――ソロでのメジャーデビュー15周年となる今年は、3月配信の「HEAD SHOT feat. SKY-HI」に続き、11月に「君となら・・・feat. RYOJI」を配信と、フィーチャリング楽曲が2曲続きました。これまでの活動を振り返ると、HAN-KUNさんがフィーチャリング相手として呼ばれることは多い反面、ご自身で迎えることはほぼなかったかと思います。
「そうですね。もともとソロ活動を始めるときに最初に決めたコンセプトが1人でやり切るというか…レゲエという音楽で自分の世界観をちゃんと確立することを掲げていました。だから、完全にセルフプロデュースでソロ活動をしてきましたし、自分の作品の中ではフィーチャリング楽曲はリリースしませんでした。でも、2020年にリリースしたアルバム『UNCHAINED』で初めてMONGOL800 / UKULELE GYPSYのキヨサクを迎えて「夏のエトセトラ」という曲を作ったんです。ソロ活動を始めて10年以上経って、自分の中でも“一つ、型ができたかな?”と思ったので、そこにどなたかを招待して、自分の世界を一緒に味わってもらえたらなと思ったのがきっかけです。とはいえ、キヨサクもレゲエ好きだし、同じフィールドで歌ったこともたくさんあったので。ある意味、同じ血が流れてる彼に、最初にお願いすることにしました。この曲を機に扉が開いたというか…。そこからは“いろんな人とやりたいな”と思うようになったんです」
――「夏のエトセトラ feat. キヨサク」が発端になっての今年の2作だったんですね。中でも直近の「君となら・・・」で迎えたのはケツメイシのRYOJIさん。お二人の間では以前から“いつか一緒にやろう”というお話は出ていたそうですね。
「そうなんです。だから、今回も何かのきっかけがあってというよりは、前々から話していたことのタイミングが今かな?って感じでした」
――制作はどのように進めていかれたんですか?
「最初にRYOJIくんのほうから、“せっかくやらせてもらえるなら自分が音楽面をリードしてもいいかな?”って言ってくれました。僕としては、自分のフィールドにRYOJIくんを招いてっていうイメージだったんですけど、RYOJIくんがそう言ってくれて、“自分にないものを見せてもらえるのもフィーチャリングの醍醐味かな?“と思ってお任せすることにしました。その後、デモ作りのためにスタジオに一緒に入ったんですが、そのとき既にRYOJIくんが3〜4曲、音と歌詞を当てたものを用意してくれていたんです。その前に会ったときに、”どんな雰囲気の楽曲がいいか?“を話していて、それに合わせて僕も曲を用意していってたから、”あれ? スタートそこだっけ!?“みたいな(笑)」
――お互いがアイデアを持ち寄る予定が、そうじゃなかった、と。
「はい(笑)。でも、RYOJIくんが持ってきてくれた曲を聴かせてもらったら、いろんなパターンがあって、どの曲についてもRYOJIくんが描く絵がしっかり見えるので、すごくわかりやすかったんです。そこで、最初にRYOJIくんが“自分がリードしていく形で出来たら嬉しい”って話してくれたときから、RYOJIくんの中では始まっていたんだなって、僕も腑に落ちました。そこからは、“もし自分がこの曲の世界観に入り込んだら…”という視点で考えるようにシフトしていきました」
――RYOJIさんが持ってこられた3〜4曲の中から「君となら・・・」を選んだ理由は、どういうところにあったのでしょう?
「「君となら・・・」の原型になるものがあって、一番間口が広そうなサウンドだったのと、“自分1人だったらやらないだろうな”と思ったのが理由ですね」
――なるほど!
