――新曲「テキーラモーレ」は、ヴィジュアル系演歌歌手のパイオニア、最上川 司さんからの楽曲提供となります。どのように実現したのでしょうか?
「以前から司さんの曲が大好きだったんですが、司さんがやられている2.5次元演歌歌謡グループ-最美桜前線-(花見桜こうき、最上川司、美良政次による世界初!世界一ド派手な2.5次元演歌歌謡グループ)で歌わせてもらったことでより好きになったんです。それに、僕は演歌歌謡の歌手としてもかなり自由にやらせていただいているので、それなら自分が歌いたい曲をリリースしないとファンに失礼だと思い、楽曲制作をお願いしました」
――最上川さんとはどんなディスカッションがあったのでしょうか。
「僕のライブは、ファンのみなさんと一緒に作り上げるものなので、“一緒に盛り上がれるアップテンポの楽曲がいいです”と伝えていたんです。さらに、司さんが僕の“男の色気”というところを見たいと言っていただいて戸惑ったんですが、そこは僕では発見できない部分なので、司さんの観点、視点で引き出してくれる楽曲になっていれば、新しい自分を知ることが出来るのかな?と思ったんです」
――男の色気を表現することはこれまであえて避けていたのでしょうか?
「僕がボーカルを務めるヴィジュアル系ロックバンド=ダウトでも、そういったことを表現していないですし、自分はそこに当てはまらないだろうと思っていたので、まったくもって触れていなかったんですよね。僕自身、内面もそういった性格ではないですし…。ただ、色気がある方を見て羨ましいとは思っていたので、その気持ちを曲に乗せていきました」
――ご自身の性格はどう捉えていますか?
「…こじらせていますね」
――なるほど(笑)。
「もともと、バンドを始めた理由や原動力も、劣等感と反骨精神なんです。それが今でもずっと続いているんですよ」
――バンドはもちろん、演歌歌手としてファンがたくさんつくことによって、肯定され、自己肯定感が上がった感覚もあるんじゃないですか?
「う~ん…そこに対しての実感があまりないんですよね。たとえ素晴らしい賞や順位を頂いたとしても、それは自分の実力というよりも、“ファンと一緒にみんなで獲った”という感覚なんです。だいたいのアーティストさんって、1位を獲っても、すごく謙虚ですし、隠すくらいなんですよね。でも、僕は前作「ピンチャン行進曲」で演歌歌謡チャートで1位を獲った時は、ファンに対して、“1位を獲った事実を大事にとっておくことなく、存分に使うね!”と断言したんです(笑)。今でも、自分に自信はないんですよ」
――それは小さなころからですか?
「そうですね。小さなころから誰かと比べられる人生で、圧倒的に1番になったことが一度もないんです。でも、そこで抱いた劣等感、向上心があるからこそ、今も続けているんだと思うんですよね。それに、演歌歌謡チャートで1位を獲った時、ガラッと変わる景色をファンの人たちに見せることが出来なくて、悔しい想いをしたんです。でも、今回、ニューシングルをリリースする際に、その“演歌歌謡1位”という実績が付いたことで、たくさんの雑誌やWEBの方にインタビューをしていただいたり、テレビに出たることが出来るので、あの時一緒に頑張ってくれたファンのみなさんには本当に感謝しています」
――そんな想いがこもった「テキーラモーレ」を最初に聴いたときはどんな印象でしたか?
「司さんの世界感に圧倒されました。それに、司さんにお願いしたからこそ、“司さんの曲でもてっぺんを取りたい!”と強く思ったんです」
――聴いてくれる人の幅もグッと増えそうですよね。
「はい、そう思いました。さらに、ポップスを主軸とされているアレンジャーの方に編曲をしていただいたので、相乗効果でよりキャッチ―な曲になったと思います」
――最初にお話ししていた“男の色気”はどのように捉えましたか?
「この曲のデモを司さんが歌っていたんです。なので、その歌声を分解し、歌い方を研究し、レコーディングした後に、司さんの声と聴き比べて新たな引き出しを開けていきました。実際に通して歌ってみると、ゆったりとした曲なのに、ものすごくカロリー消費が高いんです!バンドで歌っている激しい曲と同じくらいのカロリー消費があるので、年齢を重ねた方がカラオケで歌う時はちょっと気を付けた方がいいと思います(笑)」
――ある意味、健康に良さそうですね!
「そうですね。意外とあなどれない曲になっていると思います」
――歌詞の内容も、聴くほどに深く感じました。
「この歌詞では、<恋>が<愛>に変わるところがポイントなんです。でも、最後にはまた<恋>に戻っているんですよね。そのストーリー性もすごく素敵ですし、読み解くたびに発見があるので、ここまで緻密に考えてくださった司さんを尊敬しました。それに、僕は歌詞を書くときに、同じ言葉は絶対に繰り返さないようにしているんです。でも、司さんはふんだんに繰り返しているんですよね。それが本当に頭に残りますし、印象的になるので、あらためて大きな発見をもらいました」
――同じ言葉を繰り返すのは、作詞家として少し挑戦ですよね。
「そうなんですよね。“手抜きしている”とも思われたくないですし(笑)。でも、司さんが選んで繰り返している言葉は、ものすごく意味を感じますし、キラーワードになっているので、歌っていてもすごく気持ちよかったです」
――ちなみに、花見桜さんは、存在も歌い方もオリジナリティにあふれていますが、過去に影響を受けたアーティストはいたのでしょうか?
