──今回のインタビューでは、怒涛のリリースラッシュとなった今年の下半期を振り返っていただきたいと思っています。まずは、6月から7月にかけて初のアジアツアー『imase 1st Asia Tour “Shiki”』を開催しましたが、このツアーはいかがでしたか?
「純粋に楽しかったです。これまでSNSでは海外の方からコメントをいただいていましたが、実際に行くまでは“本当にファンの方がいるのかな?”という不安もあって。でも会場に着いたら本当に皆さんがライブを楽しんでくれていて。すごく嬉しかったです」
──日本でのツアーとの違いは何か感じましたか?
「海外と日本の違いというよりも、都市ごとによって全然違うんです。日本でも東京、大阪、名古屋でそれぞれ雰囲気が違ったりして。自由に踊るところもあれば、一緒に歌うほうが多いところもあって、都市や会場によっての違いを感じられるのが面白いです」
──imaseさんの海外でのライブ映像を拝見したことがあるのですが、海外の皆さんも日本語の歌詞を歌っている姿が印象的でした。
「本当にありがたいです。嬉しいですね」
──その後、8月からは「エトセトラ」、「メロドラマ」、「蜃気楼」、「メトロシティ」、「Dried Flower」、「アウトライン」、そして、「プリズム」と1カ月に2曲というハイペースで楽曲がリリースされました。このうち「メロドラマ」と「メトロシティ」はなとりさんとのコラボ曲ですが、なとりさんとコラボすることになったのはどうしてだったのでしょうか?
「以前から“一緒に曲を作りたいね”という話はよくしていて、今年に入って実際に作り始めました。1つのテーマに対してお互い感じていることが違うぶん、歌詞で違いが出たり、お互いの良さが出たと思いますし、何より一緒にやっていて楽しかったです。勉強にもなりました」
──そもそも一緒に曲を作りたいという話が出るほど仲良くなったのは何がきっかけだったのでしょうか?
「SNSに曲を投稿し始めたときに交流したのがきっかけです。実際に会ったのは一昨年くらいなんですが、お互いのフォロワーが100人くらいのときから、オンラインで話をしたり一緒にゲームをしたりしていました。ライバル的な側面もあるし、共に切磋琢磨してきた仲です」
──お互いにフォロワーが100人くらいのときから知っているという2人が、共にメジャーデビューしてコラボ曲がタイアップになるなんて、すごく素敵な話ですね。
「はい。奇跡的なことだと思います。恵まれていると思いますし、こうしてコラボができて嬉しいです」
──一緒に楽曲制作をして改めて感じた、なとりさんの魅力を聞かせてもらえますか?
「なとりならではの言い回しやメロディがあると思います。「メトロシティ」に<チューニング合ってる︖>という歌詞があるのですが、“東京に出てきた二人が舞い上がっている感じを表現するいいフレーズがないかな?“と話していたときに、なとりから出てきたフレーズです。そういった言葉選びはすごく勉強になりました。あと、歌声も。自分とは違う音域を持っていて、それにあわせて曲を作れるのは魅力的でした。音楽のルーツも僕とは違ってボカロの要素が入っていたりするので、全く違う楽曲が生まれるんだなと思いました」
──では逆に、一緒に作ることで見えたimaseさんらしさは?
「やっぱり自分ならではのメロディーがあるということは改めて感じました。自分の歌声に合うようにメロディーを作っているというのもありますが、裏声と地声の切り替えポイントは自分らしいのかなと。譜割やリズムを細かくしすぎないというのも自分の特徴の1つなんだなと改めて感じました」
──譜割やリズムを細かくしすぎないのはどうしてなのでしょう?
「自分の声質にあまり合わないんです。もちろん曲によってはあえて細かくすることもありますが、どちらかというと、細かくないほうが合うと思っています」
──様々な学びや気づきがあったコライトだったかと思いますが、なとりさんとのコラボはその後のご自身の楽曲制作や音楽活動にどのような影響を与えていますか?
