──cherieの結成は2021年。まずは結成の経緯を教えてください。
「僕は小さい頃から音楽が好きで、“バンドをやりたい”という気持ちしかありませんでした。実家は岐阜なんですが、バンドをやるために一人で名古屋に来て。別にツテとかがあるわけでもなかったので、本当にゼロからのスタートでした。掲示板で呼びかけてドラムの柊平(しゅうへい)と出会って。ベースは…僕は楽器屋でバイトしていたんですけど、試奏しにした人が“ベース顔”だったんです。と思ったら、ギターを試奏したんですけど、話しかけたら“ベースをやってる”と言うので、インスタのアカウント見せて“あとで連絡して”って声をかけたのがタクミでした。ギターはベースの友達のりゅうたです」
──ベースのタクミさんは試奏しているところで声をかけたとのことですが、試奏しているギターが上手だったとかそういうことですか?
「いや、全然うまくなかったです(笑)。顔がカッコよかったんですよ。顔がカッコいいベーシストってだいたいうまいし、顔がカッコいいというのは、自分の中のベーシスト像に当てはまっていたんです。だから“いけるっしょ!”って思って声をかけました。実際にうまいかは全然わかんなかったです」
──おざきさんの中でのバンド像やメンバー像みたいなものがしっかりあったんですね。
──そうやって集まったcherieですが、全曲の作詞作曲はおざきさんが手がけています。“こういう曲を作りたい”という話し合いをメンバー間でしているのでしょうか?
「いや、僕が作りたいものを作っています」
──ということは、いろいろな経緯で集まっているメンバーの皆さんですが、おざきさんの曲を気に入っているということですよね?
「そうだと思います。直接は言われないのでわかんないですけど、一緒にやってきているっていうことはそういうことなのかな?って。それこそインタビューとかで“おざきのこういう歌詞が〜”とか言われて“そうなんだ”って思うくらいです。でもこういう関係性だからこそ“こいつらにいい曲作るわ”っていう気持ちがひとつのモチベーションにもなっているので、このままでいいかなと思っています」
──友達同士が集まったわけじゃないぶん、純粋に音楽で繋がっているんですね。
「そうですね。みんな純粋に音楽が好きです」
──おざきさんは小さい頃から“バンドやりたい”の一心だったということで、おざきさんの音楽遍歴を教えてください。
「幼少期はDef Techが好きでした。自分では覚えていないんですけど、Def Techを聴きながらめっちゃ踊っていたらしく、周りからは“将来、ダンサーになるんじゃないか?”って言われていたらしいです。6歳上のお姉ちゃんがいるんですけど、お姉ちゃんが音楽好きで。車の中で、お姉ちゃんの選曲でクリープハイプとかマカロニえんぴつ、ONE OK ROCKなどを聴いていました」
──おざきさんが自発的に音楽を選んで聴くようになったのはいつ頃でしたか?
「お姉ちゃんが18歳のときに上京して…僕が小6くらいかな。だから家で流れる音楽がなくなっちゃったんです。最初はお姉ちゃんが聴いていた音楽を僕も聴いていたんですけど、そうするうちにお姉ちゃんが好きなアルバムの中から、自分の好きな曲が見つかってくるようになって。“お姉ちゃんがこの曲好きだったから、この曲めっちゃ聴いてたけど、俺はこっちの曲のほうが好きだわ”って。そこからどんどん聴く音楽が広がっていきました。高校生のときはヒップホップとかも聴いていました。でも久しぶりにお姉ちゃんと会うと、最近好きな曲が似ていたりして…不思議ですよね」
──バンドをやりたいと思ったきっかけは何だったのでしょう?
「ずっとなんとなく、“バンドをやるんだろうな”っていうことは思っていたんですが、はっきりと“バンドをやろう!”と思ったのは、中学生2年生くらいのときです。MY FIRST STORYの武道館のライブを見に行ったんですけど、それがカッコ良すぎて。初めて“圧倒される”という感覚になりました。その時期、実はテスト期間だったんですけど、お父さんに頼み込んで行かせてもらったんです。テストよりライブを選んで良かったなと思いました。“これはすごいものを手に入れたぞ!”と思いました。ずっと好きなものがなかったぶん“俺、音楽だったらこういう気持ちになれるんだ”って。それはすごく覚えています」
──ここからは初の全国流通盤EP『誰よりも幸せになれ、報われろアタシ』についてお伺いします。初の全国流通盤ですが、全体像として“こういうEPにしたい”といった構想はあったのでしょうか?
