──ニューアルバム『大人になんてなりたくない』のオープニングナンバー「2025」で<髪は黒く染められ 黒いネイルも剥がされ>とラップしていますが、金髪に黒いマニキュアに戻っていますね。
「はい。非行に走っているわけじゃないんですけど(笑)、やっぱり落ち着くということでハイトーンに戻りました。これは高校を卒業した反発かもしれないですね」
──(笑)高校生活最後の1年はどうでしたか。
「よく言えば、あっという間だったんですけど、現実的には割と長く感じたかもしれないです。やってることは毎年、変わっていなくて…曲を作って、スタジオにこもって、ライブをして。年間で見ると決まってはいるんですけど、その中で、制作に時間がかかる曲もあれば、大変なリハーサルがあって本番に挑んだライブもあります。3年間で見ると、かなりいろんなことがありましたが、学生生活だけで見ると本当にあっという間だった気がします」
──何か心境の変化はありましたか?
「edhiii boiになったのが高校1年生とほぼ同時期なので、高校の3年間で、自分の人生がバッと変わって。そう思うと、3年間でいろいろあったと思います。だから、心境の変化ではないですけど、3年前にテレビで見ていた人や自分が好きだったアーティストとお話ができるようになったり、プライベートでご飯に行く仲になったり。憧れていたプロデューサーとスタジオでセッションが出来るようになったりとか、環境の変化は大きいですね」
──例えば?
「友達関係で言うと、オカモトレイジくんと2人でご飯に行ったりしています。あと、新しい学校のリーダーズのKANONとは同じ誕生日という会話から仲良くなって、プライベートでご飯に行くようになったのも嬉しかったです。最初の1年を振り返ると、日髙さんの夏フェスのステージで、RUIとTAIKIと3人で「14th Syndrome」を披露したときは、初めての夏フェスだったのでテンション上がりまくりでした。僕、神戸に住んでいたので、夏フェスに行くことすらなかったですし、バックステージには普通にワンオクのTakaさんがいて、日髙さんが紹介してくれたりして くださったり…。“えーっ?”って驚いていたのが、3年経った今、フェスに行くと、出演者の半分以上の方が仲良くしてくれている先輩アーティストになっていますし、向こうから“おはよう”って言ってくれたり、“ステージ一緒に見に行こうよ”と誘ってくれるようになっていて。そういう意味では3年間で環境や交友関係だけじゃなく、視野も一気に広がりました。それこそ、今回、Chaki ZuluさんやKMさんとも一緒にやれたので、自分の音楽の幅も広がるくらいのインプットが増えましたね」
──高校生活ラストアルバム『大人になんてなりたくない』をご自身としてはどんなアルバムにしたいと考えていましたか?
「構想段階で考えていたものとは180度違ったアルバムが出来たんですけど、最初はハイパーポップやロックメインで考えていました。パンクバンドみたいなこと1人でやってやろうと思ったんですけど、作っていくうちに、“2015年から2017年にかけて聴いていた曲を今やったら面白いんじゃないかな?”と思って。僕はまさしくBIGBANGの世代なんですけど、2019年くらいにBTSが出てきて …そこで、K-POPの市場がちょっと変わった空気感が出てきて。僕はBIGBANG好きだったので、ちょっと残念な気持ちになっちゃって。もっと重いベースの乗ったテクノやEDMっぽいK-POPが好きだったので、これを今のプロデューサーとやったら絶対にいい化学反応が起きると思いました。「おともだち」のプロデュースでお世話になっている(ネオンジェネシス)せきちゃんにスタジオに来てもらって、BIGBANGやG-DRAGONのライブ映像を2時間ぐらい見てもらって…」
──あはははは。
「“これ!これ!”ってお願いしました。その日は“わかりました。でも、今日はちょっと今ここで作るのは無理っす。宿題にさせてください”って言われました。後日、送ってもらったトラックがとても良かったので、小一時間くらいでバースを書きました。“いいじゃん! わけわかんなくておもろいよ”って言われて作ったのが「忙しいんだわ」です。せきちゃんと一緒に作ったもう1曲の「天才ギャング」は、サビだけ元々<関西ギャング>だったんですけど、もう東京に出てきていたので、<天才>に変更しました」
──「忙しいんだわ」、「天才ギャング」はまさにEDM調のハードなテクノになっていますね。
──Chakiさんとはリード曲「大人になんてなりたくない」を制作しています。
「最初はビクビクしながらスタジオに行ったのを覚えているんですけど、会ってみると本当に面白い方で、ノリノリでやってくださいました。終始、楽しい話が出来ましたし、DTMやミックスの勉強もさせてもらいました」