「中には、もろレゲエな曲もあって、個人的にはその曲がすごく気に入って、“この曲がいいな”って思ったんです。でも、“これはもしかしたら俺が好きなだけかもしれない”とか、“RYOJIくんと一緒にやるなら多くの人に聴いてもらえるほうを選んだほうがいいのかな?”とか、いろいろ考えて。最初はその2曲を同時進行させたんです。「君となら・・・」を進めつつ、途中、“俺はこっち(レゲエテイストの楽曲)が好きなんだよな…”と思いながら、なんとかそっちに進むように周りのスタッフの様子を窺ったりもしたんですけど、気付いたら「君となら・・・」が先にゴールしていました(笑)」
――そうだったんですね(笑)。一方、歌詞に関しても、RYOJIさんから曲をもらった時点で今のようなラブソングの要素が盛り込まれていたんですか? “自分1人ならやらなそう”というので、ギャップをどう埋めていったのかも気になります。
「そうですね…最初のサビはある程度できあがっていました。繰り返しになっちゃいますけど、RYOJIくんの世界に入り込んでやるのも一緒にやらせてもらえる醍醐味かなっていうので、歌詞もすんなり向き合えたんです。RYOJIくんが提示してくれた世界観もわかりやすかったし、最初にこの楽曲を提案してもらった後、1人スタジオに残ってサビから先のバースを書き始めて。2時間後くらいにはそれを自分で録ってRYOJIくんに聴いてもらってっていうくらいのタイム感で進んでいきました。もちろん、その過程で歌詞のディテール…例えば、歌詞の中の2人は遠距離なのか?、付き合いたてなのか?、それとも引っ越しを考えているのか?など、2人が“今いる場所”はRYOJIくんに確認しながらでしたけど、そういうところまで細かく話せたので、今の歌詞の世界が出来上がった気がしています」
――すごくスイートな世界ですよね。個人的な感想になってしまうんですけど、同世代の男性がこんなにもピュアな恋心を歌っているのが新鮮でした。
「僕も、“RYOJIくん、すごくキュンとするようなことを書くよな”と思いました。でも、その指針があったので、僕自身の考え方というよりは、この世界にどう入っていくか…“RYOJIくんと同じ視点で物語っていけたらいいな”という想いで書き進めていきました。でも、もう完成ってなった段階で、どうしてももう一段、奥に入っていきたいと思ってしまって。それで、後半の間奏の部分をレコーディングの前日に書き足しました。そのパートをRYOJIくんと一緒に歌い分けて、そこからサビに戻るとき、一緒に<君となら>のフレーズをハーモニーをつけて歌うっていうのが生まれて。お互いが作り合ったものをお互いが歌って、最後一緒に合流して歌うっていうのは、僕とRYOJIくんが作り上げてきたここまでのプロセスがうまく反映できたと思います」
――なんというか、「君となら・・・」について聞けば聞くほど、この前にリリースされたSKY-HIさんとの「HEAD SHOT」とのギャップを痛感してます(笑)。
「タイトルも「HEAD SHOT」ですからね(笑)」
――せっかくの機会ですので、SKY-HIさんとの制作についてもお聞きしていいですか。そもそも、なぜ一緒に曲を作ることになったのでしょう? 接点らしき接点があまり思い浮かばないのですが…。
「それが、昔は結構ソロで出演する野外フェスで一緒になることもありましたし、意外と同じタイミングで新曲をリリースしたりもしていて、お互い知ってはいたんです。それで、昨年かな?…彼のラジオに呼んでいただいて。会うのは久しぶりでしし、若手育成の話とかいろいろ聞きたいと思って会ったときに、“一緒に曲も作れたらいいよね”なんて話になりました。そこから、次に会うときにはもうスタジオに入って、それこそ3時間ぐらいで「HEAD SHOT」が出来上がったんです。“お互いのスキルと世界観を提案しよう”っていうので、二人の熱量がバシッと合わさったんですよ」
――おお!
「さらに、レコーディングを終えた直後に彼から“バースデーライブをやるので歌いに来てくれませんか?”って連絡があって。それ(バースデーライブ)が3日後だって言うんですよ(笑)。“今、録ったばかりだよね? 3日後だよね? ちょっと待って…行くわ!”みたいな(笑)」
――フットワーク軽い!(笑) でも、すごく刺激的ですね。
「だから、必死で歌詞を覚えました(笑)。すごく緊張もしましたし…だって、会場にいるお客さんはこの楽曲がリリースされることも知らないし、そもそもシークレットゲストだし。彼のファンの中で俺とSKY-HIの親和性って、ラジオに出たくらいで、サプライズゲストの候補枠に俺はいないはずなんです。それが一番の緊張でした。“俺でいいのか? 俺じゃなくない!?”って(笑)。でも、いざステージに出たらすごくいい感じに受け入れてくださって…。SKY-HIとの「HEAD SHOT」に関しては、もちろん楽曲を一緒に作ることでの学びもあったんですけど、作った先にいる人たちと出会えたことが大きかったです。僕だったり、湘南乃風だったりとはなかなか縁を作りづらいお客さんたちとのご縁をいただけたこと。そこで僕というアーティストを認識してもらえたことは、すごく未来のあるステージだったと思って今でも感謝しています」
――となると、「君となら・・・」もライブで披露したいところですよね。
「そうなんですよ。特に、最後に書き足したRYOJIくんとの掛け合いの部分は、ライブでもしRYOJIくんと一緒にできたら…って想像すると、この楽曲の中で一つのハイライトになると思うんです。そのときの照明は、<君となら>で一緒に歌うところでライトが全部開いてオーラスに向かっていく感じかな?とか。そういうのをイメージしながら歌ったら、すごく楽しかったので。ぜひライブで歌いたいので、RYOJIくんのスケジュールを確認します(笑)」
――フィーチャリングに招かれる側から招く側になって、やはり違いはありますか?