「好きなアーティストはたくさんいますが、影響されたアーティストはあまりいないんです。もし影響を受けていたら、歌い方もその方に寄ると思うんですよね。でも、僕はこじらせた性格なので(笑)、あえて好きな人ほど真似をしないようにしていたんです」
――いいこじらせでしたね!(笑)
「はい(笑)」
――それこそ、ヴィジュアル系のバンドをやりながら、演歌歌謡歌手としても活動するということ自体、大きなこじらせだと思うのですが、決して“歌い方”を大きく変えているわけではないですよね。
「実は、「アイラブ東京」でデビューしたときに、同世代の演歌歌謡歌手の先輩たちのリリースイベントなどをとにかくたくさん観に行って、歌い方とかをものすごく研究したんです。でも、それを見て練習しているときに、“自分じゃなくていいじゃん”って思ったんですよね。僕がいまやろうとしている人たちはもう存在するのだから、自分らしさを出さなくては意味がないと思ったんですよね。そこで、3作目の「ピンチャン行進曲」からはもともとの金髪を活かし、自分が最高だと思った歌を届けようという気持ちに変化したんです。だからこそ、バンドでの歌い方と共通点を見出していただけたんだと思うんです。今だからこそ言えるんですが、最初はみんなに好かれたかったし、嫌われたくなかったんですよね。でも、自分を押し殺してまで、好かれる必要はないなと気づいたんです。だったら、自分のもっと深いところまで目を向けて、それをしっかりと提示した上で“好き”と言ってくれる人を大事にしたいと思うようになりました」
――それはコロナ禍と関係ありますか?
「そうですね。やっぱり、コロナ禍で離れていく人、それでも残ってくれている人が如実にわかったんです。そこで、本当に大事な人が誰かが分かったんです。どんな状況になっても応援し続けてくれる人には、僕はちゃんと答えていきたいですし、ずっと僕らしくありたいなって思っています」
――MVもすごく素敵ですね。
「ありがとうございます。普段はバンドで一緒にやっているチームなので、みなさん楽しんで撮影してくれました。それに、“演歌歌謡のアーティストだと思って撮らなくていいです”と言っていましたし、楽曲に寄り添ったMVが作れたらと思って作ったので、すごくいい作品が出来たなと思っています」
――ちなみに、花見桜さんが男の色気を出すために、した方がいいなと思うことはどんなことですか?
「色気って、内面から出るものだと思うんです。僕は普段、音楽を作ることが趣味にもなっているので、ゲームなどもしないんですよ。唯一サウナにはいきますが、夜遊びをしないんですよね。でもそれだと色気が出てこないと思うので、積極的に遊ぼうと思っていて(笑)」
――あはは。それは公言してもいい事なんですか?(笑)
「この紙面で発表ってことでいいですか?だって、“いいな”って思っている男が、普段からモテている方がいいですよね?」
――まぁ、たしかに(笑)。
「でも、なかなか実行に移せないので、色気を出すために頑張りたいとは思っています(笑)」
――あはは。そして、両A面である「乾杯しませんか、西宮で」についても聞かせてください。
「この曲は「アイラブ東京」の制作陣の方に再度お願いしたんです。そうすることで、自分の成長を感じてみたかったんですよね。でも、良くも悪くも、僕のマインドが変化したとて、作家さんたちのマインドは全く変わっていなくて、“本当にカッコいいな”って思ったんです。僕のことをしっかりと知ってくれていますし、その上で寄り添って曲を作ってくれたことがすごく嬉しかったです」
――タイトルにある西宮は、花見桜さんの出身地になるんですね。
「はい。僕には“夢リスト”があるんですが、その中の1つとして、西宮にある甲子園球場で始球式をすることを掲げているんです。僕が生まれ育った街を題材に歌にして、西宮の代表曲になれば、その夢に近づけるのかな?と思っていて。それに、この曲には、西宮を知っている人ならハッとするような言葉が散りばめられているんです。なので、そこも楽しんでもらえたら嬉しいですね。あとは、このシングルを買ってくれた人にだけ、サプライズのプレゼントがあるんです」
――え?何なんですか!?
「実は、CDにはシークレットトラックがあって、そこには僕が初めて演歌歌謡で作った曲が収録しているんです。自分の手書きで書いた手紙風の歌詞カードも封入しているので、そちらも楽しんでもらえたら嬉しいです。この曲は、サブスクにも入りませんし、CDを買ってくれた方しか聞くことができないので、ぜひ、手に取って聴いてもらえたら嬉しいです!
(おわり)
取材・文/吉田可奈