──Chakiさんといえば、YENTOWNをはじめとしたヒップホップ〜R&Bのイメージですがロックナンバーになっていますよね。
「僕がChakiさんの存在を知ったのは、kZmくんの「TEENAGE VIBE feat. Tohji」だったんです。“いつか一緒に曲を作りたい”と思っていて、そこからいろいろと調べると、“この曲もこの曲もChakiさんだったんだ”という曲がたくさんあって。だから、僕もまさかこんなロック調のサウンドでやるとは思っていなかったんですけど、アルバム制作が進むにつれて、“やべえ、ロック好きなのにロックソング作ってねーわ”って気づいて。と、同時に、Chakiさんはギターができる方なので、“お互いにやっていて楽しいセッションにしたい”とは思っていたので、“何か一緒に作りたい”って意味で、一番合ったのがこのタイプの曲でした」
──セッションしながら作ったんですね。
「そうです。プロデューサーと作るときは、事前にデモをもらったりすることが多いんですけど、今回はセッションの段階からChakiさんと一緒に出来ました。Chakiさん、同じギターリフを1時間くらいずっと弾いていたりするんです。“こんなに時間をかけるんだ”、“ここまでこだわれるんだ”って思いました。僕からすると、“全く何が違うかわかんないっす”ってくらい、音作りを追求していて…。“これからの自分にも活かさないと“と思うようなこだわりが詰まったセッションでした」
──1曲目の「2025」で僕はバンドのボーカルじゃなくて、ラッパーだって言いながら、次の曲、「大人になんかなりたくない」では…
「ロックサウンドを作りたいっていう(笑)。わけわかんないですよね」
──でも、edhiii boiのルーツの1つですからね。リリックも小学校、中学校の話ですし。
「Chakiさんとどんなテーマにするって話をしたときに、“どんな人間ですか?”って聞かれて。ちゃんとお話しするのが初めてだったんですけど、“僕、めっちゃカッコつけなんですよ。いつまでもカッコつけてるから、やめたいんですよね”って言ったんです。そのときに、“いや、僕らみたいなおっさんの年で言うと痛いけど、edhiiiの歳ならまだいけるよ”って言われました。それで<今だけはかっこつけて>もいいかもと思ったので、<大人にはなりたくない>って歌詞を書きました」
──少し細かく聞いてもいいですか? <多田ちゃん>というのは?
「中学校のときにいた、ダンスをやっていた1つ上の先輩です。ダンスの大会で優勝とかしているっぽいので、そのうちイベントで会いそうで怖いんですけど(笑)、僕からしたらちょっと怖い先輩でした。やんちゃで、終業式とか、集まったときに悪目立ちしているような先輩なんですけど、本当に校内放送で呼び出されるのは<大体 僕か多田ちゃんだった>というのをのそのまま書いていて。<バスケ部の試合 オウンゴールで退部>もそう。部長を決めるときに“ワンちゃんやってみたいかも”って言ったら、ノリで“いいじゃん!”ってみんなに投票されちゃって…。悪ノリでバスケ部の部長になったものの、初めての試合で10回くらいオウンゴールを決めちゃって…」
──そんなことあります?
「いや〜、やっていると目が酔っちゃうんです。だってまだ中学1年生ですよ。1年生で先輩を引き連れて試合に出たと思ったら、オウンゴールを10回決める。で、“明日から来なくていいよ”って言われて。たった2週間くらいで退部させられました。<絶対言わねぇ6文字「ごめんなさい」よりも言い訳>は僕の友達のことです。とても好きな友達ですけど、何をやっても絶対に“ごめんなさい”って言わないんですよ。意地でも謝らない奴がいたので、むかつくから歌詞に入れました(笑)。そいつに、“お前のことを歌詞に入れた”って言ったら、めっちゃ喜んでましたけど」
──(笑)<100回目の告白>もしていますね。
「小学校の時に好きだった女の子です。忘れもしません! 本当に好きだったんですよ。その子をずっと追いかけていて、卒業式前に100回目の告白をしました。小学校6年生にして、最後の最後で<彼氏出来た>って言われて。もう僕は<「Heartbreaker」>しちゃったので、それを入れました」
──<「ぱっと振られた」>と<「Heartbreaker」>の韻がいいですよね。この曲に出てくる<大人には なりたくない>がアルバムタイトルになっています。
「Chakiさんとの曲ができた段階で、“もうアルバムタイトルはこれだ”ってなりましたし、“大人になんてなりたくない”というのは、僕にしか言えないワードだと思ったので」
──前作『満身創痍』にも「青い春」や「スーパーヒーロー」「StAR」などで<大人>というワードは出てきていましたが、もう少し漠然としていましたよね。“大人になったらどうなるのかな?”っていう想像の方が強かったイメージだったんですけど、18歳になった今はどう考えていますか?
