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2021.08.17

長澤知之『LIVING PRAISE』インタビュー――誰かに寄り添えるようになれたら

長澤知之の『LIVING PRAISE』は3rdアルバムにして実に8年ぶり(!)に世に放たれる最新作だ。自身の心象風景を鮮やかに切り取った楽曲のかずかずが、“人生賛歌”なるタイトルに違わぬ明朗な音像に仕上がっている。ゆっくりと、緻密な工程を経て作り上げられた本作に潜まされた思いとは?

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――今作『LIVING PRAISE』は前作『黄金の在処』から約8年ぶりのフルアルバムとなります。その間もミニアルバムをリリースするなど精力的な活動をされてきた長澤さんですが、今作の制作はいつ頃から始められたんですか?

「2019年の年末頃から、出来上がったら出そうかみたいな感じで、緩く作っていきました(笑)。2020年の前半からこういう状況になって少し制作が止まる時期もありましたが、それでも家でできることは、曲やデモテープを作ることだったり、打ち込みの土台を作ることなどいろいろあるので。そのうちに配信していく話も出たりして、徐々にギアを上げていった感じでした」

――昨年から続く状況が、ご自身の音楽作りに影響することもあったのでは?

「そうですね。スタジオでミュージシャンの方々と一緒に制作していくのはちょっと減りましたが、自宅での作業が増えたぶん、打ち込みの技術がちょっと向上するなどポジティブな面もありました。こういう機会を生かして、今しか作れないものができたと思います」

――タイトルとなっている『LIVING PRAISE』は、“人生賛美、人生讃歌”という意味があるとのこと。それはアルバムのコンセプトにも繋がってくるかと思いますが、当初からそう決めて制作されていたんですか?

「こういうふうになるっていう想像はしておらず、コンセプトはむしろいくつかパターンがあったんです。もちろんコンセプトアルバム的なものにしようかという案もあったし、あるいは音楽的なモードやサウンド面の効果を意識したもの、または一つのテーマに沿って物語が進んでいくようなものにするとか。少しずつ曲が揃っていくうちに、そうやって考えていた中の一つに入りそうだなと思って、後半はそれに寄せていくようにしました」

――その結果が“人生賛美、人生讃歌”だった、と。

「もっとわかりやすく言うと、肯定的なアルバムを作りたかったんですよね。僕、ザ・ビートルズのアルバムの中で“ホワイト・アルバム”と言われる『ザ・ビートルズ』が大好きなんですけど、ホワイト・アルバムのようなアルバムを作りたいと常々思っていて。それはなぜかと言うと、ホワイト・アルバムはビートルズのメンバーそれぞれが曲を書いていて、まとまりに欠けるんです。僕もよくまとまりがないアルバムを作っちゃうんですけど、それっていうのは、自分がその日考えていたことや感情が翌日には変わっていたりするから。肯定的だった気持ちが、翌日には否定的な気持ちになったりもする。そういった自分のアップダウンを最終的にどう認めるかっていうところに今、自分の価値観をフォーカスしているんです。だから、イメージとしては最初と最後は素敵でも、その中はクソみたいなものだったり、ちょっとブルーになっていたり、怒りに支配されていたり……人間的なアルバムを作りたいと思っていました。見方によっては辻褄が合ってないじゃないかと思われることもあるかもしれないけど、まあ、人間なんてそういうものじゃない?っていうものを表す作品にしたかったんですよね」

――今お話ししてくださったことに当てはめると、今作での1曲目「羊雲」、そして最後を締めくくる「三月の風」の存在も重要なものになってきますね。

「1曲目のタイトルでもある「羊雲」は、この雲が出るときって雨が降る前兆とも言われていて。一方「三月の風」のほうは、曇り空に向かって“いつまで涙をこらえているんだ”と話し掛ける歌詞になっていて。そういうネガティブなことも知りながら、それも肯定的なものにしたかったんですよね。というか、そうしなきゃ生きていけないなっていう。嫌な気持ちでずっといたくないですから」

――そういう想いは誰もが持っていると思いますが、長澤さんの中ではとりわけそういった気持ちが強かったりするのでしょうか?