「コライトの楽しさを知ることができたので、また機会があったら共作したいですね。これまでコライトしたのは、なとりとの2曲と、LE SSERAFIMさんに提供した2曲(「ジュエリー (Prod. imase)」、「ドレスコード (Prod. imase)」)だけなので、また他の方とやるとどうなるのかな?という気持ちもあって。今後もやってみたいです」
──そして、10月25日に「アウトライン」がリリースされました。この曲は第103回全国高校サッカー選手権大会の応援歌として書き下ろされた楽曲です。
「はい、僕も高校生までサッカーをやっていて、実際に選手権を目指していたので、今こういう形で携わることができてすごく嬉しいです」
──ちなみにimaseさんは全国高校サッカー選手権大会には出られたんですか?
「いえ、予選で負けました。予選の試合には出ていましたが…」
──ではピッチに立つ選手の気持ちもわかるし、負けて悔しい気持ちも知っているんですね。楽曲を作るうえでは、やはりサッカーをやっていたことは影響しましたか?
「影響しましたね。実際に自分がピッチの上で感じていたことや、ピッチの外からチームメイトを応援していたときに感じたことが歌詞やサウンドに反映されています。選手権の映像を見たときに感じたことも含めて、背中を押せる曲にしたかったんです」
──今、“背中を押せる曲にしたい”という言葉もありましたが、全国高校サッカー選手権大会の応援歌を作るうえで、曲のとっかかりはどのようなところからだったのでしょうか?
「過去の高校サッカーの応援歌も聴きましたし、それだけじゃなくサッカーにまつわるさまざまな曲を聴いて、曲調やジャンルを絞って、メロディを付けて…という感じで作っていきました」
──サッカーにまつわるさまざまな楽曲を聴いたということですが、その中でどういう特徴があると思いましたか? もしくはいろいろ聴いた上で、ご自身ではどのような曲を作ろうと思いましたか?
「「アウトライン」のイントロにもあるのですが、シンガロングは入れたかったです。いろいろな声で歌うというのはすごく応援歌っぽいと思いましたし、実際に自分が聴いていてもすごく励まされます。前向きな気持ちになれると思ったので、取り入れようと思いました。あとはスケールの大きなサウンド感というのも、サッカーのスタジアム…特に全国高校サッカー選手権大会の決勝戦が行われる国立競技場には合うと思い、ストリングスの音を入れたりしました」
──スネアドラムの音の感じも、実際のサッカーの応援団のようですよね。
「はい。そこも意識しました」
──先ほど、ご自身の経験が歌詞に影響されているとおっしゃっていましたが、歌詞はどういったところから書き始めたのでしょうか?
「自分がプレイしたり見ていたときによく思っていたのですが、サッカーって“まさかそんなところで逆転するなんて!”みたいな展開があるんです。FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会の決勝、フランス対アルゼンチンもそうでしたし、高校サッカーでも本当に最後の最後に展開がガラッと変わることはあって。そういう意味では、サッカーでは、“最後の最後まで諦めない”ということはすごく大切なことで、それがサッカーの醍醐味でもあります。<マイナスをここから 溜めてきた分 ほら オセロみたいに 全てが伏線のように>というのは、まさにそうで。ピッチの中でプレーしている選手の皆さんもそうですし、応援している皆さんも、最後まで諦めないで頑張ってほしいという思いで書きました」
──しかも全国高校サッカー選手権大会は3年生にとっては引退のかかった試合でもありますよね。
「そうですよね。3年間一度も試合に出られない選手もいるかもしれないし、3年間応援し続けてくれているマネージャーや監督がいる。僕はどういった立場の人も、すべてがピッチに影響すると思っています。普段の練習や応援、日々の支え…そういういろんなものが詰まった試合なんです。だからいろいろな立場の人に寄り添える楽曲にしたいということも考えました」
──リリース後のリスナーの反響は受け取っていますか?
「今、実際に選手権を目指してサッカーを頑張っている高校生の方から“自分がサッカーをやっているときにこういう曲が聴けて嬉しい”というコメントをいただいたり、学生時代にサッカーをやっていた方が“自分の現役時代にこういう曲を聴きたかった”と言ってくださったりしていて。実際にサッカー経験者に届いているのはすごく嬉しいです」
──サッカー経験者のimaseさんが思う、サッカーと音楽の音楽性とはどういうものですか?
