――新曲「サッドマンズランド」は、キタニタツヤさんのプロデュース作品となりますが、どのような経緯で制作になったのでしょうか?
「実は、スタッフがこの曲のオファーをさせていただいたタイミングと、僕が友達の紹介で初めてキタニさんとお会いしたタイミングが同時期だったんですよ」
――それは偶然ですか?
「そうなんです。その直後のミーティングで、“次はどんな曲を歌おうか?”って話をしたときに、“前々から候補に挙がっていたキタニさんに今回お声がけさせていただきました”と聞いて、“こんな偶然があるんだ!?”ってビックリして。 しかも、キタニさんとお会いした場では音楽をやる人や絵を描く人などクリエイティブな方たちがいて、みんなで熱い話が出来たのですごく充実した時間を過ごせたこともあり、どんな曲が出来上がるのか、すごくワクワクしていました」
――どんなお話をされていたんですか?
「1年ほど前だったんですが、お互いそれぞれの分野でトップランカーとして第一線で活躍していきたいよねってみんなで話していて。みんなで同じ志を持った仲間たちとそういった話をしていると、僕も声優アーティストとして、もっと上を目指したいと思えたんです。そんな矢先に、一緒にお仕事ができることになり、すごく嬉しかったですし、運命を感じました」
――その後、キタニさんとはこの曲に関してどんなディスカッションが行われましたか?
「まず、“僕がどんな曲にしたいのか?”ということをたくさんヒアリングしていただきました。その後、この曲が完成して聴いたときは、非常に衝撃を受けましたね。それに、キタニくんの歌う音域のレンジが、たぶん僕も近いところがあるんだろうなと感じていて。だからこそ、無理のない、気持ちよく歌える楽曲を作ってくれるだろうという信頼がありました。実際にすごく歌唱しやすいレンジでしたし、感情も乗せやすいメロディだなと思いました。さらに、高音の所は地声で貫き通すのか、それともファルセットがいいのかということを考えたときに、キタニくんと“ここはファルセットだよね”という共通認識を持つこともできていたんです」
――以心伝心ですね。
「そうだといいですね。実は、デモはキタニくんが歌ったものを頂いたんです」
――贅沢ですね!
「贅沢ですよね。それを聴くと、“こう歌った方がいい”ということが伝わってきたので、すごく助かりました」
――キタニさんの楽曲は、言葉のリズムの乗せ方がかなり難しいのではと思ったのですが、いかがでしたか?
「難しかったですね。でも、実はキタニくんが作曲した歌はこれまでキャラクターコンテンツで歌唱させていただいたことがあったので、最初から難しさは理解していたんです。でも、この曲であらためてその難しさを感じて驚きました(笑)。譜面に起こされてはいるんですが、譜面通りではないというか、歌い方のニュアンスが難しいんですよね。だからじっくりデモを聴きこみ、どうしたらこの曲の面白さを引き出せるんだろう?ということを考えて歌いました。今回は僕のレコーディングよりも先に、楽器陣のバンドレコーディングを先にしていただいたんです。それを聴いたときに、歌い方の指南をしてくれているようでものすごく参考になりましたし、今までとはまた違う歌い方が出来たように思います」
――バンドサウンドだからこその良さもありますよね。
「本当にそうなんですよね。バンドって、その時のグルーヴが大事なので、そこに合わせて歌った時に、音程が少しずれていても、熱がこもっていれば、それが違和感ではなく、曲の特徴としてとらえられることが出来るんです。そのバンドサウンドの熱量も、楽しんでもらえたら嬉しいですね。いつか、ライブなどで、フルバンドで披露したいですね」
――歌詞世界も独特で印象的なものになっていますが、読み解いてみていかがでしたか?
「この曲はざっくり言ってしまえば、世の中の文句を歌っているんです。大人のみなさんは、きっと何かに対してどこまで諦めるか、どこまで諦めないかということを考えたことがあると思うんですよね。それを発信できる場所も多いからこそ、逆に気を遣うこともある…そんな気持ちがこの曲の種になっています。さらに、言葉選びとして、直接的な表現と、そうではない表現が歌詞の中に入り混じっているからこそ、“これは何だろう?”と思う言葉も散りばめられているんですが、それに対して“もう一度聴いてみよう”と思ってもらえたら本望です。なによりも、楽曲を依頼する前から、次の曲のテーマに関してずっと考えていたことが、こうやって完璧に曲に表現されていると、本当に素晴らしいなと感動しました」
――それはキタニさんに伝えましたか?
「いや、ここまで詳しい分析はちょっと気持ち悪くなっちゃうかなと思って伝えていないです(笑)。なので、このインタビューを読んでもらえたら嬉しいです(笑)」
――あはは(笑)。
――さて、今回はどんなMVになりそうですか?