「間違いなく、僕も嫌でも大人にはなっていくものだと思っているんですけど、大人でもしょうもないことで捕まっちゃう人はいるし、消えていく人もたくさん見てきました。だから、“子供/大人”っていうのはあまり関係なくて、単純に“大人”っていう枠にはまりたくないというだけですね。今、“子供か?”と言われたらそうではないですし、“反抗期か?”って言われたら別に反抗期でもないですし。“どの枠にもハマらずに、変わらずにずっと今の自分でいたい“っていう気持ちが前に出て、こういうキーワードになったんだと思います。ただ、『満身創意』の頃は、周りの人と自分を比べてしまうことが多かったんですけど、今はもう完全にedhiii boiという人格を自分が飲み込んでいるので。だから、”誰にも染まらなくていい“と思いましたし、”誰かになりたい“とかもなくなりました。インプットはするけど、アウトプットはあくまでも自分。edhiii boiという人格を出すっていうことを意識していて、”自分の世界観に落とし込んでアウトプットしたい”って気持ちが強くなっています」
──KMさんと作った「マジだりぃ」には<大人に憧れ 背伸びし/まだ子供の僕は大人に怒られる>というリリックがあります。
「この曲、小学校5年生から高校3年生までの自分のストーリーを書いた曲なんですけど、僕が小学校の頃から経験してきたことと、今、経験していることって、あまり変わっていないんですよ。結局はずっと同じような環境にいるというか…いわゆる先輩に囲まれて過ごしてきたことっていうのは変わらなくて。そういう意味では、僕だけじゃなく、みんなも一緒だと思うんです。中学校を卒業したら高校という新しい環境になったり、新しいバイトに入ってバイト先の先輩ができたり、大学に行って友達が変わったり。結局、対象となる人が違うだけで、出会って、別れるという経験は同じで、繰り返していると思うんです。例えば“病む”とか、そういうネガティブな感情も子供の頃と対象が違うだけで、僕はずっと変わらずに病んでいたり、寂しくなっていたりしていて。昔は友達が出来なくて悲しかったり、母親が仕事で夜遅くて家に帰って来ない時間のが寂しかったりしていたのが、今はライブで大勢の人の前で立っていたけど、ライブが終わって家に帰ると、静かな部屋で1人ぼっちになる。対象が変わっただけで、結局、“寂しい”っていう根っこの部分は変わらなくて。そういう意味でも、自分も、みんなも、単純なことで悩んでいるんじゃないかな?と思って。悩みのサイズは違いますけど、ちょっとした音楽とか、好きな漫画とかを読むだけで、案外すっきりする人も多いじゃないですか」
──そうですね。気持ちを切り替えるというか、思考をちょっと離すというか…。
「好きなアニメを見たら、“まぁいっか”ってなったとか、友達とお茶して話をしていたら忘れちゃったとか、寝たら忘れられたとか…。悩みや寂しさをしっかりと取り除くことは出来なくても、軽くするのは僕にでも出来るかも…と思って。だから、自分とみんなに向けての曲を作りたいと思って作った曲です。“あなたを救いたい”ではなくて、自分が体験してきたことを書いて、そこから共感に繋がって、気持ちが楽になるんじゃないかと思って作った曲です。全部、自分が体験したことなので」
──同じ気持ちの人がいるって共感するだけで気持ちが軽くなることがありますからね。それでいて、この曲は最後に、さっきも言っていた<僕は僕でいいんじゃない?>という今にたどりついています。まさにこれまでを振り返っている曲になっていますね。
「そうですね。第1章の学生生活が終わったので、第2章に行く前に自分の感情を乗せておかないと忘れちゃうと思ったので」
──「夏休み」には小5のSchool boiが登場しています。
「これに関しては早くやりたくてしょうがなかったんです。“いつ回収しよう?”ってくらいの気持ちだったんですけど、日髙さんが“やったらいいんじゃない、今”って言ってくれて。“じゃあ、ビートをお願いします!”って言ったら、ノリノリで作ってくれました。小5は去年でいうと7年前。18歳の自分からしたら、7年前って、記憶的にはとても前なので“やっと回収できたな”っていう」
──最後の<「今日まで音楽続けて良かった。」>がとてもぐっとくるんですよね。泣けてきます…。
「いろんな記憶がフラッシュバックして戻ってくる感じがいいですよね」
──もし自分が音楽に出会ってなかったらどうなっていたか?を振り返っていて…。
「僕にラップを教えてくれたのは神戸のNINJA MOBってクルーでラッパーのSNEEEZEさんなんです。だから、この曲のラップスタイルは僕の師匠をイメージして作っています。SNEEEZEさんにラップを教えてもらいましたし、小さい頃の自分と一緒に歌詞を考えてもらったので、“この人と近いスタイルで歌ってみたい”と思って、今までの曲にはないフロウをしています。<スキルも過ぎるしspill/こぼれ落ちる 散る桜が今舞いchill>とか、普段はここまで韻を踏まないんですけど、SNEEEZEさんの曲をイメージして、“ここは韻を踏んだら気持ちいいな”と思って踏んだり、ちょっと後ろでとってみたりしています」
──School boiのリリックはどうですか?