「できたものをEPにしたという感じなので、作る上での統一性はないんですけど、6曲並べてみたら意外と統一性があるなと思いました。このEPに限ったことではないんですけど、曲を作るうえで、退屈させないようなものにしたいなと思っていて。今って、曲を聴いている途中でもボタン一つで飛ばせちゃうし、サーキットイベントとかでも途中で移動できちゃうじゃないですか。だからそうさせないように、インパクトのあるフックを作ったり、AメロBメロサビですぐに展開させたり、次々と変わっていくような曲にしようということは考えています」
──それは最初から意識していたことなんですか?
「初めはなんとなくでしたけど、やっているうちに、どんどん意識していくようになりました。知識がつけばつくほどいろんなことをしたくなるんですけど、自分がお客さんだったらどう思うんだろう?って考えたんです。邦ロックって、聴いている人になるべく近いものであるべきだと思うんですけど、聴く人の立場になって“ほかには?”と考えたときに、のっぺりしていない曲がいいなって思っていて」
──自分がやりたいこと、歌いたいことよりも、“聴いてもらうこと”を優先して考えているんですね。
「そうですね。でも最近は“俺はこういう人だ!”っていうのも出したいなと思っています。さっきも言ったように邦ロックって、聴いている人になるべく近いものであるべきだと思っているんですけど、近いがゆえに舐められやすいとも感じていて。だから“こういう自分もいるんだぞ”ということや、自分の意志もしっかり発信していかなきゃいけないんだろうなって思っています。これまでは恋愛の曲が多かったんですけど、今回でいうと「繰言」は自分のことを歌っている曲で、結構気に入っています」
──別に、恋愛の曲を歌い続けていきたいということではないんですね。
「はい。好きなバンドを聴いていたらこうなっただけなんです。特に“こういうことを歌いたい”というものがあるわけではなくて、日々思ったことをメモして、それをもとに歌詞にしていく感じなので、出来上がった歌詞を見て“こんなこと思ってたんだ”と気づいてスッキリして次に進めることがよくあります」
──まさに「繰言」はこれまでのcherieのイメージとは異なる楽曲ですが、この曲ができた背景を教えてください。
「アルバイトをしていたとき、上司によく怒られてイライラすることも多かったんですよ。でもよくよく考えたら、その上司も散々怒られてきて、社会でいろいろ揉まれて人形みたいになっちゃったんだろうなと思って。そのときの気持ちを、皮肉を込めて歌っています。過去作に「レコード」という曲があるんですが、そこでは“僕がいるよ”という意味を込めて“レコードを回そう”って歌っていたんですけど、この曲では<壊れかけたレコードプレイヤー>という表現にしていて…“綺麗事なんてないよ”っていうことを言いたかったんです。音楽は大事だけど、音楽を聴いて進むのは結局自分だから」
──確かにそうですね。
「普段は30分以内のライブが多いんですけど、35分のライブをやることになったときに、曲がなくて急いで作ったのがこの曲なんです。だからこそ自分の素直な気持ちが出たのかな?って思います。歌うたびにどんどん進化している曲です」
──曲順が前後してしまうのですが「恋はジレンマ」も面白い1曲ですよね。
「ありがとうございます。コロナ禍にアニメの『ONE PIECE』を見ていたんですが、サンジが出した料理に「恋はジレンマ」というのがあって。そのとき“ジレンマ”という言葉の意味を知らなかったんですけど、その響きがなんかいいなと思って、「恋はジレンマ」という曲を作り始めました。“ジレンマ”という単語の意味を調べてみたら“サンジ、めっちゃいいこと言ってるな”と気付きました(笑)。そこから<最低な君に恋して>のところが出てきて、ぐるぐるしている女の子の曲にしていこうと思って作っていきました」
──展開の多いサウンドも印象的ですが、サウンド面ではどのようなことを考えていたのでしょうか?
「ポップにしたかったんです。なんとなく“ポップでピンク”みたいなイメージがあったので、ポップに、わかりやすく展開していく曲にしました」
──サウンド面で、これまでのcherieの楽曲とは雰囲気が異なりますが、手応えとしてはいかがですか?