「プレーする前にテンションの上がる曲を聴くとアドレナリンが出ますし、逆に落ち着いた曲を聴くと冷静にプレーできる気がします。音楽は、そういうメンタルコントロールの役割を担っているのかな?と思います」
──その視点で言うと、「アウトライン」は選手にはどういうときに聴いてほしいですか?
「戦い続ける選手の背中を少しでも押せたらという気持ちで書いたので、試合前に聴いてもらえたら嬉しいです」
──そして11月8日リリースの最新曲「プリズム」はドラマ『チェイサーゲームW2 美しき天女たち』主題歌です。前作(『チェイサーゲームW パワハラ上司は私の元カノ』主題歌「ミッドナイトガール」)に引き続きの主題歌ですが、“今回もオープニング主題歌を”という話を聞いた時の気持ちを教えてください。
「最初にご一緒したのは2年前…活動し始めてすぐの頃だったのに、劇伴まで担当させていただいて。僕にとって挑戦の場でもあったので、今回も声をかけていただいて本当にありがたいです」
──タイアップ続投ということで、意識したことはありますか?
「樹と冬雨というヒロイン2人の関係性や世界観は崩さないようにと意識しました。今回は2人が再会を果たすところから始まるので、そのストーリーを、台本を読みながら自分の中でもいろいろと想像して、自分なりの2人のラブストーリーを描きました。ただ前回と違って、今回はこの2人の関係がより紆余曲折するんです。<この先は切れ⽬なく居たいよ>という歌詞も入れましたが、また2人の関係が途切れてしまうんじゃないか?という不安も織り交ぜたところは、「ミッドナイトガール」とは違うところです」
──AメロとBメロ、サビでそれぞれ息の量の調整が絶妙だなと感じましたが、ボーカル面で意識したことはどのようなことでしたか?
「サビがサビらしくガツっとした感じなので、AメロBメロはしっとりめに歌って、ギャップを作るというのは意識しました。というのも“サビで出会う”というイメージなので。だから出会った部分をより強調させられたらと思い、そこまではボーカルもサウンド全体としてしっとりさせようと思いました」
──サウンド面でのこだわりを教えてください。
「デモでは自分の得意なシティポップっぽく作っていたのですが、平成の雰囲気を出したいと思いアレンジの段階でHANO+7Mさんにお願いして、打ち込みのアコギの音や、ちょっといなたいシンセの音など、そういうところに平成っぽさを出しました」
──平成の雰囲気を出したかったのはどうしてなのでしょうか?
「もともと平成っぽい曲を作りたかったというのもありますが、僕の中に恋愛ドラマの主題歌といえば「ラブ・ストーリーは突然に」(小田和正)というイメージが強くて。特に今回はあの感じが合うんじゃないかな?と思いました」
──なるほど。実際、「プリズム」は“主題歌っぽさ”をすごく感じます。もともと平成っぽい曲を作りたかったのはどうしてなのでしょうか?
「ただ単純に、NewJeansさんの「Supernatural」のようなニュージャックの雰囲気がすごく良いなと思って。ちょうど制作時期によく聴いていたんです」
──実際にご自身で平成っぽい雰囲気の楽曲を作ってみて手応えはいかがですか?
「“自分が小中学生のときに見ていたドラマの主題歌はこういう楽曲が多かったな”と懐かしい気持ちになりましたし、自分でそういう曲が作れてよかったです。タイアップをきっかけに、いろいろなジャンルの曲を作らせていただけて嬉しいです」
──それこそ8月からリリースされた楽曲はすべてタイアップ曲ですが、タイアップ曲を作る面白さはどこに感じていますか?