「本当に面白いのが出来たと思います。だって、小学生が書いた歌詞じゃないですもん、絶対。でも、このバースも賞味期限はあって、あと3年以内で僕が言えなくなるんですよ。今だって、<プールに花火 たまに夜遊び/昼間は仲間と外でセミ捕り>とか、ヤバいやつじゃないですか(笑)。ここに関してはもう絶対に当時の僕しか言えないような歌詞なので」
──やがて使えなくなる言葉も意識していましたか? 例えば、放課後とか、教室とか。
「そうですね。「大人になんてなりたくない」の<ほうきでギター 放課後に教室で掻き鳴らしてた/一人で帰宅してるとこ誰にも見せたくなかった>は今しか言えないと思ったので入れましたし…」
──「爆走」はNovel Coreが<こちら、通勤ラッシュ>と電車に乗り込む一方で、edhiii boiは<遅刻ギリで学校の到着>と歌っていて。
「うんうん。この曲はライブを想像しながら作っていたのでとても楽しかったです。<Super HeroとRock Star>は僕とNovel Core。“僕はスーパーヒーローで彼はロックスター“っていうのを入れたかったので入れたりして。この曲は作りながら”いい曲、出来たな!“って思っていましたし、お母さんに作った曲は、Novel Core とAile The Shota、SKY-HIがメロディーやプリフックを一緒に考えてくれたりして。それも楽しかったです」
──そう、「ラブレター」は母への感謝を綴った曲になっています。
「ディレクターに“最後の締めくくりにママソングを作ったらいいんじゃない?”って言われて。この曲は時間がかかりました。思いつくんですけど、全然まとまらなくて…。もう、一旦、全部出してみようと思って、紙にバーって書いてみました。ShotaくんやCoreくんに、“これ、自分が書くんだったらどこを拾う?”って相談をして、引き算してもらって出来た歌詞です。結果的にはいい曲が出来ました。母親にタクシーで聴かせたら号泣していたので」
──親孝行ですね。
「やっと1つくらいお返しが出来たかな?って気がします。ただ、客観的には感動できる曲になったと思いますけど、本人的にライブで歌えるかと言うと、かなり小恥ずかしい…」
──(笑)ライブでの初披露を楽しみにしています。
──アルバムが完成して、ご自身ではどんな感想を抱きましたか?
「“やっと肩の力が抜けたな…“っていうのが一番ですけど、家族にも友達にも仲間にも”頑張ったな!“って言ってもらえるようなアルバムが出来たと思います。無機質というか、何にも染まってないSHUとデュエットした「花火」は自分にとっても大事な曲になりましたし、失恋ソングから失恋ソングになる「全部僕のせい」もあって。で、「ラブレター」はラブソングかと思ったら、ママソングだったり、最後は「天才ギャング」で締めていて。アルバムを通して聴いたときに、ジェットコースター乗っているような気分になるアルバムだと思うんですけど、本当に”いろんな人に聴いてほしい”っていう想いがあります。あと、edhiii boiを知らない人が一番最初に聴く曲がどうか「天才ギャング」じゃないことだけを祈っています(笑)」
──あはははは。“こいつヤバいやつだ”で終わったら悲しいですからね。せめてその後に「マジだりぃ」は聴いて欲しいと願っていますが、これから先のことはどう考えていますか?
「“10代のうちに武道館のステージに立ちたい“っていうのはずっと言い続けます。その前に自分がどれだけ出来るかが大事だと思っていて。夏フェスに出たり、曲をたくさん出したり、ライブをたくさんやったり。そういう、コツコツとした積み重ねが大事だと思いますし、じゃないと、みんなもついてきてくれないと思うんです。それに、みんなから愛されるような存在になるために、成長していかないといけないですし。高校も無事卒業できたので、母親と家族と、いろんな人に”ありがとう“っていう気持ちを持ちながら、今年はedhiii boiって名前をもっと広められるように頑張っていきたいですね」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ
写真/中村功

RELEASE INFROMATION

edhiii boi『大人になんてなりたくない』初回生産限定盤(CD+Blu-ray)
2025年4月9日(水)発売
XNBR-00001/B/4,200円(税込)
LIVE INFORMATION

edhiii boi 1st TOUR 大人になんてなりたくない
5月31日(土) 大阪 バナナホール
6月1日(日) 名古屋 ell FITS.ALL
6月7日(土) 東京 Spotfy O-EAST