「今までのcherieの曲とは全然違いますけど、イメージした通りの曲ができました。ポップだし、中毒性もあって…個人的にめっちゃ好きです」
──ラストの「幸せと災難」は「変わらないで」のアンサーソングなのかなと推測しました。
「そうですね。アンサーソングというか続編です。「変わらないで」のときは、その人が変わっていくことに執着して恋が終わったんですけど、本当はそうじゃなくて、ただ好きでいてほしかっただけだったんだということに、あとになってから気づいて。その心境の変化を書きました。めちゃくちゃ重たいバラード、泣けるくらいのバラードを作りたいと思っていたので、ちょうどその心境とも当てはまって」
──先ほど、歌詞にしてから“こう思ってたんだ”と気づくことと話していましたが、いざその心境を、バラードとして書き上げてみて、何を感じましたか?
「“重すぎる! ヤバ元彼すぎる!”(笑)。でも重たくしたいと思って作ったし、メロディも好きなので、歌っていて入り込める曲になりました。映画のエンドロールみたいなものをイメージして作ったんです。書き上げて、もうその人を歌う曲はこれで終わりでいいかなとも思いました。うまくまとめられました」
──ここまで新曲を中心にお話を伺ってきましたが、おざきさんの中で、特に気に入っているフレーズや曲があれば教えてください。
「EPのタイトルにもなっている、「貴方依存症」の<誰よりも幸せになれ、報われろアタシ>という一文は、すごくいい言葉だと思います。さっき、“このEPは作る前は統一性を持っていたわけじゃない”と言いましたけど、並べてみると、“幸せ”っていう言葉がたくさん出てくることに気づいて。“幸せ”という言葉に込められた意味や質感は曲によって違いますけど、“幸せ”っていう言葉が共通点になっていました。EPのタイトルを『誰よりも幸せになれ、報われろアタシ』にしたのも、単純に気に入っていたからだったんですけど、あとから考えると、このEPをまとめるタイトルとしてうまくまとめられている気がしています。この6曲でよかったなと」
──おざきさんの歌声はフラットで、恋愛の曲を歌っていても必要以上にどんよりせずに聴けると感じました。ご自身としてはボーカルとして意識していることはありますか?
「子供の頃から歌うことが大好きで、本当に毎日お風呂で1時間くらい歌っていたんです。だからいつもお風呂は最後に入っていました。それくらい歌うことが好きだったんですけど、だからこそ、変声期が来たときに絶望して。初めて自分の出来ることを見つけたのに、なくなっちゃったらどうしよう…って。それまで“歌うまいね”とか言われていたのに歌えなくなるの、恥ずかしいし嫌だなと思いました。そこから、いろんな人の歌のモノマネをして、なんとか高い音も出そうとした結果が、今の声なんです。だから何かを意識したとかいうことではなく、いろんなモノマネをしていたらこうなったという感じです」
──そんな経験を経て、cherieのボーカルとしてのご自身を見つけたわけですが、今ご自身のボーカルの個性はどのように感じていますか?
「個性で言うと、地声と歌うときのギャップかな? でも、うーん…自分の声が全然好きじゃないんですよね」
──話すときの地声が?
「いや、歌声も。好きじゃないままバンドを組んで今に至るので、自分の歌声を聴いてもなんか慣れないんです。もちろん唯一無二だとは思っているし、耳に残るなと思っていますけど…どこが好きとかはなくって。高い声が出せるようになってよかったなっていうくらい。ただ、“歌うことが好きだから歌っている”ってのは変わらないので、これからも歌い続けたいとは思っています」
──では最後に、バンドとしてのこの先の展望や目標を教えてください。
「音楽として評価してもらえるように、誰かのためじゃなく、自分の歌をこれからも歌っていきたいし、曲も声も唯一無二だとは思っているので、それをどんどん確立させて、不意に流れてきても飛ばされないような、すぐに心を掴めるようなバンドになりたいです。自分が好きなバンドのボーカルって、華があったり、逆に負のオーラをまとっていたりと独特の魅力を放っているんです。だから自分もそういうボーカリストに近づいて、cherieとしての個性を放っていけるようになりたいと思っています」
(おわり)
取材・文/小林千絵
写真/野﨑 慧嗣
RELEASE INFROMATION
LIVE INFORMATION
ジャックしてやるおまえの鼓膜ツアー2024
6月15日(土) 東京 下北沢MOSAiC w/ UtaKata / Ochunism
6月22日(土) 大阪 心斎橋Pangea w/ からあげ弁当 / 猫背のネイビーセゾン
6月29日(土) 愛知 名古屋新栄RAD SEVEN w/ インナージャーニー / ウマシカて