「自分は割とネガティブなほうに心が持っていかれる人間ですが、家族がクリスチャンだったのものですから、そこからどういうふうに考え方を救いに持っていくかっていうのは、昔から教会とかで話を聞いていて。そこに対して、まだ懐疑的な自分もいたりはするんですけど……。ただ、それも含めてどう肯定するかはずっと考えていますね」

――楽曲を聴かせていただいて印象的だったのが、さまざまな楽曲で“海”や“空”あるいは“風”といった自然を表す言葉が登場することでした。長澤さんがイメージしたものと、私たちリスナーが楽曲を聴いてイメージするそれは必ずしも一致するわけではないかもしれませんが、その存在を通して歌詞で描かれる内容により親近感が湧くと言いますか。そうした言葉を用いることに関して長澤さんの中で意識していることはあるんですか?

「確かに、例えば“空”だったら白夜の世界もあれば、ロンドンのように曇り空が続くところがあったりと、空と聴いて心に宿す風景は人それぞれ違うと思いますし、違うのも全然アリだと思います。ただ、空も海も風も、みんなが知っている共通認識なので、それを歌詞にすることで、僕が書いたものが聴いた人の中の心象風景になって、一つの作品となっていったらいいかなって。すごくニッチな言葉を使うより、みんなが知っている言葉を歌詞にしていくっていうのは、自分の作詞ではよく使う方法かなと思います。あとは、そうですね……空も海も風も好きなので(笑)。普段から空を見上げたり、風を感じたりすることをしてるっていうのも関係してると思います」

――同様に、今作では色を表す表現も印象に残りました。楽曲のタイトルに「青いギター」があったり、「朱夏色」も、朱夏は陰陽五行説で人生の真っ盛りの年代を表す言葉ではあるものの、朱=赤を彷彿とさせますし、歌詞の中には“青空”や“真っ白”などが登場します。

「赤や青、白って、感情の例えによく出てくるじゃないですか。頭が真っ白になるとか、ブルーになるとか、情熱の赤とか。これも、みんなが共有できる言葉を使って、自分の心だったり、あるいは言いたいことだったりを伝える方法としていいなと思ってます」

――そこでもまたリスナーとの共通認識が生まれますね。

「それが面白いですよね」

――逆に4曲目のタイトル「ポンスケ」は聞き慣れない言葉でした。意味を調べてみると、割と古い言葉で“愚か者”を意味したり、政治家などを揶揄する際に使われるそうですね。歌詞はまさに最近の世情を表したような内容になっていますが、どのようにして生まれた楽曲なのでしょうか。

「もともと曲を書くときは結構率直な感情をぶつけるほうなので、「ポンスケ」も歌詞を見るに、相当怒っていたんだと思います。イラっとしてたことを、ダーッと書いていったっていう(笑)。でも、それって自分にとってはデトックスというか、よく自己セラピーという言い方をしています。よく、シャウト療法と言って大きな声を出すことでちょっとスッキリするとか、場合によってはアンガーマネジメントの一つで皿を割るとか。そういう感覚と同じ気がします」

――なるほど。

「ただ、その中でも自分はちょっとふざけたい(笑)。真面目にキレてることをそのまま攻撃的に人に聴かせるより、クスッと笑ってもらえるような作品に昇華できたら、自分の中の怒りの感情もうまく利用できているのかなって思います」

――「ポンスケ」とは少しテイストが異なりますが、6曲目の「宙ぶらの歌」からも、“なんでもないかなしみはどうしたらいいの”という歌詞から静かな怒りというか、もどかしさのようなものを感じました。個人的にも、このフレーズがとても胸に沁みたのですが、どのような想いをこの楽曲に込めたのでしょうか。

「こういう時期の中で、自分の身の回りにも苦しんでいる友達、気持ちのアップダウンが強い知り合いが結構いて。今はだいぶマシになったとは思うんですけど、10代の頃は僕自身も気持ちのアップダウンがかなりありましたし。いくつか頭に思い浮かぶ彼ら、彼女らの気持ち、それから自分の若い頃を自分の中に落とし込んで、一つの物語にしたのがこの曲です。世の中には、ここに描かれているような報われない一日っていうのが、あちこちに存在していると思うんですよ。だから、例えば「ポンスケ」が僕のデトックスとして少し自分がラクになるように、僕が「宙ぶらの歌」みたいな歌を作ることで、誰かに寄り添えるようになれたらいいなぁと思いました」

――自分の過去にフォーカスを当てて楽曲を書くことは、長澤さんにとってどういうものですか? 「ポンスケ」のようにデトックスになるのか、今だから書けることもあるのか。

