。ハーモニーやメロディーはシンプルなものにしようと心がけたんですけど、リズムに関しては少しだけ、全体的に心地良くハマっていくところと、ちょっとずれるみたいなことを考えていました」
小牧「あと、今までは、monjeは恋愛ソングをあんまり歌っていなくて。避けていたんですよね。だから今、ちょっと恥ずかしくなりながら答えいたんですけど(笑)、ここはもう素直にここにぶちまけた方がいいんだなと思って書いた部分もありますね」
──(笑)歌の言葉にぜひ耳を澄ませてほしいですね。
森山「今まで作った曲の中で一番シンプルな楽器編成で作っているんです。ギター、ドラム、ボーカル、ベースだけのほとんどバンドセットで作っていて。これは僕なりの挑戦だったんですけど、より音楽の本質的な部分がそのままストレートに伝わればいいなと思って。恋のことを語る言葉がなにより大事だからこそ、サウンド的にはシンプルになるように心がけました。より歌詞や言葉が伝わるように仕上げたつもりなので、そういうふうに聞いていただけたらうれしいです」
小牧「恋愛で困ったり辛いときって、恋愛ソングを聴いちゃうんですよね(苦笑)。私自身めちゃくちゃ助けられた経験があるし、寄り添ってもらっていた失恋ソングもたくさんあります。そういう意味で、今、恋愛で辛い思いをしてる方や、まさに沼オトコにハマって抜け出せない沼落ちオンナの方々に寄り添える曲になったらいいなと思っていて。同じような境遇にいる彼女たちが電車の中で涙を流しながら聴いてもらえるような曲に少しでもなったらもう本望だなって思います」
──monjeのこれからはどうなっていきますか?
小牧「“開けていく”っていうテーマは、1年かけて頑張っていきたいです。いろんな出会いがあったらいいなと思います」
森山「“外に出ていく”っていう言葉の意味の1つとして、コラボレーションっていうのを考えていて。映像作家さんとか、いろんなクリエイターの人たちとか、ものを作る人たちと一緒に、音楽に関わらず、いろんなものを作っていきたいっていうのが直近の展望としてはあります」
小牧「そうだね。開けたクリエイションがしたいですね。コラボレーションという意味では、ドラマのタイアップだった「Fragrance」もその第一歩ではあると思います。自分たちの“うち”を見つめることは一旦終わったので、これからはどんどん、外に向かって、いろんなことを挑戦していきたいです」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