「招かれるのは超気楽です(笑)。もちろん、“呼ばれた者として頑張る”というのは大前提なんですけど、いい意味で“肩の力を抜いて、思いのままに楽しもう“って気持ちのほうが大きいです。だから、フィーチャリングさせてもらっているときの方が、羽が伸びている感じがするかな? 逆に自分が招くとなると、やっぱり最初にソロでレゲエをしっかり構築していくんだと決めたところに、毎回毎回立ち返ってしまうというか…。”この曲は自分の中の枠に収まった作品になっているのか?”とか、“これをジャマイカに持って行って現地の知り合いに聴いてもらったときに、ちゃんとレゲエとして解釈してもらえるのか?”とか。そういう基準が自分の中にあるので、逆に視野が狭まってしまうところもあるんです」
――そういう意味では、今回の「君となら・・・」は、RYOJIさんがリードすることで、また違うタイプのフィーチャリングができたということになるんでしょうか?
「招いているのに招かれた、みたいたいな感覚です。自分にない自分を見られたりもしますし、“やってみたら意外と俺じゃん”ってなったりもするので、“今後、こういうフローもアリだな“って、今回やってみて思いました」
――15周年イヤーの今年は「HEAD SHOT feat. SKY-HI」、「君となら・・・feat. RYOJI」をリリースしましたが、メジャーデビュー日が2009年7月であることを考えると、もう少し周年イヤーが続きます。今後の活動の予定、目標などがありましたら教えてください。
「まずは15周年に向けて作った作品をまとめるというのも、この期間を締め括る大きな役割だと思っているので、やっぱりアルバムをリリースするのが目標ですね。「HEAD SHOT」と「君となら・・・」も収録されているって、とっ散らかった1枚になりそうですけど(笑)。アルバムをリリースしたら、ライブ。リリースライブなのか、ツアーなのかは未定ですけど、そのときには「君となら・・・」をRYOJIくんと歌いたいですね」
――HAN-KUNさんとRYOJIさんが同じステージで共作した楽曲と歌うって、ファンの喜びもひとしおですよね。
「実は、これまでもグループ同士で会うと、“湘南乃風とケツメイシでいつか一緒にライブしたいね”とか、“一緒に曲作りたいね”とか、俺とRYOJIくんに限らず、それぞれのメンバーがそれぞれに話したりもしていたんですよ。でも、なかなか実現しなかったのは、距離が近いが故というか…。“いつでも出来る”じゃないですけど、“そのうちタイミングが来るでしょ”って、お互いが思ってたのかもしれないですし。だから、「君となら・・・」をきっかけに、グループ同士でも出来たらいいなと思ったりもしています」
――タイミングっていうのは、きっと年齢的なものも関係しているんじゃないかと想像します。
「そうですね。若い頃は、それこそ自分が守らなきゃいけないものとかに囚われがちというか…。良く言えば、ブレない芯を持って活動している。そのことが自分の誇りにもなっていたんですけど、時を経て、いろんなことに挑戦したり、いろんな人の話を聞いたりするうちに、一緒に作品を作ることでたくさんの学びがあることも知れましたし、それをやっていきたいと強く思えたので。今後はどんどんいろんな人とやっていきたいですね。先ほどもお伝えした通り、俺、フィーチャリングだと羽が生えるんで(笑)」
――(笑)。今後は招かれたときだけでなく、自分のフィールドでも羽が生える感じに?
「そういう感じになっていけるかな?って」
――新しいスタイルが生み出されるのを楽しみにしています。
「もう、そのときはターバンも外して…」
――ええっ!?
「ターバンを外して相手にお渡しするか、もしくは昭和のアイドルじゃないですけど、ステージにターバンとマイクを置いて、“普通の(本名の)半澤に戻ります”とか言って(笑)」
――HAN-KUNさんのターバンを外した姿にはとても興味がありますが(笑)、ステージにターバンとマイクを置くのは引退になっちゃうのでやめてください!
「あはは、くだらないこと言っちゃった(笑)。でも、見出しはターバンのくだりにしといてください(笑)」
(おわり)
取材・文/片貝久美子
写真/野﨑 慧嗣