「いろいろなテーマの作品にあわせて楽曲を作れることが本当に楽しいです。「Dried Flower」(映画『スマホを落としただけなのに ~最終章~ ファイナル ハッキング ゲーム』主題歌)は、映画自体に狂気的な部分があるので、どのような楽曲が合うのかな?と考えたりして。作品と一体になれる面白さは、タイアップならではだと思います」
──まさに「Dried Flower」はこれまでのimaseさんにはないテイストの楽曲ですが、最初に映画『スマホを落としただけなのに ~最終章~ ファイナル ハッキング ゲーム』の主題歌という話を聞いたときは、どう感じましたか?
「ダークなサウンドの曲は作ってみたいと思っていましたし、聴くのは好きだったので不安はなかったですが、その中でimaseらしさをどうやって出せばいいのか、自分の声でどう表現するのかは難しそうだなと思いました」
──実際、テイストはこれまでとは違うもののしっかりimaseさんらしさのある楽曲に仕上がりました。今まで作っていなかったタイプの楽曲もimaseさんらしくできたと、ということは自信になっていきますよね?
「はい。今はまだ曲を作りながら“こういうタイプの曲だったら、こうするといいのかな?”と一つ一つ掴んでいっている段階です。作り続けることで少しずつimaseらしさの出し方がわかってきているのですが、でもまだまだ“自分だったらどう作るんだろう?”と想像がつかないジャンルもたくさんあります」
──様々なタイアップを手がけたり、日本のみならず海外でも広く聴かれたりしていますが、ご自身では現在地をどう捉えていますか?
「もっともっといろいろな人に聴いていただけるように頑張りたいですし、ライブももっと大きな規模でできるようになりたいです。そういった意味では、まだまだ途中段階だと思っています」
──特に伸ばしたいと思っているところや、ご自身で思う現時点での課題は何かありますか?
「ライブのクオリティです。パフォーマンス然り、歌然り、もっともっとパワーアップしないと…と思っています。楽曲制作の面でも、いろいろなジャンルの曲を作っていきたいですし、もっとたくさんの人に聴いてもらえるようなキャッチーなメロディや歌詞を、これからも目指していきたいです」
──11月13日からは初のホールツアー『imase Hall Tour 2024 “Shiki-Sai”』が始まります。どんなツアーになりそうですか?
「ホールは座席があって、ライブハウスとはまた違う見方ができる場所。前回のツアーは“Shiki”でしたが、今回は “Shiki-Sai”ということで、様々な彩りを見せられるようなライブにしたいと思い、みんなで話し合って演出を考えています。観ていて楽しいライブにしたいです」
──座席があるということで、これまでなかなかimaseさんのライブに行けなかったという方も今回はいらっしゃるでしょうしね。
「前回のツアーでも、家族連れの方がいらっしゃったり、ライブに行くこと自体が初めてという方もいらっしゃって。今回もそういった方がいらっしゃると思うので、初めての方でも楽しめるように丁寧にライブを作り上げようと準備しています。楽しみにしていてください」
(おわり)
取材・文/小林千絵
写真/中村功
衣装
カーディガン ¥60,500、シューズ ¥41,800(ともにMaison MIHARA YASUHIRO)、シャツ ¥52,800、パンツ ¥52,800(ともにKHOKI)、リング右手人差し指 ¥44,000、リング右手中指 ¥69,300(ともにblanc iris)
(問い合わせ先)
・Maison MIHARA YASUHIRO TOKYO(Maison MIHARA YASUHIRO):03-5770-3291
・株式会社コッキデザイン事務所(KHOKI):03-6300-5822
・ブランイリス トーキョー(blanc iris):03-6434-0210
RELEASE INFORMATION
LIVE INFORMATION
imase Hall Tour 2024 “Shiki-Sai”
2024年11月13日(⽔) 東京 LINE CUBE SHIBUYA SOLD OUT!
2024年11月14日(⽊) 東京 LINE CUBE SHIBUYA SOLD OUT!
2024年11月18日(⽉) 大阪 NHK⼤阪ホール SOLD OUT!
2024年11月19日(⽕) 大阪 NHK⼤阪ホール SOLD OUT!
2024年11月25日(⽉) 愛知 岡⾕鋼機名古屋公会堂 ⼤ホール SOLD OUT!