「このジャケットの世界観が表現されたものになっています」
――すごく独特の配色ですよね。
「目を引きますよね。この色彩って、どこか不快感を煽る配色なんです。タイトルも「サッドマンズランド」ですし、“どうやらポジティブな曲ではない”って伝わると思いますし、タイトルのフォントもバラバラでいびつになっているんです。描かれているキャラクターの表情も、虚無感が表れていて、いったいどういうことが歌われているのか?ということが、MVを見るとまたさらに新しい視点で分かるようになっているんです」
――さて、この曲のテーマは“逃げ場”ということですが、伊東さんが“逃げ場”にしていることを教えてください。
「身近なものだとアニメやゲーム、マンガなどいろいろあります。舞台もよく観に行きますし、なによりも趣味が多いんです。スポーツも好きですし、今年はたくさん野球も観に行けました」
――どこのチームを応援しているんですか?
「一応、巨人ファンです。東京出身で、子どもの頃は家に帰ったから必ずテレビで巨人戦が放送されていたので、なんとなく思い入れがあるんです。ただ、ほかのチームも同じように応援をしていますし、どのチームも楽しく見ることが出来るので、“一応”をつけました(笑)」
――エンターテイメントが好きなんですね。
「そうですね。でも、エンタメ以外もいろいろ好きなものがありますし、最近は景色も好きなんです。なので、いろんな景色を観に行きたいですし、もともといろんなことを試すことが好きなんです。先日は、1週間のうちにスカイツリーと東京タワーの両方を登りに行きました」
――楽しそうですね!
「それぞれ、登ったことはあったんですが、比べてみるとまた違う良さがたくさんあって面白かったです。“これを人間が作ったのか!”という衝撃もありますし、いろんな発見をすることができました」
――となると、声優として役をもらったときも、原作や関連したものにどっぷりハマってしまうタイプではないですか?
「そうなんです!それは自分でも声優としてすごく得な性格をしているなと思います。楽しい作品ばかりなので原作にはドハマりしますし、いざアニメが放送されたら、一般の視聴者の気持ちに戻ることが出来るんです。よく、声優の友達は、声が聴こえるとその声優さんの顔が浮かんできてしまう職業病を持つ人が多いんです(笑)。でも僕は、誰が出ていようとアニメ作品としてグッと入り込めますし、自分が出演した作品も、純粋に楽しめるんです。もちろん、自分が好きな声優さんや、身近な人の声はわかりますが、それがアニメの邪魔をするような感覚はないんです。すべてを受け入れるオトクな性格を、自分でも気に入っています(笑)」
――そういえば、伊東さんはINIのファンであることも公言されていますよね。
「はい。ファンクラブにも加入しています(笑)。まだライブには行けていないんですが、オーディション番組を勧められて見始めたらハマってしまって…。INIと番組で何度も共演させていただけるのはすごくありがたいですね」
――すごい…! そういったボーイズグループなどのアーティスト活動なども近くで見ていると、大きな刺激をもらえるのではないでしょうか?
「僕はそこを主戦場とはしていませんが、ダンスをすることはあるので、身体の動かし方や、魅せ方など、そういったマインドに影響を受けたりすることもあるので、本当に無駄がない人生を送っています(笑)」
――これからも、趣味が大きな仕事に繋がっていくのを楽しみにしていますね。
――さて、2023年が終わりを迎えていますが、どんな2024年を迎えたいですか?
「アーティスト=伊東健人として2022年からシンガーの活動をやってきたからこそ、そろそろライブをやりたいです。この数年、コロナ禍を挟んだことで、声優業界はもちろん、舞台役者の方やミュージシャンなど、かなりの苦境を乗り越えてきました。そんな中、2023年になり、少しずつ世界がコロナ前に戻ってきて、今まで通りに近づいてきた今、僕も自分がライブに行ったり、イベントに出演させていただいたりする時に、“やっぱりもっと戦わなくてはいけないことがあるんだろうな”って思ったんです。まだまだやれることはあると思いますし、乗り越えていかなくちゃいけないこともあるので、2024年はより力を入れて頑張りたいと思っています」
――ファンのみなさんも、そろそろ元通りにライブで声を出すことができそうですしね。
「そうなってくれたらいいですよね。受け取る側も、これまでみたいに遠慮することなく、一緒に盛り上げていけたらいいなって思っていて。きっと、発信する側と、受け取る側、どちらが偏って頑張ってもダメなんだと思います。なので、双方肩を組み合って頑張りたいですね」
――プライベートではどんなことがしたいですか?
「来年こそは海外に行きたいですね。この仕事をしていると、長期の休みが本当に取れないんです。でも、そろそろ、プライベートを充実させるためにも、海外旅行をしてもいいのかな?と思って、パスポートだけは取りました!もう出国する準備はできています!」
――もう予定はあるんですか?
「いや…でも、その気持ちは大きくあります!(笑)だから、次にインタビューしていただくときには、どこか行ったという報告ができるよう、がんばります!」
(おわり)
取材・文/吉田可奈
写真/野﨑 慧嗣
ヘアメイク/加藤ゆい(fringe)
スタイリスト/本田雄己
RELEASE INFORMATION伊東健人「サッドマンズランド」
2023年11月22日(水)配信
作詞:キタニタツヤ
作曲:キタニタツヤ
編曲:ZEROKU /キタニタツヤ
Illustrated by:ムラサキ ヒムシ