「今だから書けるみたいなことはないかもしれませんね。ここまで地続きの中で、少し変わった部分もあるし、全然変わってねぇなぁって部分ももちろんあるし、そういう自分の経過を自分で歌にすることで自己観察しているというか(笑)。あと、同じように生きているみんなに、俺はこうしているよっていうようなメッセージ……。いや、メッセージというほどおこがましいことは思っていませんが、こうやって音楽にして、それが人の生活の中に流れてくれるようであればいいかなって。自分自身は若い頃、そんなに知り合いもいなくて。でも、今、こうやって付き合いのある人間がいるのも、音楽を書いて、それを人がいいって言ってくれて、今があるので……。だから、自分が考えたことや自分が見た世界を曲にしていく、それが僕のライフワークなんですよね」

――その中でアルバムタイトルに通ずる同時に、長澤さんの精神的ルーツにも繋がる「My Living Praise」は存在感を放っていますね。

「こんな内省的になりすぎていいのかなって、ちょっと思ったりしました(笑)。でも、みんな内省的な部分ってありますよね。自分の中で難しくいろんなことを考えちゃうけど、実はシンプルだったりすることもいろいろあるじゃないですか。そういう自己葛藤も、結果的にシェアできたらいいかなって」

――シェアするのも結構勇気が必要だったりすると思いますが、そこに音楽があることでハードルが下がるというか。

「本当にそうですよ。だって、こういう歌詞の内容を、突然シラフで話し出したら引かれることは多々あると思いますし。でも、メロディにのせることで、ある程度緩和されるものはありますよね」

――今作の中で、長澤さんが書くことで救われたと感じるような楽曲はありますか?

「「三月の風」という曲は、12歳のときに書いたメロディなんです。だから、特にフックもないし、すごく率直なメロディになってるんですよね。それを大人になって完成させようとしたときに、だいぶ距離ができてしまったというか。自分の中でなんか小難しく考えてしまったりして、歌詞も仕上げられないし、アレンジも仕上げられなくて。レコーディングも今までに何度かチャレンジしているんですけど、そのたびにダメだわってなって、作るのをやめちゃってたんです。もうダメかなと思ってたんですけど、ふとピントが合う瞬間があって。あ、大丈夫だって思って書いて、そこでホッとしたっていう感じの曲でしたね」

――12歳の長澤少年も含め、長澤さん自身のさまざまな感情がこの1枚には収められていて。まさに『LIVING PRAISE』というタイトルにぴったりの内容。タイトルは割と早い段階で決められたんですか?

「いや、アルバムが完成して、タイトルどうしようか?って言われたタイミングで考えました。“LIVING PRAISE”は、自分が小さい頃に行っていた教会の賛美歌にあった名前なんです。それ自体は完全な賛美歌ですから、神様を誉め称える歌なんですけど、言葉そのものは生きていることに対する賛美であったり、称賛だったりして。自分の作りたかった内容とぴったり合ったのでタイトルにすることにしました。長過ぎず、短過ぎずなところも気に入ってます」

――今年8月にはデビュー15周年を迎える長澤さん。同じ事務所の秦 基博さんも今年でデビュー15周年となりますが、9月25日に行われる「Augusta Camp 2021」ではどのようなステージを予定していますか?

「同期の秦くんとは、とにかくお客さんに楽しんでもらえることをしようって話をしてます。秦くんも僕も、自分が15周年っていうことに対してはそれほど感慨を感じていなくて。それよりも、感謝を伝えたいって気持ちが強いです。少しずつ準備が始まってる段階で、まだ何も具体的に決まってはいないのですが、そういう方向性で進んでいけたらと思っています」

(おわり)

取材・文/片貝久美子





■長澤知之「LIVING PRAISE TOUR 2021 ~Acoustic ver.~」 イープラス
11月7日(日)高崎club FLEEZ(群馬)
11月8日(月)retro BackPage(宮城)
11月11日(木)Blue Cafe(新潟)
11月16日(火)TOKUZO(愛知)
11月17日(水)高松DIME(香川)
11月20日(土)ROOMS(福岡)
11月22日(月)広島Yise(広島)
11月24日(水)umeda TRAD(大阪)
11月27日(土)札幌くう(北海道)
11月29日(月)duo MUSIC EXCHANGE(東京)







長澤知之
長澤知之『LIVING PRAISE』
2021年8月4日(水)発売
POCS-23014/3,000円(税込)
ユニバーサルミュージック




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